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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
ラビ王国編
98/256

第88.5話 両片想いが実る時

 オリヴィエール帝国の南に位置する港町ガナル。

 その町の飲食店を営む夫婦の三女としてアイシャ・ユーランは生を受けた。

 すくすくと育ち、家の手伝いも勉強も魔術の練習も真面目に取り組む絵に描いたような良い子。

 三姉妹の中でも優秀と言われてきた。


「ねぇ、アイシャも一緒に森に行く?」

「お姉ちゃん、この前も私がお店の手伝いしてたんだよ。たまには代わってよ」


 遊びに誘ってくれるのは嬉しいが、アイシャは暇があれば店の掃除や皿洗いをしている。混雑する食事時には注文を受ける時だってある。

 しかし、次女のリシェリは手伝いと言われると嫌そうな顔をして、行かないならいいと走って行ってしまう。

 窓から様子を窺うと、学習所で良くリシェリが声をかけている薬屋の兄弟がいた。

 兄の方は弟に腕を掴まれて渋々という表情だった。


「アイシャ。テーブル拭き終わった?」

「ぁ、あと半分」


 慌てて掃除に戻る。両親はリシェリに手伝いを求めることを諦めている。

 アイシャがいてくれて助かると言ってくれるのは嬉しいが不公平を感じる。

 長女のシャノンは、帝都の魔術学院に通いながら店を継ぐための経営の勉強と婿探しの最中で、もう数年顔を見ていない。

 困った姉たちだと幼いながらに思い、ため息が出る。






「お薬くださーい」


 アイシャは父に頼まれたメモを手にリトラ製薬店を訪れた。

 店番をしていたのは良くリシェリと遊んでいる兄弟の兄ユハニだった。


「これが欲しいです」

「ぇっと、あぁ、ちょっと待ってて」


 メモを受け取ると、奥のドアを開けて薬が出来てるか確認する。

 もうちょっと、とすぐに声が帰ってきた。


「アイシャ。すぐに必要な薬ってある?特にないなら、後でお店まで届けるよ」

「すぐじゃなくて大丈夫です。でも、もうすぐ出来るなら待ちます。今日はお店の掃除を早く終わらせたから時間あるので」


 姿勢を正して答えるアイシャにユハニは頷いて、問診用に用意している席へと促した。

 ユハニが別のドアから姿を消すのを見送って、アイシャは持っていたカゴに入れっぱなしの学習所の教材をテーブルの上に広げた。

 宿題を解いているとコップがテーブルに置かれた。


「アルメアの花で作った飲み物。甘いよ」

「すみません、勝手に待ってるのに」

「俺が勝手に出したんだよ。ここは飲食店じゃないから、お客さんに飲み物は出さないんだけど、良かったら休憩に付き合って」


 アイシャがコップに口をつけて、甘い、美味しいと目を輝かせれば、ユハニは良かったと笑む。

 自分の分を一口だけ飲んで、ユハニはカウンターの中に戻っていった。

 アイシャは何気なく勉強の手を止めて、棚から瓶を取り出して薬の準備をする様子を見つめた。


「わからないところがあるなら教えようか?」

「ぁ、ううん。大丈夫です。ユハニはレイルの分もお手伝いしているんだなと思って」

「別にレイルの分とは思ってないけど。俺は店を継ぎたいから手伝わせてもらってるだけだよ」

「手伝わせてもらってる……」


 そう考えたことはなかったとアイシャは反省した。

 しかし、実家の店ラピュセルを継ぐのは長女のシャノンであり、アイシャはシャノンが帰ってくるまで手伝っているだけだ。

 自分の道は自分で探さなければならない。


「アイシャはお店の仕事が好きじゃないの?」

「料理はまださせてもらえないもん。掃除とかばっかりだから、あまり楽しくない」

「あぁ、俺も調薬はまださせてもらえないよ。下処理をようやく任せてもらえるようになったところ」


 ひと段落ついたらしいユハニは勉強道具を手に向かいの椅子に座った。

 学習所では、一人一人の学習進度に合わせて課題が用意され、必要に応じて教えを請う。

 先生役の大人だけではなく、年長者が年下に教えることも珍しくない。

 その中で、ユハニは先生役をしている時が圧倒的に多い。


「アイシャはなにをしている時が一番楽しい?」

「勉強してる時。ちゃんと出来たら褒めてもらえるから」

「そっか。じゃあ、一緒にやろう」


 薬が出来るまでの間、アイシャはユハニに時折教えてもらいながら勉強を続けた。

 




