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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第74話 独り遊び

 

 起きたレスティオは狭い馬車の中で柔軟を始める。

 ヴィムが七時に馬車に入ってくると、身支度をして寝台用の馬車の中の椅子に腰かける。


「昨晩はゆっくり休めましたか?」

「うん。馬車の中は静かだからのんびり過ごしたよ」


 湯を出て着替えた後は、手記をつらつらと書き連ねていた。

 そろそろ新しい冊子を用意しておかないといけない。

 ヴィムに予備はあるか尋ねれば、笑顔で頷き、準備しておくと告げられた。


「ミルネアの様子は?」

「昨晩はユリウス様と一緒にお休みになられたそうです。朝食は皇族の皆様とご一緒がよろしいですか?」

「いや、ここでいいよ。食べ終わったら、移動用の馬車に移るから、ここはその時に整えてくれればいい」

「畏まりました。では、朝食の準備を致します」


 朝食にはザンクからの献上品の果物が添えられていた。

 皇族の朝食にも添えてもいいか確認されて、レスティオは考えることもなく頷く。





 

 移動用の馬車の中で食後のお茶を飲みながら、ザンクからの献上品リストを確認する。

 レスティオへの献上品だが、量が多いのは下賜を想定しているからこそだ。

 聖騎士からの下賜の対象には皇帝も含まれる為、なにをどれだけ下賜するか検討しなければならない。

 全てをレスティオの懐に収めてもよいが、友好的な関係を築いていることを示すなら、皇族には多少配った方がいいというのが、ヴィムからのアドバイスだった。


「レスティオ様、レナルド殿下とヴィアベル殿下が同乗されたいと申しておりますがいかがなさいますか?」

「構わないよ」


 まだ献上品リストを読んだだけでなにを下賜するか決めていないが、それも含めて相談してもいいのかもしれない。

 

「おはよう、レスティオ」

「おはようございます。お邪魔致します」


 お茶の食器は片付けられ、レスティオの前の席にレナルドとヴィアベルが腰を下ろす。

 扉を閉められると、物音が内外で伝わらなくなる。


「昨日はミルネアの為に気を遣わせてしまい、申し訳ない」

「いや、あの年ごろの子供には、親を亡くすというのは受け入れがたいことなのだろう。今は存分に甘やかしてやったらいい」

「本当にそう思うか?」


 見透かしたようにレナルドに言われて、レスティオは苦笑した。


「本心でいえば、皇族ならばもう少し気丈に振る舞うことを教えておくべきだと思う」

「そうだよな。兄上も困っていたよ。セルヴィアも今日は兄上と一緒にミルネアのケアに当たっているんだが、本心はレスティオと話をしたそうだった」


 レナルドとヴィアベルは、レスティオへのフォローが必要だろうと言い訳して逃げてきたのだと悪びれずに言った。


「ネルヴィの容態はいかがですか?急遽、護衛部隊を再編したと聞きましたが、ご不便はありませんか?」

「そういえば、今朝はネルヴィの容態を確認出来ていなかったな。なにかあればすぐに報告があると思うから、大事には至っていないと思うが」

「魔力枯渇で怖いのは、回復が乱れることです。回復に時間を要するだけならば良いのですが、枯渇した分を補うために急激に回復しようとして負荷がかかり、中毒症状を起こすことがあるのです。リトラの薬師が付いているならば大丈夫でしょうが、油断は出来ません」


