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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第22話 はじめての城下町



 演習場を一周した後、うずうずして仕方がない様子のヴィルヘルムに苦笑して、ハイラックは西門に兵を集めた。


「慣らしついでに、どこかに討伐でも行くのか」

「討伐はそう簡単には出られませんよ。帝都の外周を走って、もう少し慣らしましょう。数日前から各地に視察が出ているので、早ければ明日にでも討伐に駆り出されると思いますから」


 まずは、ヴィルヘルムが満足するまで走らせてから、馬上での剣術訓練に入ることにして、集まった兵たちと共に西門から外壁伝いに駆け出す。

 一気に駆け出そうとするヴィルヘルムをなんとか抑えて、先頭を走るハイラックが騎乗するドゥールに速度を合わせさせる。


「なるほど、暴れ馬な」

「ヴィルヘルムは言うことを聞かないので、騎乗しようにも怪我する者が多く、どうしても嫌厭されることが多かったですから。きっと相手を見てるんでしょうね」


 外壁伝いに走りながら、東門、正門と門の前を通り過ぎる。

 西門、東門は、軍用の通用門であり、出兵の際に使用される以外は封鎖されている。

 他の街や国から来た者たちは、必ず正門を通って帝都に入るのだと走りながら教えてもらう。

 正門を越えて、もうすぐ西門に戻ってくるという頃合いにハイラックはヴィルヘルムの様子を覗き込んだ。


「まだ走り足りなそうですね。シルヴァ!先導代われるか?」

「は、はいっ!」


 ぴったりレスティオの後ろについてきていたシルヴァは、声をかけられてびくりとしつつ表情を引き締めて前に出る。

 それを見てハイラックはドゥールに速度を落とさせた。


「シルヴァの馬の方が速いので、ついていってください」

「わかった!シルヴァ、頼む」

「はいっ!」


 シルヴァの返事とともにイヴェールが速度を上げるとヴィルヘルムもついていき、競うように走り始めた。

 少し引きつったシルヴァの表情に今までにない速度が出ているに違いないと思いつつ、笑いを堪える。


「そうだ、腕の調子はどうだ?」

「ぇ、あ、はいっ!以前と変わらず、本当に感謝していますっ!」

「そうか、後遺症が残らなかったなら良かった」

「ぁ、後遺症……そう、ですね」


 少し濁した言葉が気にかかったが、続かない言葉に丁度カーブで必死にイヴェールについていっている状況だったからだろうと理解した。

 正門に控えていた兵とすれ違いざまに「速っ」と驚きの声が聞こえる。


「ヴィルヘルムは満足してくれそうですかね?もう一周行きますか?」

「走れるだけ走りそうな気がするから、そろそろ終わりにしよう」

「わかりました」


 速度を抑え、西門へと角を曲がったところから歩かせ始める。

 シルヴァが後方へ合図を送り、他の兵たちもクールダウンに入りつつ、西門へと戻った。

 ヴィルヘルムはまだ走り足りなそうに興奮した様子だが首筋を撫でて宥める。

 全員戻ってくると門は閉められ、馬上での剣術訓練に参加する兵以外は馬を片付けて去っていく。

 昼の鐘までたっぷり稽古すると、ヴィルヘルムも満足げで、体を軽く洗ってやって馬小屋に戻した。


「レスティオ様、昼食の後はモルーナが魔術師団の本部を案内したいそうです」

「あぁ、わかった。昼食の前に水浴びして着替えてもいいか?」

「はい。準備いたします」


 訓練場まで迎えにきたルカリオと客室に戻り、体を休ませる。

 昼食後にモルーナが部屋まで迎えにきて、魔術師団の本部へと招かれた。

 騎士団と違い、魔術師の半数以上が眠っているので人気は少なく、廊下ですれ違う者もいなかった。

 案内の中で、魔術師団が誇る魔術書の図書室に通された。魔術師団の図書のほとんどは魔術書で、植物や動物と意識を通わせる魔術や風の魔術を応用した高速移動など興味深い内容が多く、レスティオはモルーナに自由に出入りできる許可を取り付けた。


