起死回生
一週間後。休日の僕と伊豆奈は街に遊びに行っていた。
さっき寄ったカフェで買った飲み物をおいしそうに飲みながら歩いていた伊豆奈。しかし、突如後ろからした
「あれ?侑斗君じゃないか」
という声でこわばってしまった。
振り返ったそこには、私服姿の委員長がいた。
「奇遇だね。デート中だったかな?」
「いや……」
僕にしか聞こえないんじゃないかというレベルの声でそうつぶやいた。実際、僕も少しまずいと思った。僕はまだ少しだけ改心したと思っているから大丈夫だが、伊豆奈はまだあの時のトラウマが刻み込まれたままなんだ。
「……ごめんね、委員長。今日は、帰ってくれるかな」
そういいながら伊豆奈を抱き寄せた。腕の中の伊豆奈は、やっぱり小刻みに震えていた。
これ以上怖い思いはさせられない。そう思って、僕らは180度別の方向を向き歩き出した。
しかし、
「待ってよ、僕は君に謝りたいんだ」
「会長?聞こえてるんでしょ?」
「僕の謝罪すらも聞いてくれないの!?ねぇ!」
と、まるで伊豆奈との関係を何とか作ろうとしているようだった。
「……伊豆奈、走れる?」
聞くと、伊豆奈は小さくコクコクとうなずいた。
僕らが足に力を入れ、走り出した瞬間。
「……つれないなぁ」
突如背中に走った衝撃とともに、意識が手離れていった。倒れこむ視界の端伊豆奈も僕と同じ動きをしているように見えた。
「………ぅう……」
目が覚めた。目の前には、椅子に括り付けられた伊豆奈がいた。
「伊豆……奈……」
「お目覚めかい?」
視線を逸らすと、そこに居たのは……。
居たのは、あの日の委員長だった。
「委員長……」
「いやあ、我ながら、上手くいったよ。やっぱ、こういう事は一人でやるのがコツだったんだねぇ」
「く、そっ……」
体を起こそうにも、後ろ手に組まれた手首が固定され身動きが取れない。完全なる油断。まさか、こんな奴にやられるとは……。
「うふふ、僕はね、この半年間ずっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっと考えてたんだよ。どうやったら、君たちに復讐ができるかをね……」
なにか、器具をガチャガチャと持ちながら話しかけてきた。その姿は、彼の周りが歪んでいるのではと錯覚させる程歪んでいた。
まずい……このままじゃ、伊豆奈が………。
そう思っても、どうにもこうにも縄が切れない。解こうにも解けずただただ焦燥が募っていくばかりだった。
「でね、僕はとある結論に至ったの」
「結論……?」
僕がそう問うと、彼は顔をさらに歪ませ続けた。
「君は彼女が苦しむのが嫌で、彼女は君が苦しむのが嫌。そして、僕は会長のことが好き。となれば、復讐の方法はこれに限る」
伊豆奈に近づき、服に手をかける。
そしてその瞬間、彼は力の限り服を引っ張り、服を破いた。
真っ白な下着が可憐な白のブラウスの下から姿を現した。
「っ!?伊豆奈!」
「ああっ、いい!その顔だよ、その顔……僕が君らに復讐するための動力源!その顔を想像した度、どれ程気持ちが昂ったか!君ら勝ち組にはわからないんだろうなぁ!」
(クソッ……こんな縄っ!)
歯を食いしばり、縄をちぎろうとするも、それは僕の力不足を露呈させるかのように僕の腕を固定した。
「にしても君、気が付かない?この場所」
「っ!?」
「ああそうだよ、君が、僕のことをはめた場所だよ!」
そこは、あの日の地下室だった。あの日と変わらず、倒れた家具やらなんやらはそのままだった。
「うっ、ぅぅ……」
「伊豆奈っ!」
「おやおや、起きたようだねぇ」
ゆっくり目を覚ました伊豆奈は、自身の体を見て、彼が自身の服を持っているのを見て顔を青ざめた。
「い、いや………やだ………」
「伊豆奈から……離れ……」
「んん?」
彼は少し悩む素振りをして。それからこちらを向いた。
酷く、歪んだ顔だ。その顔は僕の背筋を凍らせ、戦慄させた。
「……やぁだ♡」
そう言って、伊豆奈に手をだそうとした。
何かないのか……しかし何も無く、僕は這って彼に近づいた。
しかし、途中で気づかれ、「邪魔をするな!」と蹴り挙げられた。
「グハッ!」と反射的に声を出しながら吹き飛んだ先。指先に固く、冷たいものが手に当たった。
ヒンヤリとするその感触。それは僕が常日頃と言っても過言では無い頻度で握っているものに違いなかった。
「侑斗くん!もう……もう、いいから………私が、私だけが我慢すればいいの……もう、侑斗くんが傷つく所、見たくないよ…………」
「伊豆奈……」
その悲しそうな目を、どうか辞めてくれ。君は、充分傷ついているんだから。これ以上は、傷つけさせない。
僕は手早く縄を切った。
「はあ………つまらないつまらない!!!つまらないんだよそれじゃあ!なあ、怖くてたまらないんだろ?足が震えて仕方がないんだろ?そうやって言えよ!なあ!お前がそんなんじゃ、話にならない……復讐に燃えないんだよ!」
「じゃあ、一生復讐の妄想だけしていろ」
「!?な、どうやっごはっ!」
近づいた彼の頭をパイプで思いっきり殴り飛ばした。彼は頭から血を出して倒れた。
「……伊豆奈、大丈夫?」
そう尋ねてみたが、伊豆奈は細かく震えながら首を振った。当然だ。怖くないわけが無い。2度も、さらに今回はあと少しでも遅ければ襲われて、殺されていた。
「……これ、羽織な」
僕は自分の上着を着せ、地下室から出た。
外の物陰にはあいつらが待機していた。手で小さく合図を送り、彼の始末を頼んだ。あとは、あいつらに任せよう。
それにしても……心が穏やかじゃない。もっと、何か大きなことが起きるような。
そんな不安感に、その日は眠れなかった。
___そんな僕らに、終止符を打つ出来事が、起こってしまった。
次回、最終幕__