 

 それから、学習所でもユハニに勉強を見てもらう機会が増えた。

 頭を撫でて褒めてくれることが嬉しくて課題を次々と進めていくと、いつの間にか姉のリシェリより先へと進んでいた。


「リシェリ。遊んでばかりいないでアイシャを見習ったらどうだ?」


 学習所は勉強する為に来るものだが、子供たちが集まれば遊び始める者も多い。

 遊ぶ中で学べることもあるからと大人は子供たちを自由にさせている。


「えぇ!なんでアイシャが私より難しい課題やってるの!」

「ここまで課題を合格したからに決まってるだろ」


 ユハニは学習所で用意されている教材を全て終えて、今は街の図書館や家から持ってきた本を読んで勉強している。

 本当は学習所に通う必要はないが、自分の勉強をしながら先生役を続けていた。


「アイシャばっかりユハニに教えてもらってずるい!」

「勉強しないで遊んでる方が悪い。そもそも年下の俺に教わりたくないって言ったのはお前だろ」


 ユハニはどうでもよさそうにリシェリの文句を受け流す。

 アイシャも構わず問題を解き進めて、詰まったところでユハニに教えを求めた。

 真面目に取り組む子には優しいのだから、学習所にいるときくらい勉強すればいいのにと思う。


「ねぇ、ユハニ。その本面白い?」

「面白いよ。植物に興味があるなら教えようか」

「うん!教えて!」


 ユハニの隣に座って本を覗き込むと、薬によく使われる植物をひとつひとつ教えてくれた。



 


 

 シャノンから恋人が出来たと連絡が来て、ラピュセルの後継問題は安泰となった。

 そして、店の掃除はしてこなかったリシェリが、ある時から料理の手伝いはするようになった。

 アイシャも店の掃除や給仕を任されながら、将来を少しずつ考え始めるようになっていた。


「これがルーエ。怪我をした時の塗り薬に使うんだよ」


 その日、アイシャは植物の勉強がてらユハニの薬草採取についてきていた。

 周囲には狩りをする大人がいて、レイルも狩り用のナイフを手にして警戒してくれている。


「ルーエは匂いが酷いんだよね」

「そう。ちょっと我慢して」


 ナイフで採取した瞬間、匂いが鼻についた。しかし、切り口を軽く焼くと少し和らぐ。

 ルーエは内包した水分が匂いの元であり、切り口を焼いて調薬の時まで保管する。

 調薬の時には他の材料を混ぜることで匂いを和らげるのだと、採取しながら復習する。


「よく覚えたな」

「うん、あっちにあるのは、ハイランジャの花だよね」

「あれは採取できるまでもう数日かな。近くで見ればアイシャにもわかると思うよ」


 ルーエの採取を終えて、他の植物を見て回る。

 植物の知識を増やし、アイシャは工房も見学させてもらった。

 薬のレシピは一族以外には秘密とされているものが多く、調合自体は見せてもらえなかったが、下処理の仕方は教えてもらえた。

 それから、ユハニと一緒に採取に行った時には、下処理まで手伝うようになった。


「ぇ、ユハニ、帝都に行くの?」

「俺もシャノンみたいに学ばなきゃいけないことがあるからな。それに、騎士学校なら自衛手段も教えてくれるだろうから」


 シャノンのように帝都で経営のことや多くを学びたいというのは、アイシャにも理解出来た。

 しかし、シャノンは同時に共に店を継ぐ相手を探していた。

 ユハニもそうなのだろうかと思うと胸が苦しくなった。





 

 ユハニが帝都に旅立ってから数日。

 

