第63話 余興
皇族用の天幕を出ると、既に用意された場所を囲うようにして人が集まっていた。
レスティオと皇族達には観覧用に椅子とサイドテーブルが用意されており、側仕えに酒を勧められる。
レスティオは合流したネルヴィ達を見上げて、その緊張した面持ちに笑みを浮かべる。
「お前が俺の筆頭護衛騎士にふさわしいということを存分に示してこい」
「ご期待に添えるよう尽くします」
応える声は不安と緊張を感じさせる。
これでは負けそうだとため息をつきながら、レスティオはネルヴィに耳を寄せるように促した。
「殺さなければ重傷を負わせていい。二度とお前らを侮った言葉を口に出来ないように見せしめにしろ」
「それは、剣魔術を使用して良いということですか?」
小声で確認してくるネルヴィに頷いて応える。
魔術を使ってはならないというルールは設けていないし、剣魔術は聖騎士推奨の戦術なのだから、聖騎士の配下である護衛が使うことに不思議はない。
「俺が闘技場で見せたように、圧倒的な実力の違いを示さなければ誰も納得しないだろう」
「承知致しました。念の為、剣を新しいものに交換してしまったので、殺さぬように気をつけます」
正面に向き直った横顔は覚悟を決めたように真剣で、見守る面々にも気迫が伝わっているのか緊張して見えた。
ネルヴィの気迫は自警団仕込みのはったりか、筆頭護衛騎士の意地か、仲間の贄回避のためかと考えて、器用ではないから全部まとめて相手を打ちのめすというところだろうとレスティオは笑みを浮かべた。
「ネルヴィ。筆頭護衛騎士に認められたならば、その証として魔剣ネメシスを貸してやろう。俺が剣を手にする必要がないように、護衛一同働いてもらうことが前提だけどな」
「身に余る光栄にございます」
受け取ることを前提とした返事に自然と笑みが深まる。
「第一戦、聖騎士筆頭護衛騎士ネルヴィ・ボートム。帝国軍騎士団ダイナ隊より、シャーフ・ガレ。両名、前へ!」
余興の仕切り役を引き受けたユリウスの筆頭護衛魔術師ディット・ガイストがコールすると歓声が沸き起こった。
シャーフ・ガレは、ハイリがダイナ隊から選抜させた騎士だ。
貧民に負けてたまるかと息巻いて前に出てきたシャーフに対して、ネルヴィは真顔のまま、静かに前に出た。
「構えっ!」
合図と共に剣を抜いたシャーフに対して、ネルヴィは剣を抜かなかった。
相手を見据えて、ただ立っているネルヴィに、勝負を捨てたかと笑い声が上がる。
ディットはネルヴィに構える気がないと見るや「はじめっ」と開始の合図を出した。
シャーフは合図と同時に剣を手に駆け出す。
しかし、ネルヴィは、一瞬のうちにシャーフの目の前から姿を消した。
そして、シャーフの肩を後ろから掴むと、首の前に剣を突き出した。
ザンク製の真新しい剣が鮮血を伝わせながらギラリと輝き、肩を掴んでいなければ首が飛んでいただろうと恐怖を感じさせる。
「勝者、ネルヴィ・ボートム!」
ネルヴィが剣を離して地面に血を払い落とすと、シャーフは息を呑んで震えながら地面に膝をついた。
動けなくなっている姿を冷めた目で見下ろしながら、剣が鞘に戻される。
「シャーフ・ガレ。下がりなさい」
シャーフがここにいる限り、次の試合が始められない。
ディットに下がるように言われても、恐怖に震えたシャーフの耳には届いていなかった。
二度目の注意の前に、ネルヴィがおもむろに鎧の首元を掴んで、片腕でダイナ隊の方へと放り投げた。
無情に見える仕打ちに観衆が驚愕する。
仲間たちの上に落ちたシャーフは、首から血を流しながら半狂乱で医者を呼び、騎士として情けない姿を晒した。
皇族とレスティオの席では、一瞬で終わった試合に何が起きたのかと、ざわめきが起きていた。
「あんな真剣なネルヴィは初めて見ました」
「ジンガーグ隊が揃っていたなら大盛り上がりだっただろうな」
ユハニとハイラックが感嘆する声を聞きながら、レスティオはヴィムが淹れてくれたクルールの水割りを口に含んで、緩く脚を組んだ。
