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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第34話 フランドール隊とドナ遠征(2)


 周囲を見回しながら前進するがどうやら魔物の姿は見られない。

 まだ魔物が出現していない場所はこんなものかと思いながら頭上を旋回している鳥を見上げた。


「鳥が結構飛んでいるが、あれはおそらく魔物とは違うんだよな」


 上空を飛ぶ鳥の目の色は光の加減で見えにくい。

 鳴き声も聞こえてくるが誰も警戒していないことを踏まえても魔物ではないのだろうと思い訊ねればクォートは頷いた。


「あれは、テルドガルという海の近くに生息する鳥で、野営訓練時にはよく狩って食用にします」

「食用に出来る鳥か、覚えておこう。しかし、あれだけ高く飛んでるものをどうやって狩っているんだ?」


 周囲に魔物が見えないのをいいことに上を見上げて問いかければ、どこか呆れたようなため息が聞こえた。


「確かに、今日はやや高度が高く見えますね。普段は、降りてきたところを槍で突くか、羽を火で焼き落とします」

「火か。森の中じゃ危ないな」

「えぇ、なので、なるべくは槍で突くのですが、今日は訓練ではないので槍は持ってきていません」


 槍も武器として使用するが、森の中では柄の長さが邪魔になるのであまり持ち歩かないし、日頃から使用している兵も僅かなのでほとんど剣を使わない警備役に持たせて剣を融通してもらうのだという。


