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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
ラビ王国編
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第86話 皇子たちの酒席外交


 戴冠式を終えた後は、各国の使節団は順次帰国していく。

 大陸外の国は港まで馬車を使う為、外交の協議などを理由に数日滞在しつつ、移動の準備が出来次第、順次帰国の途につく。


「レスティオ様。本日のロデリオ殿下とラビ王国のご友人との酒席ですが、護衛にはセバンを付けて良いでしょうか」

「その心は?」

「レスティオ様の護衛に正式に選ばれないと決まっている私より、特待生候補としてセバンに学ばせた方がよいかと思いました」

「よろしい。酒席の護衛としての教育は済ませておくように。ルカリオ、念のため、ロデリオに伝えておいてくれ」


 レスティオは、戴冠式前と同様に部屋で読書を中心に過ごしていた。

 使節団の送迎に同行して、各地に兵が散っているので、魔物の発生状況の報告が挙がれば、遠征の計画が立てられる可能性はある。

 しかし、その報告が来るまでは、港町や国境との往復を考えると数日はかかる。


「レスティオ様。お屋敷から、本日の酒席の料理が届けられました」

「確認する」


 ロデリオからのリクエストで、今日の酒席にはキッシュを添えることにしていた。

 セバンとロゼアンを連絡係に利用してメノンに作ってもらったものだ。

 外から持ち込んだ料理なので、念のため毒見をすることになる。

 毒見役はレスティオの下位側仕えに就いたシャルム・マジーア。

 万が一の時に備えて、護衛騎士として側に付いているのはユハニである。


「頂戴します」


 シャルムは固い表情で毒見用に切り分けられたキッシュを見つめる。

 毒が怖いのか、未知の料理が怖いのか、はたまた、聖騎士を前にした緊張か。

 いずれにせよ、かわいそうになるほどに震えながら口元へと運ぶ。


「ぁ、あぁ、駄目です、ラハト。緊張で味がわかりません」


 泣き言を言ったシャルムにレスティオは思わず吹き出して笑ってしまった。


「申し訳ございません、レスティオ様。聖騎士様の料理を毒見とはいえ、勝手に頂戴するわけにいかないと、こちらに運んだのですが」


 お見苦しい所をお見せしました、とラハトは呆れた様子で謝罪した。

 それに、シャルムも慌てて追随する。


「いや、初々しいものだな。ユハニはキッシュを食べるのは初めてだろう。毒見の代わりと言ってはなんだが、食べてみてもらえるか?」

「畏まりました」


 ラハトが切り分けてユハニに差し出すと、ユハニは躊躇いなく口に運んでひとつ頷く。


「レシピが欲しいくらい、美味しいです」

「なにかの褒美として考えておこう。ラハト、酒席の側仕えと護衛にも食べさせて、どんな料理か認識させておいてくれ。なにが使われているかなどは、ルカリオが知っている」

「我々も食べてよろしいのですか?」

「その為に大きめに作らせてるから問題ない」


 男四人の酒席とはいえ、夕食後の時間帯に行うものなので、そこまでの量は必要ない。

 切り分けて出せば、元の量は目に見えてはわからないし、先方も王族ならば毒見には理解があるはずだ。







「これは美味い!オリヴィエールの聖騎士は実に素晴らしいなっ!」

 

 興奮気味に目を輝かせたのは、ラビ王国第二王子のアルドラ・ベルヴァーグ・ラビだった。

 隣に座るアルドラの秘書官であるカンデ・アルカラスは検分するようにキッシュをあらゆる角度から眺めつつ、長く咀嚼している。


「我が国でも、卵や芋を人間が食べる料理には使わないから、これが広まれば食糧事情は多少なりとも改善するだろう。いやぁ、時代が変われば食べ物の良し悪しも変わるものなのだな」

