願いを載せた夜空
12月31日。今日は一年最後の日。というわけで、新年を気持ちよく迎えるために僕は大掃除をしていた。
思い返せば、色々なことが思い浮かぶ。
伊豆奈にであうことができて。伊豆奈には、色々とあった。旅行や夏祭り。クリスマスとか、思い出すときりがないほどに楽しい思い出に満ちていた。
一度だけ。伊豆奈が監禁されたこともあったが、うまく行って心底良かったと思った。
だからこそ。伊豆奈には、汚れなんて一切もついていない。だけど、それを汚そうとするやつは、たくさんいる。僕らの純粋できれいな愛を汚す不届き者が、残念なことにこの世にはたくさんいるのだ。
ならば仕方がない。僕だって、それを黙って見て見ぬふりをするのだけはしたくなかった。
『侑斗さん、ほとんど片付きました』
「そう。じゃあ、全部片付いたら教えてね」
『……はい』
僕は、その汚れがつく前に、それを防ぐだけだ。
そんなことを思いながら、いよいよ最後に残していた床の掃除に取り掛かる。
……さて、山に散らかったこのゴミをどうしようかな。
『一緒に初詣に行こう!!!』
夜の9時頃、伊豆奈からそんな誘いが来た。
もちろん、僕も誘おうと思っていたから、二つ返事で承諾した。
『いいよ。何時に集合にする?』
『多分混むと思うから…11時とかにしよ!』
「わかった、じゃあ11時にしようね…っと」
「あら、あんた夜でかけるんか?」
僕がメッセージを返しているのを見かけた母にそう言われた。
特段やましいこともなにもないから、僕は素直に
「うん。夜ご飯食べてから行くから」
「そう…うん。行ってらっしゃい」
母の言葉に、何か寂しげな感情が混ざっていたような気もする。そしてその言葉は、すでに人ではなくなってきている心に何故か深く突き刺さった。
蕎麦を食べる。美味しい蕎麦。我が家では年越しそばには豪華に盛るというルールがあり、僕のそばには天ぷらが山盛り、別皿には鴨肉が入ったつけダレがあり、更には、替え玉まで用意されている。そんな豪勢な蕎麦を食べ、年末の特番番組を流しながら色々と考える。
伊豆奈との思い出に付いてを主に思い出す。ふと、脳裏をかすめた思想はなかった事にした。
「ごちそうさま」
「お粗末様。はい、お賽銭」
母はそう言うと、僕にさも当然のように100円玉を手渡した。
「いいよ、お賽銭は自分も持ってるから」
「いいから持っていきなさい。ほら」
と、母からの強い押しから、僕はそのお金を持っていくことにした。まあ、お金が減らないだけはいっか、と思った。
11時前、僕は伊豆奈の家に着いた。今年一年、幾度となくみたこの家。中には世界一かわいい彼女がいる。僕はそんな彼女と一緒にいるために努力をする。それだけは、覆ることのない絶対の理だ。
呼び鈴を押し、伊豆奈を呼ぶ。伊豆奈は可愛い声で「待っててね!」と言った。
やがて「おまたせ〜」と言って、かわいい彼女が出てくる。彼女は、「待った?」と聞いてくるから。僕は笑顔で「待ってないよ。ほら、行こう」と言い、手を差し出す。冬場の寒空の下、人肌と人肌が触れ合い熱を帯びる。伊豆奈と、僕の温もりだ。
「今年一年、色々あったけど楽しかったなぁ〜。ねえ、侑斗くんも思わない?」
「うん。隣に伊豆奈がいるのが、楽しくて嬉しくってたまらないよ。ほんと、僕を選んでくれて、ありがとう」
「そ、そんな…わたしの方こそ、こんな私で、ありがとね」
伊豆奈は真っ赤に顔を染めて顔を逸しながらそう言った。その仕草が可愛すぎてボソッと「かわいい」と呟いたことは、どうやらバレずに済んだらしい。
「わー。結構並んでるね〜」
「早く並ぼっか」
「うん!」
賽銭箱に並ぶ列。普通ならこれを見たらイライラするだろう。だけど、伊豆奈と一緒なら、この待ち時間もすべてを愛せる。
確証もないし、気のせいかもしれないけれど、それでもいい。
「侑斗くん、順番来たよ!」
「何をお願いするの?
そう伊豆奈に問いかける。伊豆奈は「もちろん!」と言いかけて、話すのをやめた。不思議に思い、僕は思わず
「どうしたの?」
と聞いてみた。伊豆奈はいたずらに笑い、
「…やっぱ秘密」
と言って賽銭を投げた。
その動きに合わせて僕も賽銭を放った。一生懸命何かをお願いする伊豆奈の姿を横目に、僕もあることをお願いした。
「…伊豆奈ともっと幸せ過ごせますように」
と、建前を言いながら、僕は本当の願い事を心のなかで叫んだ。
伊豆奈に取り巻く害虫共が、皆何かしらの形で不幸に見舞われますように、と。
「ねえ、おみくじひこうよ!」
「うん、いいよ。どっちがいい方引けるか勝負しようよ」
「へへ〜ん、負けないぞぉ!」
と言いながら、伊豆奈はお金を払いおみくじを引いた。そのとなりで僕もおみくじを引いた。
「せーの!」
と伊豆奈の合図で自身のクジを見せた。
「ふたりとも大凶!!?」
なんと、僕らは引いたのは2つとも大凶のくじだった。
「生命、気をつけなかれば今年危なし。むやみに外に出るなかれ…ってそんなぁ!」
「僕も同じだね…」
伊豆奈は少し悲しそうな目をしたけれど、すぐにこっちを向いて
「でも、侑斗くんとお揃いだし、嬉しい」
聖母と見間違うほどの優しさを見せ、僕に微笑んだ。
この顔を見れたなら、この大凶も大した不運じゃないなと思った。
それから僕らはくじを神社の紐に括り付け、二人で手を繋いで帰った。暖かな二人の熱が、大晦日の夜道に広がっていった。




