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第24話 近衛騎士、ですっ!

 ロビーの中央にファルシアとクラリスは放り投げられた。


(い、いたい……けど全然大丈夫)


 ファルシアは己の身体を総点検する。

 骨、筋肉、内臓は無事。だが後ろ手に手錠をされ、両手は使えない。ただ、『足』は使える。


「初めまして。クソッタレ国のクソッタレ王女サマ」


 二人の前に、男が座っていた。

 見た目は三十代後半。左目には縦筋に傷が入っている。視力はない。長い黒髪は束ねられている。

 男は芝居でもするかのように両手を広げた。


「俺はケイロー。『夜明けの道』のリーダーだ」


「私はクラリス。サインズ王国の王女よ」


「クソみたいな国の王女にしては、ノリが良いな」


「そうでしょ? 人と話すには、まず同じ目線に立たなくちゃならないからね」


「ちっ。ムカつくなやっぱよ」


 立ち上がり、ズカズカと向かってくるケイロー。

 クラリスはこの後の展開を知っていた。この類の輩がこの上なく愛しているもの、それは――。


「お前みたいな奴は一発蹴っておこうかねぇ!」


 ――あぁやっぱりか。

 迫りくる足。このまま腹でも蹴られるのだろう。クラリスは目をつむり、それを受け入れる。


「ぐっ……!」


 ケイローのつま先がファルシアの腹部にめり込んでいた。

 ファルシアは倒れ込む。


「ファルシア!」


「あっ、クラリス、さん大丈夫……ですか?」


「わっ私のことはどうでもいいのよ! あんたは大丈夫なの!?」


 ファルシアは起き上がり、ぎこちない笑顔を浮かべた。

 安堵の笑みである。クラリスを守れたことが、彼女にとって何よりも嬉しかった。


「大丈夫です……えへへ。クラリスさんが無事で、良かったです」


 ケイローは割り込まれた事実より、今のファルシアの動きが気になっていた。


(いつの間に近づいてきた?)


 何の気配もなく、いつの間に現れていた。

 驚くべきは、すぐに起き上がれる体力。

 そこで、彼は思い出した。

 

「お前、その王女の護衛だよな?」


「そ、その通り、です!」


 腕利きと言っていた。

 しかし、目の前で震えながら喋る彼女に、そんな気配は一切ない。

 ケイローはあの男の見間違いということで、一旦整理することにした。


「お前ら一応見張っておけ」


 遠くで見守っていたケイローの仲間が、ファルシアたちへ近寄ってくる。

 その間、ファルシアは状況把握に努めていた。


(数、多いな……。クラリスさんを守りながら倒せるかな?)


 数は八人、いや暗がりで見えないがまだいるような気配がする。

 開戦は容易い。しかし、それとクラリスを護衛しきれるかは話が別。


(手錠は壊すのに時間がかかりそう。どうしようどうしよう……!)


 魔力による肉体活性化を用いれば、手錠は破壊可能。

 武器も既にある。後はタイミングのみ。


「それで。結局のところ、あんたたちは何がしたいの?」


「教えると思うか?」


「思うわね。私達を絶望に叩き込むために教える。そうでなくても、冥土の土産に教えなさい。どうせ生かして帰すつもりも無いんでしょ?」


 クラリスとケイローが睨み合う。

 やがて、ケイローは鼻を鳴らす。


「良いだろう。教えてやろう」


 ケイローはクラリスたちの前に椅子を移動させる。彼は見下ろすように、どかりと椅子に腰掛けた。


「俺たちの目的は二つだ。この商業都市ビイソルドの破壊、そして王女の殺害」


「テロリストらしくていいわね。どちらかでも成功できたら文句なし、両方なら僥倖って目標ね」


「そういうことだ。そして俺たちで呼び戻すんだ、争乱の時代ってやつをな」


「以前はこのサインズも争いの時代だった。だけど、今やっと平和なひと時を送れているのよ。何が不満なのかしら? 税? それとも違う要因?」


 ――そんな訳はない。

 分かっていても、会話を進めるにあたり、吐くしかなかった言葉だ。

 案の定、ケイローは首を横に振る。


「平和なのがいけない。俺たち生命体はもとより、闘争の世界で生きてきたんだよ。それが何だ? こんな平和漬けにされるだなんてナイよな?」


 ケイローは仲間たちをぐるりと見回した。仲間たちは感極まって涙をこぼしていた。

 ――イカれてる。

 そう言いたかったが、クラリスは何とか言葉を飲み込んだ。


「俺たちは闘争の中でこそ成長と発展ができるんだ。だから俺たちは、この有力国家の一つであるサインズを闘争の時代に戻す。そのための商業都市破壊と、王女殺害だ」


「御高説ありがとう。でも、無駄よ。うちの部隊を甘く見ないで。あんたたちの理想は粉砕させてもらうわ」


「既に都市の至る所に、遠隔式の爆破魔法具を設置している! 効果的に破壊できる箇所への設置までもう少しだ。今更止められるものかよ!」


「止め、ますっ」


「ファルシア!?」


 両腕を使わず、器用に立ち上がったファルシアは少し震えていた。

 喋るのは怖い。何を言い返されるか分からないから。だけど、今言わなかったら一生後悔する――!


「さっさっきから聞いていれば、あ、あああなた達は自分勝手、です。だから止めます。こんなこと、絶対にしちゃ駄目だから」


「ははは! 言うね護衛のお姉ちゃん! よし決めた。先にお前、死んでおこうか。そうすりゃこの王女も少しは黙るだろう」


「……がい、ます」


「あん?」


 ファルシアは一歩前に出た。



「わ、私はサインズ王国軍近衛騎士のファルシア・フリーヒティヒです! 護衛じゃありません。近衛騎士、ですっ!」



 これは決意表明であり、誓い。

 絶対に逃げない。ソレを名乗ったからには、死ぬ気でその使命を遂行する。

 ファルシアは今、真の意味で近衛騎士となったのだ。

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