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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第82話 特別待遇制度試行開始


 ジェオに作ってもらった服を着て、レスティオはなるべく人目につかないように騎士団本部へと移動した。

 ロゼアンたちを探して食堂を覗き込むと、朝食中の兵たちで席のほとんどが埋まり、賑やかだった。


「おはよう。リシェリ」


 クォートとフランが朝食を食べている姿が見えたので、レスティオはカウンターへと向かった。

 給仕をしていたリシェリは、振り返るなり顔をしかめた。


「今日は、魔術師のような格好をされていますね」

「パーカーは魔術師っぽいのか。服のデザインとして普及するかどうか悩ましいな」


 レスティオは被っていたパーカーのフードを外して、髪を手櫛で整えた。

 顔を隠せるのでいいと思ったが、要らぬ誤解は招きたくない。


「ぁ、そういえば、昨日頂いた料理とっても美味しかったですっ!是非、レシピを教えて欲しいです」

「レシピを教えて簡単に作れるようなものじゃないから。下手をすれば、厨房が火事になって大変なことになるよ」


「そんな危険な料理だったんですかっ!?」


 驚きの声は後ろから聞こえてきた。

 震えるナルークに朝の挨拶をすれば、我に返って挨拶を返す。


「昨日は貴重な料理を頂き有難うございました。美味しく頂戴しました。が、揚げ物という未知の料理への探求心が冷めやらないのですが、どうしたらよいでしょう」

「そうだな……ぁ、蒸すならそんなに危なくないかな」


「「「蒸すっ!?」」」


 厨房の奥にいたはずのケンリーの声まで聞こえてきた。

 想像以上の食いつきに驚きつつ、毎度お馴染みの魔力結晶細工で蒸すというのがどういうことか説明する。

 今ある調理器具では、一度に作れる量が限られるので、戴冠式に向けて人が集まっている状況で導入するのは向かない。

 だが、練習を兼ねて賄いとしてケンリーやリシェリの分だけ作るならば、鍋ひとつあれば十分。

 そこにナルークも参加したいと言い、夜勤の時以外は朝食の仕込みの時間帯に厨房に入ると宣言した。


「レスティオ様。話が終わったのでしたら、我々の支度も整ったので向かいましょうか」


 不意に割って入ってきたのはフランだった。

 ロゼアンたちも丁度食事を終えて食器をカウンターに戻したところだった。


「そうだな。人通りが多くなる前に移動してしまいたいから急ごう」


 早足で騎士団本部を出ると、レスティオの屋敷へと向かった。

 朝の鐘が近いこともあって、住宅街には人通りがちらほらと見える。


「あら、おかえりなさい、レティ」

 

 花壇に水遣りをしていたメノンが柵越しに声を掛けて来る。


「ただいま。客人を連れてきたからお茶を用意してもらえるか?」

「えぇ。お菓子はクッキーでいいかしら」

「そうだな。食事を済ませたばかりだから、お茶菓子は軽く用意してもらえればいいよ」


 気さくにやり取りしている間に水遣りを終えて、共に屋敷の中へと入る。


「なるほど、外ではレティと呼んだ方がいいんですね」

「そうしてくれると助かる。まぁ、戴冠式を終えたら意味がないかもしれないけどな」


 ダイニングに入り、席を勧める。


「ここはレスティオ様の屋敷なんですよね。随分手狭に見えますけれど」


 セバン曰く、副団長の屋敷の四分の一程度。

 ロゼアン曰く、ダイナ家の屋敷の三分の一程度。

 手狭というのは二人が名家の屋敷に住んでいたが故で、クォートやフランの家と比べれば数倍の広さはある。

 

