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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第25話 ジンガーグ隊とコーク遠征(3)



 話をしているうちにクレアの森を視界に捉えた。

 村も小さく見えてきている。


「ハイラック。森に入ったら、わかる限り魔物の情報を収集してくれ。有益な情報を活かせない能無しはさておき、情報は戦術を立てる上で重要な要素になる」

「わかりました」

「魔術のなにが通じるか否かは魔術も剣術も自信ありげなネルヴィあたりに協力させればいい」


 ブロワーズと小競り合いをしていたネルヴィが名前を出されて振り返る。


「え、俺ですか?ヴァナルでなく」

「実力のほどは知らないが、先遣隊の筆頭がヴァナルだろ?ハイラックの手足に使える立ち位置じゃない」


 リーダーにはリーダーの役割がある。

 それが今機能しているかはわからないが、そういう立場だと口にすることで意識出来るようになる者もいる。

 実際、ちらりとレスティオに目を向けたヴァナルは表情を引き締めて頷いた。

 ハイラックもそれを確認してネルヴィを見る。


「ネルヴィ、すまないが、協力してもらえるか?」

「……レスティオ様のご命令とあらば」

「この部隊の生存率向上のために必要なことと思ったんだが、そう納得できない態度じゃ今から先が思いやられるな」

「やりますっ!ちゃんとやりますよっ!」


 むっとして答えたネルヴィに笑いながら、クレアの森へと視線を戻す。

 わずかに赤く光るものがレスティオには見えていた。


「木の陰に隠れて二、三いるな。狼のような見た目で、西の森にいた物と同じ形状にはみえるが」

「え、どこですか?」


 周囲の兵たちが目を凝らし始める。だが、誰も視認できないようで唸るばかり。

 視覚のカスタムがあるからこそ見えているが、常人には見つけられる距離ではなかった。


「サイズは割と小さいな。馬の半分ほどもなさそうだ」

「よく見えますね……」

「こちらに気づいて警戒しているようにみえる。下がっていったが、仲間を呼ぶのか……魔物にコミュニケーションという概念はあるのか?」

「えっと、それはどうでしょう……しかし、仲間の血に寄ってくることや、強力な魔物の血は下等な魔物を遠ざけるという記述を読んだ覚えはあります」

「覚えておこう。というか、その本は騎士団の図書室にあったか?戦術論はろくなことが書いていないし、埃が酷くてもう入る気がしていなかったんだが」


 森から視線をそらさずにいうレスティオにハイラックは図書室の惨状を思い出して苦笑いした。

 騎士団の兵は文学に興味がなく座学も避けて通ってきた者ばかりで管理する者もいつの間にかいなくなっていた。

 騎士団本部内の図書室の存在すら知らない兵も少なく無い。


「魔物学の書は騎士団にも城にもあまりないかもしれませんね。我が家にはたくさんあるので、よろしければ今度お招きしましょうか」

「、いいのか?」

「どのようなものに関心を示されるのかわかりませんので、ご迷惑でなければ」

「それはこっちのセリフだろう。なら、少なくともお前に死なれるわけにはいかなくなったな」


 そういいながらレスティオは腰の剣に手をかけて、森を警戒する。


「二時の方角に敵影十五。先ほど視認した魔物が仲間を呼んだものと思われる。ジンガーグ隊長、指示を求む」


 事務的に淡々と告げたレスティオに隊列に緊張が走った。

 指示を求められたソリッズは未だ見えない敵影を睨みつつ鼻を鳴らした。


「我々を見つけて向こうも警戒しているということですか。昼食前に申し訳ありませんが、先遣隊は森へ進み、他の者は野営地にて待機致しましょう」

「承知した。ヴァナル。先遣隊の指示役はお前だろ」