「レスティオ様ならば、アレをどのように狩りますか?」

「、俺か?俺なら、氷で撃ち落としてもいいが、ナイフを投げて落とすかな」

「ナイフ?あの高さですよ?」


 怪訝そうな顔で振り返ったクォートにレスティオは首を傾げた。


「ぁ、そうか、この世界には飛び道具という考え方がなかったんだったな」

「飛び道具?」

「遠距離から敵を攻撃するってことだよ。ナイフだって魔術を使わなくても体の使い方ひとつでアレくらいの獲物を仕留めるのは難しくない」


 腰からナイフを抜いて言えばクォートの視線がナイフと頭上を行き来する。

 近接戦闘用のやや大ぶりのナイフなので本当は飛び道具としては向かないのだが、力加減次第では問題ないだろうと重さを改めて確かめる。


「落としていいなら昼食の材料確保ついでに実演するが、初日から食材を持て余すかな」

「構いませんよ。食料が増えるのは良いことですし、ナイフで仕留められると言うのならみてみたいものです」


 許可が出たので早速ナイフを構えて、照準合わせも程々にテルドガルを落とした。

 落ちてくるのを風で操りつつキャッチすると感嘆の声が上がる。


「落としたものの、これはどうすればいい?凍らせてでもおくか?」

「そうですね。そうしてください」


 ナイフを引き抜いて凍らせると、ナイフは水で洗い流して腰に戻した。凍らせたテルドガルをどうしようかと思っているとキルアが受け取って後方の兵へと回してくれた。


「凄いですね、レスティオ様。ナイフを投げようなんて考えたこともなかったです」


 魔力を持たないハシュビルは目を輝かせて興奮を必死に抑えながら感想を述べ始める。

 魔術を扱える兵は新しい戦術に挑戦しているが、そうでない者はただ鍛錬を積むしかない。

 それがもどかしかったようで、是非ともナイフ投げを身に付けたいというハシュビルにレスティオは空き時間があれば稽古をつけることを約束した。


「ナルーク。これくらいで、昼食分は足りるか?」

「おう、十分だ。有難うな」


 不意に横を凍ったテルドガルの山が通り過ぎ、先ほどテルドガルを受け取った兵の方へと渡された。

 通り過ぎる瞬間に氷の中で一様に頭が潰れていたのを確認して、風の魔術で投げ渡した張本人を振り返るとロゼアンは事も無げに周囲の警戒に戻っていた。

 ジンガーグ隊の帰還からそう日も経っていないのに、氷の矢を教わり、頭を確実に撃てるほどにコントロール出来ていることに小さく感嘆した。


「クォート。前方に見える木の囲いの向こうがドナか?」

「はい。魔物に遭遇することなく到着出来たのは幸いか、見落としでなければいいんですがね」


 難しそうな顔で唸るクォートに緊張した雰囲気になる。

 少なくとも近づいてくる魔物がいないのを確認しつつ前進し、門の前に立っていた警備兵に迎え入れてもらう。

 入ってすぐの場所に駐在所はあり、まずは馬を小屋へと入れていく。

 テントなどの野営用の荷物を抱えた兵はすぐに荷物を抱えて野営用の広場に向かい準備を始める。


「レスティオ様はこちらへ」


 事前に役割分担されていた様子にどうしたものかと思っているとクォートに駐在所の中へと促された。

 ブレフトの他、ライネル・パドロン副隊長、ハンプス・タールクヴィスト小隊長、フラン・ジェリーニ小隊長が続いた。

 駐在所に入ると、奥の部屋から慌てた様子の男二人が出てくる。


「あぁ、フランドール隊長!お出迎えが遅れて申し訳ございませんでしたっ!ご足労頂きまして誠に有難うございます」

「いや、人手が足りていないのは重々承知の上だ。スタルト部隊長、こちらが、我が国の聖騎士、レスティオ・ホークマン様である」


 クォートに促されて二人とも恭しく頭を下げた。


「お初お目にかかります。帝国軍騎士団ファビス隊ドナ駐在部隊にて部隊長を務めております、スタルト・ベンドと申します」

「同じくドナ駐在部隊のヨン・アルヴィドソンと申します。ご挨拶させていただけて恐縮でございます」

「レスティオ・ホークマンだ。よろしく頼む」


 簡単に挨拶を終えるとスタルトに促されて、先ほど二人が出てきた部屋へと促される。

 大きな執務机と応接セットが置かれた資料だらけの部屋は部隊長室のようだった。

 応接セットのテーブルの上には石をいくつか乗せた地図が置かれていた。


「これは魔物の出現場所ですか」

「えぇ。従来の魔物が白い石、新種が黒い石です」


 町を中心にドナルの森と東の山が描かれている。

 石は町の周辺に置かれていて、焦りの表情を理解する。

 白い石は南側を中心に東の山から南の森まで広がっている。

 黒い石は東の山に点在しており、ふたつほど北側にも置かれている。


「北側にもいたのか」