「同じ隊長でも随分違いが出るものなんだな」

「皇族の側近を担うような家系とは比べないでください」


 そこで違いが出るのかと納得したところでお茶が運ばれてくる。

 メノンが下がるのを待って、レスティオは早速本題に入った。


「急遽呼んだのは、察しているだろうが特別待遇制度の話をするためだ」


 揃って理解している表情で頷いた。

 レスティオは、改めて特別待遇制度の説明から始めた。

 特別待遇制度は、認定者が制度適用対象者である特待生の後見人となり、生贄を免除すると共に認定事由に挙げた活動の支援を行うもの。

 認定基準や条件は今後詳細を決定していくことになるが、聖騎士認定特別待遇制度については、議論に先行して試行を開始する。


「よって、ロゼアンとセバンは、現時点で聖騎士認定特別待遇制度試行にあたっての特待生であり、正式には特待生候補という位置づけになる」

「特待生候補、ということは、特待生の確約ではないわけですか」


 フランが些か悩ましそうな表情を見せたが、試行期間中は生贄の免除はされると加える。

 詳細が決まり次第、正式に特待生の申請を受け付けて、選定することになる。

 試行期間の終了は詳細が決まり次第の為、未定。

 ロゼアンとセバンの試行期間中の働きによって、議論が早く済むことも、長引くことも考えられる。

 レスティオとしては、当人の努力次第だが、セバンが推薦に値する実績を作るまでは試行期間を引き延ばしたいと考えている。


「先延ばしにした結果、ロゼアンの実績が薄れて評価されなくなる、ということがないとも言えないけれどな」

「つまり、成果を出し続ける必要がある、ということですね」


 それは、特待生になってからも付き纏うこと。

 一度認定されたら生涯保証されるものではなく、一定の期間で特待生を継続するか否か判断のタイミングを設けることはほぼ確定している。

 

「この特別待遇制度の対象者は、生贄にするより国益を生むことが出来る人材と明言している。つまり、単純に魔物の根源を討伐した、では、国益としては弱く成果として認められない。特待生である限り、国の発展に大いに貢献するような活躍を義務付けられることになる」


 成果が認められなくなった時点で、タイミングによっては即時生贄行き。

 そうでなくとも、特別待遇を受けていることで周囲の目が厳しくなることもあるかもしれない。

 特待生になることで与えられるプレッシャーは相当なものになると想像出来る。


「国の重役でも、生贄の条件を満たせば生贄となった。生贄の免除というのは、俺が想像していたよりもずっと重たく、制度の制定にあたっては、どこまで負荷を強いられることになるか未知数だ。場合によっては、特待生になることで、生贄よりも過酷な環境に身を置くことになるかもしれない」


 ロゼアンとセバンの表情が強張る。

 それでも、瞳には強い意志を感じる。

 

「今時点では、条件が課されるのは特待生だけだ。だが、推薦者についても推薦責任があるのではないか、という指摘もある」


 視線をクォートとフランに向ければ、力強く頷き返された。

 二人は既に覚悟を決めていた。


「お前たちが覚悟を持って特別待遇制度に賭けるというなら、俺も出来うる限りの支援をする」


 ヴィムを呼ぶと、書類と筆記具を手にレスティオの傍に控えた。


「ロゼアン」

「私の覚悟は既に決まっています。剣魔術を磨き、レスティオ様と共に厄災を戦い抜く。剣魔術の研究と厄災における魔物討伐の功績を国益に繋げたいと思います」

「推薦者の意見は?」

「堂々と果たせぬことを宣言するような腑抜けを育てた覚えはありません。ロゼアンの覚悟を隊長として支持し、後援していく所存です」

「ロゼアンならば、剣術の才もあり、魔術の才もある。特待生であることこそ、より一層の成長に繋がることでしょう。私も覚悟を持って、推薦します」


 意志を確認したうえで、ヴィムがロゼアンの前に書類と筆記具を置いた。

 聖騎士認定特別待遇制度の試行にあたっての同意書である。

 特待生、推薦者、認定者の署名をもって、特待生候補として公的に認めることになる。

 同時に、口頭だけの宣言では許されなくなるということだ。

 順に署名し、レスティオの前に書類が置かれる。


「次にセバン。覚悟のほどは?」

「元より生贄になるつもりでした。特待生として、レスティオ様のもとで生きられる可能性があるならば、それに賭けます。どのような功績が挙げられるかはわかりませんが、レスティオ様には俺を有効活用する目論みのひとつふたつあるのでしょう。でなければ、厳しい条件が伴うとわかっていて、俺を特待生候補として残しませんよね?」


 緊迫した雰囲気が出来ているにも関わらず、セバンは口元に笑みを浮かべた。


「そうか。では、先に要求しようとしていることを話した方がいいな」

「お願いします」

「ロゼアンには、自身で宣言した通り、剣魔術の研究と推進による国力の増強と発展。そして、厄災の最前線での活躍を期待する」


 先にロゼアンに言えば、皆納得の表情を見せた。

 簡単に言ったが、先ほども話した通り、騎士団所属として当然の働きと言われかねない、特待生としての評価を受けられるかどうか難しい事由となる。

 レスティオはどこまで理解されているか不安になりつつも、セバンに顔を向けた。

 

