コント#2『自動車教習所』
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「コント#1.5『自動車教習所』」
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とある自動車教習所。椅子に座ったツッコミが、名前を呼ばれるのを待っている。
ツッコミ「ああ、今日は高速教習か。不安だけど、本免を取るためにはがんばんなきゃな」
そこに赤い服を着たボケがやってくる。
ボケ「○○(ツッコミ)さんですか。本日高速教習を受け持ちます△△(ボケ)と申します」
ツッコミ「はい。よろしくお願いします」
ボケ「早速なんですけど、今までに乗ったことはありますか?」
ツッコミ「ないですよ。まだ仮免なんですから」
ボケ「いえ、高速じゃなくて、調子に」
ツッコミ「そっちもないですよ。ちゃんと地に足つけて生きてますから」
ボケ「今日の高速教習なんですけど、今日はあいにく中央道が渋滞していまして」
ツッコミ「ああ、確かに今日は祝日ですもんね」
ボケ「はい。文春の日で」
ツッコミ「春分の日ですよね。それじゃあただの発売日じゃないですか」
ボケ「なので、今日は高速教習ができないんですよ。申し訳ないんですけど……」
ツッコミ「今日の教習はなしってことですか」
ボケ「いえ、深夜二時からです」
ツッコミ「夜行バスですか。そんな時間に教習したら、寝ちゃいますよ」
ボケ「まあ寝たら最後。二度と目を覚ますことはないですけどね」
笑うボケ。
ツッコミ「なんで笑ってるんですか。冗談じゃないですよ」
ボケ「まあ、猥談はこれくらいにしておいて」
ツッコミ「どこがやらしかったんですか」
ボケ「今日は中央道に乗れないので、代わりにシミュレーターを使って教習をしていただきます」
ツッコミ「そんなのがあるんですか」
ボケ「はい。でもシミュレーターって言っても、そんな大層なものじゃないですよ。VARとかありませんし」
ツッコミ「VRですよね。何を確認するんですか」
ボケ「〇〇さんが調子に乗ってないかどうかです」
ツッコミ「だから乗りませんって。ほら、早く行きましょうよ」
ボケ「分かりました。では、あと一〇時間ほどお待ちいただけますか」
ツッコミ「長すぎるでしょ。なんで今呼んだんですか」
第三教習室に入室する二人。中には座席とハンドルが備え付けられたシミュレータがあった。
ツッコミ「思ってたよりも本格的ですね。こう言っちゃなんですけど、アーケードゲームみたいなものを想像してました」
ボケ「でも、このシミュレーター、実際にアーケードゲームを作っている会社が製作したんですよ。サガが」
ツッコミ「九州は関係ないですよね」
ボケ「スタートは調布なんですけど、今日はどちらまで行かれますか?」
ツッコミ「え? 選べるんですか?」
ボケ「はい、永福、幡ヶ谷、末代の三つですけど」
ツッコミ「初台ですよね。僕、祟られるんですか。一番近い永福でお願いします」
ボケ「分かりました。住民の目が半開きの街、永福ですね。どうぞお座りください」
ツッコミ「そんなことはないと思いますけど、よろしくお願いします」
椅子に座るツッコミ。シートベルトを締め、ボケからの指示を待つ。
ボケ「では、通常と同じようにハンドブレーキを下ろして、ギアをドライブに入れてください」
ツッコミは言われたとおりにするが、ボケから注意が飛んでくる。
ツッコミ「ちょっと待ってください。今どういう順番でやりました?」
ボケ「普通にハンドブレーキ、ギアの順ですけど」
ツッコミ「あー、その前に『よーし! 今日も安全運転でがんばるぞー!』って言わないと」
ボケ「それ、わざわざ言う必要あります?」
ツッコミ「いや、自分に暗示をかける意味でも。こう手を突き上げながらお願いします」
しぶしぶ納得するツッコミ。シミュレーターを元の状態に戻して、再び座るところからやり直す。
ボケ「よーし! 今日も安全運転でがんばるぞー!」
言われた通りに手を上げながら、口にするツッコミ。しかし、ボケは小ばかにしたように笑う。
ツッコミ「なんで笑うんですか」
ボケ「いや、別にやんなくてもいいのになって」
ツッコミ「じゃあ、なんでやらせたんですか。もう始めますからね」
再び、椅子に座って発進の準備をするツッコミ。ボケが「じゃあ、まずは高速に乗るところから始めましょうか」と言ったので、ゆっくりとアクセルを踏んで出発する。
ボケ「では、今回はECCレーンから高速に乗りましょうか。注意事項覚えてますか?」
ツッコミ「英語教室なのは置いとくとして、時速20キロ以下で通行するんですよね」
ボケ「そうです。付き合って三年経ってもキスすらできないカップルのように、ゆっくりといきましょう」
ツッコミ「例えはともかく、分かりました」
習った通りにETCを通過するツッコミ。ボケはすかさず拍手をする。
ボケ「偉い! よっ、世界一! 天才!」
ツッコミ「そんなに褒めます? まだ合流もしてないのに」
ボケ「そうですね。思ってもないことを言ってしまいました」
ツッコミ「いや、思っててはくださいよ」
画面は合流車線に変わっていく。
ボケ「アクセルを思いっきり踏んで加速して! 嫌いな奴の顔を踏んづけるように!」
ツッコミ「いないですけど、はい!」
ボケ「右ウィンカー出して! 5回点滅!」
