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異世界恋愛系 作品いろいろ

自己中心的なことばかり言ううえに勝手なことをするので、婚約破棄させていただくことにしました

作者: 四季

 ノックして婚約者の部屋へ入る。


 刹那、私は目にしてしまった——生まれたままの姿で身を重ねる、婚約者と見知らぬ女の姿を。



 ◆



「彼女はどなたですか? どうしてそんなことになっているのですか?説明してください」


 私、ローズ・フォリアは、婚約者と彼と親しくする女性を逃がしはしなかった。

 何がどうなってこうなったのか説明してもらうまでは自由にさせることはできない。当然だろう。最低でも、話を聞かせてもらう。


「何だよローズ、こんなくらいどうでもいいだろ」

「よくありません」

「喧嘩売ってんのか?」

「それはこちらの台詞です。それより、事情を説明してください」


 婚約者ガイエルはいつもこんな風だ。私が真剣に話そうとしても、ごちゃごちゃ言って話から逃れようとする。少しもきちんと話そうとしない。また、こちらがさらに問い詰めると、大抵大声を発し始める。威嚇するかのように。


 ガイエルの親の頼みで私は彼と婚約した。

 こちらの方が有利な立場だ、私はいつでも婚約破棄を告げることができる。


「あーあーうるせー。遊びだよ、遊び。ちょっと遊んでただけだろ、文句多いな」

「そうなのですか?」


 私は女性の方へと視線を向ける。

 女性は四十代くらいだろうか、地味めな容姿の人である。ただ胸は大きい。もっとも、重力には逆らえず垂れているのだけれど。


「私は彼を好きになったのです。たとえ遊びだとしても……それでも良かった……」


 やはり本気ではないか。


 ガイエルが本気であるか否かは不明。ただ、相手の女性が本気であったことは事実。片方が本気になっているなら、完全に遊びとは言えないだろう。完全に遊びなのだと言うなら、双方がそういうことで納得していなければ。


「そういうことみたいですけど、ガイエル、どう言い訳するつもりなのですか?」

「はぁ!? 婚約者の言うことより見知らぬ女の言うことを信じるのかよ!?」

「では、その女性の言っていることは嘘なのですね? なら、彼女に、完全な遊びだと認めさせてはどうでしょう」

「……うっせえな、ほっとけよ」


 ガイエルはいつもこんな感じ。

 反抗期の子どものようだ。


「分かりました。では、一旦解散としましょう」


 ここで三人で話を続けてもきっと何も生まれない。話が進むこともないし、こちらが不快な思いをするだけだろう。そう判断したので、私はこの場から去ることにした。念のため、二人が汚していたシーツだけ回収して。


「お、おい! 待てよっ。何でシーツ持ってくんだよっ!?」

「証拠品回収です」

「おい! 何だよそれ! 待て、待てって!」


 何やら慌てているが、もはや私には関係のないことだ。



 シーツを持ったまま部屋を出て廊下を歩いていると、正面から使用人の女性がやって来た。ガイエルの家で働いている女性で、数回話したため彼女のことはそれなりに知っている。当然、向こうも私のことを知っている。


「こんにちは、ローズ様。シーツをお持ちだなんて、珍しいですねぇ」

「そうなんです」

「洗濯物に入れて参りましょうか?」

「いえ、これは洗わないものなのです」


 私は笑顔で言葉を返す。


「ガイエルさんの浮気の証拠品なので」

「えっ……」

「知らない女性と生まれたままの姿で抱き合っていちゃついていたのです。驚きですよね」


 使用人の女性は引いたような顔をした。


 無理もない。いきなりそんなことを聞かされたら、誰だって驚かずにはいられないだろう。しかも、そんな話を振ってきたのが日ごろ冗談なんて言わない人だったら、余計に驚くはずだ。


「事実……なのですか」


 使用人の女性は目をパチパチさせながら口を動かす。


「はい。シーツの汚れ見ます?」

「いえ! 結構です! ……しかし、それはかなり問題ですね。大問題ですよぅ?」

「ですよね、分かっていただけてありがたいです」

「しかしそんなことって……今まで気づけず申し訳ありません」

「貴女は悪くありません。気になさらないでください」


 使用人の女性に罪はない。彼女にガイエルの監視を任せていたわけではないから。見張っておいてくれ、と頼んでいたわけでもないし。だから、本当に、彼女には罪はない。


 悪いのは勝手なことをした人間。

 周囲の人間が一番悪い、というわけではない。


 その後、私はガイエルの両親のところへ行き、このことを相談した。証拠品の汚れたシーツがあったから信じてもらうことには苦労しなかった。二人もこの行為のことは知らなかったそうだ。


 驚き戸惑っている二人に、私は「婚約破棄したい」と告げる。

 それによって二人はさらに狼狽えた。

 また、私は、これまでの被害をすべて明かした。少し何か言ったら怒って騒ぎ出すことや乱暴な言葉遣いをすること、他にも、私だけに自由な交友を許さないことなども。とにかく、彼に関する不愉快な事象を、すべて明かした。


「申し訳ありませんが、こういうこともありますので、婚約破棄を考えています。手続きは今から進めていく予定ですので、ご協力よろしくお願い致します」



 ◆



 婚約破棄の手続きを進める。


 時間はかかったが、無事完了した。


 ガイエルには慰謝料の支払いが命ぜられた。直後はかなり渋っていたようだが、支払いの指示を無視することはできず。数ヶ月後、ガイエルは渋々慰謝料を支払った。彼の貯金と親のお金から支払ったようだった。


 私と彼の縁は切れた。

 比較的スムーズに話が進んだので助かった。


 後に知人伝いに聞いた話によると、あの後ガイエルは両親から勘当を言い渡されたらしい。叱ってもろくに聞かず、何事もなかったかのように女遊びしている。そんな息子に呆れ、親の方から縁切りを申し出たそうだ。


 その後もガイエルは女遊びを続けた。


 ただ、婚約破棄の原因となったあの女性と遊んでいたというわけではなく、また別の女性と遊んでいたらしい。


 というのも、婚約破棄の原因となった女性には、一件の後去っていかれたそうなのだ。


 悪いことをしたと思ったのか、それとも別に何か思いがあったのか。その辺りは定かではないけれど。ただ、あの女性が抱いていたガイエルへの気持ちは冷めてしまったようだった。


 しかし、そんな無節操な女遊びにも終わりが来る。


 貯金が尽きたのだ。


 それから彼がどうなったかのかは誰も知らない。ただ、きっと、無難な人生ではなかっただろう。



◆終わり◆

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