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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第39話 フランドール隊とドナ遠征(7)


 野営地の調理場で魚を解凍していると、駐在所からレザンが隊長たちとともに出て来た。


「レスティオ様、先ほど町長から申し出があり、今晩は広場で酒席を設けることと致しました。酒と料理をいくらか提供頂けるようですが、我々からも料理を出したく思います」

「なるほど。じゃあ、エルドナやオルドナに合うように調味料の組み合わせを考えようかな」

「それはそれは楽しみですな。もし料理に必要でしたらいくらでもお持ちしますから申しつけください」


 先日の剣幕が嘘のようににこやかなレザンを見送ると、ナルークに魚を捌いてもらい、皮も剥いだ後は細かく刻んでもらう。

 そこに麦粉や細かく刻んだ香草や野菜をまぜてしっかりと練る。

 鉄板で焼くのを任せた後はタルタルソースを作って料理に添える。

 本来なら子供にも喜んでもらえるはずのオムレツやポテトサラダも作って広場へと持ち込めば、町人たちは揃って表情を歪めつつも怖いもの見たさに手を伸ばした。

 様々な酒類がテーブルに並び、兵たちと町人たちが入り混じってお祭りムードとなった。


「そういえば、今回はよろしいのですか?」

「ん?」

「ジンガーグ隊の時は子供たちとよく遊んでいたと聞きましたので」


 ドナの子供達は皆大人しく食事を口にしている。

 思えば仕事をしている姿は見かけたが、遊んでいる姿は見ていない。

 コークの子供に比べるといくらか肉付きがちゃんとしているが、随分と大人しい。


「ドナでは物心ついた時から畑仕事やグレヴァ潰しなど仕事を手伝い始めますから、あまり子供同士で遊ぶということはないんだそうですよ」

「、なるほど、土地柄か。それでよくお前たちは騎士団に入ろうと思ったな」

「ははっ、仕事の合間に訓練に来た方々に遊んでもらっていたのがきっかけですな。親にはやめろとよく怒られましたよ」


 ファビス隊の面々は笑いながら子供達を手招きするが中々寄っては来ない。

 大人たちが働き手を取られまいと警戒している様子が窺えた。


「別に子供が好きというわけじゃないんだけどな。俺も子供の頃は遊ぶということがわからないくらいだったから、戸惑ってるあの子たちの気持ちの方が理解できる」

「そうなんですか?大体、修練学校に通う頃合いまでは近所の子供と遊ぶくらいはしましたけどね。走り回ったり石で落書きしたり」

「ちょっと高いところから飛び降りて怪我して怒られたりとかな」

「あぁ、ありました」


 懐かしいと話す内容にレスティオはそういうものなのかと首をかしげる。

 レスティオの子供への接し方はあくまで同僚の子供の面倒を任された時にこうすりゃいいと雑に教えられたにすぎない。

 折角だからとレスティオは子供たちの方へと歩み寄った。


「コークの村の子供と同じ遊びをしてみるか?」

「コーク?」

「どんな遊びするの?」


 大人たちに背中を押されて渋々前に出てくる子供達に苦笑しながら、近くにいた男の子を抱き上げて首の後ろに乗せた。


「た、たけぇっ!凄いっ!母さんがちっさい!」

「まぁまぁ、アンタが高いところにいるからでしょ」

「ちゃんと捕まってろよ」


 乗せたまま少しだけ広場の中央へ移動すれば足をバタバタと動かしながら声を上げる。

 付いてきた子供たちの手を適当に握ると大きく振り回すようにして体を回転させる。

 すげぇとはしゃぐ子達を見て遠巻きにしていた子供たちも駆け寄ってくる。

 順番に肩に乗せたり両手に子供達を掴んで動き回るレスティオの周囲には子供達の元気な声が響く。


「流石に俺の体だけじゃ足りないな」

「足りなーいっ!」

「俺、もう1回肩がいい!」

「よし、じゃあ、鎧着た連中で遊んでこい!俺が許可する」


 引き気味に見ていた兵たちは突然向かってきた子供達に悲鳴をあげつつ、レスティオの指示からは逃げられず苦しみつつも子供達を抱え出す。


「ぁ、お猿さん」


 不意にレスティオの側に残っていた子供が上を見上げて言った。

 なんのことだと視線の先を見ると、屋根の上に赤い目をした猿がいた。


「クォートッ!町人を避難させ次第戦闘準備!」

「、ぇ、なにご、」


 レスティオは駆け出すと家の壁を蹴って窓枠を掴みながら一気に屋根の上へと飛び上がった。そして、屋根の上にいた魔物を空高く蹴り飛ばし、落ちてきた魔物の頭部を掴んで背中を膝に打ち付けることで首の骨を折った。血を一滴も流さないまま死んだ魔物を手に提げたまま周囲を見回し、その視線は北の森で止まる。


「北の森にて魔物の眼光を確認。敵影は木の上に有り。数は百を超えている模様」

「ひゃ、百っ!?」


 クォートの声が裏返った。

 ドナに来てから討伐した魔物の数は百を超えているはずだが、一度に確認されるのは初めてのことだった。

 下の混乱して身動きが取れずにいる様子にレスティオはため息をついた。


「スタルトッ!この町に町人を集めておける場所はあるのか!?」

「ぇ、は、はいっ!町役場は集会所も兼ねているので町人を集められるかと、」

「ならば非戦闘員は町役場へ退避!ファビス隊は魔物避けの薬を役場周辺に散布した後、各門の封鎖および警戒に当たれ!」


 レスティオの指示に駐在兵たちが威勢良く返事をして動き出す。


「フランドール隊!駐在所の屋根にナイフや石で応戦可能な投擲部隊五名および補充役三名程度を至急編成し配置せよっ!ロゼアン、キルアも魔術要員として屋根にて待機!東門から出て北の森を警戒する小隊をひとつ配置!その他兵は北門前にて待機!」


