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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第46話 聖女の噂



 ジンガーグ隊が帰還すると早速行路視察の報告会が開かれた。

 行路視察では国境付近にあるトラントリアム鉱山の中腹に遠目で視認できるほどの動物の群れが確認されており、魔物と推定されることから満場一致で先遣隊の派遣が決まった。

 レスティオのトラントリアム鉱山にあるザンクの町で聖女の資料を確認したいという要望を踏まえて日程の調整がされることになったが、その件はドーベル家には知られぬように箝口令が敷かれた。未だそのような対応が必要なのかと思うレスティオを他所に、皆心得た様子で先遣隊や大陸会議の準備に取り掛かった。






 各所が大陸会議の準備に追われる中、レスティオは魔術師団本部のモルーナの執務室でのんびりお茶を貰っていた。


「急にお招きしてごめんなさいね」

「いや、部屋は準備で慌ただしいから誘ってもらえてよかったよ」


 アッシュは、レスティオが生活にも討伐にも困らないだけの魔術を身につけたこともあり、本業である魔術学院高等過程の職務に戻った。

 そのため、今後、魔術に関して相談事があれば全てモルーナを通すことになり、今日はそれを踏まえて整えられた場でもあった。

 ドナの遠征の話は報告書で伝わっていたので、世間話程度に軽く触れて話題は移っていく。


「そうそう、今度の大陸会議に私の娘が同行するのよ。研究熱心なところがあるから、勢い余っておかしな言動があるかもしれないけど、多目に見て貰えると有難いわ」

「娘?魔術師団は同行しないというから、もしかして文官か?」

「文官といえばそんなこともしているようだけど、ブルムヴェールに住んでいるの。行路の途中で合流するという話は聞いていない?」

「あぁ、皇弟の一団が合流するというのはマルクから聞いてる」


 オリヴィエール帝国の大陸会議への参加者の名簿も貰ったが、ジャスミーの名前はレスティオの記憶にはなかった。

 娘というから結婚して改姓しているのだろうかと首をかしげる。


「その皇弟の妃殿下が娘なの」

「たしか、ヴィアベル・オリヴィエール、だったか?」

「あら、よく覚えているわね。流石レスティオ様だわ」


 皇弟妃殿下の母と思ってモルーナを見ると、クラディナの夜襲の件の後始末に魔術師団の相談役である彼女が派遣されてきたことに加え、その後、ユリウスに直接報告に向かえた理由が理解できた。

 モルーナ曰く、ヴィアベルは幼少から魔術研究家であり、元魔術師団の上位魔術師であり、元皇妹の筆頭護衛魔術師であり、現皇弟妃殿下でありながら聖女主義否定派であるという。


「皇族なのに聖女主義を否定するのか?」

「正しく言えば、聖女の血筋を、ね。聖の魔術を扱えないのに何故権威を誇っているのかと何度文句を聞いたことか」


 皇族になったが故にドーベル家や聖女の血筋に連なる者との接点が多いが、表立って文句を口にすることは出来ないので親娘で会える機会があると必ず愚痴が出る。

 ドーベル家は聖女の血筋にこだわっているものの、近年は魔力量も質も落ちてきていると密かに囁かれている。

 魔力的な権威を取り戻そうと魔力の強い者を引き入れるのに必死で、ヴィアベルもレナルドとの婚約が決まるまで頻繁に声をかけられていた。

 レナルドから一方的に見初められていただけだったが、ヴィアベルはドーベル家との婚姻を避けたいという理由だけでレナルドの求婚を二つ返事で受けたほどに聖女主義者を嫌悪している。


