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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第79話 戴冠式前の聖騎士案件消化


 レスティオはルカリオが用意してくれていた文学書を読みながら、仕立て屋が来るまでの時間を潰していた。


「レスティオ様。仕立て屋が到着したそうですので、区切りの良いところで参りましょう」

「あぁ、すぐに向かうよ」

「今は章の途中ですが、よろしいのですか?あまり面白くなかったでしょうか」

「いや。多忙なリアージュを待たせるわけにはいかないだろう。内容は面白いよ」


 用意してくれた本は、ルカリオが好んで読んでいる作家のデビュー作だった。

 魔術学院を舞台にした青春物。この世界の学校の雰囲気が多少なりとも垣間見えるところに着目し、興味深く読み進めていた。

 なにより、久しぶりに娯楽としての本に触れて、レスティオは懐かしい気分に浸れた。


「面白いから、すぐに読み終えてしまいそうなんだが、何冊くらいあるんだ?」

「三冊借りているので、後二冊です。追加で持ってきていただけるように頼んでおきます」


 部屋を出ると、ルカリオは側仕えとして佇まいを正す。

 聖騎士の側仕えとしてあるべき姿と、レスティオが好む側仕えの姿を使い分けている。

 心なしか、以前よりも大人びて見える顔つきに成長を感じて微笑ましく思う。






 戴冠式の衣装の見直しには、リアージュとロデリオが同席した。

 仕立て屋の代表が座るソファの後ろには職人たちが立ち並び、緊張した表情で構えている。

 端にレスティオが大陸会議で纏っていた衣装が飾られ、どこに手直しが必要か図案がテーブルに並べられる。


「さて、どこが気に入らない?」

「直球だな」


 ロデリオに問われて、レスティオは全体的にドレスに近いラインであることを挙げた。

 マーメイドラインのボトムスは男性皇族と同じストレートで用意してもらい、シャツワンピース状になっていたものは丈を股下ほどに変更して、合わせてインナーも調整する。

 華やかさが薄れる分、シャツの襟と裾にレースと刺繍をあしらうことを許容し、腰に巻く布で装飾することにする。

 それでも足りないようであれば、宝飾品を加えてもいい。


「戴冠式までに間に合うか?」

「間に合わせますとも。今度こそ、レスティオ様に気に入って頂けるよう、ノジャーロア商会の総力を挙げて対応致します」


 仕立て屋の職人たちは揃って意気込んだ様子を見せた。

 大陸会議前は先遣隊と共に先に出発したこともあり、試着が間に合わなかったが、今回は戴冠式の数日前に試着出来る様にスケジュールが組まれた。

 折角の機会なので、戴冠式の後で構わないと前置きをしたうえで、ジャケットの背のプリーツもドレス風に見えるので刺繍程度に留めた衣装を依頼しておく。


「ノジャーロア商会では、こういった正装をオーダーメイドで受けているのか?既製品もあるのかな」

「どちらも取り扱いはございますが、皇族の皆様や聖騎士様にはオーダーメイドでご用意させて頂いております」

「そうか。既製品で構わないから、護衛騎士用にジャケットを一着頼めるかな」

「護衛騎士のジャケットですか。それは勿論でございますが」


 仕立て屋の視線は、リアージュとロデリオの方へと向かう。

 ロデリオに睨まれて、レスティオは笑顔を返す。


「選定の話は聞いたか?」

「あぁ、聞いてる。つまりはまだ先の話だろう?」

「臨時とはいえ、護衛騎士を任せるんだから、衣装の用意があってもいいだろう。騎士団でいくつかジャケットを用意しているようだが、筆頭には別に用意したい。駄目かな」

「駄目とは言わないが、先に相談しろ」


 呆れながらも、レスティオの意見を聞かずに、聖騎士の筆頭護衛騎士なのだからと、仕立て屋に要求を並べる。

 リアージュは一瞬戸惑いを見せたが、途中から微笑ましそうに表情を和らげた。


「レスティオ。お前の方からはなにかあるか?」

「既製品を加工して対応できるなら、なるべく早く納品して欲しい。それと、赤と金の糸を用意してもらえるかな」

「なにをするつもりだ」

「俺の紋章を胸に刺繍しようかと思ってな」


 懐から懐中時計を取り出して、蓋に刻まれた紋章を見せつける。

 シルバーの蓋なので色合いはないが、本来のレドランド家の家紋は鮮やかな赤と金で描かれているのだ。


「それでしたら、図案を頂ければ我々が、」

「次に頼むときは任せるよ。あぁ、その時の為に、ハンカチも一枚一緒に貰えるかな。刺繍を頼む時の為に見本を用意するから」

「お前はそんなことも出来るのか」

「軍人の嗜みのひとつだよ」


 ロデリオの後ろで、エドウェルとベイルートが微妙な表情で視線を交わす様子が見えた。

 筆頭護衛騎士用のジャケットとハンカチと刺繍糸は数日中に納品すると契約書を交わして解散した。

 ロデリオは、この後、使節団を招いたパーティに参加することになっている。

 よって、レスティオは使いが来るまでは部屋で待機することになる。ルカリオが本を用意してくれていて良かったと思いながら寛いで時間を過ごした。




 


