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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第20話 剣と魔術(4)


 エルリックが執務のために席を外した後も打ち合わせは続き、昼食と食後のお茶の時間を過ごしてから騎士団の訓練場に向かう。

 訓練場では鎧を着た兵たちが揃っていて、その中には先日の討伐で見かけた気がする者もいる。


「騎士団の皆さん。本日はご協力感謝いたします」


 モルーナが声をかければ、姿勢を正して整列した。

 その中からドレイドが前に出てきて一礼した。


「レスティオ様の先日の戦いぶりに感銘を受けた兵たちが集ってくれました。魔力の大小はありますが、皆やる気はあります」

「そうですか。では、まずはその魔力の大小を見せてもらいましょう。それによってクラス分けした方が、研究の成果も見やすいでしょうからね」

「なるほどな。そういうことなら、クラス分けが終わるまで、体を動かしていても?」


 許可を得ると、モルーナとアッシュに促されて魔力結晶を作り出していく者たちを横目に、レスティオは暇つぶしがてら訓練に備えて柔軟を始めた。

 そこに鎧を纏った中年の男が近づいてくる。

 明らかに自分に用がある様子に柔軟を続けながら目を向ける。


「お前は?」

「ハイラック・トレリアンと申します。騎士団の新兵の剣術指南役をしておりまして、ドレイド団長からレスティオ様の剣の稽古を任されました」

「あぁ、それは助かる。この世界に来るまで剣なんてまともに持ったことなくてな」


 開脚したまま体をひねれば、ひっと引いた声がした。

 体の柔らかさはそこまで驚くようなことだろうかと不思議に思いつつ、程々で切り上げる。


「あの、本当にまともに剣を持ったこともないのですか?あの腕前で?」

「先日は剣術というより体術頼りだったからな。ナイフならまだ扱ったことがあるんだが、剣だとやはり勝手が違うな」


 そう言って、今も腰につけているナイフを示せば、ハイラックは怪訝そうに首をかしげる。


「正直、ナイフを武器として使用するという発想がなかったので驚いているのですが、レスティオ様の世界ではそれが当たり前なのですか?」

「当たり前というか、主要な武器は他にあるからな。これは少々大振りだが、携帯用の武器はこの程度で十分なんだよ」


 世界的に言えば過去に剣を使った戦争などもあった。

 しかし、今のエリシオール合衆国の主な武器は人型機械兵器ヴィルヘルム。

 操縦の邪魔になるので、指示がなければ携帯用の武器を持たずに出撃することも多いくらいだ。

 勿論、訓練の他、潜入任務や白兵戦の任務もあるので、ナイフや銃の実戦経験は積んできている。


「魔物と戦うには、少々間合いに不安を感じますが、レスティオ様ほどの体捌きならばこそでしょうかね」

「間合い、か」


 言われてみれば、馬に乗って戦うことが主流という前提に立つと、ナイフのように短い得物では魔物との距離感が難しい。

 森の中のように障害の多い場所では、剣くらいの武器が扱いやすいとされるのだろうとレスティオは理解する。


「この前は死角から狙うようにしていたが、定石の戦術があるなら一通り教えてもらえるか?基礎は押さえておきたい」

「では、剣を持ったこともないということでしたので、基本の型から始めましょう」


 ハイラックから木剣が渡される。

 表面に凹みや割れ目、ささくれも見え、状態はよくない。

 持ち手だけは布が巻かれていて怪我しないようになっているが、その布もボロボロだった。


「使い古しですみません」

「いや、訓練用の物などこんなものだろう」


 訓練用の備品が充実していたエリシオール合衆国軍ですら、学生が使用する分は軍の兵が使い古した物で済ませていた。

 その上、武器の点検訓練と称して、装備の手入れをさせられることもあった。

 新品もいいが、ある程度使い込まれたものの方が扱いやすい場合もあるし、ゲームの初期装備は本来この程度と思えば悪いとは思わなかった。


「そういえば、ハイラックはあちらには参加しないのか?」

「残念ながら、私には魔力がありませんので。人数がいるように見えるかもしれませんが、半数は生活が多少便利になる程度しか魔力がない上、魔術という魔術を知りません」


 生活魔術以上のことは魔術学院に通わなければ教えてもらえないが、ここにいる兵は騎士学校の出だ。

 魔術師たちは眠っている上に剣を持つという発想がないからこそ騎士団に話が来たが、成果は期待しないほうがいい。

 苦笑いしながら言うハイラックにそういうものかとクラス分けの様子を窺う。


