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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第48話 激励と暗躍者の影



 大陸会議派遣団の護衛は、魔術師団が動けない今、ダイナ隊の半数とフランドール隊の合同部隊が就くことが決定した。

 また、ブルムヴェールに本拠地を構える東部帝国軍が皇弟周辺の護衛として合流するが、東部帝国軍も召喚の儀に合わせて魔術師を帝都に派遣していた為、編成は騎士団が主力となる。

 兵力不足は否めないが、レスティオが先遣隊と共に行路を進み、途中合流することから危険性はそこまでではないと判断されている。


「なお、先遣隊の編成はレスティオ様の要望も踏まえて、このように致します」

「うん、いいんじゃないか?」


 エルリックから差し出された資料を流し見してレスティオは承諾した。

 本隊との合流を踏まえて逆算した行程表も確認し、地図と照らし合わせて頷く。


「先導は行路視察を行ったネルヴィ・ボートムとユハニ・リトラに任せると良いでしょう。トラントリアム鉱山については、ザンク出身のエヴァルト・クインが詳しいとのことです」

「なるほど。それからハイラックとロゼアンで戦力も十分。しかし、編成が決まるまで随分と時間がかかったな」


 先遣隊の出発予定日は明後日。

 明日は皇帝から謁見の間で出発前の激励を貰う予定になっている。

 エルリックは誤魔化すような引きつった笑みで頷いた。


「今回は騎士団だけではなく関係各所との調整が必要でして、直前のご報告で申し訳ございません」

「それはご苦労様。ちなみに、エヴァルトはギバの駐在勤務ということだが、合流の手筈は?」

「既に帝都に到着しているとのことですのでご心配は無用です」


 既に選抜された兵には連絡が行き、各々準備している。

 先遣隊の面々は本隊合流後は大陸会議終了までレスティオの護衛として就くことになるので、その心構えの教えも事前に必要だった。

 ロゼアン以外は大陸会議のような公的な場の警護に就いたことがないといわれれば、レスティオは納得した。

 ふと、リンジーを横目で見れば、同様に経験の浅い彼も緊張した面持ちだった。

 レスティオが指名してこなかったためとはいえ、着任して一ヶ月足らずでは急拵え感が拭いきれず、皇族の側近たちにもフォローしてもらうことになっている。

 専属に欲しい人材がいないのだから仕方がないと内心言い訳しつつ、書類に承認のサインをしてエルリックに返した。


「では、私からは以上ですので失礼します」

「じゃあ、早く終わったし、先遣隊に声でもかけに行ってこようかな」

「そういうことでしたら、」

「護衛はいいよ。騎士団本部に行くだけだから」


 側近の扱いに細かいルーフがいないのをいいことに護衛を断る。

 レスティオはエルリックを見送ると一人で騎士団本部へと足を伸ばした。

 馬小屋の方に人影を見つけて歩み寄れば、足音に気づいたユハニが愛馬を洗う手を止めて振り返った。


「誰かお探しですか?」

「いや、先遣隊の連中に声をかけておこうと思ってな。ユハニは立て続けの遠征で大変だろうがよろしく頼むよ」

「わざわざご足労頂きまして有難うございます。ヴィルヘルムは先ほど洗いましたので、明後日の出立の準備は万端ですよ」

「助かるよ。有難う」


 近づいてきたヴィルヘルムを抱きとめながら礼を言う。

 数日走らせていないだけでうずうずした様子のヴィルヘルムに苦笑して鬣を撫で回して宥める。

 洗われたばかりで心地よい毛並みに頰を寄せていると、こちらの様子を窺う兵の姿が目に留まった。


「お初お目にかかりますっ!オリヴィエール帝国軍騎士団ファビス隊ギバ駐留部隊所属エヴァルト・クインと申しますっ!」

「あぁ、先遣隊に同行してくれるっていう。レスティオ・ホークマンだ。よろしく頼む」

「はっ!共に任務に付けることを光栄に存じますっ!誠心誠意努めさせていただきます!」


 鼻息を荒くしてガチガチに緊張した様子を見て、ユハニに視線を移すと呆れたように苦笑いしていた。

 他の面々はどこにいるのかと聞けば、ハイラックはトラントリアム鉱山近くの魔物の情報収集の為に自宅に帰っていて明日まで戻らないというので声をかけるのを諦めた。

 ネルヴィとロゼアンは、魔術と剣術の研究を兼ねて魔術学院に通い始めていた。今日は宵の鐘に戻ってくる予定になっており、こちらも諦めざる得なかった。

 ユハニがお越し下さったことは伝えておきますというのに頷いて、訓練場を振り返る。

 剣術の訓練をする者たちがいれば、ナイフ投げや魔術で的を狙う狙撃訓練をする者たちがいて、活気がある。

 準備という準備は全てやってもらっていることもあり、レスティオが特にすることもなく過ごしていた一方で、騎士団は色々動いているのだなと観察しながら騎士団本部へと足を向けた。