「レスティオ様は、勉強熱心ね」

「暇つぶしだよ。他に娯楽がないからな」

「そういえばそうだったわね」


 興味深い本をいくつかピックアップして後ほど部屋に届けてもらえるように頼むと、次に案内されたのは医務室だった。

 召喚の儀に参加していて今も眠っている者は、全員医務室に集められていた。

 魔力を消耗しすぎると昏睡状態に陥り、最悪命を落とす。

 現時点で命を落としていないものは魔力の自然回復を待てば、いずれ目を覚ますはずだが、枯渇に近い状態まで消耗した場合は二、三ヶ月、長くて数年かかることもある。

 モルーナは魔力枯渇の症状を説明しながら病棟の奥へと足を進めた。


「レスティオ様にとっては目覚めてくれるなと思う人たちかもしれませんけどね」

「目覚めて討伐が楽になるならそれに越したことはないけどな」

「では、少しだけレスティオ様の魔力をいただいてもよろしいかしら」


 モルーナの要求に頷き、促されるがまま寝台に眠る男の横にたった。


「魔術師団長ファリス・グランツ。彼が目覚めてくれないと私の仕事が増える一方なのよ」

「それは大変だ」


 冗談混じりの言葉を聞きながらレスティオは手のひらに意識を集中させ、魔力をファリスへと送った。

 正直、水のように魔力を放出しているつもりだが、確かに送れているのかはわからない。


「儀式の中心にいた彼は、特に魔力を奪われていますから、少し多めに注いでもいいかもしれません。これで少しは早く目覚めてくれるといいのだけれど」

「ちなみに、魔術師団で今動ける者たちが、眠っている者へ魔力を注げば早く回復するんじゃないのか?あえて自然回復を待っているのはなにか理由があるのか?」

「あぁ、それは、本来他人に魔力を注ぐなんて、よっぽど相性がいい相手か恋仲でない限りやることじゃないから」


 モルーナの言葉に今しがたファリスに魔力を注いだレスティオは首を傾げた。


「ファリスの魔力の性質的に貴方の魔力を受けても目覚める頃までには中和されるでしょう。もし相性が悪ければ中毒症状を起こしたりして危険だから、本来はオススメしないのだけど」


 にこにこと微笑むモルーナになんとも言えぬ底知れなさを感じながらレスティオは引き続き案内を受けた。

 宿舎や食堂など本部内を歩き回り、一時間ほど過ぎた頃にモルーナはおもむろに外に行こうと提案した。


「外?」

「えぇ、レスティオ様はこの世界に来てから魔物討伐以外に城の外に出ていないでしょう?たまには息抜きも大事よね」


 城下町を案内してくれるというモルーナの提案に、レスティオは軍学校の同期に街に連れ出された時の高揚感を思い出して笑顔で応じた。

 まずは城の中で着ている服は普段着でも上質すぎて城下町へのお忍びには向かないということで、魔術師団の空き部屋でモルーナの息子のものだという服を借りて着替えを済ませる。

 レスティオには違いがよくわからなかったが、着替えた姿を見たモルーナは満足げに城下町への抜け道へと向かった。

 抜け道を歩くこと二十分ほど。城下町の賑わいにレスティオは思わず周囲を見回した。


「活気があるな」

「聖騎士様が召喚されたお陰でこの国は安泰だと安心しているんですよ。こんなに活気のある城下町はもう何年も見ていなかったから、召喚の儀をやった甲斐があるというものね」


