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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第43話 休息の日



 後片付けと買い出しをヴィムとメノンに頼み、レスティオは着替えて城下町へと出かけた。

 戴冠式でお披露目になったら自由には出歩けないだろうなと思いつつ、街並みを見回して歩く。

 最初の目的地に到着すると店内を覗き込み店員の姿を探した。


「ジェオ」

「、おぉ、また来てくれたのか。今日は一人か?」


 商品棚を整理していたジェオが振り返って駆け寄ってくる。


「あぁ、この前は服届けてくれて有難うな。調整して作ってくれたものも丁度いい仕上がりで気に入った」

「そりゃよかった」


 着ている服を指していえば、ジェオは満足そうに笑みを浮かべた。

 新しい服が並んでいるのを横目で確認しつつ、目的を忘れないうちにとカウンターにフィグの瓶を置いた。


「ドナの方に出かける用事があって土産を買ってきたんだ」

「ぇ、いいのか?これ、母さん好きなんだよ。ありがとな」

「ドナではこれをパンに練りこんで食べていて、結構美味しかったぞ」

「パンに?これを?へぇー、そんな食べ方もあるんだな。ぁ、それより、今日もなんか注文あるのか?」

「そうだな。腕がいいのはわかったし、新作を見せてもらおうかな」


 フィグより服を見て欲しい様子のジェオに促されて、新作が並べられた棚の方へと向かう。

 他に客がいないのをいいことにジェオはレスティオの隣でこれはどうかと服を何着か勧めてくる。


「これはレティみたいにほっそい人でも太った人でも着られるように、紐で調節できるようにしてみたんだ」

「それはいい発想だな。じゃあ、それとこれと二着買わせてもらうよ。今日は持って帰る」

「かしこまりました!」


 会計をしてもらいながら店内を軽く見回して、シンプルなデザインの服たちを眺める。

 ほとんどが色や素材が違うだけで代わり映えしない。

 街の人たちの服装を見ても大体皆同じような服を着ていることが、レスティオには不思議に思える。


「他にも気になる服あったか?」

「いや、羽織物もいくつか欲しいと思うんだが、ジェオに頼めば欲しいデザインで作ってくれるか?」

「俺?服を作るのはそりゃ趣味だけど、いいとこの坊ちゃんなら家にお抱えの仕立て屋とかいるんじゃないのか?」


 仕立て屋は貴族向けの服しか提示してこないし、大陸会議や戴冠式に向けた衣装作りで大忙しだ。

 普段着なら素材もデザインもジェオの作った服の方が向いている。


「こういう発想が無いんだよ」


 今しがた購入した服を指差せばジェオの表情が緩み、要望を聞いてくれる。

 それに甘えて紙にイメージを描き出して伝えると、どう作っていこうか目を輝かせて思案し始める。

 楽しげな様子を眺めつつ、レスティオは前金として銀貨を一枚出した。


「いやいや、今受け取ると親父に怒られるから」

「材料費が無いとジェオも作れないだろ」

「それはそうだけど、俺は服屋で、商会に登録した服職人じゃないからさ。服を作るってことに対して代金を受け取るわけにいかないんだよ」


 商売をするのに商会など業者同士の付き合いがあるのは理解出来るので一旦銀貨を下げた。

 しかし、市政については学んで無いので興味本位でカウンターに身を乗り出す。


「あそこに服を置いて売っているのとなにか違うんだ?」

「本当はダメなんだけど、商会の人が特別目を瞑ってくれてる。どうせ売れないって思われてるっていうのもあるんだけどさ」


 未だ身内とレスティオしか購入者がおらず、先日服が売れた時に相当両親に驚かれたという。


「それは例えば、俺がパトロンになったりすれば認められるものなのか?」

「気持ちは有難いけど、俺はこの店の後継ぎだから服作りは趣味以上には出来ないよ」

「別に既存の取引はそのままで、その店のブランドを新しく作るっていうのは有りだと思うんだけどな。あるいは、ジェオのデザインを服職人に売るとか、折角センスはいいのに勿体無い」