「と、いうわけでなにを作ってくださるんですか?」


 頼まれた材料の準備を済ませると、リシェリは目を輝かせてレスティオを振り返った。

 何もすることが無いし、部屋にいてもルーフに小言を言われるだけなので、騎士団本部の厨房を借りることにした。

 やっぱり聖騎士様は暇なのかと嫌味のようなことを言いつつ、ケンリーも窯の準備をしてくれている。

 麦粉に卵と花の蜜を加えて混ぜ合わせて少し硬めに生地を作り、形をひとつひとつ整えて窯に入れればクッキーができる。


「簡単にこんな美味しいお菓子ができるとはっ!レスティオ様は天才ですねっ!」


 魔力結晶で作った型を両手にリシェリは次々生地を型抜きしていく。

 ケンリーには薬草や野菜をすりおろして入れると栄養も十分取れるだろうと声をかけ、何を試すか相談する。


「比較的日持ちもするから、遠征に持たせても重宝すると思うんだ」

「なるほど。そういうことであれば、大陸会議に行く連中に持たせるようにします」


 焼きあがったクッキーをつまみながら心得た様子で頷くケンリーに礼を言って、ついでに夕飯作りも手伝って部屋に戻る。

 夕食も済ませたい思いはあったが、側仕えに事前連絡無しで騎士団で夕飯を食べることは出来ない。そもそも、ルーフは騎士団での食事など遠征時しか認めてくれない。

 いつも通り、部屋で味のない食事を終えて読書で時間を潰して就寝する。

 翌日は皇族との謁見や会食があるということで正装が用意された。

 デザインは以前とほとんど代わり映えしないが、細やかに施された金の刺繍から仕立て屋の気合が感じられる一着だった。

 残念ながら、大陸会議のお披露目用の衣装は先遣隊の出発に間に合わないので、当日まで袖を通すことはない。どんなデザインになるのか気になっていたが、仕方がない。


「なぁ、ルーフ。陛下から激励を受けるなら軍服でいいんじゃないか?」

「なにをおっしゃいますか。レスティオ様は陛下と並んでお座りになられるでしょう」

「ん?」


 謁見の間に案内されるとそのままユリウスの隣の席を促された。

 反対隣にはハイリが座っていて、入場してきた先遣隊の面々が目の前に跪いた。

 レスティオは、先遣隊が皇帝陛下から激励を受けるとしか聞いていなかったので、こういうことかと理解して表情を繕った。

 

