第24話 ジンガーグ隊とコーク遠征(2)
「索敵と根源討伐は俺一人で先に済ませて、騎士団には弱体化した魔物を討伐してもらうくらいにした方が被害自体は最小限に抑えられるんだろうな」
レスティオの言葉に騎士団の兵たちがどよめいた。
敵に対して無策かつ無力な兵を連れて行くより戦闘力のある自分が単騎特攻した方が確実である。
当然レスティオ自身が負うリスクは高くなるが、聖騎士の役割として兵の治療を省き、魔物討伐と土地の癒しに注力出来るならば実践する価値はある。
念の為、発言の意図をきちんとソリッズに説明し同意を求める。
「なんとも、そう思わせてしまったことが不甲斐なく……しかし、単騎特攻では我が隊の面目が立ちません。せめて、先遣隊にレスティオ様が同行するということではいかがですか?」
「先遣隊……?」
首をかしげるとソリッズが隣を示して、先遣隊の面々を紹介した。
今回の遠征では、ヴァナル・ボールストレームを筆頭に、ハイラック・トレリアン、ネルヴィ・ボートム、ブロワーズ・バルリング、ユハニ・リトラの五名編成。
「先遣隊はその危険性故に隊内でも精鋭が選抜されます。本来は副隊長のガヴリール・ヴァルナフとシルヴァ・ハルヴァーニも加わるのですが、二人は別件で外れています」
「精鋭とそうでないものの違いを理解できていないが、まぁ、いいか」
レスティオが了解の態度を示すと、ソリッズはわかりやすく安堵した。
一時的に聖騎士を預かる身として、軍の体裁を隊長が意識するのは理解するところであり、レスティオとしても鵜呑みにせず譲歩案を提示してきたことには安堵した。
となれば、共に戦場を駆ける仲間がどのような者か会話しておこうと顔をそちらへと向ける。
「ユハニは、この前馬小屋で話したな。あと、ヴァナルとネルヴィが魔術訓練に参加していたのは覚えがある。思いつきに付き合わせて悪かったな」
「覚えてくださっていたんですね、ありがとうございますっ!足手纏いにならないよう誠心誠意努力致しますのでよろしくお願いしますっ!」
いち早く反応したネルヴィが少しだけ身を乗り出す。
レスティオがその性急さに驚きを示すと、ネルヴィの横にいたブロワーズがその頭を軽く小突いて窘めた。
そんな二人に先遣隊の先頭を行くヴァナルが深くため息をつく。
「弁えない奴ですみません」
「いや、変に気を遣われるよりいい。正直なところ、実戦で魔術は活用できそうか?」
「そうですね。この二日で魔力は回復しているので、私は一度実戦で試したいと考えています。隊長の許可も得ています」
「いつの間に!俺も!俺もいいですか、隊長!」
ネルヴィが大きく手を挙げて主張すると、ソリッズはめんどくさそうに頷いた。
魔術研究に付き合って以降の騎士団内の様子に変化があり、魔力のある者が顔を合わせればどのような魔術が剣術に応用可能か話が盛り上がるようになった。
その話の中で禁止されたにも関わらず魔術を使い始める兵も少なくなく、その度に隊長から鉄拳制裁が下されていた。
鉄拳制裁を経験しているネルヴィは許可が出たことにガッツポーズをして気合を入れた。
「調子に乗りすぎて味方を巻き込むなよ」
「わかってるよ。騎士団の戦術に魔術が加わることが有益かどうか。まずはそれが見極められればいいってくらいは心得てる」
お調子者に見えていたが冷静な表情を見せたネルヴィにレスティオは感心する。
個人の力量を図りたいという暴走ではなく、より確実な結論を導くために複数人の検証結果を得るべきというのは考え方は共に戦う仲間として信頼できる。
「なるほどな。成果を期待しているよ」
「、本気でおっしゃってます?」
「なにを疑っているのかわからない」
「いや。騎士団は使えないと思ってますよね、レスティオ様は」
「否定はしない。だが、使えるようになろうと努力する姿勢は評価する」
周囲から感嘆の声が聞こえて、この程度の言葉で士気が変わるのかと周囲を見回す。
目線が合えば緩んだ表情はすぐに緊張したように引き締められる。
「努力することを諦めて現状に甘んじるなら切り捨てることも厭わないんだけどな。だが、この世界の人間は無知で探究心に欠けているものの、きっかけひとつでお前たちみたいに意識を変える者もいるわけだ。単純に切り捨てるのは簡単だが、可能性があるならそれを見極め、引き出す努力をした上で判断を下すべきだと考えている」
不安を覚えることばかりだが、これから変わっていってくれるならそれでいい。
「例えば、超優秀な騎士がいたとして」
「ん?」
「家族が罪を犯して、連座で裁かれるとなったらどうします?」
「は?国の司法にまで口を出せる権限が俺にあるとでも?」
緊張気味に唐突に問いかけてきたネルヴィにレスティオはただただ首をかしげる。
今まさにそうなろうとしている兵がいて、なんとかしてやりたいのだろうかと考えるものの、レスティオの発言権が及ぶとは思えなかった。
「オリヴィエールはレスティオ様の召喚に成功したものの、他国はまだ召喚の儀に向けて動いていると思われます。なので、連座となればどこかの国で要請があれば贄に差し出される、ということになります」
「贄、ねぇ。本当に優秀な騎士なら、厄災前のこの時期に連座に巻き込むのは愚かな判断とは思うが、怨恨でその者が謀反を起こさないとも限らないから連座にするんだろう?」
「連座は体良く贄を増やすために作られた制度です。共謀していたならまだしも無関係な家族が巻き込まれるべきではないと我々は思っています」
口ぶりから、召喚の儀が成功したばかりだから連座として捕縛されていないだけで、ほぼ確定した事実のように聞こえる。
誰のことかはわからないが、ふむっと思案する。
「贄にするためだけの連座なら、やり方次第では対処はできるかもな」
「というと?」
「例えば、有力な者のところに養子に入るなり、結婚するなり、家族の縁を切ってしまうとかな」
「下手をすれば被害を拡大しかねないですが、やりようによっては確かに回避できるかもしれませんね」
「レスティオ様の護衛に指名されたら誰も手出しできないんでしょうけどね」
不意にネルヴィから出た言葉に、マルクには他言無用でと言われていた護衛の選出を思い出す。
しかし、誰とも知らない人間を護衛にするとは言えない。
「そんなに優秀な人間を騎士団から抜いたら騎士団が弱体化するだけだろ。贄の回避は騎士団に残す前提で考えるべきじゃないか?」
「それもそうですが、レスティオ様は優秀な者を召し上げるお考えはないんですね」
「優秀という言葉は俺と対等にやり合えるようになってから言え。それが抜けて騎士団の後継育成に支障が出ないなら考えないでもないんだがな」
「あぁ、俺たちの努力次第ってわけですね。承知しました。まずは魔術研究で成果を出すしかないな」
森だから火は使わないように、とぼやきながら考え始めるネルヴィに真面目かと苦笑する。
好奇心とそれを支える仲間への感情があれば彼は伸びるだろうと思う。
不満そうな顔をしているブロワーズはきっと魔力がないのだろうと察し、彼らにはどのような伸ばし方があるだろうかと思案する。
使えないというのは本心であり言うのは簡単だが、これから本格的に魔物討伐が始まる以上、そうやって彼らから目を背け続けるわけにはいかない。