「第二戦、東部帝国軍騎士団ザインツ・カーン!前へ!」
次に呼ばれたのは、ヴィアベルが指名した騎士だった。
今回の東部帝国軍の護衛部隊隊長を務める男で、歴戦の猛者の風格がある。
「護衛が貧民、孤児、田舎出、魔力無しに薬師とは、聖騎士様は物好きだな」
「そのような物言いは、私に勝ってからにしていただけますか」
わかりやすい挑発に、ネルヴィは目を据わらせた。
「おぉ、怖い怖い。おら、剣抜けよ」
「いいえ、その必要ありません。レスティオ様から圧倒的な実力差を示すように言われておりますので」
合図と同時に剣を持つ手を蹴り上げて武器を奪うと、顔面を拳で殴り飛ばした。瞬間、レスティオは思わず吹き出して笑った。
ザインツは高く舞い上がり、そのまま後方の観衆の中へと落ちて、起き上がらなかった。
「これは驚きました。無名の騎士がわずか三ヶ月でここまで鍛えられているとは」
ユリウスが闘技場でのレスティオの動きを思い出したように、目を見張りながら感嘆をもらした。
「彼は戦い方を知らなかっただけです。まさか、闘技場での私の動きを記憶しているとは思いませんでしたけど」
相手の後ろに回り込んだり、剣を蹴り落とし殴り飛ばす動きには、あまりにも迷いがなかった。
魔物相手には確実に必要ない戦い方であり、騎士団の剣術訓練では扱われない動きということを踏まえれば、闘技場でのレスティオの動きが盗まれたと考えるのが妥当だ。
「第三戦、レナルド皇弟殿下直属、筆頭代理護衛騎士ナール・フォルガー!前へ!」
ザインツを横目に、ナール・フォルガーが前に出た。
獲物を捉えたような鋭い目つきには闘志が窺える。
「せめて剣を抜いてくれるか」
「いえ、レスティオ様はお寛ぎなので、なるべくお手を煩わせたくありません」
この剣は思った以上によく切れるのですと真顔で答えた。
レスティオはその一言から、一戦目でシャーフの首の皮が切れたのは想定外で、二戦目では殺したら怖いから剣を抜くのをやめたんだなと理解した。
シャーフもザインツも後で癒しが必要そうだが、ネルヴィにはその認識はないらしい。目に見える負傷の他に、脳挫傷などで致命傷になることもあると後で講義してやろうかなと思いながら、レスティオはヴィムにお酒のおかわりを頼む。
「そうか。では、始めてもらおうか」
「はい」
ナールもまた一瞬で地面に沈んだ。
貧民のくせに。あり得ない。と野次が飛ぶのも構わず、最後の一人である、ユリウスの護衛騎士も剣を抜かずに済ませた。
「これで四戦全勝です。ネルヴィ・ボートムが私の筆頭護衛騎士であることに異論はありませんね?」
「勿論です。レスティオ様が認めるのも納得致しました。特別待遇制度の試験実施の件も皇族公認制度として進めましょう」
レスティオとユリウスが手を握り合うと、「なりません!」と叫んでハイリが立ち上がった。
「厄災はオリヴィエールだけの問題ではありません!大陸中が贄を必要としているのです!貴方の護衛というだけで贄を逃れるなど誰が納得するものですか!どうしてもというなら、代わりの贄を差し出しなさい!貴方が庇わなければ後何十人、贄に送り出せたことかっ」
悔しそうに叫んだハイリに場が静まり返る。
天幕にいなかった者には何の話かわからないはずだが、レスティオが誰かを庇って贄から逃れさせようとしているのは伝わった。
折角の余興に水を差してくれるなよと思いながら、レスティオも立ち上がってハイリに向き直る。
「考えなしに提案したわけではないとご理解頂けたと思っていましたが、説明不足でしたか?」
「要は、貴方が懐に入れた者は贄にしない、それだけのことでしょう?そんな都合のいい制度、あってたまりますかっ!」
「要は、貴女はコルレアン王国に贄を送りたい。それだけのことでしょう?」
言葉を真似て言えば、ハイリは顔を赤くさせて忌々しそうにレスティオを睨みつけた。