 先遣隊の代表としてユリウスと話すのはネルヴィだった。

 年齢で言えば先遣隊の中ではハイラックが一番上だが、正式な場では魔術の有無や家格も踏まえて序列が決まる。

 ならば、代表はロゼアンではないのか、と疑問に思いつつ、先遣隊の先導役はネルヴィなので実質隊長ということなのだろうと理解する。

 必死に練習してきたとわかる受け答えで緊張した様子を見せるネルヴィを眺めているうちに先遣隊の謁見は終わった。

 発言の機会があるかと思いきや特に出番はないまま先遣隊の退場を見送る。


 そして、その後も派遣団が役割ごとに分かれて次々と訪れるのをただ見つめて過ごした。

 謁見の時間が終わると、間も無く夕食の時間ということもあり、部屋まで戻らず控えの間に通される。

 ルカリオがついていたならば気を抜いたところだが、ルーフとリンジーは落ち着ける雰囲気を作ってはくれない。


「レスティオ様、夕食の席が整いました。ご案内致します」


 出迎えを受けて夕食の席に向かうと、ユリウスとハイリ、そしてロデリオが待っていた。

 クラディナは体調不良というが、顔をあわせるのを避けているのだろうと察する。

 ユリウスの筆頭側仕えであるローレンスがレスティオを上座へと促す。


「本来なら皇族より上の席に座る者がいるなど、あり得ないことなのですけどね」


 促されるがまま腰を下ろすとハイリが口元に扇を広げてため息をついた。

 レスティオは自分で席を選んだわけでは無いので、ユリウスの後ろについたローレンスを振り返った。


「だそうだよ、ローレンス」

「聖騎士であるレスティオ様にはそちらのお席をと皇帝陛下より申しつけられております故、本日のお席に間違いはございません」


 リンジーならばびくりと肩を揺らしたところだが、ローレンスは動じることなく応じる。

 それにハイリはふんっと鼻を鳴らして不満そうな顔をした。


「えぇ、陛下のご意向は承知しておりますわ。私は常識の話をしただけです。レスティオ様はまだその点疎いと聞いておりましたので、大陸会議では十分お気をつけ下さいませね」


 さぁ始めましょうとハイリは扇を畳んで後ろに立つ側仕えに差し出した。

 気をつけるも何も席を用意するのは側仕えで、この場の席順を指定したのは主催であるユリウスであり、大陸会議でもレスティオが席順を決めることはない。

 ユリウスとロデリオに視線を向ければ申し訳なさそうな顔をしているのを見て、追及するのを一旦控えた。


「では、皆、グラスを」


 ユリウスがグラスを取ると揃ってグラスを手に取る。

 ふと、レスティオはグラスに注がれたオルドナを見て違和感を覚えた。

 ユリウスの発声で会食が始まったが、グラスに口をつけずに香りを確かめる。


「レスティオ様には先遣隊としてお手数をお掛けすることになりまして申し訳ございません。明日の出立の準備はもうお済みでしたか?」

「えぇ、ロデリオに付けて貰った側仕えが整えてくれたので問題ないでしょう」

「ロデリオ殿下、と、おっしゃいませんと。言葉遣いにもお気をつけくださいな。大陸会議でもそのような言葉遣いでは、教育が出来ていないと我が国が恥をかくことになりますわ」


 ユリウスに何気なく答えるとハイリがすかさず口を挟む。

 ハイリの態度にルーフと同じ雰囲気を感じて、レスティオは笑顔を繕った。

 横目でロデリオを窺えば、あえて気づいていない振りをされているのがわかった。

 彼女もまた聖女の実情を知らないのかとため息を飲み込む。


「あぁ、そうですね。対外的な場では言葉遣いには気をつけましょう」

「えぇ、是非ともそうなさって。はて、レスティオ様の礼儀作法の講師はどなただったかしらね」


 言外にまだ指摘したいことがたくさんあるのだと言う。

 部屋の空気が少しずつ探り合うような緊張感を帯び始めた。

 レスティオは一度は飲み込んだため息を吐き出し、グラスに口をつけないままテーブルに戻した。


「ハイリ。それくらいにしなさい。レスティオ様、気分を害されたなら申し訳ございません」

「別に。それより、ローレンス。このオルドナのボトルをもらえるか?」

「、レスティオ様。お酒を好まれるとはお聞きしておりますが、皇帝陛下を前にそのような態度は如何なものでしょう?」


 ハイリの小言を無視してローレンスに差し出されたボトルを受け取ると、レスティオは控えている側近たちへとグラスを差し出した。


「誰か毒味を」


 レスティオの側近のみならず周囲に控えていた者達がぎょっとして顔を見合わせる。


「な、なにをおっしゃいますの?毒味は既に済んでおります。このような場で疑うなど不敬です」

「目の前で毒味を確認したわけではないですからね。それとも、確認されると困ることがありますか?」

「そんなことあるはずがないでしょう」


 ハイリの瞳に揺らぎを見つけてレスティオは目を細めた。

 その後ろの従者は、困惑とは違う焦りを表情に見せていた。


「別に毒味は誰でもいいが、俺の側仕えであるルーフかリンジーに頼もうか。どちらがこのグラスを飲んでくれる?」


 いいながら銀食器を風で浮かせて、次々と照明に透かしては薄くコーティングするように塗られた跡の色合いが変わる様子を観察する。


「実は、ここ数日、部屋に運ばれる食事に毒が盛られていたんだ。丁度、解毒の聖の魔術の資料を見つけたところだったし料理を焼き消したり食器を洗い流せば済むから、多少の悪戯は目を瞑ろうかと思っていたんだが、皇族との席で食器全てに毒を塗るとは思い切ったものだな」