「はい。それと、先ほど、従来種の魔物が南の森に繁殖しているのを確認しまして、早急に対策を進めないといけないだろうと話していたところなんです」


 ドナに駐在しているのはファビス隊の八名。

 東、南、北の各門の警備と町の中の治安維持を担っているがそれだけの人員では中々手が回っておらず頭を抱えていた。

 早馬で支援要請を出したものの、いつ帝都の部隊が到着するかはわからないので、到着までは駐在部隊が町を守らなければならないのだ。


「それはまた、コークの駐在部隊とは大違いだな」

「ファビス隊の配属地は大体出身地ですから、我々も必死なんですよ」


 スタルトとヨンの必死さに納得して、改めて地図を確認する。

 地図は騎士団で見た地図よりも地元民ならではの情報まで詳細に書き込まれている。

 動物の巣や薬草の採取地まで描かれているのを目で追いつつ、レスティオの頭上ではクォートがファビス隊と連携した警備シフトや編成を話し始める。


「さて、レスティオ様。よろしいですか?」

「ん。昼食後、ドナルの森の南側の攻略だな。承知した」

「なにやら真剣に地図を確認されていたようですが、なにか気がかりな点がありましたか?」

「いや、大丈夫だ。地図は覚えた」


 動物の巣の位置が気がかりだったが、この周辺を熟知しているはずの彼らが気にかけていないのだから大丈夫だろうと顔を上げる。


「では、この後は滞在にあたっての調整となりますので、レスティオ様はご休憩ください。ブレフト、レスティオ様の護衛は任せたぞ」


 承知、と小さく返してレスティオはブレフトを伴って駐在所を出た。






 野営地のテントは既に用意され、広場の中心では昼食の準備が進められていた。

 テルドガルを捌いているのが見えて、そちらの方へと向かう。


「手伝ってもいいか?」

「、レスティオ様っ!宜しいのですか?」

「もちろん。テルドガルの捌き方を教えてもらってもいいか?」

「はいっ!喜んで!ぁ、私はタールクヴィスト小隊のナルーク・フォーヴィと申します。今日、調理補佐をしてくれているのはジェリーニ小隊のデル・メルトンです」


 作業に取り掛かる前に紹介されて、はて、と首を傾げた。


「調理補佐は今日だけなのか?お前は?」

「私の実家は食堂を営んでおりまして、私自身、元々は料理人志望だったこともあり可能な限り野営中の調理担当を務めてます」

「なるほど。フランドール隊はそういう能力を踏まえて役割分担しているのか」

「そうですね。テントの設営や見張りを代わってもらえることが多いので役得と思っています」


 ジンガーグ隊では通常は当番制だったり罰則として担当させており、野営中の食事は当たり外れが大きいという話を食事中に聞いていた。

 フランドール隊はナルークを中心にしているから食事に外れがなく兵も協力的だった。

 そういうところにも部隊差があるのかと思いつつ、ナルークに差し出されたテルドガルを受け取る。

 解体のやり方を教わりつつもおおよそ元の世界と変わりがないことを確認する。

 骨から肉をそぎ落とすところまで終えれば、下処理は完了だ。

 今回はレスティオの調理法を採用するべく最低限の処理で止めるという爽やかな笑顔に感心した。


「レスティオ様なら私が知ってるどんな調理法よりも美味しい料理に仕上げて頂けるだろうとジンガーグ隊の話を聞いて期待していたんです」

「それは有難い気遣いだな。城の外にいる時くらいちゃんと美味しい料理が食べたいと思っていたんだよ」


 全てのテルドガルを処理し終えたところで廃棄用に避けられていた骨や手羽先を大きな鍋の中に放り込む。

 本来廃棄するものを鍋に入れたことにナルークは一瞬眉をひそめたが、野菜スープも皮など廃棄するものを使っていることを思い出し、表情を引き締め直した。

 ナルークが大量の肉を昼食用と夕食用に分けている間に、レスティオは鍋に水を入れて火にかけた。


「もしかして、野菜と同じようにそれでスープを作るのですか?」

「察しがいいな。野菜とは違ったコクのある味わいになるはず。ぁ、臭み消しに野菜や香草も混ぜたいんだが、なにがある?」

「デル。調味料箱をレスティオ様にお出ししてくれ」

「はい」


 野菜を切っていたデルが手を止めて荷物の中から木箱を取り出した。

 ひとつひとつ確認して鍋に調味料を投入し終えたところでナルークが次の指示を求めた。


「肉は酒に漬け込むと柔らかくなっていいんだが、エルドナやオルドナの生産地とはいえ安くはないかな?」

「え、酒を料理に使うんですか?」

「あぁ、俺の世界ではよく使ってたよ。この世界の人間が必要以上に気にかけている殺菌作用も期待できる」


 酒で?とぽかんとするナルークに苦笑していると、目の前にオルドナとエルドナの瓶が突き出された。

 その手の主を振り返ればクォートが立っていた。