「正直、癒すことしかできない。それも召喚されてすぐには使い物にならず、数年の教育期間を必要とする聖女の為に、罪人のみならず有益な人材を他国に送ることが、今のオリヴィエール帝国にとって最適解になり得るのか疑問です」
「数年の教育期間を要するからこそ、今、各国は生贄を欲しているのです!」
レスティオのように数ヶ月で前線に出られる聖女は歴史上存在しない。
それでも、厄災が数年に及ぶ事象だからこそ、いずれ国の役に立つと考えられることは理解できる。
「先ほどハイリ皇妃陛下が仰ったように大陸中が聖女を得る為に贄が必要というなら、各国の生贄を集めて大陸として聖女を召喚したらよいのではないですか?各国に分散させるから儀式に必要な贄が集まらないのかもしれませんよ」
「それでは、聖女様がどの国の籍か曖昧になり、争いのもとになります」
利権を巡る戦争の脅威はレスティオ自身参戦した経験があり、理解する。
「共同で召喚したなら国ではなく、大陸籍としてはいかがですか?最終的に聖女様がどの国に属するかは、本人の意向を踏まえて厄災を終えてから決めるなり、儀式への貢献に応じて関係諸国で協議してもいいでしょう」
ハイリは別に大陸のことを真剣に考えているのではなく、生贄を集める大義名分を掲げているに過ぎない。
「大陸の行く末を本気で案じているのなら、国籍など瑣末な問題ではないですか。そんなことに捉われているから聖女不足に陥り、大陸中が危機に瀕しているんでしょう。生贄や魔術師を出資した国同士で利益を分配し、特定の国が不利益を被らないように第三者機関として大陸会議に参加する各国の使者が監督するとか、やりようはいくらでもあるはずです」
「貴方になにがわかるというのですっ!そんなこと出来るわけがないでしょう!」
誰もヒステリックに叫ぶハイリに味方をする様子はない。
夫のユリウスですら呆れた顔で静観をしている様子に、レスティオはどこかで戦略を変えるべきかと考える。
「この世界のことを未だ深く理解できていないことは認めましょう。しかし、生贄を集めるだけ集めても数が揃わなければ儀式は行えないのでしょう?必要な数がどれほどかわかりませんが、生贄を受け取ったところで生かし続けることが国の負担になりませんか?」
「それは……だ、だからこそ、なるべく早く数を揃えなければならないのです」
「ですから、一国で数を揃えるのが大変なら、各国の生贄候補を集めれば、今なら儀式1回分くらいにはなるのではないですか。魔術師も各国から出し合えば、儀式の後の戦力不足も軽減出来て、大陸全体で見れば負担が少なく済むのではないでしょうか」
折角半年に一度集まるのだから、その機会に各国から集めた生贄を集めて召喚に挑めばいい。
上手くいけば、半年に1回、あるいは年に1回ずつ儀式を行うことも可能になるかもしれない。
「当然各国にも思惑があるでしょうが、急を要しているならばそのような次善策も考えて良いと思います。オリヴィエール帝国は儀式を終えたばかりで多くの人材を失い、魔術師が目覚めないことで戦力も衰えている。今の状況下でより多くの生贄を排出するのは、傷口を広げるだけです。まずは、厄災の備えを整えることにもう暫しの猶予が必要と思います」
貴方に何がわかるの、と消えそうなほどに小さな声でハイリはつぶやいた。
握りしめた手と歯を噛み締める様子はなにかに追い詰められているようにも思える。
「コルレアン王国から嫁いできたハイリ陛下は、母国から生贄を集めるように催促を受け続けているのではありませんか?」
「、そ、れは」
「このような情勢下で他国から嫁ぐということは、両国の間にあらゆる思惑があったと想像に容易いことです。オリヴィエール帝国の皇妃でありながら、コルレアン王家との繋がりを断つことも出来ず、心労も多かったでしょう。しかし、貴女はオリヴィエール帝国第一皇妃です。その肩書きを誇りに思う気持ちがあるなら堂々と胸を張り、帝国の未来の為に尽くせば良いのです。情を拭えぬとしても、貴方が帝国のために誠意を尽くすならば、共に策を講じたり協力することは出来ると思います」