「ブランド?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げるジェオに、その店独自の商品だと教える。

 服のどこかに独自の紋章を付ければ特にブランドっぽいと伝えると面白そうだとジェオも乗り気になり始めた。

 今後もジェオの服を買うためにはどうするべきか話しが盛り上がってきたところで他の客が入ってきたので話は一旦中断となった。


「それじゃあ、また。次も楽しみにしてるよ」

「おう、期待しとけっ」


 戴冠式前にまた何度か来ようと決めて歓楽街の方へと足を向ける。

 人通りはまばらでイアンナの店の周囲も静かだった。

 店は開いていないかと思いながら窓を覗くと、ドアが開かれた。

 艶っぽいドレスを着た女性が眠たそうな顔で姿を見せる。


「こんな時間からご用?」

「いや、イアンナに先日借りた本を返しに着たんだが、今休んでるところかな」

「イアンナのお客様なの?まぁ、いいわ。イアンナ、素敵な殿方がご用ですって」

「一体誰だい?あぁ、レティか。書部屋なら好きに使いな。私らは夕の鐘まで休憩時間なんだよ」


 眠る女性の姿もあれば、化粧をしている者や話に夢中になっている者たちもいる。

 イアンナはカウンターの奥の椅子に座ってゆったりと本を読んでいた。


「それは悪かった。本を返したかったのと、用があってドナまで行って来たから、そのお土産を持って来たんだ」

「フィグじゃないか。酒のつまみにでもさせてもらおうかね」

「今日は時間があるから書部屋を借りたいんだが、いいか?」

「じゃあ、本は戻しておいてくれ。後でお茶くらい持って行ってやるよ」


 書部屋に入って本を戻すとその隣の本を手に取った。

 エディンバラ大陸史と書かれた古びた本には百年前からの十年分程度の歴史がびっしりと記述されていた。


「また随分古い本を読むのね」

「、ルミア。お茶、有難う」

「いいえ。それじゃ、ごゆっくりどうぞ」


 ルミアは少し眠たそうな顔でお茶だけテーブルにおいて部屋を出て行った。

 延々と本を読み続け五年分読みきったところで時間を確認すると丁度夕の鐘が鳴り響いた。


「そろそろ帰るか」


 香茶を飲み干して本を棚に戻すと、部屋のドアが開いてルミアが入って来た。


「あぁ、まだいたのね。お茶のおかわりは?」

「いや、今日はもう帰るよ。休み時間に邪魔して悪かったな」

「別に。来たって誰を指名するわけでもないんだからいいわよ」

「じゃあ、今度は大陸の歴史について語らうか?」

「いいわね。勉強しておくわ」


 特に勉強する気はなさそうに言いながら見送られ、レスティオは店を出て邸に戻った。

 キッチンからは料理の香りが漂っていて、静かにそちらへ足を向けると野菜スープとフィグ入りのパンの仕込み中だった。


「あぁ、お出迎えもしないで申し訳ございません」

「この家ではそんなの気にしなくていいよ。出迎えもいいが、美味しい食事の方が嬉しい」

「まぁ、レスティオ様はまだまだ食べ盛りですのね」

「実は城の食事があまり口に合わなくてな。元々料理にはそこまでこだわりが無かったんだが、色々と恋しくなってるところなんだよ」


 昼食を共にした二人は納得したように頷いた。

 夕飯の支度は任せ、レスティオは酒席に向けた料理を作り始めた。






 城に戻るとルカリオがクローゼットの中を整えていた。


「ただいま。ロデリオと日程の調整はついたか?」

「はい。今晩、酒席を設けさせて頂くことになりました。レスティオ様からの招待と聞いて非常に喜ばれていたと聞いています」

「それは良かった。ルカリオ、酒席の前に今晩の料理を食べてみてもらえるか?」


 レスティオは手に持っていたカゴから皿を出してテーブルの上に料理を置いた。


「ぇ、よ、よろしいのですか?」

「味見用に分けておいたんだ。給仕する料理がどんなものか側仕えとしては知っておくべきだろ?」

「有難うございます。ぁ、しかし、ここで頂くのは、」

「食べたら感想を聞かせてくれ」


 テーブルの上に準備を済ませて手招けば、躊躇いつつも椅子に座ってくれた。

 マルクから受け取った資料では、ルカリオは朝の時間やレスティオがいない間はやりきれないほどの雑務を与えられ、誰にも手伝ってもらえず苦労しているという。

 

 城の使用人は、城仕えとして城内のあらゆる雑務を担い、経験を積んでいく中で一握りの優秀と認められた者だけが側仕えとして昇格することが出来る。

 そんな中、ルカリオは城仕えとしての経験はわずか一年程度。

 偶々、マルクが自分の息子で無理を命じやすかったという理由だけで、あの晩レスティオに付けられ、そのまま側仕えに昇格してしまった。

 側仕えの中では下っ端も下っ端、城仕え達からすれば異例の出世で妬み嫉みの対象。

 レスティオを通して関わるため、ルカリオが接する側仕えは皇族の側仕えの中でも筆頭クラスが主。

 その筆頭クラスが目を掛けるとそれはそれで妬みの対象となってしまうので、ローレンスやアズルも周囲の出方を窺いつつフォローしているのが現状だった。

 