「えぇ。他にも実は食べられる食材が世の中にはあるのかもしれない。是非、食物学や料理学の研究者たちに伝えたいところだな」


 世界一の学術国家を名乗るだけあり、あらゆる研究に熱心な様子が会話から伝わってくる。


「プレアの手記によれば、芋と卵の他には米を食べてはいけないものと言った聖女がいたんだったかな」

「コメ?とは、どういう食材だ?」

「んー、名前だけは聞いたことがある。確か、セントレイア王国の聖女が、コメが食べたいと言い出して、麦粉を水で練ったコメモドキという料理を作ったとかなんとか」


 ロデリオとアルドラは首を傾げたが、カンデは知識を捻りだした。

 コメという名称では伝わらない様子を見て、レスティオは紙とペンを用意してもらう。

 多分名前が違うのだろうと思い、栽培方法や脱穀から精米までの流れを図解すると、今度は揃って思い当たる食材がある様子を見せた。


「それは、家畜の餌のルリですね」

「あぁ。国内でいえば、アルムの村や西部地域で栽培されていたかな。あとは、ガナルの周辺の農地でも栽培されていたな。手配しておくか?」

「んー、米を主食にしていたのは俺の世界でも他国の話なんだよな。食べたことはあるし、精米までは見学したことがあるが、調理方法は炊いて食べるくらいしか知らないぞ」


 かつて、他国の米農家を訪れた際、米の種類や時期によって炊き方に工夫が必要だと教わった。

 あの時の職人たちの自信に満ちた挑戦的な表情を思えば、知識だけでは安易に再現出来ないのだろうと思う。


「試してみるのは構わないが、食糧を無駄にしてもいけないだろう。もし、米やルリという名前に覚えのある聖女がいるなら、その人に任せるのがいいのだと思うが」

「なるほど。アルドラから陛下にお伝えして、世界会議で聖を冠する国に伝えてもらうとよいのではないか?」

「そうするとしよう。とはいえ、ルリは芋ほど持て余している訳ではないから、聖女様のご機嫌取り以上に積極的な活用は難しいかもしれないな」


 ルリは家畜の飼料用に栽培されているが、手間暇がかかる。

 一方で芋は大量に採れるので、馬の餌としても持て余している地域が多い。

 

「厄災からの復興は難航しているのか?」

「あぁ、カナリアの失踪の影響が大きくてな。聖女の支援は、聖を冠すことなく厄災を終えた国が優先される。農村地域はピーク時に癒していたから、油断もあって今は最も荒れた地域になってしまった」

「ということは、国内の食糧生産も間に合っていない状況か」

「そういうことだ。まだ蓄えがあるからなんとかなっているが、正直、オリヴィエールへの支援に約束している分の確保がかなり厳しい見込みだ」


 不意に酒席の雰囲気が和やかなものから一転険しくなる。

 気心が知れているからこそのリークか、政治的な策略があるのか、関係性を深く把握していないレスティオには図りきれない。

 グラスを傾けながら、ロデリオと周囲の雰囲気を探ることに努める。


「支援については、カナリアが不在になってから結ばれた契約だろう。見込み通りに復興が進まなかったというだけでは、外交上問題視されるだろうな」

「今頃、父上と母上の酒席でも落としどころを探っていると思われる。王族の誰かを嫁がせるくらいの話は出ているんじゃないかな」

「それが、ドレアが今回来なかったことと関係しているとでも言うつもりか?」

「それは単純にベルヴァーグの中に自分が加わるのは気が引けるからだと聞いている」


 ベルヴァーグとは、第一王妃アデリナ・ベルヴァーグ・ラビの旧姓。

 ラビ王国におけるミドルネームは母親の旧姓が主流であり、重婚が認められているラビ王国では、兄弟はミドルネームやファミリーネームで区別される。

 親が重婚していない者は、カンデのようにミドルネームを名乗らないこともある。

 レスティオはラビ王国の名前事情に頷きながら納得する。


「手紙のひとつ持ち帰ってやろうか」

「妙な気を遣うな」


 やり取りを眺めていると、カンデがレスティオにそっと近づいた。


「ドレアの方から返事が来なくなって、連絡が途絶えたそうですよ」

「あぁ、ロデリオが振られたのか」

「それはまだなんともわかりませんがね」


 まるで、手紙の返事を返さないドレアにも、ロデリオを想う気持ちがあるかのような口ぶり。

 追及の言葉を避けるように酒のおかわりを頼んだカンデにレスティオは引き下がる。


「ラビ王国では厄災の研究も進めているのか?」

「それは勿論。厄災の発生時期や期間などはラビ王国が情報を管理していますから、なにか知りたいことがあるのでしたらお答えしますよ」

「厄災が過ぎた後、荒れた土地が回復するまでに要する対策や期間に関する情報は?」


 カンデは表情を硬くして、横目でアルドラを見た。

 アルドラが一瞬顔をしかめた様子から、カンデに足でも蹴られたのだろうと察する。

 王族相手に仲が良いんだなと思いつつ、回答を待つ。


「肥料の散布や聖を冠する国に土を分けてもらって、農地に出来る対策は進めています。ですが、周囲の土地が荒れたままでは、効果が半減するのが悩ましいところです。食糧生産にかけられる予算は有限ですから、ひとまずは王都近隣の農地を優先的に対応していますが、そこだけでも識者の見解では後二、三年はかかる想定です」


 農地にかけるより、食糧輸入に頼ろうとする者も少なくない。

 しかし、厄災後、それも聖を冠していた国ということもあり、他国の商人たちに足元を見られている。


「国土全域、それも、オリヴィエールへ支援するだけの生産量を取り戻す頃には、エディンバラ大陸の厄災は終息に向かっているか、最悪終わった頃合いかもしれません」

「つまり、結局のところ、ラビ王国は聖オリヴィエール帝国に厄災中の支援は出来ないということなんだな」

「その可能性が高い、ですね。召喚の儀式の為に生贄を送りましたが、それだけでは受けた支援に見合っていませんし、そもそも、生贄と食糧は別問題。引き続き、オリヴィエールに生贄を売るより、聖女を欲している国に売った方がラビ王国としては利益になるので、違う落としどころが欲しいところです」