「はっ!先遣隊、二時の方角に直進する!」

「武運を祈る!」


 手綱を握り直し隊列を離れて行く。

 背に声援を受けて馬たちも速度を上げる。


「敵影視認!構えっ!」


 ヴァナルの声に皆剣を抜く。


「ハイラック、ネルヴィ。それから、ブロワーズとユハニ。レスティオ様は私と共に。いずれかが負傷した場合は早急に救援を呼ぶように!」

「ユハニと一緒かよ」

「小回りは得意なんで邪魔はしませんよ」

「悪かったないつも大振りで」


 軽口を叩きながら指示された組み合わせで動きやすいように位置を調整していく。

 森の方からは魔物の姿が前へと出てくるのが見えていた。


「ヴァナル!おそらくなんだが、」

「、なんですか?」


 言いながらレスティオは魔物めがけて氷の矢を放つ。

 鋭い氷が魔物の眼球を貫き、魔物は咆哮を上げた。


「致命傷になるかは別として眼球や口腔など内臓に直結する部分は共通して攻撃が通りやすい、と思われる」

「なるほど。確かにそうですね。視界を奪うのは弱らせる意味でも有効でしょう」


 まだ距離がある内の先制攻撃に感嘆が聞こえる。


「ハイラック、魔物の血や体液に毒性は?」

「あるやもしれません。どの魔物だったか忘れましたが、魔物の情報とともに薬草の種類について書かれていた文献があったはずです」

「国内に生息する魔物が該当するなら各自薬を持ち歩くように促す必要性もあるかもな。帰還後、情報を精査しておいてくれ」


 不意に後ろから氷の矢が魔物めがけて飛んでいき、振り返るとユハニが手を突き出していた。

 これだから天才は、とネルヴィのぼやきを聞きながら、氷の矢で怯んだ魔物たちを剣で切り捨て行く。

 森の入り口周辺にいた魔物を全て討伐するまでは、そこまで時間を要さなかった。


「ハイラック、魔物学の知見からこの状況をどうみる?」

「クレアの森の魔物は西の森と同じですね。サイズも似通っていますから、特性としても特に変わりはないでしょう。討伐した魔物数を踏まえると、近くに根源がいるか、あるいは、森中に散見するだけ繁殖が進んでいるか。後者の場合、根源が西の森より強化している可能性があります」

「ヴァナル。それを踏まえて先遣隊の動きは?」

「近くに根源がいる可能性があるなら戻る前に森の中を見て回りましょう。魔物二十体ほど討伐した、というだけでは成果に欠けますしね」


 ヴァナルの意見に反論はなかった。

 レスティオも同意を示し、森の中を進み出した。


「ちなみにユハニ。魔力量は大丈夫か?先ほど何発か氷を放っていただろ」

「そうですね。総量百として一発で五かそこらの消耗と思うとまだ行けます。実際、消耗をそこまで感じていません。先ほどの術は、氷のサイズにより若干の消耗量の違いを感じるのと、物体の面積により風で押し出す際の力のかけ方にコツが要りますね」


 レスティオはユハニを薬草を摘んでいたり馬の世話をしていたりと雑務を担っていることから、まだ経験の浅い少年兵と思っていた。

 だからこそ、ユハニが淡々と語る姿を見てレスティオは驚く。視線に気づいたユハニは、にこりと微笑み返し、余裕を見せた。


「ユハニは騎士学校を最短で卒業した記録を持つ優秀な兵なんですよ。薬学者の家の生まれなので、騎士団の医務でも重宝しています」

「そうだったのか。それだけ優秀な若手がいると年長者も油断していられないな」

「俺も魔力総量を測れていれば気兼ねなく使えるんですけどね」


 むぅっと不満そうなネルヴィにレスティオは首をかしげる。

 最も簡単で視覚的にわかりやすい魔力総量の測り方は、魔力結晶を限界まで放出すること。

 一定間隔で放出を続け、気分が悪くなる手前で止めた時、どれだけ放出できたかを基準にする。更に、放出しきった後は休息し、魔力量の度合いを体感で測りつつ、回復速度を確認する。

