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第76話 な、何で私なんだろう

「ああああああああ」


 ファルシアはまた自室でバグっていた。

 無理はないだろう。マルーシャに続き、ユウリにまで想いを告げられたのだから。

 こういった経験に乏しいファルシアは、今の現状を整理するので精一杯だった。


「えとえとえと……。マルーシャさんとユウリさんがわ、私にここここっ告白をしたって……ことですか?」


 口にするのすら恥ずかしい。

 ファルシアはずっと顔が赤かった。もしかしたら夢を見ているのかもしれないと、彼女は何度も頬をつねった。

 しかし、痛みは丁寧に現実を告げる。


 ファルシアはずっと思考の海を漂っていた。

 一瞬思い浮かぶクラリスの存在。しかし、ファルシアはすぐに我に返った。


 クラリスに相談できる案件でないことは、考えなくても分かっているつもりだった。

 自分で考えて、答えを出して、それに従う。


 口にしてみれば、ひどくシンプルな流れだった。

 しかし、その流れに取り組むのは、並大抵のことではない。


「えぇぇ……な、何で私なんだろう」


 あえてすっとぼけてみる。

 しかし、マルーシャとユウリの言葉がすぐ脳内に反響する。


「わ、私って、そんな風に言ってもらえる人間、なのかな?」



 次の瞬間、扉が勢いよく開かれた。



「ファルシアぁぁぁ!」


「ひっ!」


 笑顔でクラリスが入室してきた。ただし、声はめちゃくちゃ低い。


「私、連絡報告相談ってとても大事だと思うの」


「どうしたんですか急に……」


「主である私は近衛騎士である貴方の管理者でもあるの、分かる?」


「は、はい……」


「マルーシャとユウリとこの前二人きりになる機会があったわよね。何かあった?」


 クラリスはまだ笑顔だった。

 そこそこの付き合いになって、ファルシアは彼女の傾向をつかんでいた。


 この詰め方はきっと、何も知らないけど、こちらからボロを出させようとする話術。

 そう読んだファルシアは、あえて自信満々に返してやることにした。そうすると、すぐにクラリスが引き下がるという見込みである。



「ありません!」


「はい嘘。マルーシャとユウリから、それぞれあんたに告白したって話を聞いたから」


「すいません!」



 即、土下座に移行するファルシア。

 まさかの展開に、すっかり彼女は焦っていた。


「え? もしかしてファルシアあんた、私に嘘つこうとした?」


「ごめんなさい。私、ちょっと嘘つこうとしていました……!」


「そっか、仕方ないわね。ほ~ら、顔上げなさい。今なら顔面に拳一発で許してあげるから」


「ない。許す気が全くない」


「何で隠そうとしたのよ!」


「い、言えなかったんです」


 一旦冷静になるクラリス。

 確かにこれはプライペートもプライベート。むしろそれを言いふらさない人間性は評価できる。

 だが、それはそれ、これはこれだ。


「言いなさいよ、全く……」


「ふ、二人からはなんと?」


「そこから? じゃあ最初から説明してあげるわ」


 それはクラリスがファルシアの部屋へ来る、少し前の出来事だった。

 クラリスがそろそろファルシアの顔を見に行こうとした際、最初にマルーシャがやってきた。

 ひどく挙動不審で、表情も何だか表現に困るほどコロコロ変わっていた。


 なにかあるな、とすぐに勘づいたクラリスはマルーシャを部屋に招き入れた。

 すると、マルーシャは開口一番にこう告げた。


『私、ファルシアちゃんに告白しました! 好きって!』


 ひっくり返りそうになった。

 しかし、マルーシャは大真面目だったので、最後まで話を聞くことにした。

 要は前々から想いが芽生え、それがついに花開いたということだ。


 クラリスは話を全て聞いた上で、一旦この話は保留とした。

 叱責するのも違う。だが、素直に応援もできなかったのだ。


 これ以上は自分の心が保たないと判断し、クラリスはマルーシャを追い返した。


 そして、話を整理しようとしたところで、今度はユウリが訪ねてきた。

 何だか嫌な予感がしたクラリスは、何も聞かずに返そうとした。


『報告です。私はファルシア・フリーヒティヒに好意を伝えました』


 その瞬間、気絶しなかった自分を褒めてやりたかった。

 クラリスは即、ユウリを追い出し、一度冷静になることにした。


 話の整理に五分、ファルシアに直接聞くことを決めた時間が一分。合わせて六分間で、クラリスは行動に移し、今に至る。


「ファルシア、私は頭が痛いの。どうしてかしらね」


「くっクラリスさん、私もです。あはは……」


「あははは!」


「あははは……」


 互いに笑い合う。

 僅かに訪れる沈黙の時間。


 次の瞬間、同時に壊れる。


「どーすればいいんですかクラリスさん……!?」


「私に聞くんじゃないわよ! あんたが受けたんでしょうが!」


「わ、私、こんな経験無いから、どうすれば良いか分かりませんよ」


「こっちだった分からないわよ! それにしてもほんっと誤算だったわ。まさかあんたがこんなに人気あるなんて……」


「やっやっぱり私、人気あるんですか?」


「何嬉しそうにしてんのよ、エロ娘!」


「ひぃっ! ごめんなさい! 調子に乗りました!」


「あんたはどうしたいのよ。マルーシャとユウリの告白受けて、あんたはどう考えてるの?」


 クラリスは腕を組み、ファルシアの前に立つ。

 その圧は、今までとは比べ物にならなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘狂で世間知らずだけど真面目で強くて芯が通ってるからだよ [一言] 運命の時…ファルシアはどうしたいんだ?
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