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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第38話 フランドール隊とドナ遠征(6)



 レスティオは朝一で放置していたお詫びも兼ねてヴィルヘルムを洗ってやり、ナルークが起きてきたところで朝食の準備に取り掛かる。

 レスティオが伏せている間は野菜炒めやポテトサラダを作って過ごしていたといい、芋は随分と気に入られた様子だった。

 なので今日はマヨネーズのように紛れさせるのではなく、しっかりと卵も味わってもらおうと野菜たっぷりのオムレツを作っていく。


「これが卵を使った料理……」

「いただきますっ!」


 芋以上に忌避感の強い卵を調理担当のナルークが先に味見する。

 そして、満面の笑みで親指が立てられると同時に兵達は一斉に朝食を食べ始める。

 朝食の片付けは町の警備に残るジェリーニ小隊に任せて、他の隊は討伐に向けて出兵の準備を始めた。


「ロゼアン。ちょっといいか?」

「はい。なんでしょうか」

「剣を貸してもらえるか?」

「え?」

「今日は根源討伐後の癒しで、また限界まで魔力を消耗するだろうから、その時まで魔力を温存したいんだ。というわけで、どうせこの剣を持て余すならお前に使ってもらおうという作戦だ」


 国宝の剣を突き出されてロゼアンは驚きを隠しきれない様子で剣とレスティオを交互に見つめる。

 クォートも事前に聞いておらず、驚愕して口を開けたまま瞬く。


「根源がどういう姿か確認していないが、火を全力でたたきつけようと思ったらこっちの剣がいいだろ。延焼する前にさっさと焼き払ってくれれば後のことはそんなに苦労せず済むと思うんだよな」

「しかし、この剣は、」

「今日はお前がこれを使うことが部隊のためであり、ドナの為になる。俺はそう判断した」

「……かしこまりました。僭越ながら、お借りします」


 震えを抑えきれないままロゼアンは剣の交換に応じた。

 剣帯を装着し直し、馬に乗る。


「そういうわけだから、お前もなるべく根源にたどり着くまでは魔力を温存しろ。何人も魔力を枯渇させて倒れたら隊の負担が大きくなりすぎる。ブレフト、フォロー出来るな?」

「もちろんです。キルア、ロゼアンと位置を交代しておけ」

「はい」


 隊列を組み直して山道を進む。

 ロゼアンは緊張した面持ちで剣の柄を握りしめていた。


「やはり国宝は落ち着かないか?」

「大丈夫です。持ちなれていないので少しでも感触に慣れておきたいんです。後、魔術の扱い方を今一度思い返していました。以前、レスティオ様の魔力結晶で固めた剣を扱った時の感覚では、必要以上に周囲に被害を出しかねませんので」