ハイリは唇を振るわせると、扇を自分の顔を隠すように広げて鼻を啜った。
「い、言われずとも、私は、オリヴィエール帝国の第一皇妃ですもの。もちろん、帝国の未来を想っております」
「そう仰って頂けて良かった。私は、帝国の未来に有益と確信する者を特待生として選定するつもりです。不要と判断すれば即刻切り捨てます。志が同じならば、どうかご賛同を」
「お好きになさいませ。私は先に下がらせて貰います」
扇で顔を隠したままハイリは側近たちを連れて馬車へと向かった。
それを見送るとレスティオは咳払いをして周囲を見渡した。
皆、一体何の話をしていたのか困惑した顔をしている。
「さて、ネルヴィ・ボートム!」
「はっ!」
雰囲気を変えるべく強く名前を呼んで、指の動きひとつで前に跪かせる。
「皇族の方々が選んだ騎士を相手に圧倒的な戦いぶりは見事だった。皇帝陛下を始めとする皇族の承認のもと、改めて、これより帝都へ帰還するまでの間、聖騎士直属筆頭護衛騎士の任を命じる。その証として、皇室より授けられた魔剣ネメシスを貸し与える」
剣帯を外してネルヴィに差し出せば、首を垂れて両手で剣を受け取った。
恭しく受け取ったネルヴィは、先ほども見せた真剣な眼差しを覗かせた。
「ご期待に添えるよう、誠心誠意お仕えさせて頂きます」
ジャケットの上に魔剣の剣帯も下げた姿は凛々しく、騎士として様になっていた。
「皇帝陛下。折角の余興ですから、筆頭護衛騎士だけでなく他の者たちの実力もお見せしましょうか」
「それはいいですな。かつては剣術大会など催していたのですが、もう暫く開催出来ていませんでしたから」
どこか投げやりにも見えるユリウスの言葉を受けて、挑戦者が募られ始める。
レスティオは椅子に座り直して、氷の溶けたクルールを口に含んだ。
「そういえば、陛下とこうして酒を交わす機会はあまりありませんでしたね。会食ではどうしても腹の探り合いになってしまいますから」
「探っていたつもりはなかったのですが、私もレスティオ様とゆっくり酒を飲みたいと思っていましたよ」
試合の準備が整うまでの間にユリウスに声をかけると、同じくクルールを注いだグラスを手に自然な笑みを交わした。
ユリウスはクルールを好むが、他に愛好者が少なく、共に飲める相手を探していたのだと、ローレンスにボトルを持って来させた。
産地や年代により味わいが異なるのはこの世界でも同じこと。今回はレスティオが酒を好むこともあって、選りすぐりの酒を持参してきたという。
そこにレナルドも身を乗り出して混ざり、名産の果実酒をいくらか持参してきたといいながら、一番はドナで作られた酒を好んでいるとヴィアベルと共に楽しんでいるエルドナのボトルを手にとってレスティオに勧める。
「俺は納得いかん!ネルヴィ・ボートム!俺と手合わせ願おう!」
不意に響き渡った威勢のいい声に、酒談義を中断して振り返る。
東部帝国軍の鎧を纏った男がネルヴィに向けて剣を突き出していた。
「貧民風情が聖騎士様のお側にいるなどふさわしくない!先ほどの手合わせは、どうせなにか小細工でもしたのだろう!」
「カーン隊長の仇を討ってくれる!」
「カーン隊長の言う通り、貴様らは聖騎士様にふさわしいわけがないのだ!」
手合わせに不満を感じていたらしい東部帝国軍の兵が揃って前に出てくる。
ネルヴィは目を瞬かせたが、すぐに表情を引き締めると、ロゼアンとハイラックに剣を構えて前に立つよう指示し、自分も魔剣ネメシスを手にレスティオの前に立った。気配から、後ろでエヴァルトとユハニも警戒している様子を感じ取る。
護衛たちが一斉に警戒体制を取ったことに、東部帝国軍の兵たちは怯んだ。
「その剣、俺に向けたんだろうが、こちらに居られるレスティオ様の姿が見えていないわけではないだろ」
「そ、そうだっ!これはお前に向けているんだっ!」
「たとえそうであろうと、レスティオ様の前に剣先を向けていいと思うなっ!控えろっ!」