 そんな中でも側仕えとして精一杯やろうと頑張っているルカリオに、レスティオはやはり側仕えはルカリオがいいと思ってしまう。

 レスティオを気にかけつつ料理を咀嚼する様子を眺めながら、向かいの椅子に腰を下ろした。


「どうだ?」

「美味しいです。これはなんという料理なのですか?」


 目を輝かせながら二口目を頬張るルカリオにキッシュだと教える。


「キッシュ……初めて食べる味です。レスティオ様はこのような味を好まれるのですね」

「それ、卵と芋を使ってるんだ」


 笑顔で言うと咀嚼する口の動きが止まった。徐々に震えだすルカリオに笑いをこらえる。


「美味しいってさっき言ってくれたじゃないか」

「言いましたけど、ぇ、これが、芋?卵?どこがどうなったら、こんな美味しくなるんですか」

「料理って不思議なものだろ?」

「はい!」


 食べ終えたルカリオに料理の説明をして酒席の準備を任せた。

 その間にレスティオは入浴を済ませて、ロデリオの到着を待ちながら手記に向かう。


「レスティオ様、ロデリオ殿下がいらっしゃいました」


 筆記用具と手記を手早く片付けて立ち上がり、ロデリオとその側近達を迎え入れる。


「お招き頂き感謝する。立て続けの遠征、ご苦労だったな」

「面白い発見もたくさんあったけどな。まぁ、座ってくれ。良ければアズル達も。食べさせたいものがあるんだ」


 レスティオの誘いに、ロデリオが頷いて側近たちを座らせた。

 事前にルカリオから話が通っていたこともあり、躊躇いなく腰を下ろしていく。


「本来は側近は席につくものではないんだがな。特別なことだぞ」

「レスティオ様とロデリオ様の酒席に同席させて頂けて恐悦至極にございます」


 アズルが本当に恐縮した様子で頭を下げるのに、レスティオはすぐ頭を上げさせた。

 本来同席させるべきでないところに無茶を言ったのは自分なのだから恐縮されては困る。


「そう構えるな。俺が気楽に話をしたくて無理を言ったんだから」


 皆が席に着くとルカリオは緊張気味にエルドナのボトルを手に取った。


「本日は、レスティオ様がドナ遠征での持ち帰られたお酒と、手ずからお作りになられたキッシュとフィグを使ったパンをご用意しております。キッシュはレスティオ様の世界で食されている料理で、エルドナやオルドナとの相性が良いそうですので是非一緒にお楽しみいただければと思います」


