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血に濡れた愛  作者: 時雨 悟はち
○○の秋
47/58

読書の秋

「………………………………………」

「………………………………………」

「………………………………………」

「…………………………ねえ伊豆奈?今日ってデートだよね?」

「うん。読書デート。ほら、読書の秋って言うでしょ?」

「あ、うんまあ、そうだけど…」


にしては、何も話さないなと思う。

今日、伊豆奈に「読書デートしよ!」と誘われ、乗ったはいいが、内容はただ二人で黙々と本を読むだけ。これをデートと称するには、うーん…。

ふと、伊豆奈の横顔を見る。端正で、でもあどけなくて。可愛いと美しいが混在というより、その双方が両立されている。

見れば見るほど美しくて、可愛い。ふと視線を落としてみる。

出すぎず、小さすぎず。華奢な体によく合っている。思わず抱きしめて守りたくなってしまうほど小さくて弱く見える伊豆奈。凛とした立ち振る舞いの彼女にそんな感想を持つのはきっと僕だけだろう。

そんなことを考えていたら、伊豆奈とふと目が合った。

一瞬見て、顔を微かに赤らめてまた本に向かった。


「……本当に、読書デート?」

「もちろんだよ。ほら、侑斗くんも本読みなよ」


読書デートとはいうものの、さっきから妙に目が合う。いつもなら気にしないはずの髪を何度も耳にかけて、こちらにむけた視線が通りやすいようにしている。

まあつまり、これは伊豆奈の読書デートを装った僕を再度まじまじと見るためのデートだったりもするのだ。断りなしに、勝手に見つめてくれてもいいのにと思いつつ、僕も彼女の顔をまじまじと見ようと思ったりもする。あいも変わらず正に完璧な彼女だ。


「…ねえ。僕本よりも見たいものあるんだけど、いい?」

「本よりも…?何?」


僕は、彼女の目の前に座る。机一つ挟んだ向こう。読書用の眼鏡をかけた彼女の顔を覗き込む。


「集中して本を読んでる伊豆奈の顔」


僕がそういうと、伊豆奈は本を閉じ、僕の隣に座った。

どうしたのかと思ったのもつかの間。カタンと頭を肩に乗せ、身をゆだねてきた。


「どうしたの?」

「……私、侑斗くんの顔が見たくてこのデートしよって言ったのに」


少しほほを膨らましながら、彼女はそう言った。僕はそんな愛おしい彼女の頭をなでながら


「そんなこと、断りとか理由とかなくてもいつでも見せてあげるよ」

「違うの。本読んでる集中してる顔が見たいの」


また、それは難解な願いだ。その言葉を飲み込み、僕は伊豆奈を撫でてごまかした。


「…じゃあ、今日はお互いの顔を見つめあって過ごす?」

「…仕方ないなぁ…。うん、そうする!」


すると、伊豆奈は僕の膝の上にこちらを向いて座った。

伊豆奈の顔が、真ん前まで来ている。吐息が。視線が。うっすらと聞こえないはずの声が肌に伝わる。


「…近くない?」

「え~でも、キスの時はもっと近いよ?」

「っ…そ、そうだね……」


目と目が合う。ほほを軽く染めて微笑む伊豆奈の顔。可愛い声が漏れ、彼女が濃く残っているピンクの唇に自然と顔が引き込まれる感覚がする。徐々に、徐々に。伊豆奈も顔を近づけてくる。僕はそれを止めようとはしないし、むしろ僕から行くつもりだ。

唇が、触れ合った。柔らかい感覚。僕は知っている。だけど、今日のはいつもとは違った。


最初は、伊豆奈から。

この前は、僕から。


今日は、対等に。お互いから求め合った。

唇を離し、数秒見つめあう。気恥ずかしくって、照れながら僕らは笑いあった。

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