 スコーンの食べ方を教えて、クリームチーズやジャムを乗せて楽しむ。

 ロデリオは挨拶回りで然程食事を取れていなかったこともあり、スコーンの味を次々と変えながら、頬張っていた。


「これは美味い」

「口に合って何よりだよ」


 レスティオもスコーンを割りながら口に運ぶ。

 元々日持ちする物だが、保存用の魔術のおかげで一切の劣化を感じない。

 

「あぁ、そうだ。特待生候補の件だが、生贄リストに名前が載らないように周知を終えたと宰相から報告があった」

「仕事が早いな。マルクこそ疲れているだろうに」

「妹たちの件で随分機嫌を損ねてしまったからな。機嫌を取れるなら何でもするさ。戴冠式の護衛部隊の選定も総帥の方で進めていて、すぐにでも辞令を出せる状態だ。だが、お前の筆頭護衛騎士のジャケットが準備できるまで先延ばしにした。その間に休暇を与えるように指示も出している」


 細かいことかもしれないが、レスティオが気にかけていたことには順次対応してくれている。

 機嫌取り、と言われるのは、不満に感じなくもないが、ここは動いてくれたことに感謝して呑み込む。


「側近の方は各所で調整中だから、近日中には候補者の名前が挙げられるだろう」

「了解した。そういえば、ルーフはどうだ?下位に降格させたと聞いたが」

「一から上位を目指すと張り切っていると報告は聞いている。お前を恨んでなんかいないから、俺の側仕えのことは気にするな」

 

 アズルが力強く頷く様子を視界の端に捕らえて、レスティオは安堵した。


「色々話したいことはあるんだが、先にもういくつか伝えておく。ハイリが不治の病を理由にコルレアン王国に戻ったことは既に知れている。お前が同行していたにも関わらず、治せなかった不治の病とはなにか。憶測が飛び交っている」


 ハイリを支持していた一派が捕らえられていることは知る人ぞ知る情報だ。

 大陸会議派遣団と共に連行されながら、贄籠に入れられることなく帰還したことも知っている者は知っている。

 故に、道中なにがあったのか不信に思う者は少なくない。


「大陸会議で認められたお前を狙う者は、今後少なくなるだろうが、お前が目を掛けている者に標的が変わらないとも限らない」

「クラディナはその筆頭になりそうか?」

「まだわからん」


 探るように見つめ合い、同じタイミングでため息をついた。


「他には?」

「今日、パーティの前に行われた報告会で、お前が国の為に政治や教育にも精力的に取り組もうとしていると各所の要人に通達された。かつて、オリヴィエール帝国の教育制度を確立させた聖女プレアと同郷ということも一緒にな」

「それで?」

「今後は新制度や改革案を打ち出して活躍する姿を見せていく必要があると覚悟しておけ」


 レスティオに覚悟を求める以上、自分たちの覚悟が必要な状況に疲れているように見える。

 実際に現場を動かす権限がないだけに、今後はもう少し動き方を考えなければなと頭の片隅に検討事項として記憶しておく。

 