「というわけですから、私はレスティオ様の剣術指南に集中できる立場です。お気遣いは無用ですので、早速持ち方から見ていきましょうか」

「あぁ、よろしく頼む」


 剣の持ち方と姿勢から丁寧に教えてもらい、体を動かしてながら型を馴染ませていく。

 一度解説しながら手本を見せれば習得するレスティオに、ハイラックの指導も熱が入る。


「レスティオ様!クラス分けが終わりましたよ」


 アッシュに声をかけられて振り返れば、三組に分かれているのがわかった。

 だが、うち二組はそれぞれ片手で足りる人数しかいない。

 半数どころか九割は使い物になるか怪しい様子に先行きが不安になる。

 一旦、剣術稽古を切り上げて、アッシュとモルーナの方へと足を向ける。


「アッシュ。魔力量が元々少ない者だと、同じ魔術でも威力に差が出るのか?それとも、同じだけ魔力を消耗して、魔力が枯渇して倒れたりするのか?」

「魔力制御次第ですね。制御が効かずに単純に魔力放出を行おうとすると必要以上に威力を出すことも、消耗することもあります。子供の頃には良くそれが原因で事故を起こすこともありますが、成長するにつれて適性や加減を体得し、必要以上には魔力を使わないようになるものです」


 無茶をする子がいれば親が止めるし、周囲に危険が及ぶと判断すれば矯正施設へ捕らえられることもある。

 アッシュの言葉に、何人か苦い顔をする。

 それでもこの場に集まってくれたと思えば、不安はあるものの心意気は良く思えてくる。


「なるほどな。まぁ、これを機に一撃必殺の秘技を得るというのも一興かもな」

「、一撃必殺、ですか?」

「少ない魔力でも扱い方ひとつだろう。ここぞという時に強力な一撃を放つもよし。弱くとも数を打つのも戦略だ」

「ものは考えようということですね。まぁ、無理をしない程度にやってみましょう」


 穏やかな笑顔でモルーナは魔術師団の演習場に用意した的に手をかざした。


「我、水の力を行使する。風よ、我が力に導きを与え給え。ロ・グラス・ゲイル」


 詠唱とともに的から乾いた音がして地面に氷の塊が落ちた。

 銃弾を思わせる速さにレスティオはほぉっと感嘆した。

 速さはあるが、生み出された氷は刃や矢というよりただの鈍器だ。

 これが普通だというならば、円錐のような形状を生成して魔物に打ち込んだのに周囲が驚くのも頷けた。


「今のは氷を放つ呪文です。今回試したいのは、武器に魔力を込めて広範囲へ広げるというものです」


 そう言いながら、モルーナはもう一度的に手をかざし、詠唱とともに手を横へと払った。

 今度は的に届くより先に氷がまばらに宙に舞って落ちた。上手く風の力が働かなかったようだ。


「普通に手で払うとこうなってしまうのですけど、レスティオ様」


 どこか悔しさを飲み込んだような表情でモルーナに促されて、手にしたままだった木剣を持ち直して前に出る。

 剣が特殊なだけであれば話にならない。

 そう思いながら、レスティオは的を見据えて木剣へと魔力を送る。

 剣を片手で軽く振ると同時に演習場に氷が張られ、切られた的がその上に転がった。


「行けるものだな」

「木剣でも出来るのですね。魔剣だからかという気もしていましたが、これは今後の研究の幅が広がりそうですね」

「これを騎士団が使える様になったら、戦力としていいんじゃないか?」


 そう言いながら、今度は魔力を炎へと変えて氷の方へ剣を振るった。

 氷がじゅわりと音を立てて溶け、同時に木剣がレスティオの手ごと燃え上がった。

 突然のことに驚きの声を上げながら皆勢いよくレスティオに水を放ち鎮火した。


「げほっ、こほ、流石にあちこちから一気に浴びせられるのは苦しいんだが」

「手が火傷していますっ!すぐに医務室に、」

「あぁ、いや、いい」


 レスティオは慌てるアッシュに構わず詠唱し、手を治した。

 聖の魔術があるのだから医薬品を消耗させる必要はない。


「うん。問題ない。魔術というのは便利なものだな」

「だ、だからと言って御自身の体をそのように扱わないでください」


 いいながらアッシュが風の魔術で濡れた体を乾かしてくれる。

 温かく心地よい加減に身を任せつつ、地面に落ちた木剣の残骸に目を留めた。


「流石に燃えた剣は元に戻せないんだよな。ドレイド、すまない」

「いえ。たかが木剣。燃やせば燃えるのだとご理解頂けたなら幸いです」


 燃やせば燃える。

 その言葉に、これまで火の魔術を使っても火傷することはなかったと思い出す。

 魔術が自分の手を離れた時点で、純粋な火として物を燃やすものになる。

 そして、その物に触れていれば自分の手が燃えることもあるのだと理解した。

 