「仲間を巻き込んだとしても死なない程度なら俺がなんとかする」

「心強いですね」

「俺がやれと指示したんだ。責任は俺が取る。この件で責を問う者が万一にもいれば、俺が守ってやるからお前は根源を討伐することだけ考えろ」

「有難うございます」


 前方に魔物の姿が見えてブレフトを先頭に先遣隊の面々が一気に駆け出す。

 ロゼアンもレスティオも剣を抜いて構える。

 前衛の三人が取りこぼした魔物を一振りで仕留め、ロゼアンは剣を握り直した。


「片手で持つには重いですね」

「そうか?筋力的に厳しいなら、」

「いえ。風の魔術で補助すれば問題ありません。根源相手にこの剣を使わずに討伐する方が苦戦するでしょうから」

「それならいい」


「根源が見えてきたぞっ!」


 ブレフトの言葉に顔を上げると周囲の木々が枯れる中、大樹が一本立っていた。

 これが魔物かと思っていると根が蠢いているのが見えて、根源だと理解した。


「根を焼き払う必要がありそうですね」

「木だからな」


 問題はどこまで根が伸びていて、どこまで損傷すれば死に絶えるのか。


「おとなしいうちに切り込みますっ!」


 ぼっと音を立ててロゼアンの持つ剣の刀身が火を纏った。

 火を刀身より大きく伸ばし、馬で駆けながら勢いよく振り抜いて火の刃を放つ。一撃で根源の木の幹を切り倒し、その奥にあった枯れ木までも燃え上がった。

 火を受けて木の根が地面から這い出て激しくうごめき始める。

 近づいてくる根を他の面々が切り払っていく。


「離れろっ!」


 ロゼアンの声が響き、視線をやれば、馬を飛び出して再び刀身に火を纏わせて切り株となって燃えている中に飛び込んだ。

 そして、そこに剣を突き立てて根まで焼き尽くすように火を放出した。


「やり過ぎだ、バカッ!!風で押し出してから水をかけるっ!」


 今にも駆け出しそうな兵を止めてレスティオが飛び出し、燃えるロゼアンの体を風で地面へと押し出し、そのまま風と水で焼けた体を包む。

 その状態のまま聖の魔術をかけてロゼアンの体を乾かしながら地面に下ろす。


「有難うございます」

「死を覚悟するだけならまだしも、死にに行くのは無能な愚か者がすることだ。次は無いぞ」


 顔を上げたロゼアンは冷ややかなレスティオの目に息を飲んで、小さな声で謝罪した。

 振り返れば根の蠢きは収まっていた。

 切り払った根を火の中に放り込んで始末していくのを見て、レスティオは周囲で燃えている木をまとめて鎮火した。

 魔物の木が燃え切るのを待って、支えを無くして倒れた剣を拾い上げる。

 ロゼアンが立ち上がってそれを受け取ると、汚れた剣を洗い流してから鞘に収めた。

 それを見届けてレスティオは山肌に手をかざした。


「ロゼアンは魔力の回復に努めて明日以降に備えろ。キルア、俺は倒れるだろうから後を頼んでいいか?」

「はいっ!」


 キルアの返事に頷いて詠唱を始めた。ありったけの魔力を注げば周囲は緑で溢れていき、その一方で枯れていく木がいくつもあった。

 レスティオは意識をなくし、倒れる寸前でキルアが抱え上げる。


「レスティオ様って、こんなに軽いんですね」

「あぁ、こんな重たいものを下げてるのによくあんなに動けるものだよ」


 野営地に着くとロゼアンはすぐにテントで眠りについた。

 レスティオもロゼアンもそのまま丸二日眠り続け、その間、フランドール隊の他の兵は枯れた木の根の除去とまだ残る根源の監視、索敵に徹した。


「ロゼアンも寝込んでいたのか。まぁ、大分無茶したんだから仕方がないか」

「面目ありません」


 部隊が出ている間に目を覚ましたレスティオとロゼアンはグレヴァの収穫を手伝っていた。まだ成長途中だった筈のグレヴァがいつの間にか大量に育っていて、町中で収穫に追われている様子だったので、思い当たる節がありすぎるレスティオは手伝いを名乗り出たのだ。