 指示を飛ばし終えるとレスティオは屋根を伝いながら北門へと向かい、塀を駐在所の屋根ほどの高さまで氷漬けにした。

 そして、その氷の上に立って、赤い眼光を睨み返す。背中でクォートが各隊に指示を出している声を聞く。

 幸い、遠征中は寝る時以外、鎧を外す習慣が無いので、酔いさえ覚ませば戦闘準備にはそう時間がかからなかった。


「レスティオ様、配置完了ですっ!外にはタールクヴィスト小隊を配置しております!」

「よし、屋根の上の部隊は魔物たちが飛びかかって来たら塀の外へと撃ち落とせ!ロゼアンは塀の上で東側の防衛だっ!タールクヴィスト小隊は東から突入しようとする魔物を抑えることを第一とし特攻せず突破させるな!」


 いいながらレスティオは手に提げたままだった魔物に火をつけた。

 風の魔術を使いながら移動して来たロゼアンは驚いてレスティオから距離を取りつつ構える。


「クォート!塀の下に魔物が溜まったら頃合いを見て塀の一部を破壊し、突入して来たところを容赦なく確実に仕留めていけ。始末が面倒だから火でも焚いて焼いていくといい。全隊構えっ!」


 言い切ると同時にレスティオは燃える魔物を赤い眼光の中へと放り投げた。

 複数の金切り声が上がるのを聞きながらレスティオは剣を抜いて、大きく振りかぶり氷の刃で眼前の木の先を切り裂いた。

 同時に更に声が上がり、木の葉に混じって血が飛び散る。


「ロゼアン。討伐不可能と思ったならば塀を高くし防衛に徹しろ」

「はいっ!」


 怒りの形相で魔物たちが飛び込んでくる中、レスティオは魔物を切り捨てながら塀の外へと飛び降りた。

 ロゼアンは火の刃で応戦し、駐在所の屋根からは氷の矢やナイフ、石が飛んでいく。

 ふと木が高いから塀を飛び越えようとするのだと気づいてロゼアンは塀近くの木の高さを下げるように魔術の使い方を変えた。


「隊長っ!塀を超えられる者がいなくなりました!」

「よしっ!上の者たちはそのまま警戒を続けろっ!塀を破壊する!」


 塀に穴が開けられ飛び込んできた魔物をひたすら切り捨てる作業が始まる。

 通り抜けられる道は狭く、穴の付近で何も考えずに剣を振るだけで魔物を仕留められる。入り口に溜まった死骸は後から押し寄せる魔物によって押し出されてくるので、それを農具の鍬で回収し、焚いた火へと放り込む。

 よく考えたものだと思いながらロゼアンはレスティオが消えた真っ暗な森を見つめた。わずかに燃えている木の周辺が見える程度でどこまでも闇が広がっている。


「キルア、塀の上に上がれるか?」

「ぁ、はい!」

「警戒は任せた。俺は下を撃つ」


 キルアを呼びつけてロゼアンは突入しようと塀の下に溜まっている魔物に向けて氷の雨を降らせる。

 魔物の爪で塀はボロボロになっていた。氷で補強していなければ今頃破られて町に入り込まれていただろうと思いながら赤く染まっていく塀を見つめる。


「ろ、ロゼアン、魔力量大丈夫ですか?」

「どうだろう。こんなに細かく使ったのは初めてだからな。一日くらいまた寝込むかもしれない」


 動く影が見えなくなって、ロゼアンは森へと視線を戻した。

 不意に森の中で火柱が立ち、水が打ち上がって、また真っ暗に戻った。


「レスティオ様ですかね」

「だろうな。あの規模なら根源を討伐したのかもしれない」

「迎えに行ったほうがいいでしょうか?」

「いや。流石に癒しまでは行ってないから大丈夫だろ」

「昼間にはやってますよね」

「……そういえばそうだな」


 周囲を見回して魔物の影がないことをハンプスと確認してから、クォートに報告する。

 塀の外も血で随分と汚れているが中も凄惨な光景が広がっていた。

 森の中ならば自然に紛れるが、門の周辺には何もないので、ただ魔物の血の跡と死骸の山があるだけだ。始末用に用意した火では足りていない様子だった。


「隊長、そちらも燃やしましょうか」

「馬鹿者!自分の魔力消費量も測れなくなったか!」


 これまで測る習慣がそもそもなかったのだが、一度枯渇寸前を経験して感覚がおかしくなっている自覚はあるので素直に説教を受け止める。

 下では人が通れるほどに塀を破壊し、外の魔物の処理も始めていた。

 ロゼアンは説教されてしまったので、キルアと一緒に森の方へと飛び降りて、木の枝につかまりながら、なんとか怪我なく地面へと降りた。


「酷い有様だな」

「ぁ、レスティオ様……の方が酷いかと」


 塀の周辺の様子に顔をしかめながら戻って来たレスティオの姿は全身血に濡れていた。


「クォート。根源は討伐した。明日、北の森の残党の始末を頼む。森の癒しは少し回復するまで待ってくれ」

「そうですか。あとは任せてお休みください」


 塀の向こうから出て来たクォートは、レスティオの姿にしかめっ面をして水と風で汚れを洗い流した。

 レスティオは礼を言って駐在所へと下がっていった。

 火の魔術が扱えて魔力が余っている者は魔物をひたすら燃やし、後の兵は魔物をそこに放り込んだり井戸で水を汲んで血を洗い流したりと、町人たちには見せられない光景の対処に追われた。




 

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