「セバンには、帝都で発展し続ける技術や知識を持って、各地に教官として赴き、国力の増強と発展に尽力してもらう」

「教官……?」

「剣術や魔術をはじめとする武術、剣魔術。そして、戦術。魔物学や薬学、料理、思想に至るまで。帝都では広まり出したことだが、東部や西部には一切情報が回っていない。情報を的確に伝えられる人材も環境も整っていない状況をお前に変えてもらう」


 ロゼアンに技術の深掘りをさせて、セバンに横展開させる。

 発想と根気が重要になる深掘りも大変だが、あらゆる分野を網羅して伝えていく横展開も相当大変だ。

 無謀に思える目標感にも、果敢に取り組んでくれると期待しての設定だ。


「手始めに、時期は調整するが東部に派遣するつもりだ。というわけで、今後周囲に気を配り、新たな取り組みを見つけたならば、いずれにも積極的に参加して知見を得ていくことが必要になる。同時に、教官を確実に務める為には、部隊や騎士団全体の後進育成にも関わるべきだろうな」

「あの、俺、副団長の世話役やってたので、騎士団内でいろんな奴に警戒されているんですが」

「だからどうした。東部や西部には一人で出向いてもらうんだぞ。そこで、全員がお前の講義を素直に聞いてくれると思うか?失敗すればお前は生贄行き、と思って適当に聞き流す者ばかりだったらどうする」


 特待生候補を名乗って言い聞かせることは、諸刃の剣になりかねない。


「セバン。お前にやりきる覚悟が無いならば、この役目を担える者を特別待遇制度関係なしで他に探す。どうする?」


 正直、普通の人間に無茶を言い過ぎていることは、レスティオも理解している。

 中途半端な覚悟では、取り組み始めることも出来ないだろう。

 

「セバンならば、やり切れると私は信じます」


 はっきりと言葉を発したのはフランだった。


「彼は、魔物学や剣魔術を瞬く間に吸収し、我々の知らないところで知見を得るべく努力しています。また、最近は後輩への指導も熱心に行っています。副団長の手前、軽薄に装っていただけで、根は真面目なんです。レスティオ様に認められた特待生という肩書が得られたならば、それに応えるべく尽くすと確信しています」


 クォートはその隣で腕を組み思案する。

 フランは小隊長としてセバンを高く評価しているが、その評価は部隊の共通認識ではない。


「正直、セバンがどこまでやれるのか、この試行期間を見て見なければわからないと私は考えています。しかし、これまでフランドール隊の新兵教育を担い、他の小隊へ輩出してきたジェリーニ小隊の中で、フランが手放そうとしない者の一人であることは事実。フランの評価を尊重し、後援することはやぶさかではありません」


 二人の言葉を受けて、セバンは表情を引き締め直した。


「有難う御座います。期待に応えられるように、覚悟を持って尽くしていきたいと思います。レスティオ様、よろしくお願いします」


 セバンの前に書類と筆記具が置かれ、署名が順に行われる。

 最後に、レスティオがそれぞれに署名した。


「この同意書をもって、今より、ロゼアン・ダイナとセバン・ビーニッシュを、聖騎士認定特別待遇制度特待生候補として認める」


 特待生候補になったことについて、レスティオから二人に説明しなければならないことがいくつかある。

 

 ひとつは、活動の支援について。

 魔術学院での学習に掛かる必要は、現在剣魔術の研究のこともあり、モルーナが援助している。

 剣魔術に使う剣は騎士団で賄っており、実は、聖騎士の予算は使われていない。

 今後は聖騎士予算からの援助に加え、特待生の活動分は、備品や教本など全て必要経費としてレスティオが担う。

  

 つぎに、特待生候補としての活動報告について。

 手記による日々の活動記録。週次の活動計画と報告の提出。月次の定期報告会の実施。

 試行期間故に、活動状況を詳細に把握し、国益に繋がる道筋を出来る限りフォローする為に、これらを義務付ける。

 過度な報告義務は、活動の妨げになりかねないので、実施内容は適宜見直しながら、最適な形を探っていくつもりだ。

 

 そして、今後の待遇について。

 特待生としての活動の他に、これまで通り騎士団の任務に励んでもらう。


「特待生だからと配慮は不要。騎士団として部隊としての活動に、これまで通り注力させた上で、任務以外の時間のすべてを特待生として過ごしてもらう」

「両立は大変そうですね」

「それでも成し遂げるからこそ、特待生としての価値を周囲が認めるというものだろう。任務まで優遇しては不平不満を持つ者も出てきかねない。なにより、特待生は聖騎士の寵愛を受けているだけなんて言われるようになってみろ。特別待遇制度の社会的信頼は無くなり、全面的に白紙が妥当という判断になるかもしれない」