 ちょっと前までは厄災の始まりと生贄の選出に怯えて過ごしていて、人通りもまばらなくらいだったという。


「さぁ、ここからは貴方を部下として扱いますからね」

「わかった。お忍びだからな」

「ふふ、孫と出かけてるような気分。おばあちゃんになんでもおねだりしてくれていいのよ」


 笑いながら先を行くモルーナに引っ張られて、レスティオは導かれるまま服屋に入った。

 いらっしゃーいと奥から声がして若い男がカウンターから身を乗り出した。


「モルーナさん、久しぶりだね。この前、アリシアさんと旦那さんが子供の服を買いに来てたよ」

「そうかい。仲良くしてるようで良かったよ。あぁ、ジェオ。こっちはレティ。うちの新人だ。世間知らずの坊ちゃんで街を出歩くような服を一着と持ってないんだよ」

「そうなの?初めまして、ジェオです。まずはレティにいくつか服を見繕えばいいかな?」

「頼むよ。あぁ、レティの好みがあったら好きに選んでいいからね」


 モルーナが懇意にしている店だと察し、突然の世間知らず設定に苦笑しつつ並べられた服を見回す。

 シンプルなシャツやパンツが並び、男物ではそこまで凝ったデザインの服はない。

 ただ、隅の小さなスペースは少し趣向が変わっていた。元の世界に近いとも言えないが、きちんとデザインされた服が並んでいた。


「しかし、レティは細いなぁ。ここにある男物じゃサイズ合わないぞ」

「魔術師に体格はさして求められないからねぇ」

「これでもそれなりに力はあるんだけどな」

「へぇ?」


 カスタムが当たり前の元の世界では体格だけでとやかく言われることはほとんどなかった。

 舐められた態度にレスティオは作り笑顔でジェオの腰を掴むと軽々と抱き上げて見せた。


「これくらいには」

「お、おぉ……みかけによらないもんだなぁ」


 なにをやってるんだと店の外で見ていた客が笑って通り過ぎていく。

 ジェオを下ろして、腰回りのサイズを調整してもらいながら服を選ぶ。

 ただし、トップスは調整できてもボトムスはそうはいかなかった。

 細い上に長い脚に店には合うものが無く、おそらく帝都内を回ったって既製品で合うものはないだろうとジェオはメジャーを取り出した。


「用意できるのか?」

「うちで良ければ」

「じゃあ、頼んでおきましょう。二、三は持っておいた方がいいでしょう。森に出かけることもあるから素材は丈夫なものがいいかしらね」

「はいよ。丈夫で動きやすい、このサイズに合うズボンな。足回りはゆったりしてた方がいいか?」

「いや、なるべく丁度いいサイズで合わせてもらえると助かる」

「オッケー」


 注文内容をメモしたジェオはどこか楽しそうに頷いた。

 モルーナも微笑ましそうに眺めて見積額を確認する。


「ジェオ。これは城の私の執務室に届けてもらえるかい?後、注文したものが出来たら連絡を頂戴」

「はいよ。レティのところじゃなくていいのか?」

「こんな店で服を買ったなんて知られたら怒られちゃうよ。これはお忍び用の服なんだから」

「そんなに上流階級なのかよ。まぁ、客には変わりないけど。んじゃあ、こっちは夕方には届けるよ」

「ありがとうね。さ、次に行くよ」


 支払いをモルーナに任せることに罪悪感を覚えながら、レスティオはジェオに礼を言って外に出た。

 歩きながら、今日のお忍びはエルリック公認なので経費として請求するし、モルーナの執務室を指定したのはレスティオの外出を公にしない為の対策のひとつと聞かされて納得した。

