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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第77話 帝都帰還


 

 ユリウスの調整の甲斐もあり、午後からは特別待遇制度の話し合いの続きを会議用の馬車で行うことになった。

 セルヴィアに説明するところから始めると、是非とも自分の配下にも適用としたいと目を輝かせた。

 しかし、皇族認定の特別待遇制度は聖騎士の許で根付いてから検討することになっている。

 最初は納得しなかったが、いずれ適用とする時のことを想定して議論するのも大事だろうと言えば、積極的に意見を出し始めた。

 推薦状の記載事項や評価項目の案が揃うと、待遇や制約、制度適用の継続条件などの意見も交わす。


「ひとつ提案なんだが、この制度を本運用前にすぐにでも試行したいというのは難しいかな」

「ロゼアン・ダイナは当面贄候補から外す方向なのに、適用を急ぐ必要があるのか?」


 順調に話し合いが進む中、レスティオは勢いに乗じて試行を提案した。

 特別待遇制度は今後リアージュなども交えて議論していくので、本運用は数ヶ月から数年先になると推定される。

 だが、現時点で議論に挙げられているロゼアンについては、既に特別待遇制度適用対象者である特待生とする認識で一致していた。


「実は、特待生の待遇について考えていたんだが、彼らは身寄りが無く生贄候補に挙げられているという想定だろう?となれば、後見人としては衣食住についてもある程度考える必要があると思うんだ」

「仕事は継続させるのですから、その給料で十分これまで通り過ごせると思いますが」

「うん。だから、あくまで建前なのだけど。以前から、マルクには俺の屋敷の方に警護や使用人を雇い入れるように言われていただろう?だが、採用の見込みは立っていない。そこで、いっそのこと、あの屋敷を特待生寮という名目にするのはどうかと思っている」


 レスティオの思惑に、マルクは興味深そうに身を乗り出した。

 聖騎士の屋敷ではなく、特待生寮ということであれば、警備の重要度は下がる。

 視察と称してレスティオが帰宅する時には、特待生を共に連れることでプライベートにおける護衛の目途もつく。


「屋敷を選ぶときに、散々あの規模では聖騎士に相応しくないと言っていただろ。今の屋敷が手狭になるだけ使用人や特待生が増えたならば、別に本邸を構えようとした時に、使用人を移動させることで、今後の使用人の確保は難しくなくなる」

「それはいいですね。レスティオ様の屋敷を特待生寮と表向き認識させるためにも、特別待遇制度の試行を開始し、実際に特待生を住まわせたいということですか」

「それを踏まえると、ロゼアン一人だけだと心許ない。というわけで、親が病気で余命僅かと聞いている者がいるから、その者も特待生候補に挙げたい」

「あぁ、そちらが本題ですか」


 すかさず笑みを向けてきたレナルドに笑顔で応じれば、皇族たちは顔を見合わせて苦笑した。


「レスティオ様は騎士団に甘すぎると思います」

「魔術師団にもいい人材がいれば、特別待遇制度の適用を考えるよ。いい人材がいれば」


 レスティオが繰り返して言えば、ヴィアベルも慣れてきたのか笑顔で「はい、いい人材がいれば」と口にした。

 その笑顔に何か企みを感じたが、今時点で機能していない魔術師団がレスティオの前に出て来る日は遠い。

 

「もしや、その者はレスティオが東部に派遣を考えている者か?」

「えぇ。手遅れになる前に抱え込んでおきたいし、特待生候補となれば皇族に紹介する口実が出来る」


 試行という建前で、特別待遇制度の検証と人材の抱え込みを行う。

 東部に派遣と聞いて、セルヴィアがどういうことかとレナルドに詰め寄る。

 当然、西部にも欲しいと叫ばれたが、適任な人材はこれから育てるつもりなのでせがまれても困る。


「話を戻すが、そもそも制度の適用対象になってから認定の準備をしては、生贄にされるまでに間に合わないかもしれない。事前に保険として候補生を募っておくというのも必要だろう」