 すらすらと語るカンデの横で皇子たちも表情に神妙さを戻した。


「率直に聞くが、そんな国の裏事情ともいえることを明け透けに話してしまっていいのか?」

「明日、ラビ王国と外交に関する協議の場を設けることになっているんだ。どうせ、その場で語られることだし、先に話しておくから、なにかしらの策をこちらとしても練っておけということだ」


 協議の場で、支援が出来ないことを告白して非難を浴びるより、事前に酒席の場で相談して穏便に会議を進める。

 そんな駆け引きが行われるからこそ、大陸会議や戴冠式の前後で皇族や宰相、文官たちは酒席や会議で忙しくなる。

 

「お前には、こういう話ではなく、聖女の話や厄災の話を聞かせようと思っていたんだがな」

「あぁ、それはすまない。だが、言うならば先の方がいいだろう?この後の時間は、聖騎士様もいるのだから歓談を楽しもう」


「カンデ、今の食糧や物資の支援に関する取り決め事項は把握しているか?」


 アルドラが外交がらみの話は終わりにしようとするのを無視して、レスティオはカンデに向き直った。


「取り決めというと、ラビ王国が聖オリヴィエール帝国から受けた支援と同等の支援をするという程度でしょうか」

「実際に受けた支援内容をもとに、想定される支援内容と物量は取り決めていないと?」

「厄災からの復興状況に応じて支援できる量はわからないので、先には取り決めないものですから」

「それは良くないな。ラビ王国の国内生産量や消費量、生産量の回復状況に基づき何割の支援を行うか、支援の最低保証や上限などは可能な限り取り決めるべきだろう。復興状況に応じて、支援を返せない可能性があるならば、それを前提事項として加えないから問題になる」


 レスティオは先ほど受け取った紙の裏に思いつく限りの協議事項を書き出していく。

 ほとんど信用だけで取引できる世界だというなら、詳細に取り決める必要はないのだろうが、事が起きた時に関係が歪むような曖昧さは危険だ。


「ちなみに、ラビ王国と聖オリヴィエール帝国間の移動手段と必要日数はどれくらいだ?」

「移動手段は船になります。ガナル港までの日数は王族を同行させる場合は、安全性を考慮して五日前後。交易の為であれば、高速船で三日になります」

「往復で六日程度、余裕を見ても十日には収まるのか。では、例えば、馬車でラビ王国内の主要な農地を巡ろうとしたときに掛かる日数は推定できるか?難しければ、王都周辺の主要農地を五ヶ所巡るとした場合と十ヶ所巡るとした場合、それぞれにかかる日数を知りたい」

「少々お待ちください」


 カンデは手帳を取り出して書き込みながら試算を始めた。

 そこで、ロデリオの手がレスティオの肩に置かれる。


「お前、今なにをしようと考えている?」

「ラビ王国に遠征して、主要な農地を癒すことで生産量を回復させる。遠征費用はラビ王国持ちとして、さらに、復興後の支援量は当初想定より多くするように交渉する。そうすれば、厄災を迎えてオリヴィエールの地が荒れていく一方となっても、俺が各地を巡って癒しつつ、ラビ王国からの支援物資を供給することで飢饉に陥るリスクを低減できるだろう」


 カンデの手が止まり、アルドラは驚いた顔でレスティオを見た後、ロデリオに向き直る。


「聖騎士の派遣は、今ならまだ可能なのか?」

「いや、それはこの場では返答しかねる」

「勿論、ユリウスがどのように考えるか次第だ。だが、ラビ王国が厄災を終えているからこそ、聖の癒しがあれば生産量を確実に維持向上出来るというのであれば、確実かつ安定した物資の供給路確保に利用するのはひとつの手だと思う。ラビ王国の厄災中のみならず、厄災後の復興にも聖騎士を派遣して手を貸すとなれば、売れる恩は相当だろう?」


 レスティオが悪びれず言えば、ロデリオは控えていた秘書官にすぐに出ていくように手で指示を送る。

 おそらく、ユリウスの元にでも送られたのだろうと察しつつ、カンデの試算を覗き込む。

 あらゆる移動経路で日数計算をしている様子を見て、レスティオは見て取れる位置関係から経路算定の方法をアドバイスする。

 次第にロデリオとアルドラも身を乗り出して、実際に遠征するとすれば、という議論を酒も忘れて弾ませた。






 一方、秘書官を通じてレスティオの案を耳打ちされたユリウスは、頭を抱えながら、明日朝一に関係各所の重役たちを招集するように指示した。

 




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