変心
数週間後
僕は山にキノコ狩りをしに来ていた。伊豆奈は連れてきていない。つまり、これは正義のためのキノコ狩りだ。
図鑑片手に、僕は山をこれでもかと散策した。
「よし、これだけあれば足りるだろう。楽しみだなぁ…」
キノコ片手に、辞書も片手に。一生懸命にらめっこしながら選別し続けた。
やっと満足いく量を手に入れた僕らは、撤収し、次のステップへと進んだ。
「あれ?侑斗くんどうしたの?」
「あ、伊豆奈」
キノコを運んでいる最中、たまたま伊豆奈と出くわした。恰好から見るに、すぐ近くで何かを買ってきた後のようだ。
「…今、どこに行ってたの?」
「ん?私?私は今ね、ふいに夕飯にキノコ食べたくなったから今買ってきたの!」
嬉々として言いながら、伊豆奈はマイタケやしめじを見せてきた。
「バター醤油で炒めて食べよーって…あれ?それなに?」
「あ、これは…」
咄嗟に、僕はきのこを隠してしまう。
「え、どうしたの?ねぇ、見せて見せて…」
「ダメ!!!!!!!!!」
しまった!
また咄嗟に、僕は叫んでしまった。
「あ、あの…これ、全部親戚に渡すやつだから!だからその…とにかく、ごめん!」
「え?ちょ、ちょっと!」
思わず、走って半ば逃げるように去ってしまった。
仕方ない。だって正義は、ばれないのがかっこいいのだから。
そう、ばれないのが、格好いいんだ…。
「………………………………………………………………………………………………………………」
頭の中を、一つの考えがめぐり続ける。
払拭するように、一生懸命に鍋を回すけれども、鍋を回すたびに考えがさらにめぐる。
「…………………………………………………………………………………」
ふと、手が止まった。
目の前にあるのは、おいしそうなカレーだ。一見すれば何も仕掛けもないし、ただの美味いカレーに見える。
「……………………飲めば…これを……」
かき混ぜていたお玉を掬い上げる。喉を鳴らし、それをゆっくりと口元へ運んだ瞬間。
「何やってるんですか!!!?」
「っ…!」
勢いよく怒鳴りながら、僕の手ははたかれた。
カランカランとお玉が音を立てる。その音に、僕の正気が戻った。
正気を取り戻した瞬間。急に今度は吐き気が脳を支配し、僕は何も言う暇もなくトイレに吐瀉物を容赦なく吐き捨てた。
ふと前を見る。鏡の中の僕が、笑っている。
「もう気付いてるだろ」と、笑っている。
その目が、痛くて。怖くて。いつしか震えていた腕を振り上げ
「あああああああああああああああああああ!」
と、半狂乱になりながら鏡を叩き割ってしまった。
欠片が手に刺さるのも構わず、もう一度、割れた鏡を見た。
そこには、何かに恐れ、歪んだ顔があったような気がした。