「なぁ、アイシャ。薬草の採取行くか?」

「ぁ、うん。行こうかな」


 店の掃除を終わらせて、今日はなにをしようかと考えていたところに、レイルから声をかけられた。

 ユハニがいないければ、採取は単純作業にしか思えず退屈なものだった。


「あら、アイシャ!採取に行ってくれたの?」

「はい。下処理してしまいますね」

「助かるわ。有難う」


 薬草の下処理くらいはもうお手のものだ。収納場所までしっかり覚えている。


「ねぇ、アイシャ。これからもお店を手伝ってくれるなら、ちゃんと雇いましょうか。採取してくれた分を買い取るということにしてもいいけれど」

「両親に相談してみます」


 両親はあの店を手伝っていたのかと少し驚いた顔をした後、承諾してくれた。

 その裏には、アイシャの将来を思ってくれていることがわかった。

 薬師見習いとして働かせてもらい始めると、店の奥の本も貸してもらいまだ知らない植物のことや処理の仕方を教えてもらったが、採取と下処理の仕事の幅が増えただけで、レシピは教えてもらえなかった。

 

 数日に一度、レイルに護衛についてきてもらいながら採取に向かうようになって数年。

 シャノンは結婚して、跡を継ぐ為に夫婦で店を手伝うようになった。

 レイルも騎士学校に入るべく帝都に向かうことを決め、リシェリも料理の腕を磨くと帝都の親戚の家に移り住んだ。


「ねぇ、アイシャはユハニとレイル、どっちと結婚するつもりなの?」


 直球で訪ねてきたのはシャノンだった。

 その話をされると、アイシャは視線を逸らしてしまう。

 そうすれば、誰も追求してこなかったが、シャノンは逃してくれなかった。


「将来は一緒に、とか声をかけられたんじゃないの?」

「レイルには言われたけど、でも、」

「本命はユハニだけど、ユハニはなにも言ってくれないまま帝都に行っちゃって、とりあえずお店に雇ってもらったものの、奴が帰ってくるより先にレイルに告白されて断ったか」