「動きやすい環境が整ったと思っておく」

「動きやすいかどうかは、どうだろうな」


 含みのある言い方をするロデリオに、レスティオは警戒する。


「どういう意味だ?」

「ハイリの一件もそうだが、聖女プレアと同郷と知って、ドーベル家がお前に面会依頼を出したそうだ」


 ルカリオを振り返ると、首を振って視線に応えた。


「まだ俺の秘書官の元に届いただけで、ルカリオに回していない」

「、お前の秘書官?」

「聖騎士案件は、皇族を通すことになっている。ドーベル家の手の平返しをお前がどう思うかわからないから一旦止めた」


 そこまで言うと、ロデリオはスコーンに手を伸ばした。

 クリームチーズを乗せたので、そこに蜜をかけることを勧めるとアズルにすぐに用意させる。


「ドーベル家かぁ……聖女の資料はザンクで手記の写しを貰ったから十分なんだよな」

「そういえば、叔母上がそんなことを言っていたな」

「この世界の文字で書かれている内容と比較してみると言うのも面白いのかもしれないが、却って冷めた気分になりそうだ」


 スコーンを口に入れたロデリオは、咀嚼しながら首を傾げる。

 飲み込むのを待つ間にレスティオは酒のおかわりを頼んだ。


「手記にはどんなことが書かれていたんだ?」

「恨み事五割。呆れ三割。日常二割。ってところかな」

「お前の手記は?」

「学びと日常の記録が主だよ。手記でストレスを発散する趣味はない」


 そういうものだよな。と、ロデリオは納得するように頷いた。


「ロデリオも書いているのか?」

「聖女と接するような者は大概書いているぞ。手記は聖女が持ち込んだ風習だからな」


 昔は面倒に思っていたが、今となっては書かずに眠るのはすっきりしない気分になる。

 いつの間にか習慣として沁みついてしまったというロデリオの部屋の棚には手記が並んでいる。


「ということは、ハイリも?」

「あぁ。その筈だが、クラディナの件で焼けてしまった」

「そうか。なにか情報があったかもしれないのに」


 聖騎士暗殺の件や聖女主義者との企みなど正直に書かれていたならば重要な証拠になっただろう。

 クラディナがレスティオを見て取り乱した理由も気になっているのだ。


「焼けてしまったものは仕方がないか……いや、ハイリの側近の手記が残っているなら、諸々の件の裏が見えてくるのかもしれない」

「なるほど。しかし、こちらに残っていた側近が処分している可能性は高いんじゃないか?」


 生贄とはいえ故人の私物には中々手が出せない。

 表向き罪状がないのだから、なおさらだ。


「ハイリの後ろ盾を無くした今、不利になる要素はそりゃ処分するよな」

「そういうことだな。調べ足りないなら、セバン・ビーニッシュをまた使えばいいんじゃないか?」

「、セバン?」


 唐突に出てきた名前にレスティオはきょとんとした。

 副団長の小姓として騎士団内部には知れているようだが、ロデリオが積極的に名を出す要素は今のところないと思っていた。


「城内に毒を持ちこんだ経路について情報を届けたのはモルーナだが、そもそもモルーナに情報を提供したのはフラン・ジェリーニ。そして、そいつの情報源がセバン・ビーニッシュと聞いている」

「何故、ドレイドではなく、モルーナとフランが繋がったんだ?」

「お前の指示じゃなかったのか?セバン・ビーニッシュの魔術学院編入が条件だったと聞いているぞ。その上、特待生候補にしたのだから、既に奴らはお前の手駒だと思っていた」


 特待生候補として扱うという話が受け入れられたのは、ロゼアン同様、レスティオが目を掛けているという事前情報があったからこそ。

 違うのかと尋ねられて、レスティオは笑みを浮かべるに留めた。


「とっととお前の護衛騎士に選べばいいものを、特別待遇制度だの選定期間だの言い出した理由はなんだ?」

「俺の傍に置きたいんじゃなくて、軍の戦力として鍛えたいんだよ」

「じゃあ、お前はどういう奴を護衛に選ぶつもりだ?」

「俺についてこれるような奴は前線で活躍してほしいからな。あえて言うなら、背中を預けたいと思える者が居れば、かな」


 ロデリオはため息をついて、魔術師団が目覚めるまでは選ばないつもりかと苦笑する。

 一年という期限を設けたのは自分なのだから、そこは守る。ただし、どれだけの人数を選ぶかは明言を避ける。

 

「そうだ、レスティオ。戴冠式に以前話したラビ王国の友人たちが来るんだが、お前も酒席に同席しないか?」

「俺は構わないが、俺がいると友人たちは緊張してしまうんじゃないか?」

「あいつらなら問題ないさ。お前もラビ王国や他国の聖女や厄災の話を聞きたいんじゃないか?」


 それは興味深い。

 レスティオが同席を承諾すると、ロデリオは満足そうに笑みを浮かべた。

 ふと、ユリウスとの酒席で出た名前もラビ王国だったことを思い出す。


「その友人たちにドレア姫は含まれるのか?」


 名前を出すと、ロデリオは表情を引きつらせて固まった。


「何故、お前がその名前を知っている?」

「おや、知られて困る名前だったか?」


 笑みを浮かべて問えば舌打ちを返された。


「どこまで聞いているのか知らんが、わかっていて言っているんだろう。ドレアは来ない。欠席の連絡があった」

「そうなのか。それは残念だったな」

「友人たちというのは、ラビ王国の第二王子アルドラ・ベルヴァーグ・ラビ。それと、ラビ王国宰相の子息でアルドラの秘書をしているカンデ・アルカラスだ」


 ロデリオがラビ王国に留学した際の学友で、特に親しくしていた二人。

 アルドラの母はラビ王国に嫁いだリアージュの姉であり、つまりはロデリオの従兄弟にあたる。

 