 自分の前に並べられていた食器を全て眺め終わると、さぁ、とルーフとリンジーを振り返ってグラスを揺らした。

 部屋では食事の給仕もしていた二人の表情は青ざめていた。


「俺の勘違いかもしれないが、万が一毒が盛られていたなら、この酒や食器を用意した誰かが聖騎士殺しを目論んだことになる。いや、俺が聖の魔術を使えることが証明された今、聖女でないことは国にとって瑣末な問題。ともすれば、オリヴェールを厄災で滅ぼそうと言う国家反逆の罪すら疑われるところだろう」

「そんなっ……」

「穏やかじゃないな」


 そう言いながらロデリオは自分の手元にあったオルドナを飲み干した。

 どよめきに構わず空になったグラスを置いてレスティオに手を差し出す。


「こちらは問題ないようだ。そちらのボトルも確認しようか」

「そのようなこと皇族が確認するものではありませんわっ!早く毒がないことを確認なさい」


 冷静なロデリオに対し、ハイリは取り乱し気味に自分のグラスを後ろにいた側仕えへと押し付けた。

 そしてそのまま周囲の従者たちを睨みつけ、毒味を急がせる。

 緊張した面持ちでリンジーが前に出てレスティオのグラスを震える手で取った。

 注目を集める中、深呼吸を繰り返した後、中身を一気に飲み干した。

 そして、はぁっと息をついた直後、リンジーは息を詰まらせてグラスを床に落とし、床に膝をつくと体を痙攣させながら倒れた。


「リンジーッ!」

「グラスに毒の跡がついているぞっ!この色はマリスギフトだっ!」


 周囲が慌てふためいて動く中、レスティオは風の魔術で割れたグラスの欠片をひとつ拾い上げると内側にマリスギフトと呼ばれた毒の跡を確認した。


「レスティオっ!先に聖の魔術を!」

「ソレが俺を殺そうとした犯人でないという証拠は?」


 叫ぶロデリオに緑色に色づいた毒の痕跡を観察しながら返す。

 食器の表面に付着しているのは透明だが、グラスの欠片に付着した跡は緑色であることを考えると化学反応で変色したことが考えられる。

 変色だけなのか、毒性がどのように変化するのか興味深く思いつつ、テーブルにグラスの欠片を置く。

 毒物の資料はどこにも所蔵されていなかったが、ユハニならなにか知っているだろうかと思案していると、ロデリオにもう一度名前を呼ばれた。


「この者は毒味をしただけだろ!?犯人なら自ら毒を飲むわけがないっ」

「毒と知っていたから飲む前に震えていたのかもしれないぞ。ばれると思わず自死を選ぼうとしたのかもしれん。そうなれば、リンジーを側仕えにと推薦した者の関与も怪しくなるな」


 痙攣しながら苦しんでいたリンジーが意識をなくし、場が騒然とする。

 ロデリオだけではなく縋るような目を向けられて、レスティオはため息をつきながら席を立った。


「この場で毒を盛った犯人という証拠はないが、ルーフとリンジーがこれまで俺に毒を給仕していたのは事実。気づかず利用されていただけなら無罪放免で構わないが、今は確証が無い以上、俺の側近からは外してもらえるかな」