 魔力中毒を経験したことがあるヴィアベルは心配そうにため息をつく。

 レスティオはそういうものなのかと思いながら窓を見るが、窓はカーテンで閉め切っているので、誰かに様子を尋ねることもできない。


「そうだ、朝食のロランジュは美味かった。皇族を代表して礼を言わせてもらう」

「あぁ、昨日ザンクから届けてもらったんだ。聖の魔力が満ちているからか甘みがしっかりしていたな」

「えぇ、美味しく頂きました。ミルネアも朝食はあまり食べなかったのですけれど、ロランジュはちゃんと全部食べていましたよ」


 日持ちしないだろう果物は、道中の食事に添えてもらうのが良いだろうか、と考えながら頷いて話を聞く。


「けれど、レスティオも屋敷を持っていらっしゃるのですし、城にいる者たちにも分け与えたいでしょうから、あまりお気遣い頂かなくて大丈夫ですよ」

「ん?」

「レスティオは献上品を貰うのは初めてだろう?皇族にも下賜を考えているなら、リアージュ様やロデリオのことも考えないといけない。献上品リストに保存用の箱や袋の記載があるなら、果物なんかはちゃんと保存できるようにされているだろうから、すぐに使おうなんて考えなくて大丈夫だ」


 魔力を惜しんで痛ませたならば、それは側仕えの責任になる。

 だから、主人は保存されている前提で下賜の計画を立てるものだとレナルドは言う。

 

「なるほど」

「配分する量は俺たちもその時によって違う。それこそ、渡す相手の好みに合うものが大量にあるなら多めに渡すし、特にそういうものがないとか、わからなければ適当に配って終わる」


 布や装飾品を送ると、次回会った時にそれを用いているところを見せるのが礼儀なので気を遣わせる。

 気を遣わせてもいい相手かも見極めのポイントになる。


「ちなみに、レナルドとヴィアベルはなにを貰ったら嬉しい?」

「例の教官を」

「私は聖女プレアの手記の内容を教えて頂けたら、それだけで十分です」


 下賜に関係ない要求がきて、レスティオは思わず笑った。

 正直な気持ちなのだろうが、自分たちから話題を振って置いて全く関係のないことを言うなど思いもしなかった。


「例の教官の話はまだなにも進められていないから、もう暫く待ってくれ。聖女プレアの手記については、なにを話すのがいいかな」


 ザンクの特殊性についてはもう暫く秘めておきたい。

 レスティオは、当たり障りないところで、聖女プレアの手記に記述されていた当時の軍のあり様について語った。

 それは、最終的には魔術学院や騎士学校創設に繋がる話で、ヴィアベルは興味深そうに聞き入ってくれたが、途中レナルドは眠たそうに欠伸をこぼしていた。

 