 魔術研究に参加していなかった者はこの二日間で測定してみていたが、参加していた者は回復優先だったので出兵も控えていたヴァナルやネルヴィはまだ測定出来ていない。

 測定できていないが故に、無茶な魔術の使用は魔力の枯渇を起こしかねないとして、使用が制限されているのが現状だった。


「まぁ、必要な時に必要なだけ使うというのも戦略として必要な考え方だろう。そういう思考を養う場と思うといい」

「必要な時に必要なだけ、ですか。意識してみます」


 顔つきを変えたネルヴィに頷くと、ブロワーズの方を振り返った。

 レスティオに急に振り返られてびくりと肩が震える。


「ブロワーズ。折角ユハニとペアなんだから、自分一人で魔物を倒すのではなく、相方を活かす戦術も取り入れたら討伐は断然楽になると思う」

「どういうことですか?」

「ユハニの攻撃が致命傷になる攻撃でないからこそフォローすべきだし、活かして効率的かつ確実に仕留めるべきだ。ユハニに援護してもらえば魔物に攻撃されるリスクが低く済み、ブロワーズが仕留めればユハニの魔力消費は最小限に抑えられ枯渇のリスクも抑えられる」

「二人組で動く以上、互いの利になる戦術を練るべし、ということですね。ブロワーズ、その戦術、試してみてもよいですか?」

「レスティオ様に言われて否と言えるわけないだろ」


 集団で動いているようで騎士団の戦い方は単独行動だ。

 とにかく一人一人が魔物を倒そうとしていて効率が悪くなっている。


「連携をどう取るか、声を掛け合うなり、相手の動きを先読みするなり、信頼関係が重要になる。まぁ、同じ部隊の仲間同士だから、俺がわざわざ言わなくても問題ないだろうが?」

「うっ、わかりました。ユハニ、」

「背中は預かります。利き手逆の左を中心に援護しますので、不足があれば声をかけてください」

「可愛げねぇな」

「褒め言葉として受け取っておきます」


 ブロワーズとユハニの掛け合いに軍の同僚を思い出してレスティオは思わず吹き出した。

 突然笑い出されて、皆きょとんとして顔を見合わせる。


「なにかおかしかったですか?」

「いや、ちょっと思い出しただけだ。ヴァナル、進もうか」

「はい」

「気をつけてください。同類の血を警戒する種のようで、近づいては来ませんが、数がいます」

「あぁ、じゃあ、手際良く行こうか」

「総員、前進っ!」


 剣を構え表情を引き締めて森の奥へと突き進む。

 前方に魔物が複数体見えてくると、レスティオは手綱を離してヴィルヘルムの頭を撫でた。

 鼻を鳴らすヴィルヘルムの態度を同意の意として受け取り、その背から近くの木へと飛び移り、木の枝を伝って前方へと駆け出す。

 狼のような魔物の群れの上に飛び出し、体をひねりながらまずは一匹の首を撥ねた。

 周囲の魔物の体を踏み台に飛び上がってきた魔物の下に滑り込み、腹を裂く。

 そうして軽い身のこなしで戦うことわずか数分で周囲を血に染めた。


「そちらはどうだ?怪我はないか?」

「それはこちらのセリフです!援護に回る必要もなさそうだとは思いましたが、その、まずはお体を洗わせていただいてもよろしいですか?」


 周囲の魔物を倒して合流したヴァナルらに声をかければ険しい顔で怒鳴られる。

 遠慮がちに問われてレスティオは自分が血まみれであることに気づき、自分で全身を洗い流した。


「魔術の使用に制限がかかっているやつに任せるわけにはいかないからな」

「お気遣い痛み入ります。しかし、レスティオ様も今の戦いで相当魔力を消耗されたのでは?」

「いや、魔力は一切使ってないぞ。体術と剣術だけだ」


 根源まで温存しておきたいしな。と軽く言えば皆の表情が歪む。

 その表情の裏で各々闘技場での一件を思い出していた。


「この森の魔物はレスティオ様なら容易に倒せるレベルなのですね」

「今のうちにお前らもそれくらいにならないと、数ヶ月、数年後の魔物討伐は務まらないんじゃないのか?」


 まだ厄災はピークに達していない。

 魔物も活発化してきたところとはいえまだ弱いものが多い。

 この程度で根を上げている場合ではない。


「そうですね。仰る通りです」

「では、気を取り直して進もうか」


 道を塞ぐ魔物の死体を風で飛ばし、ヴィルヘルムに跨る。

 事も無さげに無慈悲に対応するレスティオに目を見張りながらも一行は馬を進ませた。




 

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