第41話 全員抜剣!
作戦開始の夜。
オクスの元に、今回のメンバーが勢ぞろいしていた。その数はファルシアを入れて、六十人。
改めて見ると、大がかりな作戦となっていた。
「時間だ。これから四人一組に分かれ、散開。合図役が合図を送ったら、同時に突撃、そして確保となる。質問は?」
「対象の生死は?」
「可能ならば生け捕り、無理と判断したら即刻殺していい。迷うなよ」
他の質問はなさそうだったので、オクスは手を挙げ、散開を命じる。
ファルシアは、マルーシャと他二名の騎士と組むこととなった。
「キースだ、よろしく頼む」
「俺はケイン。さっさと終わらせようぜ」
「キース、ケイン。今回は私が小隊長。異論はないわね?」
「もちろんだ。お前の腕なら何も文句は言わねぇ。ケインもだろ?」
ファルシアは言わずもがな。迅速にマルーシャ小隊は所定の位置へと移動する。
廃村をぐるりと囲うような布陣。そこから一網打尽にするというのが今回の作戦。
しかし、ファルシアは何となく引っかかりを覚えていた。
(……何だか静かな気がする)
廃村は確かに寂れている。しかし、そこに人が住んでいる気配がないのだ。
視認できる家屋から灯りが漏れている。それなのに、ファルシアには人の気配を感じられない。
話によれば、十五人もいるというのに。
考えれば考えるほど、嫌な予感がする。
「どうしたのファルシアちゃん。怖くなっちゃった?」
「ち、違います。その、何だか変な感じがして」
「ははっ噂の近衛騎士も女の子だな」
先頭を歩くケインは笑う。
ファルシアはそんな彼の歩く先が、何となく気になってしまった。
この辺は舗装されておらず、土と石だけの場所となっている。
月光に照らされる自然の環境。
だからこそ、ファルシアは気づけたのかもしれない。
――地面が掘り返された痕跡に。
「まっ待ってくださいケインさんっ」
「お? どうした?」
地面のことを伝えると、三人の顔色が変わる。
キースが用心深く、その地面を掘り返すと、箱型の物体が現れた。
マルーシャが近くでそれを観察すると、すぐにそれが何なのか分かった。
「これ、魔法具だ。造りはめちゃくちゃ荒いし、搭載されている魔石の質も悪そうだけど、間違いない」
「マルーシャ、どういうタイプか分かるか?」
ケインが腰の剣に手を添えていた。
彼は、何か不審なことがあれば、すぐ警戒状態に入れる優秀な騎士だった。
「ちょっと待っててね。今、魔力回路と仕組みから逆算するから。えとえと……これは、音を鳴らすだけの簡単な作りだね」
「音……」
「うん、強い圧力が加われば、音が鳴る。そう、音が……鳴る」
「もしこれを踏んでいたら……」
全員が顔を見合わせた。
夜。視認性の悪い地面。音の鳴る魔法具。この三要素が何を意味しているか――!
遠くで、けたたましい音が鳴り響いた。
「こ、れは……!」
「罠だ!」
空に一筋の魔力光が上がり、明滅する。それは突入の合図だ。
合図役はオクスと共にいる。おそらく、彼の判断で合図を早めたのだろう。
ファルシアたちは全員抜剣し、廃村へ突入する。そしてマルーシャ小隊は、手近な灯りがついている家屋へ突入することにした。
そこで彼女たちはまたしても不気味さを感じることとなる。
「誰も、いない」
そこはもぬけの殻となっていた。
ただ家に灯りをつけているだけ。
ならばと、灯りが漏れている他の家屋へ移動することにした小隊一行。
「ここもだ……」
ファルシアたちは、流石におかしいと口を揃える。しかし、襲撃を知らせる魔法具が起動してしまった以上、いつ逃走されてもおかしくない。
マルーシャ小隊は家屋を出て、再び他の家へ突入。それを繰り返す。
そうしている内に、他の小隊と合流してしまった。
「マルーシャ達か!」
「オクス副隊長! そちらはどうですか?」
「どうもこうも、もぬけの殻だ。一体どうなっている……!」
「もしやもう逃げられたとか?」
マルーシャの言葉を否定するオクス。
襲撃を知らせる音から逃走を完了させるには、あまりにも早すぎる。
そうしている内に、他の小隊も続々と集まってくる。
ファルシアはぼんやりと母親から教わったことを思い出していた。
――集団戦はね、悪意の強い方が勝つ。そして、勝てなくても、必ず爪痕を残す。
「もしかして……集めるのが目的?」
反射的に、オクスがファルシアへ視線を向けた。
オクスが彼女の言葉について、思考を巡らせる。
もしもの話だ。
もし、この作戦が漏れていたとする。
山賊たちは逃走するか迎撃を選択することになる。
山賊たちの捕獲に慣れているオクスは、後者のパターンで予想を進める。
山賊は体面を重んじる。そうでなくては、他の山賊たちに舐められるからだ。
そうだとするならば。
十分な準備をするだろう。自分たちを誘い込み、そうして一網打尽にする罠を。
オクスはこの状況を改めて整理する。
警戒用の魔法具が起動し、逃走を恐れた第三部隊は廃村に突撃。
しかし、どこの家屋ももぬけの殻。とうとう全員集合してしまった。
もしも、自分が山賊ならば、ここで仕掛けるだろう――!
「全員抜剣!」
次の瞬間、全ての家屋から火柱が立ち上るッ!