ネルヴィの剣幕に押されるようにして剣が下げられた。
「はて、皇族の護衛は今の状況で動かないのか。国内は安全だとでも思っているなら、この場に護衛としている意味はなんだろうな」
席の後ろに控えていた護衛たちはレスティオに指摘されて慌てて前に出た。
ネルヴィたちの行動も遅かったが、動くつもりもないのは護衛として論外だろうとため息をつく。
「貧民は認められん、と皆言っているが、この場において一番優秀な護衛は誰だと思いますか?陛下」
「ネルヴィ・ボートムをはじめ、レスティオ様の護衛騎士たちと言わざる得ません」
「これはお恥ずかしい限りです」
皇族たちの前に出た護衛たちの顔色が悪くなる。
蔑んでいた相手より低い評価を受けるなど、彼らにとって屈辱でしかない。
「レスティオ様。あの者たちはいかがなさいますか?」
「あの程度、末席のユハニで十分だろう。末席にすら勝てない無能が俺の護衛に異議を唱えるなど笑い話もいいところだ」
唐突に名前を出されてユハニは一瞬顔を顰めたが、仕方がないとため息をつきながら一歩前に出た。
「手加減は無しでいいんですよね」
「あぁ。弟の前なんだから、良いところを見せてやれ」
「承知しました」
余興の続きだと皇族たちは酒を注がせ直し、再び周囲は盛り上がる。
「まさか、薬師のチビが出てくるとはな」
「あぁ、こんなチビに俺たちが負けると思われているとは信じがたい」
「お子様はそろそろ寝る時間だろ?辞めるなら今のうちだぞ」
ネルヴィの時は貧民と叫ばれたが、ユハニが前に出るとチビ、お子様、小さいと体格を揶揄する言葉が飛び交う。
「機動力と柔軟性を兼ね備えている分、身体的に劣っているとは言えないと思うけどな」
「東部の兵の前では一層小さく見えますが、レスティオ様に見出されただけのことはあると。楽しみですね」
「騎士を名乗るくせに無駄に弛んだ身体をした連中には決して負けないよ」
レスティオの言葉に皇族たちの後ろに戻った護衛たちが息を呑んだ。
「全員まとめてお相手します」
ユハニがはっきりと発した声に雑談に興じていた者たちの視線が集まった。
気づけばユハニが相手ならばと意気込んだ兵の数が増えていて、誰から挑むか話し合いをしているところだった。
「おいおい、多勢に無勢なら負けた時に言い訳できるってか?」
「それはないぜ、おチビちゃん」
「わかりました。魔物のように首を刎ねてはならないので、剣も抜かないで差し上げましょう。始めてください」
ユハニの据わった目に、前に出てきた東部帝国軍の兵たちは息を呑んで構えた。
ディットは一歩下がって、始めと合図を出した。
瞬間、一人が派手に宙高く舞った。そして、二人目が地面に倒れると、三人目は東部帝国軍の仲間達の方へと放り投げられた。さらには、最初に宙に舞った兵が落ちてくる途中で、腹部に追撃を喰らい、起きあがろうとする仲間の上に叩き落とされる。
程なくして試合は終わった。
怪我ひとつなく終わらせたユハニに歓声が上がる中、レスティオは唸った。
「どうされましたか?」
「いいえ。私の護衛が優秀すぎるのか、東部帝国軍が脆弱なのか、どちらだろうと思いまして」
「面目ありません。厄災に備え、訓練は強化させたはずなのですが」
レナルドが頭を掻きながら悩ましげに倒れた兵たちを睨んだ。
意識を取り戻したザインツが、これ以上殿下の前で恥を晒すなと部下たちを叱っていた。
完全勝利を収めたユハニは涼しい表情で戻ってきて、レスティオの前で勝利を報告する。
「ご苦労様。まさか数ヶ月でここまで成長するとは思わなかった」
「レスティオ様の戦いぶりを間近で見てきたからこそです」
聖騎士護衛部隊の圧倒的な実力を披露して余興は終わりとなり、側仕えたちが就寝の支度に動き始めた。
レスティオも、ヴィムに促されるまま馬車へと入り、湯浴みを済ませて布団に入った。寝る前に聖女の手記を読もうかと思ったが、主人が寝なければ従者が休めないと笑顔で言われてしまったので、大人しく瞼を閉じた。