ツッコミ「してる時間ないですけど、はい!」
ボケ「前の白い車にスピード合わせましょう! あのボンボンが運転してそうな車!」
ツッコミ「違うと思いますけど、はい!」
ボケ「ほら、ハンドルを右に切って! 合! 流!」
ツッコミはなんとか合流に成功する。
ボケ「よっ、生まれながらの走り屋! サラブレッド! 千年に一人の逸材!」
ツッコミ「褒めすぎでかえって嬉しくないけど、ありがとうございます」
ボケ「いや、○○さん本当に筋が良いですよ。ここに来る前、どこかで運転してました?」
ツッコミ「してたら捕まりますよね」
ボケ「それはメメント運転ってことですか?」
ツッコミ「なんで死を想うんですか。無免許運転でしょ。いや、してないですけど」
ボケ「ところで、〇〇さんはどうして免許を取ろうと思ったんですか? やっぱり峠を攻めるためですか?」
ツッコミ「命知らずですか。違いますよ。なにか証明になるものがほしいなって思ったからです」
ボケ「確かに免許があると、便利ですもんね。パチンコ屋の会員カードを作るときとか」
ツッコミ「それもありますけど、もっとちゃんとした使い方しますよ」
ボケ「納豆をかき混ぜるときに使ったりとか?」
ツッコミ「そんな物理的に使う人います?」
ボケ「僕の友達に、免許でパンにバターを塗る人いますけど」
ツッコミ「狂ってますね。バターナイフ、使った方がいいんじゃないですか」
画面は中央道を映している。相変わらず白い車が前にいる。
ボケ「あのボンボンが運転してる車、当てつけみたいに遅いですね。ちょっと追い越ししてみましょうか」
ツッコミ「教習車がそんなことしていいんですか?」
ボケ「実際の高速では、追い越しなんて当たり前ですよ。車線変更の練習にもなりますし、教習だからこそやるべきです」
ツッコミ「言われてみればそうですね」
ボケ「では、あのノロマ野郎を追い越しましょう。後ろから車が来ていないことを確認して、小馬鹿にするように右ウィンカーを出してください」
ツッコミ「口悪いですね」
言われた通りに右ウィンカーを出すツッコミ。追い越し車線に入り、アクセルを踏み込む。
ボケ「そして、追い越す瞬間、にっこりと中指を!」
ツッコミ「立てませんよ。あおり運転の極致じゃないですか」
ツッコミは白い車を追い越す。
ボケ「そうしたら、十分な距離を取るまで、引き続き追い越し車線を走ってから、戻りましょう」
ツッコミ「時速×1メートルが目安ですよね」
ボケ「はい。今は時速100キロなので、100メートルですね。大体、リンゴ3個分です」
ツッコミ「可愛くないですよ」
ボケ「キティちゃんって着ぐるみの時でも、身長はリンゴ3個分って言ってますよね。そんな大きいリンゴこの世にあります?」
ツッコミ「それはそうですけど、今は関係ないじゃないですか」
ツッコミは車線を変更して、走行車線に戻る。「スピードを緩めてください」とボケの指示に従う。
ツッコミ「それじゃ、ハザードランプを三回点滅させましょうか」
疑問に思いながらも、言う通りにするツッコミ。三回点滅したのを確認して、ハザードランプを消す。
ツッコミ「今のは何のサインですか?」
ボケ「『うんこ』です」
ツッコミ「いや、小学生ですか。めっちゃ失礼じゃないですか」
ボケ「『ちんこ』の方がよかったですか?」
ツッコミ「そういう問題じゃないでしょ。あおり倒してるじゃないですか」
ボケ「看板が見えてきましたよ。エイブルまであと500メートルです」
ツッコミ「永福ですよね。僕、部屋探してないですよ」
ボケ「ほら、出口が見えてきました。左ウィンカーを出して、出口車線に乗ってください」
ツッコミ「スピードは徐々に緩めていいんですよね」
ボケ「いえ、なるべくそのままでライトオンです」
ツッコミ「これから僕、服でも買うんですか? ライドオンですよね。ていうかもう乗っちゃってますけど」
ボケ「では、そのまま少しずつ減速してください。プールの後の数学の授業を思い出して」
ツッコミ「寝るやつじゃないですか」
ツッコミはアクセルから足を離して、減速させる。
ボケ「じゃあ、UCCをさっきと同じ要領で通過してください」
ツッコミ「それ、コーヒーですよね」
ETCレーンを通過したツッコミは、そのまま少し道路を走らせた。少し道幅が広くなったところで、ボケが「じゃあ、そこの路肩に車を停めてください」と言ったので、その通りにする。
ボケ「以上で、高速教習を終わります。どうでしたか? シミュレーターを使っての教習でしたけど」
ツッコミ「気になるところはたくさんあったんですけど、でもシミュレーターとはいえ、高速を疑似体験できたので良かったです」
ボケ「免許取ってからも、高速走れそうですか?」
ツッコミ「はい。何回か走ってみたいです」
ボケ「○○さんの運転も安全で、的確でしたから自信持ってください」
ツッコミ「ありがとうございます。本免試験がんばります」
ツッコミがそう言うと、ボケは指笛を吹いて、胸のポケットからイエローカードを取り出した。
ツッコミ「え、何でですか? 僕、間違ったことしてないですよね」
ボケ「これは警告です。シミュレーターぐらいで、調子に乗っている○○さんへの」
ツッコミ「そっちがおだててきたんじゃないですか」
ボケ「どうします? まだ時間はあるけれど、もう一度やりますか?」
ツッコミ「いや、もういいですよ」
どうもありがとうございました。