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第59話 ほんとファルちゃん頑固者

 一人で考え込んでしまったリーザ。

 ネヴィアは彼女の邪魔をしないように、他の者へ意見を聞いてみることにした。


「ブリックはどう見る?」


「治安維持の観点から見れば、すぐに潰すべきです。相手が“虐殺剣聖”ならなおのこと。騎士団の戦力を全てぶつけ、確実に始末したいところです」


「確かに、私も同じ気持ちだな。だが、リーザが言うことも気になる」


「私が行こうか~? ぶっ倒して来るよ」


 イグドラシルはヘラヘラと笑い、手を挙げる。

 その意見に対し、ネヴィアは首を横に振った。


「いいや、お前は今回出るな」


「えー? 何で? “虐殺剣聖”相手なら、私が行って鎮圧するしか無くない?」


「そもそも、そうやって出てこようとするお前を狙った話なのかもしれない」


 リーザがネヴィアの言葉に同調する。


「そうね……。色々と考えてみたけど、やっぱり“虐殺剣聖”の対応に全戦力を注ぐのは良くない……」


「リーザ、俺たちが動くことで、自由になる団体や貴族はどこだ?」


 ブリックは何となく彼女が返す言葉を予想していた。


「そうね……色々とあるけど、すぐに思いつくのはアーデンケイル教団ね。あいつら、最近動きが大胆になってきてるわ」


「俺も同じ意見だ。報告によれば、最近アーデンケイル教団による無理な勧誘が増えてきて、口頭指導するケースが増えている。王都内だけでなく、国内の主要都市全体でな」


「そ、それって規制することは……」


 ファルシアの言葉に、クラリスが答えた。


「無理よ。サインズ王国内では、信仰の自由が認められているの。だからサインズ王国には国教と呼ばれるものはないし、規制するにしても慎重を要する。その辺は情報と治安維持を司るリーザとブリックが良く分かっているんじゃない?」


 クラリスの言葉に、ネヴィアたちは頷く。

 アーデンケイル教団の活動は段々と活発になってきた。しかし、即刻規制をしたり、逮捕するという話にはならない。


 それをやってしまえば、今度はどうなるのか。

 アーデンケイル教団に加入している国内の貴族たちからの反発が来るだろう。

 既にアーデンケイル教団は、サインズ王国内の貴族たちへ根を伸ばしている。


 教団を崩すのに、確固たる『武器』がいる。一撃で、確実に、教団を壊せるような武器が……。


「何か話逸れてきたねー。んで、どうするの? “虐殺剣聖”に関しては、後手に回るの? それとも先手を打つ? この会議はそういう話だと思ってたんだけど」


 イグドラシルはグイ、と水筒に入った酒を飲む。

 ネヴィアは決めあぐねていた。

 会話が途切れる会議室。


 遠くから、足音が聞こえてきた。


「ね、ネヴィア騎士団長! 会議中失礼します!」


 騎士が息を切らし、やってきた。

 ただごとではない様子。一度、ネヴィアは騎士を落ち着かせた。

 息を整えた後、騎士は懐から一枚の手紙を取り出した。


「……これは、どうやら我々は後手に回ったようだ」


「何て書いてあったのヴィー?」


 ネヴィアはその手紙を読み上げた。

 その内容に、室内のメンバーは各々苦い表情を浮かべた。


 ――クラリス王女殿下。散歩など興味はありませんか? 『カネル村』という場所は、のどかで自然の息吹を感じられます。ぜひ足を運んでみることをお勧めします。貴方の判断に期待します。……素晴らしい景色が見られる内に、ぜひ。


 聞き終わったクラリスは、歯を食いしばっていた。



「行 く わ」



 クラリスはブチ切れていた。

 来なければカネル村を滅ぼすと、そう言っているのだ。

 “虐殺剣聖”の戦闘能力ならば、それも容易いのだろう。それが彼女にとって、許せなかった。


「待ってくださいクラリス王女。要求に応じてはいけません」


 ネヴィアが立ち上がる。

 それを見たクラリスはズカズカと足音を立て、ネヴィアの元へ歩く。


 そして、クラリスはネヴィアの胸元を掴んだ。


「カネル村の人口は約八百人。私が行かなきゃ殺すと言っているのよ。言ってみなさいネヴィア。ハッタリだと思う?」


「いえ、奴は殺すでしょう。きっちりと」


「だから行くわ、私。私の我が身可愛さで八百人が死ぬ? 冗 談 じ ゃ な い」


「とは言え――」


「ファルシアッ!」


「は、はいっ! 準備しますっ」


 ファルシアは心得ていた。近衛騎士の使命は変わらない。

 王女のことを守り抜く。これだけなのだ。早速、ファルシアは王女と共にカネル村へ行く準備をしようとする。


「待ってよファルちゃん」


「イグドラシルさん……」


 イグドラシルはニコニコしていた。

 しかし、そこにはいつもの雰囲気はなかった。


「“虐殺剣聖”と戦うって、どういうことか分かる?」


「……はい」


「死ぬ確率高いよ? それでも行く? 私なら倒せるよ。私にお願いした方が良いんじゃない?」


「……わっ私は、クラリスさんの近衛騎士です。く……クラリスさんは、私なら大丈夫だと思って、声をかけてくれたんです。なら、行きたい」


「私にお願いして」


「で、出来ません。私はクラリスさんを守りに、クラリスさんと一緒に行きますっ」


 見つめ合う二人。

 イグドラシルは少しでも決意が揺れてくれ、と祈った。

 ファルシアは少しでも信じてほしい、と祈った。

 祈りは交差し、やがて、イグドラシルの方が折れた。


「……っはぁ。ほんとファルちゃん頑固者」


「ありがとう……ございます」


 この瞬間、ファルシアはイグドラシルから認めてもらえたような気がして、少し嬉しくなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] この主従は本当にもう!なるようになるさ!
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