「わ、私たちはなにもしていませんっ!」

「ルーフ、今は黙れ。信用をなくした側仕えを置くわけはいかない。二人とも現時点をもって聖騎士付きの任を解く」


 元主人であるロデリオに解任を言い渡され、ルーフは絶望した表情で一歩引いた。


「我、聖なる力を行使する者なり。彼の者に癒しを与えさせ給え。イ・ヴェール・クラレアーノ」


 ゾフィー帝国のかつての聖女ミレイナの本にあった詠唱を唱える。

 どれだけの種類の毒に効果があるのか未知数だが、少なくともこれまで盛られた毒は全て解毒できている。

 癒しをかけてもリンジーの意識は戻らなかったが、呼吸していることを確認すると、ユリウスを振り返った。


「さて、出立前に愉快な席を設けて下さって有難うございます。魔物の討伐は予定通り行いますが、その後の事は状況次第と致しましょう」

「れ、レスティオ様、それは、」

「安直にそこの者らを裁いて済ませるような的外れな誠意は、却って敵意と捉えられることもあるとご理解ください。では、合流の日を楽しみにしております」


 含みのある笑みを残してレスティオは部屋を出た。

 少し歩いたところで慌ただしく後を追って来るマルクに気づいて少しだけ歩速を抑える。


「レスティオ様っ!このようなことになってしまい、申し訳ございません。側仕えについては至急代わりを用意しますので、」

「信用に値しない者を適当に付けられるくらいなら、いない方がマシだ」

「はっ、はい。ぁ、いえ、しかし、」


 咄嗟に頷いたが、それではいけないと食い下がろうとするマルクにレスティオは足を止めて向き直った。


「今は側仕えを気にかけている場合か?」

「いえ、レスティオ様を毒殺しようとした者を捕らえるのが先決です。ですが、」

「わかっているなら、未だ俺に敵意を向けている犯人をきちんと公に引きずり出してこい。誠意以前に、敵意には敵意で応えさせてもらう」


 マルクが大陸会議を優先して考えているのは理解するが、毒殺を企てる者がいるという穏やかでない状態で国や大陸の為に戦うなど挨拶する気はない。

 部屋に給仕される料理の毒だけなら、側仕えか料理人が罰せられて終わる。

 それでは、外交の為の生贄を欲している者の策略に乗せられているようでつまらないからこれまで黙ってきた。

 だが、皇族との席でも毒を盛れるような者なら話は別だ。

 あえて見過ごした者が皇族周辺にいなくては成立しない状況に対し、どのような結論を出すのか。


「今回は犯人を取り逃がさないように迅速な対応を頼むよ」

「ぁ、は、はいっ!かしこまりました」


 今度こそ部屋に戻り、部屋の物にクラディナの時のような魔法陣が刻まれていないことを確認していく。

 ルーフやリンジーに部屋のことを全て任せるようになってから、クローゼットの中や棚の中を自分で確認することはなかったので念のため警戒する。

 家具を見回ったところでルカリオが部屋に入ってきた。

 その表情は強張っていて誰からか事情を聞いたのだろうと窺えた。


「ルカリオ。そこのティーセットを十分に洗浄したらお茶を淹れてもらえるか?少し気が立っているので落ち着けるブレンドがいい」

「はいっ!かしこまりました!」


 ルカリオが淹れるお茶は久しぶりだった。

 早速、水差しやティーセットの洗浄を始める様子を横目に、遠征の荷物を確認して魔力結晶で鞄の表面を覆う。

 レスティオの魔力結晶は簡単に解くことができないので、こうしておけば誰にも触れられない状態となる。

 最近では机の引き出しや手記にも魔力結晶を張っているが、たまに若干解かそうと試みた形跡があるので油断ならないのだ。


「あの、お召し替えはされなくてよろしいのですか?」


 ルカリオに言われて未だ正装のままだったことに気づく。

 ルーフはレスティオが自分で着替えるのを認めないが、ルカリオは全て自分でやると言うレスティオを尊重しているので着替えに手出ししてくることはない。

 ルーフの姿勢を知っているだけに手伝うべきかどうか迷っている様子も窺える表情に苦笑して上着を脱いだ。

 すかさず、洗浄の手を止めて脱いだ上着を片付け始める。


「、着替えついでに湯浴みをしてくるから部屋を見ていてくれ。来客は誰であっても応じないからそのつもりで」

「はい。では、その間、しっかりティーセットを消毒しておきます」


 側仕えとして湯浴みの手伝いをすると言い出さずに、これまで通り意図を汲んでくれるルカリオに部屋を任せて浴室に入った。

 湯上りには軍服に着替えたレスティオにルカリオは驚きを見せたが、すぐに心得た様子で眠気覚ましの効果がある薬草をブレンドしたお茶を用意した。

 夜が更けてきた頃合いでルカリオを下がらせ、手記を書いたり本を読んで朝まで時間を潰す。


「レスティオ様、朝食はいかがなさいますか?」

「結構だ。この前騎士団本部で作った菓子を摘んでいたから問題ない」


 そう言ってルカリオの口に残っていたクッキーを押し込む。

 素直に頬張って美味しいと笑顔を見せるルカリオに少しだけ気持ちが和んだ。


「ぁ、先遣隊の皆様はもう出立の準備を整えて、先ほど東門に移動を始めました」

「そうか。なら俺も行こうかな」

「お荷物は運ばせてください!」

「どうぞ」


 ルカリオなら大丈夫だろうと鞄を預けると、剣を腰に下げて部屋を出た。

 部屋の前には鎧姿のエルリックとドレイドが控えてた。

 彼らが不寝番をしていたのかと思いつつ、あえて声をかけずに歩みを進める。




 

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