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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖なる集い編
203/256

第185話 自由に過ごす休日(2)


 アロウが城へと走り出し、ユーリアを食事処へ送り届ける。

 では早速買い出しを始めようと振り返れば、周囲には聖騎士がいると聞きつけて来た者たちで溢れていた。

 既に朝の鐘は鳴り、人々が活動を始めた以上、目に留まるのは致し方が無いこと。レスティオは、これは許容範囲だよなと苦笑した。


「はて、ぬいぐるみの材料はどこで調達出来るかな?」

「この状況で言うことがそれか」


 周囲をあえて気にせずに口を開いたレスティオにミアは顔をしかめた。

 人々に注目され騒がれることに慣れているレスティオは構わず顔ぶれを確認する。

 

「ミアはまともに外に出たことが無くて、ルカリオも直接店に行くことはあまりないだろう?とはいえ、ソリッズも布や綿を売っている店を知っていると思えない。誰かに聞くしかないな」

 

 冷静に分析して群衆に向かおうとするレスティオの肩をソリッズが掴んで止めた。

 以前と比べて警戒心が感じられない様子に呆れながら、テトラ!と叫んだ声に、女性が声を跳ねあがらせて応じた。


「すまないが、ちょっと良いか?」

「知り合いか?」


 ソリッズが歩き出した先には店先から顔を出す店員たちの姿。

 売り物を見て雑貨屋と理解すると、レスティオはその後ろについて行き、店員たちに微笑みかけた。


「紹介します。テトラ・フランドール。クォートの娘です」

「えぇっ!?ぁ、は、初めまして!テトラと申します。父がお世話になってます。って聖騎士様に言うのはおかしい?あぁ、もう、おじさん急すぎっ!」


 前に突き出されたのはクォートの妻であるリッシェに良く似た女性だった。目元はクォートに似ている気がすると共通点を見つけて納得する。

 あたふたとするテトラの反応を新鮮に思いながらレスティオは前に出た。


「初めまして、テトラ嬢。聖オリヴィエール帝国の聖騎士、レスティオ・ホークマンです。私の方こそ、父君であるクォートには筆頭護衛騎士を務めてもらったり、危ない所を幾度も助けられ支えられて感謝するばかりだ。仕事の最中に申し訳ないんだが、少し尋ねさせてもらってもいいかな?」

「勿論ですっ!」


 真っ赤な顔で震えながらもテトラは即答した。

 周囲の店員たちもテトラの後ろから間近で見るレスティオの美貌に悶絶する。

 その光景に、ソリッズはミアを見て、このことはクォートには言うまいと頷き合う。

 騎士団の兵たちは既に見慣れたレスティオの美しさは、見慣れない者からすれば直視するのも恐れ多いほどなのだと再認識した。

 

 その後、テトラは店長に追い出されるようにしてレスティオたちの案内役を引き受けることになった。


「布はあちらのお店が品揃えもいいのでお勧めです。ぁ、いや。けど、聖騎士様の御用達はノジャーロア商会とアルティザン商会ですよね。あそこは、ハリス商会の傘下なので……」

「今日はとても個人的な買い物なので、あえて、そこは目を瞑ってもらおう。欲しい布があることが大事」

「かしこまりました!では行きましょう」


 本当にそれでいいのかはここにいる誰も判断できず、レスティオとテトラに黙ってついて行く。

 ふと、レスティオはテトラの髪に飾られた魔力結晶らしき花に目を留めた。


「ルカリオ、もう少し近くに。テトラと並んでいるところを彼女の恋人に見つかったら嫉妬されてしまうかもしれない」

「ふぇあっ!?」


 前を歩いていたテトラは奇妙な声を上げて後頭部を両手で押さえた。

 その表情は赤いようで青ざめてもいた。


「ち、父には内緒でお願いします。って、あぁ、おじさんがいるんだったぁ……」


 項垂れるテトラの髪飾りをじっと見つめたレスティオは、土台がザンク製と気づく。

 ザンクの品は一般に流通していないので、現地から調達している皇室か騎士団に相手が限定される。

 加えて花の魔力結晶の色を見れば相手は絞り込める。


「状況推理で行くと、……」

 