「差し入れにと頂きました。夜まで冷やしておこうかとも思いましたがお使いになりますか?」

「ぇ、あ、いや。しかし、それは夜に部隊で飲み交わす為の、」

「レスティオ様がご所望とあらばこの程度大したことはございません。皆の口に入ることには変わりないでしょうしね」


 真面目な表情でいうクォートに有り難くボトルを受け取った。

 しかし、いわゆる赤ワインと白ワインを同時に差し出されてどうしようかと考える。


「よし、夕食の下ごしらえもしてしまおうか」

「は、はいっ!」


 ボウルにオルドナと香草を入れ、夕食の分の野菜と鶏ムネ肉を浸す。

 薄く伸ばした魔力結晶でボウルに蓋をして、夕食の支度の時まで駐在所の冷蔵庫に預かってもらう。

 スープ用の鍋とは別に炒め物用の大きめの鍋も用意してもらい、鶏肉や野菜を鉄板で軽く焼いてもらったら材料を鍋に入れる。

 調合した調味料と煮込み中のスープを少量加えながら、エルドナを合わせて一気に炒めあげる。

 アルコールが飛んだところでボウルへと移し、数度に分けて同様に炒めていく。


「デル、ミルクと麦粉はあるか?」

「駐在所にあるものを持ってきますっ!」


 一通り炒め終わったところで問えば、デルより先に近くにいた駐在兵が反応した。

 気づけば周囲は興味深そうに調理過程を眺めていた兵たちで囲まれている。


「デル、スープのアク取りを頼む。ナルーク、パンはカットして両面を軽く色づく程度に焼いてくれ。そこ、暇なら食器の準備とか手伝えよ」

「レスティオ様、お持ちしましたっ!」

「おう」


 ミルクと麦粉と白ワインに調味料を加えて火を通しながらホワイトソースを作ると炒めた肉と野菜のボウルに注いで混ぜ合わせる。

 熱いホワイトソースで混ぜ合わせることで最初に炒めて冷め始めた部分を温かい状態で食べられるようにして、盛り付けを任せる。


「テルドガルと野菜のエルドナソース和えだ。ソースをパンにつけても美味しく食べられると思うから試してみてくれ」


 駐在所の兵たちも集まってきて、小隊ごとに料理を受け取って行く。

 レスティオのそばには調理担当のナルークとデルの他、先遣隊の面々とクォートやスタルトが腰を下ろした。


「これは美味い。テルドガルはこんなに美味い鳥でしたかね」

「えぇ、テルドガルは良く食べますが、こんなに味わい深いのは初めてです。これがエルドナを使った効果なのですか?」


 クォートとスタルトが満足そうに言うと、様子を窺っていた兵たちも食事に手をつけ始める。


「エルドナは風味づけと肉を柔らかくするという意味合いが強いかな。味はほとんどテルドガルそのものの味だと思うが、下茹でせずにエルドナで殺菌したからこそかな」

「肉をこのように調理するなんて、ケンリーが知ったらきっと再現してみせろと言い始めるでしょうね」


 ジンガーグ隊に続き出てきたケンリーの名前にレスティオは咀嚼しながらどんな人物なのだろうと首を傾げた。

 その様子に気づいたハシュビルが騎士団本部の食堂の厨房長で料理のこだわりが強いのだと説明した。


「それはジンガーグ隊でも聞いたが、こだわりだけじゃなく探究心もあるのか」

「そうですね。スープについては本当に驚いていて、すぐに研究を始めたほどですから。その野菜をどれだけ入れるといい、とか」

「ほぉ、それは興味深いな」

「ただ、あの骨スープは未知数ですけど……」


 鶏がらスープはまだ煮込み時間が足りないので昼食はスープをつけるのをやめていた。


「鶏がらスープは野菜スープと同じくらい定番だと思うんだけどな」

「それくらい美味しいということですね。レスティオ様の料理の腕を信じて、夕食を楽しみにしています」


 楽しみにしているという割にクォートの表情は変わらないが食の進みは早い。


「レスティオ様はロデリオ殿下との酒席でもこのような料理をお出ししているのですか?」

「いや?むしろ酒席は招かれたことしかないから用意したことがないな」

「そうなのですね。では、帰還したら兄にレスティオ様の料理は美味しかったと自慢します」


 ほくほくと食べ進めるキルアの兄といえば、ロデリオの筆頭騎士であるエドウェル・マッカーフィーだ。

 闘技場での制裁もとい稽古や魔術研究協力などレスティオが関わることには興味津々の彼だが、第一皇子の筆頭騎士という立場故に酒席で眺める以外に接点が無く嘆いているという。

 エドウェルの話をしているうちに各々食事を終えていき、レスティオは片付けも手伝おうとしたがそれは止められた。

 片付けは午後出兵しない兵たちが行うということで任せ、代わりに出兵する兵を集めて今日の任務のミーティングが行われた。



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