 ルカリオは必死に覚えた酒と料理の説明を済ませて、各々のグラスにエルドナを注いでいく。

 給仕の間にロデリオはレスティオに呆れた目を向けた。


「お前、厨房に入ったのか」

「城の厨房には踏み込んでない。今朝、邸宅を貰い受けたから使用人に手伝ってもらって作ってきたんだ」

「厨房は厨房だろ。全く、何の為の使用人だ。料理人を雇わないという話は聞いたが邸の主人自ら厨房に立つなど聞いたことがない」


 レスティオもレドランド邸にいた時は厨房に近づこうとは思ったことすらなかった。

 貰った資料にも立ち入るべき場所、立ち入らない場所と住み分けが記載されていた。


「食べたい時に食べたいものを作って食べられる環境を得たのに、有効活用しない手はないだろ。それに聖女の料理が世界的に話題になっているそうじゃないか」

「まぁ、自分の世界の料理を披露している聖女はいくらかいるらしいがな」

「彼女達だって、きっと自分で厨房に立っているよ。自分で調味料を確かめないと味を似せるのは難しいしな」

「そういうものか。確かに食材の味が違うかもしれないことを考えればそうか」


 納得するロデリオに頷いている間に切り分けられたキッシュとフィグパンの給仕が終わり、平穏な日を祝して、とグラスを掲げて酒席を始める。

 味の保証はルカリオだけでなくヴィムとメノンにも食べさせて確認済みなので、気にするのはどのタイミングで芋と卵を使っていると明かすかだけ。

 キッシュを食べてエルドナを味わいながら各々の反応をみつめる。


「なんだこれは。初めて食べる味と食感だな」

「口に合わないか?」

「あぁ、いや、これまで食べた物と違いすぎて少し戸惑っているだけだ」

「これはエルドナと合いますね。酒席の料理とは思えない優しい味わいですが、レスティオ様が以前酒席の料理は口に合わないと仰ったのも無理はないと納得できました」


 アズルの感想に、だから違和感があるのかとロデリオは納得した様子でキッシュとエルドナの食べ合わせを確かめる。

 エドウェルとベイルートもじっくりと味わいながら食べ進めている。


「夕食のメインを食べている気分だな。確かに城の料理人には出せない味だが、一体何を使っているんだ?」

「これだけ美味しいのであれば、城の料理人も取り入れようとするでしょうね。是非ともお聞かせ願いたいです」

「そうか、美味しいか。そう言って貰えて良かったよ」


 レスティオはルカリオと目を合わせて笑みを浮かべる。

 ルカリオは説明するか否か迷っている様子で視線を彷徨わせている。


「秘伝のレシピはそう簡単には教えられないか」

「いや、そういうわけではないが、城で材料を調達するのは少々難しいかもしれないぞ?」

「一体何を使ったんだ?ドナで調達した食材か?」


 怪訝そうなロデリオに笑顔で食材を伝えるとフォークとナイフを皿の上に落として硬直した。

 アズルとベイルートも引きつった表情で固まる。

 エドウェルは気にした様子もなくもう一口キッシュを口に入れて咀嚼した。


「芋も卵もこんなに美味かったんですね」

「エドウェルはなんとも思わないか」

「コーク遠征で芋や卵を料理に使ったと聞いて元々興味があったので、食せる機会を頂けて有難い限りです」


 キッシュとパンを食べ終えてエルドナを飲み干したエドウェルに、ベイルートは信じられないと視線で語っていた。


「キルアがドナ遠征での食事をエドウェルに自慢すると言っていたが、もう話は聞いていたのか?」

「いえ、まだ帰還してから会っていないです。ドナ遠征でもキッシュをお作りになられたんですか?」

「いや。ドナで食べたのはフィグのパンくらいだ」

「では、私は私でこのキッシュを自慢することにします」


 気に入った様子のエドウェルにもう一切れ用意すると表情を輝かせた。

 ロデリオとアズルは確かに美味しいと言いながら、気を取り直して食べるのを再開した。

 ベイルートは躊躇いがちにナイフとフォークを進める。


「俺の世界ではどの食材も普通に食す物だったから、コークで嫌な顔をされた方が驚いたくらいなんだけどな」

「そうだったのか。しかし、これまで芋や卵を食べようとした聖女の話は聞いたことがないけどな」

「そもそも聖女の目に触れないようにされていたら、食材として存在を認知していなかったのかもしれない」


 聖女の前に世界中で忌避されている食材を出すようなことは想像しにくい。

 馬小屋のような場所に連れていかれることもないならば馬の餌を見かけることもないだろう。


「卵なんて色々な料理に活用できるし、忌避されるようになった経緯があるなら知りたいくらいだ」

「確かどこかの国の聖女がこれは食する物ではないと言ったのがきっかけだったような気がしますが、詳細には覚えておりません」


 キッシュを食べ終えてエルドナで口直ししていたベイルートが記憶を辿りながら答えるのにレスティオは身を乗り出した。


「ドーベルにある聖女の資料に書かれていたのか?」

「どうだったでしょう。ラビ王国のユヴェルだったかもしれません」

「あぁ、ロデリオ様が留学されていた際か。俺は聖女の書物は読んでいなかったから覚えがないな」

「ユヴェル?」


 ベイルートが言うのにエドウェルが納得した素ぶりを見せる。

 しかし、レスティオにはユヴェルという単語に覚えがなかった。


「ラビ王国は世界有数の学術国家として知られているんだが、その中でもユヴェルは研究者の街でありとあらゆる情報が集まっている場所なんだ」

「へぇ、ドーベルが資料を開示してくれなくても、そこに行けばある程度聖女の情報を得られるわけか」

「海を渡った先にある国だぞ。そう簡単に行かせられる場所じゃない」


 興味を示すがすぐに落ち着けとなだめられる。

 ラビ王国といえばこれまで何度か名前を耳にした国だった。

 オリヴィエール帝国と親交があり、厄災を終えた後聖女を融通する予定だったが逃してしまった国だ。


「まぁ、戴冠式にはラビ王国の使者も来るだろうから、なにかしら話を聞くことはできるかもしれないがな」

「是非その場を整えてもらいたいものだな。軍属になる前は色々と研究にも手を出していたから、聖女の件をさておいてもどのような知識があるのか興味がある」

「ほぉ、そういうことなら、その旨を戴冠式の招待状に添えて伝えておこう。彼らは知識欲の塊だから喜んで話をしてくれるだろう」


 ラビ王国でどのようなことを学んでいたのかロデリオの留学の話を聞き始めると思い出話にも花が咲く。

 気づけばエルドナとオルドナのボトルが空になり、城に貯蔵していた酒のボトルも封を切った。




 


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