「すまなかった。これに関しては弁償する」


 呆れた顔のドレイドに申し訳なくなって謝るが、弁償は断られた。

 仕方なくレスティオは手本を見せ終わったので下がって、次の木剣をハイラックから受け取った。

 今度は燃やさない様にという苦笑い付きで。


 基本の型は押さえたので、今度はハイラックと手合わせしながら立ち回りを学ぶ。

 レスティオの剣術訓練は順調だったが、魔術研究の方は、最も人数が多いクラスは詠唱しても魔術を発動できずにいた。

 他の兵は詠唱すれば魔術を発動させられるものの微弱な威力に対して消耗が激しくぐったりしていたり、武器に魔力を纏わせることも難しいらしく、木剣を凍らせたり割ったりと、成果は中々実っていなかった。


「なぁ、ハイラック」

「はい」

「例えば、こうしたらまだ使えるんだろうか」


 次々と捨てられていく木剣の山に歩み寄り、割れた木剣を手に取る。

 割れ目を補う様に魔力結晶を形成し、表面を薄くコーティングしてみる。


「持ち手まで魔力結晶だと持ちにくいかな?」

「ぇ、っと……なにをされたのですか?」

「破損部分を魔力結晶で補ってみた」


 さらりというレスティオにハイラックは悩ましそうに腕を組んで首を傾げ、その剣をじっと見つめた。

 コーティングされている分、木剣ほどの鋭さもない。軽く何かに当てても壊れない様にもみえる。

 剣を手に取って軽く素振りをしたハイラックは、何度か柄を握り直して訓練場の脇に置かれた藁の的に振りかぶった。

 パンっと乾いた小気味のいい音が響く。


「悪くはないですね」

「これで修復できるなら、いくらか消耗した分を補填できそうだな」

「むしろ、これを使わせてみた方がいいかもしれませんよ?ネルヴィ!」


 ハイラックは、氷漬けになって大剣と化した木剣を手に難しい顔をしていた兵に魔力結晶でコーティングされた剣を渡した。

 受け取った剣を詠唱と共に振るうと、魔力が上手いこと纏わりつき、振ると同時に軌道を描く様に氷が伸びた。


「おぉっ!?」

「なんだこれっ!」


 カマのような形状になった木剣に皆驚きの声を上げる。


「それはおそらく、レスティオ様の魔力が強いが故に貴方の魔力が弾かれた結果ね」

「弾かれた?」

「えぇ。魔力結晶はその魔力より強大な力を込めないと溶かせないものなのよ。レスティオ様の魔力なら我が国の上位魔術師だって溶かすのは苦労するでしょうね」

「へぇ」


 氷だけを一度溶かして他の兵が次々と試し始める。

 あっという間に魔力結晶でコーティングされた剣は玩具と化し、調子に乗って魔力を消耗した兵たちはぐったりと地面に座り込み始める。


「今日はこれくらいかしらね。そもそもとして魔力の扱いを勉強させる必要はありそうだけど、武器に魔力を込めた戦術がどう完成するのか楽しみだわ」

「先が思いやられる気がしないでもないですが、面白い研究にはなりそうですね」


 回復にはしばらくかかるだろうと次回は来週以降に行うことになった。

 その間、兵たちは自主練をする気満々だったが、あまりない魔力を枯渇させては急遽魔物討伐にでなければならなくなった時に困る。

 魔術の扱いには注意するように睨みを利かせるドレイドはいつになく真剣だった。


「ハイラック。今日は有難う。近いうちにまた稽古に来るよ」

「はい。剣術の稽古でしたら、いつでもお待ちしております。次は馬術も稽古しましょうか。ヴィルヘルムも待ち遠しそうにしていますよ」

「あぁ、是非頼む」


 そのまま訓練場でモルーナとアッシュと別れ、レスティオは部屋で今日の成果をノートにまとめた。

 ハイラックとの剣術稽古で学んだことはもちろん、モルーナや兵たちが魔術を使う様子から、この世界の魔術というものについて改めて考察している内に時間は過ぎていった。



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