 セバンに目をやれば、表情を厳しくした。

 副団長の寵愛を受けて今日まで生きてきたセバンこそ、聖騎士に乗り換えたと噂が立ちかねない。


「お前たちがいかにストイックに、特待生として認められる為に、覚悟を決めて取り組めるか。周囲が、そんな制度があるなら自分もと、安易に挙手するような生ぬるい制度ではないと、知らしめることも必要だろう。焦りと無茶は禁物だが、まず一ヶ月はその覚悟を周囲に示すことだ」


 ロゼアンとセバンが揃って返事をする。


「その他の待遇についてだが、迎年祭などの式典においては、お前たちを特待生として参列させることが想定される。よって、特待生用の正装はこちらで用意する」


 採寸は時期を見て、正装が必要なタイミングか、あるいは、正式に特待生となった時に行う。

 ジャケットのどこにレドランドの紋章を刻むかはデザインを含めて仕立て屋と相談するつもりだ。


「お前たちは本来の家名ではなく、聖騎士認定特別待遇制度の特待生としての振る舞いを身に着けてもらわなければならない。そこで、マナーやパーティのダンスについては、ヴィムとメノンに指導を任せるつもりだ。特待生としての活動の他にも学ばなければならないことは多いと理解しておけ」

「それは、こちらの屋敷に通って指導を受けるということですか?」

「いや、今日からこの屋敷は特待生寮とすることになっている。二階に一部屋ずつ与えるから、準備が出来次第、騎士団の宿舎から移るように」


 ロゼアンとセバンは驚いて、クォートを見た。

 屋敷に特待生を住ませることは、クォートとフランには事前に伝えている。

 基本的には城下町に家庭を持つ者と同じように、任務や夜勤の時には宿舎に泊まり、それ以外の休暇や夜には屋敷に帰る生活になる。

 遠征、夜勤については、必ず屋敷の使用人に事前に伝え、食事の要否も連絡を怠らないこと。

 二人が屋敷にいる日を調整して、マナーやダンスの講習を実施することになる。

 また、屋敷の書斎やトレーニングルームは自由に使って構わないし、必要な書籍や備品は随時屋敷の方で準備する。

 洗濯、掃除は基本的に使用人が担うので任せて構わないが、配慮が必要なことがあれば、都度伝えること。

 屋敷内での特待生として目に余る言動が見受けられた場合は、使用人から注意することもある。それで改善が見られないようであれば、レスティオから注意するか、あるいは、特待生から除籍する場合もある。


「ひとまず伝えるのはこれくらいかな。質問はあるか?」

「いえ……破格の待遇だと思います」

「必要な備品の申請はどのように行えばいいですか。必要な教本と言うと、タイトルまで指定することになるでしょうか」

 

 ロゼアンが委縮する中、セバンが挙手した。

 

「備品の申請は、屋敷の使用人に頼んでくれればいい。剣魔術研究用の剣はザンクで調達したもので暫くは賄えるだろうが、足りなくなる前に言って貰えれば、調達の手筈を整える。教本については、本屋で立て替えて購入してきてもいいし、どのような本が欲しいのか相談してもらえれば、識者に確認の上で手配しよう」

「有難うございます。それと、レスティオ様の後見を得られるなら、魔術師団の図書室の利用も認めて貰えたりするんでしょうか」

「モルーナに相談しておこう。特待生の周知前、それも騎士団の人間が魔術師団の本部に入ることはいい顔はされないだろうからな。魔術学院の図書室で用が足りるなら、そちらを使った方がいいかもしれない」


 セバンが魔術を磨くことは急務とも言える。

 魔術師団にある資料は、騎士団と違い価値があるものが多いので、レスティオとしても特待生や魔術学院に通う者には解放してもらいたい。


「他には?」

「特待生の活動の中で、屋敷に人を集めて打合せや勉強会をするようなことは可能ですか?」

「どのようなことを、何人程度招いて行うつもりなのかによる。必要な場合は、事前に俺に相談してくれるか?」


 学ぶ分野が多岐にわたる分、剣魔術の研究チームで集まって情報共有をしたり、後進の育成の練習として勉強会を開くことも考えられる。

 今さっき伝えたことの中から、セバンは真剣な表情で質問を考えている。

 その姿には真面目さがにじみ出ていて、レスティオはこぼれそうになる笑いをこらえる。

 

