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第46話 随分答えに困っているようね

 ファルシアはまず素朴な疑問を投げかけた。


「そ、そもそもアーデンケイル教団って何なんですか?」


 クラリスはじろりとクルスを見た。

 彼は一切口を挟むつもりはないとばかりに、手を振ってみせた。


 そこでクラリスは拍子抜けした。てっきり目を輝かせて喋ってくると思ったからだ。

 しかし、これはこれで好都合と認識して、彼女はファルシアの問いに答える。

 

「あそこの怪しい男二号が演説してるでしょ? アーデンケイル教団のモットーは秩序と平和よ。世界に秩序と平和をもたらすため、日々活動しているの」


「もしかして第一号って私のことかな?」


「あんた以外に誰がいるっていうのよ。――最初から私達のこと見てたくせに」


「……何のことかさっぱりだね」


「何でかは言わないけど、私は昔から人に見られてたの。だから視線くらい、すぐに分かるわ」


「はっはっはっ。嘘はつけないねぇ。そうだよ、つい見てしまってたことは謝ろう」


 あっさりとクルスは白状した。

 ますますクラリスは訳が分からなかった。

 しかし、一つだけ分かったことがある。


(こいつ、胡散臭すぎる)


 長年の人付き合いの経験から、クルスという人物は、非常に信用ならない人物だということが分かった。

 ここまで本心が見えない言葉を吐ける人間とは、会ったことがない。王族との繋がりを強めようとする貴族や商人のほうが、まだ分かりやすい。

 ――危険過ぎる。

 早く遠ざけたいという気持ちもあるが、王族たるもの一度言った言葉は守らなければならない。

 クラリスはクルスを無視し、話を続ける。


「話が逸れたわね。ここまでは良い?」


「す、すごく立派な方たち、ですね」


「まー文面どおりに受け取ればそうかもね。でもそれには続きがあるの」

 

「続き、ですか?」


「そ、秩序と平和っていうのは、アーデンケイル教団から見た秩序と平和ってこと。奴らはってか、こいつらは――」


 わざとらしく、クラリスはクルスと演説している男を見やった。

 クルスは微笑みを浮かべるのみ。この類の相手は慣れているのだろう。不快感を微塵も表に出さない。


「好き放題自分たちの都合を押し付けている存在よ。特に、世界の秩序と平和という言葉を使っているのが気持ち悪い」


「おや、このサインズ王国は宗教の自由が認められているはずだが? 偏見が過ぎないかい?」


「自由が認められているから、あんたたちの宗教へ自由に発言するのよ。あんたたちのことを崇拝するのもいると思うけど、私みたいなのもいるの。自由を履き違えないで」


「そうか。それも貴重な意見だね。君に秩序と平和のあらんことを」


「あんたに祈られるほど、私は救いを求めていないわ」


 すっかり話についていけなくなったファルシア。

 それでも何とか話に混ざりたくて、彼女は何とか言葉をひねり出した。


「ち、秩序と平和をもたらすためって、どんなことをしているんですか……?」


「日々、人に秩序と平和の重要性を説いているんだ。それでアーデンケイル教団の素晴らしさに気づいてもらっている」


 そこでファルシアは首を傾げた。

 素直なファルシアにとって、今のクルスの発言は少し引っかかるところがあったからだ。


「? なんで秩序と平和の事を話したら、アーデンケイル教団? が素晴らしくなるん、ですか? 秩序と平和がすごいんじゃ……?」


「秩序と平和は、アーデンケイル教団がもたらすんだ。だからそれらは我々が出した成果となるんだよ」


「えと……ごっごめんなさい。良く分かりません……。平和と秩序ってもたらされるもの、なんですか?」


 ファルシアは誓って、馬鹿にしようと発言しているわけではない。

 純粋に疑問符が浮かんだから、それを質問しているだけなのだ。

 クルスもそれを分かっているからこそ、言葉を選ばざるを得なかった。


 そんな二人を見ていたクラリスは悪い笑顔を浮かべていた。


「あらら? 随分答えに困っているようねアーデンケイル教団」


「はっはっは。そうだね正直に言えば、困っている。彼女はどうやら純粋で素直な子のようだ」


「それで困るんなら、あんたたちは詐欺師ってのを自分で認めているようなもんよ」


「それには反論させてもらおう。我々の目標は崇高にして、人間誰もが持つ原初の願いだ。それを達成するのは、変な話ではないだろう?」


「なら、アーデンケイル教団がやっている『偉い人たち』へお金を配っていたり、怪しい魔法具を売りつけているのも平和活動?」


「全部、根拠のない妄想の話かい?」


「妄想……そうね、じゃあこれも妄想の一つとして、話を合わせて頂戴。アーデンケイル教団には、なんと暗殺部隊があるって噂もあるらしいわね。……これはどうなの?」


「……随分と興味深い話だね。それに、それを知っている君は、かなりの情報通のようだ」


「肯定する? それとも否定?」


 クラリスの視線がクルスを強く射抜いた。

 アーデンケイル教団のことは、第二部隊を通して、クラリスの頭の中にインプット済みだ。

 暗殺部隊の話も、根拠があって喋っている。


 先月、アーデンケイル教団へ否定的な貴族が暗殺された事件が発生した。犯人は未だに見つかっていない。言い方を変えよう。見つける前に捜査を中断『させられた』。

 なんと、アーデンケイル教団と懇意にしている貴族たちが、連名で捜査中断を求める文書をサインズ王国騎士団へ提出してきたのだ。

 だが、騎士団長ネヴィアは、それに従わなかった。表向きは中断させ、裏で捜査続行を指示したのだ。その英断もあり、ついにある可能性が浮上した。


 ――アーデンケイル教団の者が貴族を暗殺したという可能性が。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大分入り込まれてるじゃん!どうにか膿を出さないといつか国家転覆させようとするだろうね
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