 昼食の為に隊列が止まると、レスティオは馬車を降りてハイラックの隣に立った。

 きちんとヴェールは装着済みだが、目立たないように馬の陰に隠れるように努める。


「今朝聞きそびれていたんだが、ネルヴィの様子はどうだ?」

「朝方に発熱があったそうで、薬剤を口に含ませたと報告は受けています。しかし、まだ意識が戻っていないようですね」

「そうか。ザンクの献上品の中で薬に使えるものがあれば、ヴィムに言って貰えれば使って構わないと伝えてくれ」

「いえ、そこまでは、」

「やれることは尽くして然るべきだろう」


 ハイラックはレスティオに折れる様に頷いて、礼を告げた。

 これで大丈夫だろうと身を翻そうとしたところで、ヴィルヘルムに寂しげに見つめられていることに気づいた。

 レスティオは引き寄せられるようにヴィルヘルムに近づき、その首に腕を回して抱きしめた。


「レスティオ様、衣装が汚れてしまいます」

「ぅ、すまない。つい」


 ヴィムに怒られて大人しく離れると、寝台用の馬車に移り、用意された食事を食べる。

 馬車に用意されたということは、未だミルネアがハイリが居なくなったことを受け入れられていないということだ。

 食べ終えると、献上品の内、下賜するものをまとめ始める。

 午後はレナルドとヴィアベルは使節団との外交があると言うので、移動用の馬車で一人になる。

 その間にまとめてしまおうと集中してしまえば一時間もせずに終えた。

 必要以上に紙を用意していなかったので、今後の会議に向けて資料を書き出すことも出来ず、途端に暇になる。

 外の景色が見えたなら気もまぎれるが、馬車の外は護衛に囲まれている上に、カーテンを開けてはいけないと言われている。

 こういう時は無になるしかない。と、レスティオは懐中時計を取り出して蓋を開いた。






 レスティオの幼少期の一日は全て教育係によりスケジュールが管理されていた。

 分刻みで、起床から就寝まで決められた通りに行動することが求められていて、それが当たり前だった。

 課題が早く終わり、次の講義を受けるまでに空白の時間が出来ると、教育係は好きなことをしていいと言った。

 けれど、『好きなこと』がわからなかった。

 そういう時は、両親から貰った懐中時計を眺めて過ごす。

 針が進む様子を眺めながら、時折、蓋の裏に刻まれた文字を読む。

 そして、時間が来ると同時に次の予定に取り掛かり始める。


(休憩はまだかな……ヴィムは一人で側仕えを担っているんだから、暇潰し程度のことで世話を掛けるべきではない、かな……)


 時間を潰す。という行為を覚えたのは、軍学校に入ってからだった。

 自分の中で自習時間も含めてすべて事前に計画していたが、ある時、休講の通知を受けて計画が崩れた。

 計画を練り直さなければと考えていたその時、同級生はゲーム機や漫画を取り出したり、他の講義の課題をやり始めて、レスティオにも一緒にやろうと声を掛けた。

 空白の時間に咄嗟に好きなことをやり始められる人たちに最初は戸惑った。

 だが、真似して一緒にやっていく中で、レスティオの世界は少しずつ広がった。


(そうだ。この世界は娯楽が少ないんだ)


 懐中時計を眺めながらレスティオは考える。

 どんな娯楽があれば、皆と楽しめるだろうか。

 懐中時計の蓋を閉じると、テーブルの上にチェス盤を作り出し、一人で駒を揃えて動かしてみる。

 昔は良く教育係と勝負し、祖父や学校の同級生たちとも楽しんだし、一人で戦略を考えもした。

 だが、今はどうにもつまらなく感じてしまって、向かいの座席へと移した。


 

 



 馬車が止まって、ヴィムはレスティオの乗る移動用の馬車の扉を開けた。

 

「レスティオ様。今日はここで野営と、……なにをお作りになっているのですか?」

「魔力結晶時計」


 チェスはあっさり作れてしまったので、少し趣向を凝らした物で暇潰しを試みていた。

 テーブルの上には五個の魔力結晶時計が並んでいる。

 構造は砂時計そのものだが、砂ではなく魔力結晶を粉末状にしたので魔力結晶時計と呼称する。


「これが、時計、なのですか?」

「それぞれ、一分、二分、三分、四分、五分を測れるようになってる。今ちゃんと動くか検証してる」

 

 懐中時計の針の動きと落ちていく魔力結晶の粉の具合を確認する。

 残念なのは魔力結晶を薄くしてもガラスほどの透明性が出ないので、どれだけ落ちたか確認するには光の加減を気にしてみなければならないこと。

 違う色合いの魔力結晶を組み合わせたほうが使いやすいかもしれないと思うが、この世界の人間に砂時計の繊細な構造を理解して作ってもらうのは、現時点では現実的とは言えない。


「はぁ……では、お食事の準備が出来たらまた声を掛けましょう」

「うん」


 そして、検証を終えると向かいの座席に全て移動させた。

 魔力結晶細工で神経を使ったので今度は簡単なものにしようと、カード状の魔力結晶を大量に作り出す。

 二枚のカードを手に取ると三角形に組み上げていく。

 