「言われてみればそうかもしれませんね。レスティオ様の取り組みを通してみなければ、わからないこともあるでしょうし、私は賛同します」

「そうね。試行が許されるなら、私も適用したい人はたくさんいるのだけどね」

「セルヴィア。それはどれだけ早くとも、聖騎士認定特別待遇制度が本格運用されてからだ。そんなに急ぎたければ、帝都にいる間に積極的に会議に参加するんだな」


 拗ねた態度を、ユリウスは呆れながら窘める。

 セルヴィアは唸りながら、マルクに会議の日程を必ず連絡するように要求した。

 レスティオは特待生候補としてセバンの名前を挙げて、生贄リストに名前が挙がらないように皇族たちの合意を取った。


「そうだ、マルク。戴冠式の護衛部隊なんだが、上位は先日話した通り、大陸会議からの引き続きで頼みたいんだが、中位、下位についても騎士団と調整出来るかな」

「えぇ、それは勿論です。城内にはダイナ隊も散開しますから、意に沿わない増員は避けるつもりでしたが、レスティオ様がお望みとあれば」

「では、セバンは上位に引き上げたらいいわ。そうすれば、護衛ついでに紹介の機会も得やすいでしょう」

「それは良い考えですね。もう数名上位に入れて、紛れさせた方が、周囲の違和感は少ないと思いますよ」

 

 戴冠式の護衛部隊に与える手当については検討すると言われ、レスティオは考えながらいくつか名前を挙げた。



 



 帝都の外壁が遠くに見えてきたところで日が暮れてきたこともあり、移動の足は止まった。

 夕食を早々に終えたレスティオは、移動用の馬車にクォートとフランを招く。

 防音をした上で、特別待遇制度の議論の進捗と、選定された特待生の扱いについて情報を共有し、理解を求める。

 説明中は険しい表情を見せていた二人だったが、レスティオの意向に従うと頭を下げて馬車を降りた。


「ネルヴィ、少し話せるか?」

「はい」


 馬車の外に控えていたネルヴィを中へと手招くと、寝台用の馬車の方に控えていたセバンが立ち位置を変えて、ネルヴィの位置を補った。

 ネルヴィには、魔剣は明日城内の私室で返してもらうことをまず伝える。

 

「俺を私室に送り届けて、報告書を騎士団に提出したら、そこで大陸会議派遣団聖騎士護衛部隊の任務は完了だ」


 報告書は既に全て書き上がっていることを確認している。

 追加で書かれた分も随時確認しているので、実質、騎士団本部に戻ればすぐにでも任務は完了となる。


「私室ではゆっくり二人で話せないだろうから、今のうちに筆頭護衛騎士であるお前に伝えておきたいことを伝える」

「はい」


 手を出させ、そこに金貨を五枚乗せる。


「臨時で護衛についてくれた者たちを労いたいと思ったが、クォートやラズベルに聖騎士自ら労うのは好ましくないと言われた。なので、護衛部隊隊長であるお前に委ねる。ソリッズにでも労い方を聞いて、初めての部下をちゃんと労ってやってくれ」

「部下……」


 その意識はなかったという様子で金貨を見つめるネルヴィに隊長だろとため息をつく。

 これまで散々先頭に立ってきて、今更自覚がなかったとは思わなかった。


「同僚であり仲間なのは勿論だが、部隊編成上はお前が上官で、他の連中は部下だろ」

「そう、ですね。確かに、引き受けました」

「酒場の相場を知らないから、足りなかったらすまないが、余った分はお前に任せる」

「俺も普段こんなに使わないので、金貨五枚分がどれくらいの労いになるのかわかりません」


 自警団と酒場で飲んだ時も会計は自警団が持ってくれた為、どれくらいかかったのか把握していない。

 それなら、終わった後でなにをしてどれくらいの清算だったか教えてくれと頼む。今後に生かしたい。

 

「それと、これはまだ内々で話していることで、正式な辞令は数日先になる。ドレイドから辞令が下るまで内密な話だが聞いてくれるか?」

「なんでしょうか」

「臨時で加わった者をどうするかは今後検討するが、ネルヴィ、ハイラック、ロゼアン、エヴァルト、ユハニの五名は戴冠式の護衛部隊に引き続き任命するつもりだ」


 ネルヴィの表情に困惑の色が浮かぶ。

 解散するから任命の流れが理解出来なかったと察して、レスティオは咳払いして説明し直す。


「明日、大陸会議派遣団と共に護衛部隊は一度解散する。これはいいな?」

「はい」

「その後、戴冠式での護衛部隊を再編することになる。再編の会議や承認に数日かかる見込みだが、各所の承認が完了次第、騎士団に正式に辞令が下り、戴冠式の護衛部隊が発足する」