 断られた時点で、レイルにはアイシャの本命がユハニということは伝わっただろう。

 なにを約束したわけでもないのに店に留まるアイシャに、リトラ家の者が困惑しているのは働いていて感じているところだった。

 そろそろ諦めて将来の道を探す時だとアイシャもわかっている。

 だが、ここまで植物や薬の効能について学んできたアイシャは、他の道をどう探せば良いのだろうかと分からなくなっていた。






 採取から戻ってきたアイシャは工房のドアを開けて硬直した。


「おかえり、アイシャ」

「ぁ、た、ただいま。ユハニこそ、おかえりなさい」


 工房にはユハニがいて、鎧を纏ったままテーブルに薬草を並べていた。

 既に下処理済みで、近所で取れない植物もたくさんあった。


「ユハニ。出すもの出したなら着替えておいで。今日は泊まっていくんだろ?」

「うん。ぁ、アイシャ。騎士団が魔物の状況確認に入るから三日位は採取に出るの控えた方がいいよ」


 仕事で戻ってきたのかと思いきや、騎士団の遠征に同行してきたが、ガナルに滞在中は休暇を取るという。

 聖騎士様の口添えがあったからこそ認められたのだと、ユハニが言えば、リトラの家族はそれは良かったと笑顔を見せる。


「手紙はやりとりしてたけど、本当に久しぶりよね。レイルは元気にしてる?」

「うん。馬の扱いが慣れないみたいで苦戦してるけど頑張ってるよ。手紙預かってきた。中身は読んでないけど」

「あら、嬉しい」


 着替えてきたユハニは真っ直ぐ工房に入って薬草の仕分けを再開した。

 アイシャが採取した分の下処理も手際よく進めていく。

 帝都にいても調薬を続けていたのだと、衰えていない手つきでわかる。

 アイシャは久しぶりの家族の会話に混ざってはいけないだろうと、店番をすると言って工房を出た。


「アイシャ。リシェリの話も聞きたいだろうし、そっちの家にも顔出そうと思うんだけど、いつがいい?」


 気を遣って工房を出たのに、数十分も経たないうちに会話の中心にいたユハニは店の方へ出てきた。


「ぇ、あ、お姉ちゃんのことは皆心配してたから、営業時間外だったらいつでも大丈夫だと思う」


 棚の整理は済ませているので、店番は座っている以外にすることがない。

 話題はなにかないかと視線を彷徨わせる。


「ぁ、ユハニ、背伸びたね。なんか大人っぽくなったし、驚いた」

「まぁ、あれから六年経ってるからな」


 少し照れるように表情を緩めたユハニにアイシャは緊張した。

 ユハニは幼馴染のお兄ちゃんから、大人の男の人だと印象が変わったが、自分はどうだろうかと毎日鏡を見ても成長を感じない自分の顔に触れてみた。


「アイシャ?」

「私、成長してない……」

「そんなことないだろ。そうだ、今晩の夕飯は俺が聖騎士様のレシピで作るから、良かったら食べていきなよ」


 買い出し行ってくると出ていくのを見送る。

 マイペースなユハニに、実家なのだから当然かと早く波打つ胸に手を当てて息をつく。

 ユハニの手料理とはどんなものだろうと思っていると、付け合わせに不思議な塊が置かれている以外には、よく見るメニューである野菜スープと焼いた肉とパンが並べられた。


「これが、聖騎士様の料理なの?」

「食べたら違うってわかるよ」


 得意げなユハニに半信半疑で料理を口に運ぶと、普段食べている料理と全く違うことに気づいた。


「美味しい。こんな味初めてなのに、凄い美味しいって感じる」

「前に手紙に書いてたレシピは作ってみてたけど、味を知っているユハニが作ると全然違うわね」

「うん。これは美味い」


 この料理に比べたらお店の料理は食べる気にならない。

 それくらいの感動を覚えながらアイシャは料理を口に運んだ。

 食べてもレシピの想像がまったくつかなかった。


「軍人じゃなくて料理人にもなれそうね」

「それを言ったら、騎士団の連中は皆転職出来るよ。厄災が終わるまで、余程のことがないと退役は難しいけど」


 退役が難しいということは、後十年近くは帰ってこないということだ。

 アイシャは寂しさと共に現実の無情さを感じる。


「まぁ、厄災が終わるまではなんとか凌いでみるから、店のことは任せたぞ、ユハニ」

「わかってる。そのつもりだから、それまで頑張ってよ」


 店を継ぐ気はあるのか。

 なら、誰か共に継ぐ相手は決まっているんだろうかと、シャノンが婿を連れて帰ってきた日のことを思い出す。


「ユハニ。遅いからアイシャを送ってあげて」

「わかった。リシェリのこと話し始めたら、帰ってくるの遅くなるかも」

「構わないよ。作りたい薬がたくさんあるから、工房の方から帰ってきなさい」


 アイシャが遠慮するより先に話が進められる。

 帰ってきてから何かと忙しないユハニに申し訳なさを感じながら、家までの夜道を共に歩く。


「アイシャはこのまま薬師になりたいの?」

「薬師、は、まだわからないけど、他にやりたいことが見つけられなくてずっと働かせてもらってる」


 何気なく会話を振られて緊張しながら答えを返す。

 並んで歩いているから目を見て話すなくていいことにアイシャは安堵していた。

 

「違うことやりたいって気持ちはあるんだ」

「そういうわけじゃなくて。その、なにか考えなきゃいけない、かなって思ったりはするんだけど、他に思いつかなくて」

「じゃあ、これからもウチで働き続ければいいと思うけど」

「それは、」


 答えに戸惑うと、ユハニが足を止めていた。

 いつもならば、どうしたのかと振り返って尋ねるところだが、アイシャも数歩進んだところで足を止めて、そのまま動けなくなる。

 声をかけようと思うが、唇が震えて動かせなかった。


「アイシャ、今、恋人いる?」

「い、ません」


 声が上擦った。足音でユハニが近づいたことを察する。


「じゃあ、一緒に店を継いで欲しいって言ったら、考えてくれる?」

「、……」


 顔が熱くなったのを感じた。

 勢いよく振り返ったが、唇が震えて言葉が出てこなかった。

 真剣な表情だが、僅かに照れているようにも見えるユハニに、アイシャは無意識に鼻を啜って涙が出たことを自覚した。


「ぁ、ごめん、その……無責任だってわかってる。俺は、今、厄災の最前線にいるし、生きて帰ってこれないかもしれないのに。けど、一度任務で死にかけた時に、店を継ぎたかったっていうのも思ったんだけど、アイシャにまた会いたいって思ったんだ。それで、その時に、アイシャが好きだったんだなって、気づいたというか」