 そっと名前を囁くと、テトラは口を大きく開けて固まった。


「当たり?」

「なんでわかるんですかっ!?ぇ、なにか聞いてましたっ!?」

「いいや、相手がいないと前に聞いたきりだよ。ようやく縁を見つけられたなら喜ばしいことだね」

「っていうか、私、父の娘だってまだ彼に言えてないので……彼にも黙って置いていただけると」

「ぁ、それは早めに言ってあげた方がいいと思う。数日の内にクォートも帰ってくるだろうし、話が広がる前に」


 テトラは恥ずかしそうに項垂れながら素直に返事をした。

 ソリッズもミアも相手が誰かまではわからない様子だったが、レスティオは笑うだけで名前を答えはしなかった。

 なるべく誤解されない距離感を意識しつつ布を扱う店へと入る。

 

「アミュレットラビードには色々な布を使いたいんだよね。ネルヴィとミウの髪の色、瞳の色、魔力結晶の色」


 店に入るとレスティオはずらりと並んだ布を見渡して手触りを確認しながら選んでいく。

 材質に違いはあれど柄物の布はほとんどなく、布と布を隣り合わせにしてバランスを考える。


「アミュレットラビード?」

「子供の成長と幸福を願うぬいぐるみ。俺の護衛騎士を務めてくれた連中の出産祝いに生まれた子供に贈ろうと思ってね」

「へぇ、素敵ですね!髪飾りの次はそのぬいぐるみが流行る訳ですか。店に仕入れておこうかな。お母さんたちなら喜んで作りそう」

「テトラは裁縫は?」

「私はその点父親似なので」


 きっぱりと言ったテトラに、思わず布と針を手に唸るクォートの姿を想像してレスティオは笑いを堪えた。


「あくまで子供への贈り物なんですよね……」


 隣で布を手に取りながらテトラが呟く。

 何か悩む素振りにレスティオは微笑ましく思って布を選ぶ手を止めた。


「惚れた相手なら、隣にいて好きだと言い合えるのがなにより力になるし幸せだよ」

「ふぁっ……」


 微笑みを直視してテトラは顔を両手で覆った。

 どうしてもと思うならハンカチに互いの名前を刺繍して贈るのはどうかと提案し、布や糸の色を互いの色に合わせるといいと加えて隣から離れる。

 

「ルカリオ、会計頼める?」

「勿論です。奥の方にもっと上質な布があるようで、持ってきてくれるそうですよ」

「へぇ、せっかくだしそれも見せてもらおうかな」


 赤面して震えるテトラを他所にレスティオはルカリオに選んだ布を預けて、店主が奥から出してきた布の方へと寄っていく。

 ソリッズとミアはあえて声を掛けず、何も見ず、聞かなかったことにして店先へと移動した。


 その後、工房に卸す以外に綿だけを売っている店はないと教わった一行は寝具店へと移動した。

 手っ取り早く綿を手に入れようと思った時に真っ先に浮かんだのが枕やクッション。

 手ごろなサイズで触感が異なるものをいくつか選んでミアの腕に積み上げた。

 最後に、案内をしてくれたテトラへ雑貨屋の皆で食べられるようにお菓子を贈って別れる。

 

 一旦城に帰るとエリザがいい笑顔で待ち構えていた。

 

「おかえりなさいませ、レスティオ様。お買い物は楽しまれましたか?」

「ただいま。自由にしていいという言葉に甘えさせてもらったよ。いい気晴らしになった」


 あえて笑顔に笑顔を返すと、エリザは苦笑して肩を竦めた。

 

「それは良かったです。昼食は御屋敷に戻られますか?レスティオ様から私に御屋敷に関わるご相談があると報告を受けておりますが」

「急に戻っても準備が大変だろうから、昼食はこちらで食べるよ」

「心配は御無用です。既に伝令を走らせましたから、レスティオ様がお戻りになると仰るなら、ヴィムとメノンのことですから準備は出来ているでしょう」


 それならば、逆に帰らない方が準備の手間を無駄にかけさせたことになる。

 レスティオはエリザとミアを昼食に誘ってセバンを護衛に屋敷へと向かった。




 


 屋敷の前には使用人が出迎えに立っていた。

 レスティオが馬車を降りると、ヴィムとメノンが一歩前に出て安堵した表情を見せた。


「おかえりなさいませ。おかえりを心待ちにしておりました」

「長らくの御勤めお疲れ様でございました。先にお話は伺っております。昼食の準備も出来ておりますから、ご一緒しながらお話致しましょう」

 

