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いつものやり取りを終えて、三人兄弟は朝食を取っている。トムとエリザベスがトーストをもぐもぐしているのに対して、エマはレインボーなシリアルをカサカサ、ボウルに装っている。
「ねえ、エマ姉ちゃん。シリアルの中には、食品添加物が沢山入っていて、体に悪いよ」
「うるさいなぁ。これがなければ、頭が冴えないの。それより、トム、知ってる?一日の内、学校以外で二時間以上勉強すると、頭が爆発するらしいよ」
それまで食べていたトーストをトムは吐き出した。
「うわっ、汚い」
「どうしよ、やばい、僕毎日四時間は勉強している。もう終わりだ」
頭を抱えている弟を見て、エマはケラケラ笑っている。
「エマ。嘘はやめなさい」
それまで、黙って食事をしていた、エリザベスが妹を叱った。
「で…でも、トムがうるさいんだもん」
「でもじゃない。トミーもあからさまなホラ話を信じないの。あなた博識なのに、いつもエマに騙されるんだから。
実際トムは、非常に頭脳明晰で小学生ながらに、既に高校生レベルの勉強をマスターしていた。ただ常識的なことを知らなかったり、非現実的なことを簡単に信じたりと、脳内バランスがぐちゃぐちゃなのである。
姉に叱られて、二人ともしょんぼりしている。このままでは食卓が気まずいので、エリザベスは何か話す事はないか模索した。
「そう言えば、今日は特別な日だった気がするけれど、二人共覚えている?」
「ママが亡くなってから千二百五十日」
トムが不機嫌そうにボソボソと呟く。三人兄弟の母である、スカーレット・エバンスは病魔によって、四十手前にして亡くなってしまった。元気で明るかった母を失って、三兄弟は深い悲しみに陥った。それからというもの、長女であるエリザベスが母親代わりに、妹、弟の世話を担うようになったのだ。
「違うわ」
「あれじゃない?トムがおねしょを一週間しなかった記念日」
すぐさまエマとトムが睨み合う。
「ふざけている場合じゃないの。もっと、こう、大切な記念日」
エリザベスは頭を悩ませている。忘れてはいけない、お祝い事があったはずだ。
「あっ、パパの天気予報の時間だ」
エマがリモコンを操作する。テレビに電源が入ると、画面内には、きっちりとしたスーツを着ているナイスガイが黄色の指し棒を手に笑顔でいる。この男を四十分前、慌てて家を飛び出した人物であると思う人は、三兄弟以外にはいないだろう。
「本日は、一日を通して快晴で、洗濯日和でしょう。暖かい日中はスポーツなんかしても良いかもしれませんね」
「ウィル、バーベキューが出来たら、最高だね」
スタジオにいる、キャスターが一言添える。
「ああ、ジョニー、憎々しい事言ってくれるね。みなさん、熱中しすぎないように。炎上にはお気をつけて」
「「「はーー」」」
兄弟のリアクションが揃う。トムがテレビの電源を落とす。ウィルは地方局の天気予報士である。的中確率は確かなのだが、本人だけが面白いと思っているジョークを挟むことによって、視聴者からの評判は芳しくない。
「パパ、いつかは人気テレビの気象予報士になりたいって言っているけど、厳しいよね」
トムの意見に姉達は、反論できなかった。
「ああーっ!」
エリザベスが突然、声を張り上げた。いつもとは異なる、姉の叫び声にトムとエマはビクッとした。
「何よ、エリ姉ちゃん」
「今日、パパの誕生日だ」
食卓内全員がはっとした。