 流れを丁寧に話せば、ネルヴィの表情が少しずつ明るくなった。


「俺、戴冠式でもレスティオ様の筆頭護衛騎士ですか?」

「そうなるだろうな。しかし、この件は承認されていないので他言無用だ。それでもお前に話した理由に察しはつくか?」


 問いかけにネルヴィは首を傾げた。


「戴冠式の護衛部隊の労いも含めて金貨五枚ですか?」

「それは大陸会議の護衛部隊の労いにかかった金額を踏まえて検討する」


 わからないとあっさり降参された。


「エヴァルトはギバの駐在だろう?一応、隊長たちへの打診はなるべく早めに出したいと思うが、帰られたら再編するのに困るじゃないか」

「あぁ、エヴァルトを引き留めろってことですね!」

「そういうことだ。辞令に関わることは原則他言無用と言われているんだが、隊長であるお前にだけは話す許可を得た。お前の場合、気を緩めたらもう一度引き締めるまで時間がかかるかもしれないしな」

「うぐっ、否定できません」


 実際、復帰直後は戸惑うことが多かった。


「というわけで、お前は当面筆頭護衛騎士として気を引き締め続けていろ」

「はいっ!」

 

 休みを挟んで再び筆頭護衛騎士として任務があると思えば、ネルヴィも気を引き締め続けられる。

 金貨を懐に収め、ネルヴィはエヴァルトに事情を説明せず残ってもらうにはどうすべきかと唸り始めた。


「金貨を預かったことは伝えてもいいですか?」

「金額はあまり言うべきじゃないな。追及されたなら仕方がないが、心付け、くらいにしておけ」

「承知しました。では、慰労会の件は、帰還後隊長たちに相談して実施するようにします」

「後、呼び出されたのは、明日の解散に当たっての確認とだけ答えるように。聞かれなかったら言わなくていい」


 話を終えて馬車を降りると、就寝準備を始めた。

 荷物用の馬車の中は、既に明日の荷下ろしに備えて片付けが始まっているので本なども全て木箱に収められている。

 レスティオは誰の邪魔にもならないように早く休み、明日は移動用の馬車で城まで過ごす。

 皇族たちはカーテンを開けて民衆に手を振るそうだが、戴冠式が国民への初披露目になるレスティオは外を覗くこともない。

 





 仮眠をしていると、ドアがノックされて到着を告げられる。

 ヴィムに扉を開けてもらい、馬車を降りると、ネルヴィたちが馬を降りて控えていた。

 城の前にはリアージュとロデリオを始め、多くの者が出迎えに並んでいる。


「無事の帰還で何よりだ、レスティオ。すまないが、後ほど、急ぎで話がある」


 出迎えに立っていたロデリオの笑顔に近づくと、小声で言葉を加えられた。

 内密な事案だろうかと思いながら、レスティオは笑顔で頷いた。


「出迎え感謝する。また、後ほど、でいいかな?」

「あぁ。まずはゆっくり休んでくれ」


 ロデリオから離れると、ヴィムは屋敷に荷物を運ぶため、ここで別れる。

 代わりに、控えていたルカリオが前に出て来る。


「おかえりなさいませ。ご帰還を心待ちにしておりました」

「ただいま、ルカリオ」


 ルカリオの先導で私室まで歩く。

 ロデリオが小声で告げてきたことからも、廊下で用件を尋ねるべきではないのだろうと堪える。

 部屋に入ると、妙に懐かしい気分になった。しかし、気を緩めるにはまだ早い。

 ネルヴィたちを部屋に招き入れて、向き直る。

 

「今日まで聖騎士護衛部隊として仕えてくれたことに感謝する。慣れない護衛任務にも関わらず、良く勤めてくれた。お前たちの働きは、私から総帥や団長らへも報告をさせてもらう。報告や荷解きなどまだやることはあるだろうが、今日くらいはゆっくり休んでもらえればと思う」

「勿体なきお言葉に御座います。お借りしていた魔剣ネメシスはこの場にてお返しさせていただきます」


 ネルヴィから魔剣ネメシスを受け取り、自警団仕込みの敬礼をするネルヴィたちに敬礼を返して、退室を促した。

 ルカリオに着替えを手伝ってもらい、城内用の正装に着替えると、久しぶりにルカリオが淹れたお茶を飲みながらロデリオからの呼び出しを待った。




 


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