「ドーベル家が曰くつきの家系だろうというのは察していたが、ヴィアベル皇弟妃殿下の話は興味深いな」

「この話を聞いてそう思われるのはなんとも言い難いのですが、それはさておいても彼女は魔術の応用法など研究していたので是非とも聞いてあげてくださいな」

「覚えておこう」


 しかし、皇弟妃殿下なのだから皇弟を差し置いて時間を取ることは出来まいと思案する。

 皇弟との酒席という話もあったが、そこに誰が参加するのかが問題だ。


「あと、大陸会議に関連することだと、こんな噂は耳に入っているかしら?」


 思わせぶりに前振りするモルーナにレスティオは思考を切り替えて話を促す。


「ゾフィー帝国がレスティオ様とほぼ同時期に聖女様の召喚に成功したそうよ」


 ゾフィー帝国と聞いて大陸の地図を思い出す。

 オリヴィエール帝国の西隣に位置し、エディンバラ大陸の先の厄災で聖女ミレイナ・シルヴィーを召喚した国だ。


「けど、年若いお嬢さんのようで、中々、レスティオ様みたいには動けていないみたい。まぁ、それが普通は普通なのだけどね」


 当初のマルクの説明では、聖女の教育期間に数年を費やすとあったことを踏まえると、そろそろ状況を飲み込んだかどうかだろうと推察した。

 女性が召喚されるのが当たり前とはいえ、何の訓練も受けていない状態でどのように適応していくのか興味はあった。

 同時期に召喚されているのであれば、レスティオ自身との比較対象としてわかりやすいサンプルといえる。


「ということは、今度の大陸会議にその聖女様も出てくるわけか」

「いいえ。聖の魔術が扱えるようになって初めて大陸会議で紹介するものですから。当面は表向き黙秘を続けるでしょうけど、こうして噂としては漏れてしまうのよね」


 噂が漏れるとどういうことが起きるかといえば、聖女になれる者がいるのだからと召喚出来ていない国が優先的に聖を冠する国からの支援を受ける、ということになる。

 しかし、聖の魔術を使えない聖女を抱えている状況で支援が不要かと言われれば、決してそのようなことはない。

 オリヴィエール帝国の魔術師団も儀式に参加した大半は未だ眠りについている上、内一割はこの数ヶ月の間に死亡が確認された。

 ゾフィー帝国でも同様の状況が想定され、戦力的に危機的状況下で支援も無く、早急に聖女を育てられなければ国は近いうちに立ち行かなくなる。


「ゾフィー帝国が滅べば、その領土を無法地帯にするわけにもいかないから、隣接するオリヴィエール帝国とノーランド王国が支援をすることになるでしょうけど、ノーランドはもう三年前に召喚に失敗しているの」


 つまり、ノーランド王国は生贄も魔術師の手も足りていない状況なので聖の魔術による支援は期待できない。

 ゾフィー帝国が他の大陸からの支援をどれだけ引き出せるか、聖女がいかにこの世界に適応するかが鍵となる。


「レスティオ様がすぐに魔術を覚えて前線に出てくれているからこそ、オリヴィエールは順調に厄災の対応を進めているのよね。本当にレスティオ様が来てくれて有難い話だわ」

「そう言って貰えると嬉しいな。しかし、となると、ゾフィー帝国の身の振り方は勿論だが、オリヴィエールとしてもどう外交の手を広げるかが課題だな」

「まぁ、まずは、コルレアンを支援する動きにはなるでしょうね。大陸会議に出向くのはコルレアン出身のハイリ皇妃陛下ですから」


 戦略が重要な局面でコネを持ち込む存在がいることにレスティオはため息をつきながら唸った。

 コルレアン王国も隣国ではあるが、聖女候補がいる国とこれから召喚の準備をしてどうなるかわからない国を天秤にかけた際、どちらに協力するのが国の利益であり厄災の収束に効果的か。

 おそらく多角的な捉え方が大事になるし、国同士の駆け引きも難しいものになる。


「召喚された者が聖女として機能するようになれば、その分大陸各国に望まれる結果にはなるよな」

「えぇ、けど、それにどれだけの時間がかけられるか。聖の魔術の習得だけで十年近く費やした方もいたみたいですから、そこも重要なポイントかしらね」


 今から十年といえば厄災が終息する頃合いと想定される。

 復興支援、という意味では重宝されるかもしれないと思いながらレスティオは天井を仰いだ。

 とはいえ、自分には外交に関してなにか交渉する権限があるわけではないし、国政に口を出せるだけの情報を持っていない。

 当面は様子見だと自分に言い聞かせてお茶を飲む。


「しかし、モルーナはどこから聖女の噂を聞きつけたんだ?ゾフィー帝国の国家機密だろ?」

「あまり大きな声ではいえないのだけど、ゾフィー帝国と縁がある方が情報をくれたのがきっかけ。詳細には別のルートでね」

「酒場か、イアンナの店あたりかな」


 濁した直後に確信的に言ったレスティオにモルーナはきょとんと驚いた顔をした。

 諜報訓練も任務も経験していて、酒場や賭場、風俗の類は裏の情報が集まりやすいことは知っている。

 そもそもイアンナの店は、モルーナに他国の情報を集めるのにいいと紹介されたのだから真っ先に思いついた。


「酒と女は男の口を滑らせやすくするからな」

「そういうものなのね。私からはあまり言えたことじゃないから、興味があるなら行ってきたらいいわ。ああいう店の女ほど口が堅いものだけど」

「そうだな。娼婦を買う趣味はないが、たまには戯れもいいかもな」

「そう。じゃあ、今日はこれくらいにしましょうか」


 夕食の時間までには戻らなくてはならないが、まだ時間はたっぷりとある。

 モルーナの執務室を出ると、一度私邸に寄って城下町用の服に着替えてからイアンナの店へと向かった。



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