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第25話 必ず守り通す

 ファルシアは何気なく下がる。それに合わせて、男たちが距離を詰めてくる。

 まず大事なのはクラリスの身の安全。ここで全員倒し切るくらいの覚悟がなければ、動けない。

 何となく、クラリスの方を見てしまった。どんな顔をしているのか、見るのが怖かった。


「ファルシア」


 彼女は怒りの形相だった。


「ひ、ひぃ! 勝手に動いてごめんなさい!」


「私が怒ってんのはそこじゃない。あんた、もしかして生意気に私のこと気遣ってるつもり?」


「あ、当たり前じゃないですか」


「何年こういう目に遭ってきたと思ってんのよ。だから! あんたは、あんたのやりたい通りにやりなさい! 近衛騎士ファルシア・フリーヒティヒ!」


 厳しくも暖かい言葉。

 無責任な全能感がファルシアを包み込む。

 今なら、何でもできそうだ。


「分かり、ましたっ!」


 ファルシアの姿が消えた。魔力による肉体活性化。それにより、彼女は高速移動をしたのだ。

 次の瞬間、彼女はクラリス近くの男の懐にいた。

 だが、武器がない。愛剣はテロリストに奪われている。

 ファルシアは己の靴へ僅かな量の魔力を流す。

 すると、なんということだろうか。靴のつま先と(かかと)から、『刃』がせり出たではないか! そのシルエットはまるで、小さな両刃斧だ。


「ぃぃや!」


 ファルシアの蹴りが男の腹部を掠める。次の瞬間、男の腹部から出血が起きた。

 再度、ファルシアは足を振り上げた。今度は武器を持っている腕から血が流れる。これで無力化には成功。

 しかし、クラリスの側にいるテロリストはまだいる。


「このっ……!」


「……!」


 ファルシアの瞳からハイライトが消失する。

 男は剣を振り上げた。そのまま振り下ろす。

 対するファルシアは半歩引いて、その剣を避けた。完全に見切っていなければ出来ぬ神業だ。

 ファルシアの反撃。彼女は足を数度振り回し、男を斬り刻む。


「剣借りますね」


 連続蹴撃の間に、ファルシアは手錠を引きちぎることに成功していた。

 男が落とした剣を拾い、握りを確かめる。


「クラリスさん、もう少し下がっていてください」


「分かった。……気をつけてね」


「はい。必ずクラリスさんを守ります」


 ケイローが剣を抜いた。彼は、己の対応がいかに甘かったかを痛感する。


「良い靴じゃねえか。まさか刃物を仕込んでやがったとはな。ただの臆病なお嬢さんかと思っていたが、とんだ獣だったか」


「お母さんがくれました。戦闘中、両腕が無くなっても戦えるように」


「イカれたプレゼントだな。そして、お前は念入りに殺すことにした」


 奥から増援が現れた。

 一対多数はファルシアにとって、得意とするところである。

 クラリスは守る、テロリストは全員倒す。


「必ず守り通す。クラリスさんは大事な人なんだ」



 ◆ ◆ ◆



 ファルシアが戦闘を始めた少し前、ユウリは苛立っていた。


「全員連行。指導は厳しくお願いします」


 酒場全てを巻き込んだ乱闘。酔っ払いたちが一体何のきっかけで争ったかは分からない。

 ユウリはただ、淡々と制圧するだけだった。

 第一部隊の隊員が酔っ払いたちを連行していくのを見届け、ユウリは事後処理を行うこととした。


「該当者の名簿を後で渡します。修理代を請求してください」


「ありがとう、助かるぜ。内装がだいぶやられちまった……」


「彼らは別々のグループだったのですか?」


「いいや、一団体だ。最初こそ楽しく飲んでたみたいだけど、急にヒートアップしてな。そうしたら椅子は投げるわ、机は壊すわで、一気に暴徒化しちまった」


 改めてユウリは店内を見回す。無事な机や椅子はない。皆、叩き壊されてしまっている。壁はいくつも穴が開けられている。まるで戦場だ。


「泥酔するほど飲んでたということですか」


 彼女の呟きに対し、店主は首を横に振った。


「いいや? ジョッキにして三、四杯ってところかな? 酒が苦手ってのもあるのかもしれねぇが、それであんな酔い方するかねぇ……?」


「店主から見て、違和感があると?」


「まあ店ぶっ壊されてんだから違和感もクソもないんだけどな。あいつらほぼ同時におかしくなりやがって」


「ほぼ、同時……? お酒を飲む人たちは皆、そういうものなのですか?」


「無くはないと思うが、にしても……」


 騒ぎが大きくなったのか、通行人たちも足を止めていた。

 何気なくユウリは店の外に出て、ぐるりと見回した。

 この酒場は市役所近くということもあり、人の目が多い。

 例えば、これが故意的に起こされたものだとしたら。


「まさか……!」


「ユウリちゃーん!」


 遠くから、ユウリを呼ぶ声がした。遠くからのはずなのに、まるで近くにいるかのような声量。

 それに該当する者が一人だけいいた。

 

「貴方は第三部隊の……」


「マルーシャ・ヴェンセノンでっす! よーやくユウリちゃん見つけられた~」


「ようやく、とは?」


 すると、マルーシャの影から男が現れた。

 その者は、最初にクラリスとファルシアの御者を務めていた者だった。


「ありがとうございます。お陰様で助かりました」


「いえいえ! 困っている人を助けるのは、第三部隊の最大使命なんで!」


「……どういった用件ですか?」


「じ、実は信じてもらえるか分かりませんが、サインズ王国のクラリス王女殿下より、第一部隊のユウリ・ロッキーウェイ様へ渡すようにと……」


 すると御者が小さなペンダントを取り出した。

 華美な装飾はなく、ただ中央に魔石が埋め込まれているシンプルなデザインだった。

 ユウリがペンダントを受け取ると、御者は補足する。


「何やら魔力を込めることで、王女殿下の位置が分かるとか……」


 言葉通りに、ユウリがペンダントへ魔力を流すと、中央の魔石から細長い光線が放たれた。

 光線は遥か遠くへ向かっている。方角は北西。

 その光線を見たマルーシャは首を傾げる。


「あれ? 王女って今、市役所の方にいないの? あの光線の方角って全然市役所と関係ないんだけど」


「……ちなみにどういった場所ですか?」


「人がいないエリアだね。昔はそこを中心に賑わってたんだけど、大型の店舗が正反対の方角にいっぱい建ったのをキッカケに、人が離れちゃったんだ」


 市役所にいない王女、この非常時に都合の良すぎる乱闘騒ぎ、そして光線が指し示す人気のない場所。


「ヴェンセノンさん、今すぐ第三部隊と第一部隊に連絡を。王女はおそらくテロリストの所にいます」


 点と点が繋がった。

 そして、導き出される状況は王国にとって、最悪といえる。

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