6
トムとドクのプレゼント選びは難航していた。ドクのラボにはユニークな物が多く、一般受けしなさそうな発明品が多いからだ。その上、試作品の大半が何処かしらに欠陥があるのである。
「トミー、このコロンはどうかな?」
小さな小瓶に、ピンク色の液体が入っている。
「コロン、香水みたいなやつ?」
「ただの匂い付けではない。これを付けると、異性からモテモテになるのだ」
「あまり考えたくないけれど、パパには幸せになってもらいたいからね。これにしようかな」
「ただ、その、どんな発明品も少々問題を抱えるものだ」
「何その問題って?」
「あまり人間には効果が出ない。メスの犬や猫に好かれる様になる」
トムは肩を落とす。
「問題しかないじゃない」
「じゃあ、これは。配達君四号。ドローンを改造して、重い荷物を運べる様にした。家に忘れ物をした時に、会社までこれが運送してくれる」
「何それ、すごい便利じゃん」
露骨に目の色が変わる。
「でも何で四号なの?一号、二号、三号は」
「彼等がどうなったかは聞かない方が良いだろう。ともかく、これは自信を持って世に送れる。操作してみよう」
付属のコントローラーをドクが操作する。配達君四号は軽快にラボ内を飛び回る。今のところ不備な箇所は見当たらない。
「ドク!凄いよ。どのぐらいの重さまで持てるの?」
「まあ、見てなさい」
鼻高々にドローンを操作する。金属片を詰め込んだダンボールを、四本のアームで持ち上げる。難無くトムの目の前まで運んで来た。試しに持ち上げてみると、結構重い。
「十キロ程度なら、支障なく運ぶ事が出来るよ。まあ、忘れ物がそれ以上の重さになることなんて、そうそう起こらないから心配しないで大丈夫だ」
「うわぁ。ありがとう。最高の誕生日プレゼントだ。ドク、君は天才だ。何円払えば良いかな?」
「これを市販で購入するとなると、十万はくだらないだろうな」
「どうしよう。そんな大金持っていないよ」
歓喜から一転、トムは悲しげに俯いた。
「まあその、将来お義父さんになるかもしれないしだな。トミーも弟同然だから…」
ごにょごにょしているので、全く何をいっているのか、トムは聞こえなかった。
「ドク、どうしたの?」
「ええいっ、これは私からのお祝いだ。お代などいらない」
ドクはやけになった。
「本当に!ドクありがとう。大好き」
トムに思い切り抱きつかれて、満更でもなさそうだ。
「それより、トミー、例の件はよろしくな」
「例の件?」
「トミーの家へ、遊びに行かせてもらう件だ」
「何だ、その事かー。今日の誕生日会にドクも来なよ」
想像してなかったお誘いに、ドクの目がぎょろぎょろし始める。
「きょ、今日っ!そんな、心の準備が」
「何だ残念だな。じゃあまたね」
そう言って、トムは配達君四号をコントローラーと一緒に箱に入れて、ラボを出て行く。
「エリザベスに宜しく」
辛うじて、ドクはその一言だけをトムの背中に発した。
ラボ内はトムの来訪前に比べて、ひどい有り様になっていた。