「レスティオ様。今度は、なにをなさっているのですか?」

「暇潰し」

「そうですか。では、夕食の準備が出来ましたので、ご移動いただけますか?」

「わかった」


 三段まで積み上げた魔力結晶のカードタワーを一気に手のひらに吸収して立ち上がる。


「おや、そちらは残さないのですか?」

「別に残すようなものでもないし。こっちも遊びで作っただけだから、片付けるよ」

「いえいえ、折角ですから、よろしければ保管しておきましょう」


 向かいの座席に放置しているモノたちを吸収しようとしたが止められ、レスティオは馬車を降りた。

 既に周囲に馬の姿は無く、入り口の横にはハイラックとロゼアンが控えていた。


「申し訳ございませんが、馬車の方へどうぞ」

「わかった。ネルヴィの容態はどうだ?」

「やはり魔力中毒を発症したようで、ユハニとレイルが薬を調合しながら看病しています。ザンクの使者のおかげで材料は問題ないと言っていましたよ」

「そうか……」


 聖の魔力でも体内の魔力が影響する魔力中毒には対処できない。

 もどかしい気分でレスティオは寝台用の馬車に移った。


「食後のお茶には、蜜を入れましょうか」

「いや、いつも通りでいいよ」


 あまりにもやることがないので、いつもより少しだけ食事に時間をかける。

 ネルヴィが大変な状況というのをわかっていて、荷物用の馬車にある本を取ってきてくれとも言いにくい。

 レスティオは、今日も食事を終えたら、後は馬車で過ごすからとその後の世話を断った。

 ミルネアは皇族で、ユリウスたちにとっては家族なのだから、共に過ごしているのは当然。

 そこに自分も当然のようにいることの方が違うということを、レスティオは理解している。


「レスティオ様。ユリウス陛下から酒席の誘いがございますが、いかがなさいますか?」


 食事を終えて、お湯に浸かりながら足をマッサージしているところに声を掛けられた。

 レスティオは唸りながら天井を見上げた。


「眠たくなってきたところだから、今日は遠慮しようかな」

「逆上せたのではありませんか?冷たい飲み物をお持ちしましょう」

「いや、水差しの水で十分だからいい。具合が悪くなっても、聖の魔術で治せるから問題ないよ」

「そういう問題ではないと思います。着替えを用意しておりますから、お手伝い致しましょう」

「大丈夫だから、ユリウスに返事をしてきてくれ。期待して待たせる方が申し訳ない」

 

 ヴィムを馬車から出すと、レスティオはゆったりとした動きで水気を払い、寝間着に着替えてベッドに倒れ込んだ。

 馬車の内壁は丁寧に魔法陣の後を削ったうえで、布が重ねられており、もう見る影もない。

 ぼぉっとしていると扉が小さくノックされた。

 なんだろうと思いながら起き上がり、扉を開けると疲れた顔をしたユハニがいた。


「ネルヴィになにかあったか?」

「先ほど意識が戻りました。今は熱も少しずつ下がってきています。まだ予断は許しませんが、回復には向かっているとお伝えだけしようと思いまして。お休みのところすみません」

「いや、伝えてくれて有難う。ずっと付き添ってくれて助かるよ」

「ネルヴィは仲間ですから。当然です」


 レスティオは、車輪の分普段より低い位置に見えるユハニの頭に手を乗せて、聖の魔術を詠唱した。


「有難うございます。少し体が軽くなりました。ですが、……何故、撫でるんですか」

「ユハニはいい子だなと思って」


 不意に隣で噴き出す声が聞こえて見れば、セバンが顔を逸らして必死に笑いをこらえていた。

 見れば、周りでも何人か笑いをこらえている姿が見えた。


「レスティオ様。癒しの御礼とお休みの邪魔をしたお詫びに薬草茶を淹れましょうか」

「いいよ。それより、お前も休める時に休んで、身体を壊さないように気を付けろよ。また何かあったら声を掛けてくれ」

「……レスティオ様は大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。本当にいい子だね、お前は」

 

 心配そうなユハニに表情が緩んだ。

 扉を閉めると、レスティオは再びベッドに倒れ込んだ。

 自分の頬をつねって、大丈夫そうに見えないかな、と揉み解す。



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