「西の森の時もこうでしたね。森を超えて癒しが届き、ギバの農作物が見事に育ったと聞きました」

「うーん。山をどうにかできればよかったんだが、広域魔術の力の加減がまだわからなくてな」

「いやいや、有難いですよ。聖の魔術で育ったグレヴァを使った酒は絶対格別です。出来たら、城に必ず届けますね」

「楽しみにしてるよ」


 日が傾き始め収穫作業を切り上げると、グレヴァの葉と実を使ったグレヴァ茶を淹れてもらい、ゆったりと時間を過ごした。


「レスティオ様。騎士団の方々がお戻りになりましたよ」

「そうか。じゃあ、戻らないとな。美味しいお茶だった。有難う」

「有難うございました。失礼します」


 広場の方へ出ると帰還していた隊列と合流し、レスティオはクォートを見つけるとその隣に並んだ。

 その腕には籠いっぱいのグレヴァを抱えている。


「ドナの方からグレヴァの差し入れを頂いたんだ。夜に食べるか、明日の朝食にするか、どうする?」

「ほぉ、グレヴァですか。それは珍しいですね」

「癒しがここまで届いていたらしいな。魔術の扱いとは難しいものだ」

「レスティオ様でも苦労することがあるのですね」

「ここにきて二度も寝込むくらいにはな」


 翌朝、グレヴァをデザートに食べて根源の討伐に向かった。

 聖の魔術は広域に広がり、川の流れが戻ってきていることで魔物の動きが抑えられており、全隊で包囲網を展開して討ち漏らしのないように突き進んだ。

 今日で討伐を済ませるために魔力だけ温存することに決めたレスティオは、渋い顔をするクォートを説得してヴィルヘルムを町に残し、身体能力をフル活用しながら前線を押し上げていた。

 次々と魔物の首が飛び、血飛沫が上がるのを見ながら兵たちは青ざめつつも剣を振るう。


「闘技場でレスティオ様が剣を持ってたら俺たちも今頃こうなってたんだな」

「恐ろしいこと言うなっ!想像したくもない!」


 後続の兵たちに構わず、レスティオはそのままの勢いで根源の首を落とし、肢体を切り落とした。

 魔物と見て流れるように討伐してしまったので、倒してから根源?と兵たちに確認を取るレスティオに皆言葉を無くした。


「そうか。それで小物は粗方片付いたか?」

「は、はい」

「怪我人は?」


 集まってきた面々を見回し、おずおずと前に出てきたものに癒しをかけると、癒しが届いていなかった場所を思い出しながら山を癒し、一息ついた。


「よし。じゃあ、ここで昼食にして、南の森をもう一度見回って戻るぞ」


 クォートの指示に兵たちは馬を降りて周辺の警戒を交代しながらポテトサラダのサンドイッチを頬張る。

 サンドイッチにしてはパンが硬いが腹持ちはいい。


「レスティオ様。川で魚を取って夕食にしましょうか」

「ぉ、いいな。クォート、休憩の間に済ませるから行ってきていいか?」

「無茶はしないでくださいね」


 護衛役の先遣隊とナルークとデルを連れて川辺へと移動する。

 魔物に汚染されていたのが嘘のように澄んだ水が流れ、上流の方には元気に泳ぐ魚の姿が確認できた。


「風の魔術で掬い上げるのが手っ取り早いですが、」

「ん?必要か?」


 川に手を入れて二匹まとめて鷲掴みにしたレスティオにナルークはなんでもないですといいながら皮袋を広げた。

 凍らせてから袋の中に魚を放り込む。


「なにを作ろうか。魚をすりつぶして丸めてスープの具にすれば少なくても行き渡ると思うが」

「魚をすり潰すんですかっ!?それにしましょう!あまり取り過ぎても良くないですからね」


 そういいながら勢いよく川に手を入れたナルークはするりと逃げていく魚に言葉を詰まらせる。

 それを笑うデルもキルアも手づかみで魚は捕まえられなかった。


「見ていれば普通に捕まえられるだろ」

「いやいや、無理ですよ!」

「できたっ、っと、ぁ」


 ロゼアンはなんとか両手で捕まえたがするりと手の中から逃げられた。

 珍しく悔しそうな表情をするロゼアンに残念だったなと皆笑う。


「魔術を使えばすぐなんですけどね」

「まぁまぁ、ナルーク、これくらいでいいか?」

「お、おぉ、いつのまに。少し物足りない感はありますけど、これ以上取るのも気が引けますしね」

「うん。すり身にするときに野菜を練りこんだりしてカサ増しすればいけるとは思う」

「なるほど、そういう手があるんですね。ではこの辺にしておきましょう」


 休憩場所へ戻るとすぐにクォートに準備を整えるように促される。

 ゆったりとしていた兵たちも表情を引き締めて馬に乗っていく。

 山を降りて南の森を経由して町に戻るまでは兵たちにとっては訓練とさして変わらず、レスティオが先行して討伐を進めたため順調に町に帰還した。



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