 不器用に言葉を重ねるユハニに、アイシャはボロボロと涙をこぼしながら何度も頷いて、聞き逃さないように必死に耳を傾ける。


「アイシャは俺と採取とか店の手伝いとかよくしてくれてたから、店を継ぐこと考えたら、一緒にいるのが当たり前に思えて。だから、次に会ったとき、アイシャに決まった相手がいないなら婚姻を申し込むって決めてた」


 家族にはもう伝えてると言い、夕食に誘ったのは、二人きりになる口実を作るためとだったと謝る。

 お膳立ては完璧なのに、実際に伝えようと思うと中々言葉が出てこないと前髪をかき上げたユハニにアイシャは思わず笑った。


「返事は、俺が生きてる間に貰えたら嬉しい」

「でも、次にいつ帰ってこれるか、わからないんでしょ?」

「まぁ、数年後かになるかもしれない」


 罰悪そうな表情が愛おしいと感じて、アイシャは思い切り深呼吸した。

 

「じゃあ、今、返事する」

「うん」

「私も、ユハニと一緒にお店を継ぎたいです。帝都に行ったユハニが、お姉ちゃんみたいに誰か連れて帰ってくるのは見たくないって、ずっと思ってた」

「シャノンが通ってた魔術学院ならまだしも、騎士学校も騎士団も男所帯だからそんな相手みつからないよ」

「そんなのわからないもん。私一人で、これからどうしようって、ずっと考えてて、だから凄く嬉しい」


 ようやく自然に笑えるようになったアイシャにユハニも笑って、遠慮がちに頭を撫でた。

 懐かしい温もりにアイシャは目を伏せて浸った。


「この後、ご両親に挨拶させてもらってもいい?」

「うん。明日は私が挨拶させてもらうね」


 アイシャの両親はユハニが軍にいることを不安視したものの、アイシャがリトラ製薬店で働き続けることは認めていた。

 そこで薬師になるならば、ユハニかレイルとの婚姻は確定事項だろうと考えていたこともあり、婚姻の申し入れはなんとか受け入れられた。

 決まってしまえば、ユハニが最前線で戦っていることもあり、婚姻自体を急かされることになった。

 明日には両家で話し合う場を設けようと、リシェリの近況報告は完全に後回しになった。






 婚姻は役所に書類を出せば成立する。

 婚姻の儀を行うこともあるが、今は簡易的に済ませて、時間が取れた時に正式に執り行おうと決めて書類を提出した。

 その後はユハニが滞在している間に、ユハニの部屋をアイシャも住めるように整えなければと準備に時間を取られた。


「これでようやくアイシャにも調薬を手伝ってもらえるよ。ユハニ、手紙を減らしていいから、もう少し帰って来られるように心がけな」

「そうね。いない間に子供がわかったら私たちも世話をするけど、アイシャを大事になさいね」


 祖母と母に念押しされて、ユハニは少し疲れた様子で頷いた。

 鎧の上に剣帯を身につけた姿が帰ってきた時より一層凛々しく見えるとアイシャは見惚れる。


「アイシャ、慌ただしくなっちゃって悪い」

「ううん。折角の休暇なのに休まらなかったのはユハニの方でしょ?」

「目的は十分すぎるほど果たせたから、俺は大丈夫」


 見送りを断って営業時間が始まる前にユハニは家を出た。

 夫を送り出したアイシャは改めて家族に向き直り、これからよろしくお願いしますと頭を下げた。




西の森で走馬灯を見て、結婚を決意していたユハニ。(第10話の頃)

本編に描かれないところで、いろんなことが起きているのです。

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