「それと、特待生に相応しい振る舞いとのことですが、それは身なりも含まれますか?普段は軍の指定服が多いので、あまり城下町に出歩く服を持ち合わせていないんですが」


 軽く唸って、レスティオはヴィムを振り返った。

 この世界の判断基準は、まだレスティオには語れない部分が多い。


「どう思う?」

「レスティオ様が認められた特待生ですから、メルヴィユでいくらか揃えさせたら良いのではありませんか」

「あぁ、ジェオに予算の中で衣類を見立ててもらうのはいいな。時間の都合がつくなら、この後にでも行くか?ロゼアンはどうする?」

「あまり実家から荷物を持ち出せなかったので、助かります」


 建前のつもりだったが、身寄りが無くなれば衣食住についても手当はあった方がいいなとレスティオは頷く。


「後、セバンは少し髪を整えたほうがいいかもしれませんね。些か誠実さに欠けて見えます」


 セバンは騎士団の他の兵と比べると、前髪も襟足も長い。

 レスティオの世界では、隊長からして結えるほどに髪を伸ばしていたので、まったく気にしていなかった。

 しかし、魔力を貯める為に髪を伸ばす者もいるのだから、長さの問題ではないのだろうとレスティオは判断基準が分からず首を傾げる。

 

「どう整えるべきなのかわからないが、この世界では、髪を整える時は専門の職人に頼むのか?そういうお店があるんだろうか」


 この世界に来てから髪を伸ばすようにしているレスティオは、まだ髪を切ってもらったことがない。

 レスティオの疑問に、ヴィムは首を傾げた。


「城では中位以上の側仕えの仕事です。なので、必要とあれば、私やメノンが対応致します。城下ではどうなのでしょうね」

「家族に任せるか、騎士団では庶務に器用な者がいるので頼んでいる者もいますね」


 髪を切ることで商売をする人間はいないという。

 レスティオはその事実に驚きつつも納得して、セバンの身なりについてはヴィムに一任する。

 さらに、ヴィムに衣類代の準備と買い出しの付き添いを頼み、引き続き質問を受け付ける。


「この屋敷は特待生寮にするとのことですが、レスティオ様は、この屋敷には住まわれないんですか?」

「俺の部屋は二階の奥だよ。特待生寮という建前でカモフラージュするつもりなんだ。というわけで、俺が屋敷に帰りたい時には、視察の名目でどちらかに護衛を頼むから、よろしく」

「むしろ、レスティオ様の屋敷にお前たちを住まわせる理由は特別待遇というより、そちらの理由が大きいそうだ」


 クォートが言えば、ロゼアンとセバンは少しだけ肩の力を抜いた。

 続く質問はなかったので、ヴィムが準備を整えている間に屋敷の中を案内する。

 揃って注目したのはトレーニングルームだった。

 簡易だが、新しくランニングマシンやベンチプレスが導入されている。強度はレスティオの魔力結晶で補強済みである。


「体づくりは基本だからな。防音の魔法陣も備えているから、夜中に使う場合は魔力を注ぐように」

「使い方がわからないものばかりなんですが、教えていただけるんですか?」

「勿論。あぁ、それこそ、セバンが訓練の中で筋力作りが必要だと思う者がいたなら、面倒を見られる範囲で騎士団の奴を連れて来てもいいよ」


 レスティオの言葉に目を光らせたのは、クォートとフランだった。

 セバンに積極的に訓練に参加するように言うが、まずはどのようなトレーニングが必要か見極める目を育てなければならない。

 そこには、レスティオのほか、隊長たちの全面的なバックアップが約束された。


 二階に移動すると、レスティオは自分の部屋を教えた上で、他の部屋の中から部屋を選ばせる。


「レスティオ様の部屋の側なんて、恐れ多いですね」

「ロゼアンがそういうなら、俺はレスティオ様の部屋の向かいにします」

「では、その隣で」


 ロゼアンが選択を躊躇っている間にセバンが部屋を決めた。

 ルームプレートに名前を書かせて、部屋を確定する。


「じゃあ、俺はクォートと今後のことを少し詰めておくから、ヴィムとフランと一緒にメルヴィユで服を選んでくるように。昼食を用意させているから、昼の鐘には戻ること」


 いったん解散を言い渡し、レスティオは無事試行期間を始められたことに安堵した。


 





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