「そういえば、ドレアではないが、ラビ王国の王女も来る予定があるんだ。お前、ダンスの覚えはあるか?」

「この世界の踊り方は知らないが、以前は良く社交界で踊っていたよ。けど、下手に踊って、噂を立てられるのはごめんだな」

「だよな。それに、お前の護衛には、ダンスを踊れる奴が少ないだろう。ダンス中に周囲を守れるように三人は踊れる者が必要と思えば、まぁ、今回は見物としたほうがいいかもしれないな」


 自分が踊れるかどうかだけでなかったことに少しの衝撃を感じつつ、レスティオは考えた。


「セルヴィア殿下が迎年祭でネルヴィたちに褒賞を与えるという話は聞いたか?」

「なんだそれは。まだ聞いていない」


 レスティオは西部派遣団が魔物に襲われ、ネルヴィたちを救援に出した一件を説明する。

 ロゼアンが迎年祭で報酬を受け取るならダンスが踊れないといけないと言っていたが、ネルヴィやユハニにはダンスを習う伝手が無さそうだった。


「そういうことなら、今後の為にもお前の戴冠式での護衛を対象に、ダンスの講習会を実施するか」

 

 戴冠式までに形になるとは期待出来ないが、基礎くらいは押さえておいて然るべきだ。

 レスティオには踊らせない前提としても、万が一に対応出来なければ困る。

 ロデリオがアズルに視線を投げかければ、心得た表情で頷き返される。


「じゃあ、頼むよ。ところで、迎年祭とはどういうものだ?俺からも褒賞を贈る者を考えておくべきか?」

「あぁ、そうか。まずは、大陸会議と戴冠式があったから、そこまでの話はしてなかったな」


 迎年祭の概要は、ロゼアンが説明してくれた内容と同じだった。

 褒賞は、皇族から一年の功労者を讃えてメダルや報奨金を授与するもの。既に、召喚の儀式を主導した魔術師団団長と、レスティオが数ヶ月の内に聖の魔術を扱えるようになったことで魔術講師のアッシュが表彰されることは間違いない。

 宰相や総帥などの役職を持つ者は、過去に褒賞を受けたことのある者がほとんど。褒賞を受け取った者は、その瞬間から次代を期待されることになる。


「褒賞を授けたいという者がいるならば、早めに相談してくれ。褒賞の品の準備もあるし、表彰の理由が十分なものかも見極めが必要だ」

「そうだな。魔物除けの薬を発見したユハニ・リトラは十分表彰に値すると思う」

「ん?魔物除けの薬の研究の主体は魔術師団だろう」

「ユハニの発案かつ薬の調合も担っているとか。詳細はモルーナに確認するつもりではあるが、効果が出ているなら厄災対策に大いに役立つのだから、評価してしかるべきだろう」


 ロデリオは納得した様子で、アズルが用意した酒席の料理を口に運んだ。

 これまでの酒席で、レスティオの料理は美味しいが、ほどほどに酒席の料理を食べながら酔いを緩和しなければ、翌日がつらいとロデリオ達には知れている。


「褒賞の対象者の枠を決めて、褒賞の品を用意するのは十一月からだ。そして、十二月にかけて対象者の選定を進める。その時点での研究結果次第だな」


 研究の功績については、すぐに結論付けることが難しい。

 そもそも、聖騎士から授与するか皇族から授与するかによって、褒賞の価値は大きく変わってくるので、どちらが相応しいかも検討が必要だ。

 レスティオは言い分に納得して、他に誰がいるだろうかと考えた。

 

「ちなみに、なんだが、褒賞の品は俺が決めてもいいものかな」

「というと?」

「ザンクに立ち寄った際に、魔剣改め聖剣を作ってもらおうと鉱山に魔力を注いできたんだ。騎士団から選定することがあれば、冬の大陸会議の頃に引き取って、褒賞として授けてもいいと思うんだがどうかな」

 

 一応、今作ってもらっているのは試作品に過ぎないと説明を加える。

 魔剣製作の技術が根付いて一級品が出来た時には、献上用に装飾も凝った聖剣を作らせるつもりだ。

 試作品を剣魔術の研究に使わせてもいいと思っていたが、聖の魔力を込めた聖剣を与える口実として迎年祭の褒賞は丁度いい。


「それは要検討だな。まぁ、既に作らせていると言うなら、出来を見てとなるだろう。一応、最初の褒賞は五名前後を想定しておけ。最初から多くに授けすぎると軽く見られる」

 

 どのような聖剣が仕上がるかによっては、例年皇族から授与しているメダルと同様の物を用意することになるかもしれない。

 今後の検討事項として押さえておこうとレスティオは頷いて応じた。

 

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