 にこやかに迎えてくれた二人に笑顔で頷き、その隣へと視線を変える。

 屋敷の使用人であるリンジー・マクネアー。さらに横には緊張した様子の女性が立っていた。


「リンジー、無事射止められたんだな」

「は、はいっ!後押し頂いたおかげですっ!ぁ、改めて紹介します。私の妻になりましたリマです。婚姻の手続きを済ませ、1月から共に屋敷の使用人として務めております」

 

 紹介に合わせて前に出たリマは深々と頭を下げた。

 彼女はコークの村の村長の娘であり、レスティオの記憶にも残っている。

 

「ご無沙汰しておりますっ!コークにお立ち寄り頂いた際には村民一同大変お世話になりましたっ!村長の娘として御礼申し上げます。これからはリンジーの妻として、こちらで特待生の皆様のお世話に尽くしたいと思っています。どうぞよろしくお願い致します!」


 リンジーに想い人がいるという話を知った後、そもそも想いを伝えるところからだと聞き出した時には相談するか悩む段階でもないじゃないかと少し冷めた。

 屋敷に住み込んでいる者の婚姻の扱いは悩ましいものなのだと使用人の在り方をヴィムに説明されたレスティオは、好きにしたらいいと身の振り方をリンジーに委ねることにした。

 相手が結婚を承諾した上で帝都に移住する意志があるのか、住み込みで共に働く気はあるのか、想いを伝えていない状況では対応の検討もしようがない。

 結果は迎年祭を終えて帰ってきてから、つまり、ゾフィー帝国派遣団が帰還した後に聞く予定だった。ただ、女性を待たせるものでもないし、相手に意志があるならば面接の上受け入れるか否かヴィムとメノンに一任していた。

 任せたことが上手く行ったならば主としていうことはないと満足して頷く。

 

「まずは結婚おめでとう。二人のこれからの働きに期待しているよ。細かい話は中で聞かせてもらおうか」


 挨拶は手短に、久しぶりの屋敷へと入る。

 春の模様替えを済ませた屋敷内は、貰い受けた当初の雰囲気を思い出させて懐かしい気分にさせた。


「セバン。どこまで二人に話を?」

「ロゼアンが出て行く件と、新しく入る者が一人決まったこと。それから、レスティオ様の不在の間のことも。血縁関係については昨日あえて語らないようにしていたようでしたので伏せています」


 食卓につくと並べられた料理の気合の入りように表情が綻ぶ。

 肉料理に合わせてオルドナが用意され、レスティオが好んで飲んでいたクルールのボトルもテーブルに置かれた。

 使用人も客人も揃って席につく特待生寮ならではの食卓風景にエリザは驚きながらも末席に腰を落ち着けた。


「先に紹介しておこう。セバンの隣の彼が今度新しく寮に入れたい人物だ。俺の世界から連れて来た。厄災対応の協力者として、今度帝国軍の指導官を任せたいと思っているんだ」

「初めまして、ミア・アンノーンと申します。まだレスティオの思いだけでなにも確定してはいませんが、今後深く関わる機会があるやもしれませんので、その際はどうぞよろしくお願い申し上げます」

「ははっ!レスティオ様がそう思っていらっしゃるなら、大概のことはその通りになるでしょう」


 ヴィムは笑いながら挨拶し、順に挨拶していく。

 最後にエリザが名乗って、皆グラスを手に取った。

  

「では、再会と出会いを祝して」


 乾杯をしてナイフとフォークを手に取り、食事を始める。


「早速ですが、ミアにはロゼアンの部屋を使って頂こうと思います。良いですか?」

「空いている部屋もあるだろう?最低限の家具は客室として揃えているしそちらでもいいんじゃないか?」


 一口食べたところで話を切り出したヴィムにレスティオは肉を切りながら応じる。

 