 また、ジェオは服屋メルヴィユの後継ぎだが、奇抜な服作りが趣味で、日々あの小さなスペースを拡大すべく努力しているのだという。

 店頭に並ぶのは現店長の父の厳しい選定をくぐり抜けた物だけで、それも一定期間買い手が付かなければ撤去を命じられ、これまで売れた服は片手で足りるほど。

 だから、レスティオがなによりあのスペースの服に目をつけたことが嬉しく、オーダーは発注せず自分で作り上げる気で会計の時に浮かれていたのだ。

 オーダーの質が良ければまた新作が出る頃合いに寄ってみようかと考えながら、モルーナの後に続いて町並みを眺める。


「さて、レティの部屋にはなにもなかっただろう?何か必要なものはないかい?」

「特に困ってないけど、なにが必要だろうな?」

「流石、軍人ね。よく教育されてるわ。けど、あれを自分の家の部屋と考えたらどう?」

「……クッションが欲しい。椅子が固くて。ベッドみたいに座面を柔らかく覆ってくれたらいいのに、と思う」

「クッション、はわからないけれど、気持ちはわからないでもないね。いや、ベッドみたいになればとは考えたことなかったけど」


 そういうと寝具を売っている店に入った。


「椅子に置くことを考えるなら、これくらいの枕なんてどうだい?」

「そうですね」

「どれ、私も買おうかね。最近は椅子に座って仕事する時間も増えたから」


 サイズの違う枕をいくつか注文し、これもジェオに頼んだようにモルーナの執務室へと運ばれることになった。

 会話を聞いていた店主は終始怪訝そうな顔をしていたが、二人が店を出るなり「これはいい」と声が聞こえてきて顔を見合わせて笑った。


「レティ。最後に案内したいところがあるの。こっちよ」


 モルーナは大通りから路地に入った先にある歓楽街へと足を向けた。

 日中は流石に客が少ないようで色っぽい格好の女性たちが和気藹々と話している様子が見られる。


「イアンナ」

「、あら、モルーナじゃないか。どうしたんだい?」


 齢は高齢に見えるが色っぽさを漂わせる女性が振り返った。


「こっちはレティ。奥の部屋を使わせてくれるかい?」

「……そっちは客じゃないのかい?」

「客にしたければそれなりの女を用意しな。なぁ、レティ」

「器量のいい女性と、お話だけなら、ご一緒することはやぶさかではありませんけどね」

「まぁ、いいさ。モルーナの紹介なら間違いはないだろう」


 イアンナに促されて娼館の中に入ると胸元や足を大きく晒したドレスを纏った女性たちが振り返ってくる。そちらを気にもとめずに後についていると、案内されたのは書棚が並ぶ一室だった。窓際には椅子とテーブルが用意されているが飾り気は全くない。


「飲み物は香茶がいいかね」

「そうね。お願い」


 椅子に座るとひとまず飲み物が来るのを待った。


「お待たせ、モルーナ。素敵な殿方を連れてるって噂になってるわ」


 飲み物を持ってきたのはイアンナでなく年若い女性だった。


「初めまして。私はルミアよ。また来る時は是非ご指名ちょうだいね」


 飲み物をテーブルに置くとレスティオの太ももに手を置いてしなやかに身を寄せて耳元で囁かれた。

 大概の男は引っかかるだろうがレスティオにはなんの効果もない。


「厄災における大陸各国の情勢とか、そういう話が出来るなら考えておくよ」

「ルミア。二人で話がしたいんだ。今日は下がっていてもらえるかい?」

「はーい」


 モルーナに言われてルミアは素直に出て行った。

 ドアが閉められるとモルーナは立ち上がって書棚から一冊の本を手にして戻ってきた。


「これは隣国ゾフィーの書ね。この部屋に収められているのは城の図書室にはない、異国の者が客として来た際に貢いだ品々よ」

「なるほど。オリヴィエールについて知るなら城の中で事足りるが、異国のことを知ろうと思えばここにくるのが手っ取り早いのか」

「えぇ。書物はもちろん、ここの女性たちからの話もためになるでしょう」

「……そのために彼女たちを買えと?」

「お金さえ払えば、この部屋で話を聞くだけでもイアンナは理解してくれるでしょう」


 連れてこられた理由に納得してレスティオは本を開いた。

 ゾフィーがかつて聖女を得た際の歴史をまとめた本だった。


「これは、……」

「私も新しい本を読みますから、ここで一緒に読書しましょう」

「はい」


 前回の厄災の際、大陸内で真っ先に聖女召喚に成功したのがゾフィー帝国だった。

 異世界から来た女性はミレイナ・シルヴィーと名乗り、人の治療を仕事とする者だった。

 召喚に戸惑っていた彼女だったが、厄災により人が傷つく状況に胸を痛め、協力してくれるようになった。

 他の属性の魔術はさほど強くなかったが、聖の魔術に関しては随一であった。

 その書物には、アッシュから学んだ聖の魔術の呪文以外にもいくつか記述があった。

 それを覚えるべく何度も頭の中で復唱し、ゆっくりと本を読み進めていく。


「レティ!」

「、はい」


 強く名を呼ばれて顔を上げると呆れ顔のモルーナがいた。

 気づけば窓の外は暗くなっていて、部屋には明かりがついていた。

 ドアのところには困り顔でイアンナが立っていた。


「もう遅いから今日は帰るよ。その本は借りてって良いそうだから」

「ぁ、長居してしまってすみませんでした」

「まぁ、いいよ。またおいで」


 イアンナに見送られてモルーナと裏口から出ると城へと帰った。

 帰りが遅かったことを心配していたルカリオを宥めて食事を貰った後、エルリックが部屋を訪れ、明日の出兵の通達を受けた。



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