第60話 決断をしよう
「決断をしよう」
ネヴィアは皆を見回した。
意見は出揃った。あとは、騎士団長である自らが決断と責任を取るだけである。
とは言っても、ネヴィアは既に腹を括っていた。
「クラリス王女とファルシアにはカネル村へ行ってもらう」
「異議なーし」
イグドラシルが真っ先に言った。
しかし、ネヴィアはそこで終わるつもりはなかった。
「ただ、道中何が起きるか分からない。クラリス王女とファルシアを守る、という意味合いでも、護衛は必要だろう。そこで表のバックアップとして第一部隊と第二部隊からそれぞれ一名。裏の連絡係として、第二部隊から数名出してもらう。異議は?」
「それも異議なーし。第一部隊からはユウリ・ロッキーウェイを出すよ~」
「第三部隊は――」
「第三部隊からはマルーシャ・ヴェンセノンを出して頂戴。その方が良いでしょ、ファルシア?」
クラリスのナイスアシストに、ファルシアは何度も首を縦に振った。
知っている人たちで固まったほうが、ファルシアにとってはプラス。クラリスの判断は英断と言えた。
「ブリックはどう? 異論は?」
「マルーシャ・ヴェンセノンは優秀です。今回の案件でも力になることでしょう」
快諾であった。
あとはリーザである。彼女はすぐに了承した。
「良いわよ、精鋭を何人か回してあげる……。その代わり、ファルシア・フリーヒティヒ。あんた絶対に無様晒すんじゃないわよ……」
「は、はいっ。リーザさん、ありがとうございます!」
「……私は、あんたごときに感謝されることはしていないわよ」
「で、でも私のことを心配してくれましたっ」
リーザ・アーチペクトは疑うことが仕事のような立場にいる。
だからこそ、彼女はファルシアの言葉にすぐ頷くことは出来なかった。
第二部隊の隊長は誰からも『疑われていなければならない』。第二部隊は、敵と味方の境界線が曖昧になるからだ。
常に、誰かから敵視されてこそ、己の立場を観測できる。
そうだというのに、この近衛騎士はあっさりと侵入してくる。
心の防御を、容易く乗り越えてくるのだ。
「はぁ、調子が狂う……」
「ほぉ、リーザ、だいぶ翻弄されているな」
「あぁぁん? ブリック、誰に向かって言ってんのよ……。第三部隊が第二部隊に随分大きく出たわね」
「それはどういう意味だろうか? 我々はサインズ王国を守護するためという目的では一緒だろう? 俺はその仲間に対して、言葉を投げかけた。……これのどこが大きく出ているのだろうか」
ブリックとリーザの言い合いが始まった。それに乗じて、イグドラシルが徹底的に煽る。
それを見ていたネヴィアがとうとう状況の鎮圧に動き出す。
まずイグドラシルの頭を叩き、そして残り二人へ注意をする。
その光景を見ていたファルシアは、クラリスへ耳打ちをした。
「え、えと……これはどういう」
「いつものことよ。第一から第三部隊の隊長って皆、頭おかしいのしかいないってことよ」
「だ、誰か頭おかしい人いました……か?」
「あんた、イグドラシルのこと好きすぎでしょ。どっからどう見ても、頭おかしい人間の筆頭でしょ、アレ」
「で、でもイグドラシルさんの剣の腕は最高なので……」
「……仮の話だけど、あんた性格終わってて剣が上手い人と、性格が善良で剣がド下手な人、どっちが好き?」
「む……難しい質問ですね、それ……」
ファルシアの剣馬鹿は筋金入りだと、改めてクラリスは引いてしまった。
普通は後者一択だ。だが、本当に唸っているファルシアを前に、クラリスはそこまで言えなかった。
「ファルシア」
ネヴィアがファルシアへ近づく。
「今回の件、本当に良いんだな? 覚悟あっての発言とは思っている。だが、それでもしも――」
ネヴィアの視線はクラリスへ向いた。
彼女が最後の最後まで口に出来なかったことがある。
それは、もしもファルシアが死んだら。
クラリスはファルシアへ相当信頼を寄せている。ネヴィアの経験から見て、こんな人間は史上初と言っても過言ではない。
クラリスにとって、ファルシアは太陽なのだ。彼女がここまで明るく振る舞えるようになったのも、ファルシアのおかげと言っても良い。
だからこそ、失いたくない。
ファルシアが泣いて、『行きたくない』と懇願してくれたら良いのに。――そう、ネヴィアは思っていた。
もし彼女が命惜しさに、涙して拒否してくれたら、色々とやりようがあった。
イグドラシルと自分が行って、“虐殺剣聖”を殺すくらいは全然引き受けることが出来た。
イグドラシルもそう思って、ファルシアへ問いかけたのだろう。
ネヴィアが言えないことを察して、代弁したのだ。
だが、ファルシアは強い意志を示した。
そこまでして彼女の意志を変えようとするのは、もはや無礼にあたる。
「――いや、もはや言葉もあるまい。私から言えることはただ一つだ」
ネヴィアはファルシアの胸を軽く叩いた。
「必ず生きて帰って来い。我らサインズ王国騎士団の最大の誉れは、『生きて帰ってくる事』だ。ファルシア、君にはそれが出来るかな?」
「かっ必ず! 必ずクラリスさんと一緒に、生きて帰ってきます!」
「うん、良い返事だ」
こうして決まった“虐殺剣聖”への対応。
ファルシア・フリーヒティヒは過去最大の敵と立ち向かうこととなるだろう。
彼女がどうこの難敵を乗り越えるか――今は、誰にも分からない。