「実は先日、皇室認定の特待生の選定にあたって、レスティオ様と協議の上特待生寮の部屋を与えることを検討したいと打診があったのです」

「皇室認定?ロゼアンやセバンの働きが認められたわけだ。ここを使いたいということは俺も知っている人かな」

「はい。ユハニ・リトラとアイシャ・リトラの両名を薬学分野における更なる貢献を期待して特待生に迎えるそうです」


 空いている客室は以前アイシャを迎えた際に一度整えている。

 そのまま夫婦で使わせた方が二人も気兼ねなく過ごせるだろうと言われて、レスティオは納得した。


「既に二人からは承諾を得ているのか?」

「はい。後は、レスティオ様の承諾次第で住む場所を検討するだけだそうです」

「勿論承諾するよ。部屋の準備を頼む。それと、もうひとつ使用人用の部屋でいいから準備を頼みたい」

「おや、レスティオ様が推薦する使用人ですか」


 部屋を準備する流れに乗ってレスティオはユーリアに提案した内容を話した。

 エリザは困った顔で流石に皇族を通さなくてはならないと言ったが、ヴィムとメノンは妊婦と赤子を迎える準備に乗り気で応じる。

 いずれリンジーとリマのために整える必要があると考えていたから丁度いいと言われてレスティオは納得して任せた。


「暫く静かな暮らしが続いていましたが、賑やかになりそうですね」

「ヴィムとメノンの負担を減らせるように、追加の人員についても考えてみるよ」

「助かります。我々ももう若くはないですからね」


 微笑むヴィムにレスティオは目を細めて頷いた。


「あぁ、そうだ。不在の間の事を聞いたなら、俺が元の世界に帰っていた話も聞いたかな?」

「えぇ。大変な日々をお過ごしになられていたようで、屋敷にいるときは心穏やかに過ごせるように使用人一同努めさせていただきます」


 礼を言って、視線をミアへと向け、メノンへと移した。


「実は、帰った時に先の召喚の儀の折に、何人かが俺の世界に転移していることがわかったんだ」


 転移と言われてもわからないだろう皆に、自分がこちらの世界に来たように、生贄になった者が自分の世界に来ていたのだと言葉を直して伝える。

 すると、当時生贄になった者たちに覚えがあるヴィムとメノンは、ほぉっと関心を示した。


「俺は直接会うことはなかったのだけど、そのうちの一人の名前はミランダ・マッカーフィー。メノンの妹、で合ってるよな?」

「まぁ……はい!私の妹です。夫と共に生贄になると決まって……あの子が、レスティオ様の世界で生きていたのですか?」

「うん。一緒にヴィヴィアン・ドーベルという女性も転移していてね。その人が俺の祖母で、話を聞かせてくれた」


 ミランダの名前に喜んだメノンだったが、レスティオの祖母の名が出るとミア以外が揃って驚いた。

 ドーベル家との因縁を知っている者は、表向き笑顔を繕って接していても良好な関係とは誰も思っていない。


「レスティオ様、それは……」

「ユリウスたちにはもう話した。祖母から預かり物もしているから、近い内にお茶会でも催そうかと考えている。下手に知れると面倒ごとを起こす者もいるだろうから、その時まで内緒にしていてね」

 

 口元に指を立てて注意すると、状況を呑み込めないまま、こくこくと頷き返す。

 

「それで、ミランダなんだけど、向こうに転移した後、縁が結ばれて俺が所属していた軍の人と再婚していた」

「まぁ、エルヴィンは共に転移出来なかったのですか……」

「そのようだね。再婚した相手との間に娘を一人産んだが、その後、体調を崩して亡くなったそうだ」

「そうですか……」


 メノンの向かいでミアも表情を翳らせた。

 レスティオはグラスを手に取り、そんなミアを見つめる。


「なんだ、そのなにか言いたそうな顔は」

「いや。お前ならこの話だけで推察するかとおもったんだけどな。ミランダの夫の名前はベルモンド・グレイシー。俺が所属していた騎兵隊の総司令官だ」

「は?」

「娘の名はシェスカ・グレイシー。ミアの恋人であり、俺の所属する部隊の同僚だった女性」

「はぁっ!?」


 驚くミアに他の者たちも驚いて相関図を思い浮かべる。

 メノンは姪がレスティオやミアと関係があったことに、まぁまぁと嬉しそうに微笑む。


「ミランダは、そのベルモンド様のもとで幸せに暮らしていたのでしょうか?」

「熱心に口説かれて嫁入りを決めたと祖母は言っていた。体質の都合上、本来子供を望めない仲だったが、危険を伴っても治療を受けて子を成したいと思うほど、ミランダもベルモンド氏を愛していたようだ」

