第73話 私と貴方では力量差があるということですか
あれからすぐに女子会は解散した。
マルーシャは顔を真赤にしながら、その場を後にした。ひとり取り残されたファルシアも、顔を赤らめながら帰宅した。
「ああああああああ」
ようやくたどり着いた自室。ファルシアは完全にバグっていた。
叩き込まれた情報量がとてつもなかった。これを簡単に処理できるほど、ファルシアは経験豊富でない。
一体この感情をどのように処理しようか。
そう迷っていた時、突然扉が開かれたッ!
「ファルシア・フリーヒティヒ。今空いていますね?」
現れたのはユウリ・ロッキーウェイだった。
彼女は現れてすぐにスケジュールの確認に走った。
「えと、はい。空いていますけど」
「それなら良かったです」
そう言うなり、ユウリはファルシアの手を握った。
「さ、それじゃ行きますよ」
「ええっ!? ど、どういうことですか!?」
「私と貴方の模擬戦です。まさか、断るつもりですか?」
「い、いいえ! 断るつもりはありませんが、なんで今このタイミング、なんですか?」
「このタイミングでもなければ、貴方は各方面に引っ張られるでしょう」
「そ、そうなんですかね……」
「そうなんです。だから貴方には大人しく付いてきてもらいますよ」
ユウリの言葉には圧があった。
ファルシアはすんなり従うことにした。何せ、この強引な感じは、主クラリスと良く似ていたからだ。
ユウリに連れられ、やってきたのは訓練場。
到着するなり、彼女は木剣をファルシアへ差し出した。
「さぁ、手に取ってください。貴方を倒したくて、震えていました」
「えぇ……お医者様の所へ行ってください」
ファルシアはドン引きしていた。
自分は依存性のある存在なのか。一瞬、真面目に考えてしまった。
「行きますよ」
「ひ、ひぃっ! やる気がすごい!」
ユウリがすぐに距離を詰めてきた。木剣が閃く。
それをファルシアは受け止めた。速さがそのまま威力となっている。
ファルシアは身体を深く落とし、一気に木剣を振り上げた。
「ファルシア・フリーヒティヒの剣が更に速くなっている……!」
その理由をユウリは予想できていた。『フェイズ・トランス』――イグドラシル・クレイヴァースが到達している領域。
一度『フェイズ・トランス』を開眼すれば、潜在能力が解放され、戦闘能力が向上するとされる。
「負けられない。私はイグドラシル隊長にも、ファルシア・フリーヒティヒにも負けられない」
「他人との勝ち負けは、い、意味がないと思います」
「何を……!」
フェイントを交えながら、剣を振り回すユウリ。
対するファルシアは的確に対応してみせた。フェイントは紙一重で避け、本命はしっかりと受け止める。単純なようで、複雑。
つまりそれは、ユウリの攻撃を完全に見切れている前提なのだから。
(剣だけじゃない。勘? いや、純粋に反応速度も上がっている……!)
ユウリは一瞬、剣の返しが遅れた。集中しきれていなかったのが要因だ。
その隙を逃すファルシアではなかった。
「ぃぃや!」
ファルシアは左手を伸ばし、ユウリの右腕を押さえる。そのまま、ファルシアは木剣を振るった。木剣はユウリの右太ももにヒットする。
これが実戦ならば、失血死確実の一本勝ち。ユウリは死んだ。
「参りました」
「あ、ありがとう、ございました」
ファルシアは一礼するやいなや、ユウリの右太ももを気にし始める。
「あの、その大丈夫でしたか? 痛くないですか?」
「気遣いは不要です。真剣勝負だったら、私はもう死んでいます」
「はい……確かに、そうですね。急所狙っちゃったので」
「……簡単に狙えるくらい、私と貴方では力量差があるということですか」
「ええっ!? ち、違いますよ! ユウリさんが強かったから、早く倒そうとしただけですっ!」
額に汗を浮かべ、必死に否定するファルシア。
話を聞けば聞くほど、力の差を感じてしまった。
同時に、苦々しい感情がユウリの中に渦巻く。
(お世辞かもしれない言葉に、何で私は安堵しているんでしょう)
安堵。
悔しさよりも、先にその感情が出てしまった。
戦士としては、致命的な感情だ。何せ、その時点で成長の余地を潰したのと同義なのだから。
「……悔しいです」
「ユウリさん?」
「私は悔しいです。私は貴方に勝ちたいのに、それがどうしても届かないという焦りを感じてしまいます」
「その気持ちは、分かります」
「貴方には――」
「私もずっと、お母さんに勝ちたいんです。というか、世界最強になりたいんです。なのに、いつまでも私は弱いんです」
ユウリの言葉に乗せられたのもあるが、ファルシアはついつい自分の感情を吐き出してしまった。
「私もユウリさんと同じです。強くなりたいんです。そうじゃなきゃ、クラリスさんを守れないから」
「貴方の強さなら、十分だと思います」
「ぜ、全然です。どんな人がクラリスさんのことを狙うか分かりませんからね……」
ユウリは、そう言うファルシアに眩しさを感じていた。
そもそもモチベーションが違う。自分が彼女なら、一体どれほどモチベーションを維持できるのか。
思わず、ユウリは口にしていた。
「い、一週間後。一週間後、また私と戦ってください。今度はもっと、貴方を追い詰め――いいえ、勝ちます」
「は、はい! わかりました! 楽しみにしてます!」
ユウリは半ばヤケクソ状態だった。
このままではいけないという使命感に似た感情が、ユウリの背中を押した。