「そうですか。それならば良かったです。お聞かせいただき有難うございます」


 その後、不在の間の話に華を咲かせて昼食の時間をゆったりと過ごした。

 ぬいぐるみの材料を城に置いてきたこともあり屋敷に泊まることは断って、レスティオはセバンとミアを付き合わせて再び街へと出た。


「ジェオ。なにか新作は出来てるか?」


 セバンとミアの影に隠れながらやってきたのは服屋メルヴィユ。

 店内を覗き込むと、カウンターで縫物をしていたジェオ・ロレアンが顔を上げた。

 

「レティッ!久しぶりだなっ!暫く不在だって言われて面会が無かったから溜まってるぞ」


 飛び跳ねるようにカウンターから出て来たジェオはこっちこっちと壁際の棚に手招きする。

 レスティオがこの世界で服を作ってもらっている職人である彼は、髪伸びたなぁと屈託ない笑顔で服を手に取って広げ始める。


「セバンとミアも春物の服が必要じゃないか?ミアは昨日一着駄目にしただろう?」

「あぁ、そうですね……」

「あの赤いシャツをずっと着ている気にはならないしな」


 一応品質は特別いいのだけど、と文句を言いつつ、店内を見て回る二人から関心をジェオに戻す。

 以前より服の型に幅が出来たようで、腰回りが立体的になるように布を継ぎ合わせたシャツを試着させてもらい、そのフィット感に感嘆する。

 店の奥から取り出された試作品は、襟の形がVネックから飾り付きまで様々種類作られていて、次の面会に持参するように頼んでいくつかオーダーする。

 自分の分の発注が終わったところでセバンとミアの服選びにジェオと二人で口を挟み上下5組ほど選ばせて支払いを済ませた。


「溜め込んだ給金があるから自分で払えるんだが」

「聖騎士御用達の店への心付けついでだから」


 迎年祭で楯と金貨の褒賞を与えて御用達と公表したのに、それ以降一切取引していなかったのだ。

 お詫びも兼ねて多少の心付けは然るべきと自論を語ったレスティオに、ジェオは思い出したように褒賞の礼を口にした。

 会計をしながら、あれから各地の商人がジェオが作ったブランドである『ジィノ』の服を求めてやってくるようになって、量産体制を作るまで大忙しだったと語った。

 ジェオの妻であるティノの実家である服飾工房シュクナは生産ラインの半分以上を『ジィノ』に切り替えて対応してくれるようになり、大いに助けられた。


「先程の試作品の数々を見ると、今は落ち着いてるのか?」

「ティノが采配してくれて、俺にはなるべくデザインを優先して欲しいって言ってくれたんだ。利害の一致で結婚したけど、俺にはもったいないくらいの良妻だって皆言ってる」


 今も試作用の材料の買い出しに言ってくれてるんだと言いながら、買った服を分けて包んでいく。

 そこにジェオ!と呼ぶ声が聞こえて来た。

 店の奥から茶色のふわっとした髪を揺らしながら若い女性が顔を覗かせる。


「聖騎士様がお戻りになられたって!商会長が早速面会を申し、入れるって……」

「ぁ、ティノ。聖騎士様なら丁度買い物に来てくれてるよ。オーダーも受けたから面会日の設定待ってもらうことになりそうって商会長に言わなきゃ」


 ジェオはティノの硬直に気づいた様子もなく話しかける。


「ぇ、えぇっ!?嘘っ!本物っ!?」


 店の奥の壁に隠れるようにしながらティノは我に返るなり叫んだ。

 浮足立った様子はかつて容姿を見て寄ってきた女性たちと変わらないなと思いつつ、夫の前でいいのだろうかと肩を竦める。


「初めまして、ティノ。これでもお忍びのつもりだから、レティと呼んでくれると助かるな」

「レティ様っ!私も愛称でお呼びしてしまっていいんですか?光栄ですっ!ぁ、私ジェオの妻のティノと申します。迎年祭では夫に褒賞を賜りまして、妻として心より御礼申し上げます」


 躊躇いながら奥から姿を見せたティノは深々と頭を下げて挨拶した。

 控えめなフリルをあしらったシャツワンピースに軽い素材のフレアパンツを重ねた服装に目を留めて、『ジィノ』の作品かと問いかければ笑顔で頷く。


「夫のブランドを妻が纏わなくてどうしますか」


 にこりと微笑んだティノにジェオの表情が嬉しそうに綻んだ。


 


リマは「第27話 ジンガーグ隊とコーク遠征(5)」に出てます。

リンジーが毒殺未遂事件後の休養中に出身地のコークに帰省した際に、話を聞いたり色々あって結ばれました。

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