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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖なる集い編
201/256

第183話 騒動後のひととき

 

 騎士団本部を後にしたレスティオは半年ぶりの城の部屋に懐かしさを感じた。

 部屋まで送ってくれたセバンとシルヴァに礼を言って休ませ、レスティオはひとまず湯浴みを所望した。


「随分と髪が伸びたのですね」

「あぁ、魔力の貯蔵用に暫く伸ばしたままにするから、適当に結ってくれ」


 道中はヘアクリップやヘアゴムでまとめてきたが、城にいる間のヘアアレンジはルカリオに一任する。

 シルヴァと共に側仕えの女性たちと協力して万全の備えを整えてきたと胸を張るルカリオに、髪を洗ってもらいながらレスティオは不在の間の話を尋ねた。

 ゾフィー帝国の土産物を配った時の皆の反応や、シルヴァを迎えての側近の勉強会の様子は湯上りのマッサージを終えても話し終えなかった。

 ルカリオが淹れたお茶を満喫しながら、髪を結ってもらう間にも話は続く。

 情報伝達を終えて合流したシドムはルカリオばかりずるいと拗ねた顔をみせつつも、土産の礼を言い、これからの予定を報告した。

 

「レスティオ様は急ぎ移動してお疲れでしょうから、お話は明日の朝食の時にいかがですか、とクラディナ殿下からお気遣いの言葉を頂いております。夕食の席でも問題ないようでしたら、リーベレール殿下とルアナ殿下が同席を希望しています。それはそれで気疲れさせてしまうでしょうか、とお悩みの様子でした」


 恐らく言われたままに口にしているだろうシドムにレスティオは笑い出しそうになって肩を震わせるに留めた。


「シドム。そういう時は、伝える前にそちらでいいように言葉を繕うものだよ」

「レスティオ様には率直に伝えて欲しいものかと思っていました。以後気を付けます」

「あぁ、そういう風にさせていたっけ。いいよ、リーベレールとルアナも一緒で。二人が不在の間にどのようなことをやってきたのか情報を貰えるか?」


 夕食の時間まで側仕えたちと談笑して過ごすと、臨時でガレ小隊がレスティオの護衛に就き、部屋を移動した。

 すれ違う城仕えやヴァルナフ隊の兵たちに笑顔を振りまきながら案内された部屋に入ると既に同席者が顔を揃えていた。

 第一皇女クラディナ・オリヴィエール。東部から公務の手伝いに来ている皇弟レナルドと皇弟妃ヴィアベルの子であるリーベレール・オリヴィエール。同じく皇弟妃ユアンの子であるルアナ・オリヴィエール。


「皆、変わりないようだな。長らくの不在で心配をかけたようで申し訳なかった」

「いいえ、レスティオ様が我が国へお戻りになられて心から嬉しく思います」


 どうぞと席を促されてレスティオは挨拶を程々に席に着く。

 グラスには薫り高いエルドナが注がれる。


「レスティオ様。早馬には体調を崩されているとの言葉もありましたが、お加減はもうよろしいのですか?」


 心配そうな顔をするクラディナに、それで先に席に座るよう促してくれたのだと理解して微笑み返す。


「帰還の直後は無理が祟ったことに加え、魔力の成長期も重なったようで寝込んでしまいましたが、もう回復したので問題ありません」

「あぁ、それは良かった。先日、カーストン総帥も急ぎ出立され、何が起きているのか不安な日々を過ごしておりましたから」


 クラディナがグラスを手にして微笑むと、グラスを手に取る。


「では、改めてレスティオ様の御帰還を祝して」


 グラスを掲げて祝われ、レスティオは礼を言って久しぶりのエルドナを味わう。

 不在の間の詳細な話は後ほどユリウスから話があるだろうと濁して、レスティオからは元の世界に帰還していた話から、エルリックの出立に関連してイグニスやロード・レッドのこと。そして、帝国軍に指導官を推薦する話を先出しした。

 クラディナは婚姻の儀の準備の傍ら、教育機関の合同カリキュラムの試験導入を進めていると頼もしく語った。

 それを受けて、ルアナは城の料理に関して早々に目途を付けて、今ではクラディナの補佐役として公務に付き添う日々だと話す。城と騎士団本部の料理人が定期的に料理研究会を開催しては、協力してレシピ開発に取り組んでいるといい、魔術師団本部の料理人も最近加わって衝撃を受けたところだとその光景を思い出したように笑った。

 リーベレールはロデリオの補佐役として国内外の交易の状況把握をしながら、魔術師団の意識改革と前線復帰の監督を任されていた。どれもまだまだ付けられた文官頼りで、ロデリオにも相談することが多いが東部に戻った時にすぐに現場の采配に乗り出して皇族としての威厳を見せたいと意欲を見せる。

 心なしかレスティオの覚えにある姿よりも頼もしさが増していた。


「魔術師団の前線復帰はまだと聞いたが、どれくらいかかりそうだ?」

「魔術師団単体であれば機能出来そうな部隊もあるのですが、騎士団との連携やレスティオ様が求める意識を持たない者が多いと、カーストン総帥とジャスミー相談役が復帰を止めている状況です」

 

 魔術師団長を始め、眠っていた魔術師は全員意識を取り戻し、復帰に向けて励んでいる最中。

 不評を買わないように慎重になり過ぎているのではないかという見方もあり、近い内に上層部の会合にレスティオも参加してもらえないかとリーベレールは打診する。

 レスティオは控えるエリザに目を向けて、金色の髪を彩る虹色の髪飾りを確かめた。


「通りで美しい髪飾りを付けていた訳だ。エリザ、調整は頼むよ。魔術師団が心の準備をする時間は余裕を見てやってくれ」

「畏まりました」


 エリザと笑顔で頷き合う。

 気合を入れるリーベレールに対して、ルアナはクラディナを窺う。

 クラディナの補佐を務めている以上、個人としてレスティオに関わってもらう機会がないルアナは悔しそうに料理を口に運んだ。


「そうだ、ルアナ。料理人の意識改革は順調とのことだが、新しいレシピを取り入れる余裕はあるかな?」

「ぇ、あ、はい!レシピ開発に積極的な料理人は喜んで実現に動くと思います!」


 話を振られると、ぱぁっと明るく笑って身を乗り出す。

 

「出来れば、ロデリオとドレアの婚姻の儀までに習得して欲しいんだ。祝いの席向けの菓子なんだけど、どうせならロデリオには内緒にして、当日驚かせてみないか?」


 婚姻の儀の準備も料理人もルアナの範疇。

 となれば、レスティオのサプライズ計画の責任者も必然的にルアナになる。


「やりましょう!料理人の習得が必要となれば、なるべく早めに打合せの時間を頂けますか?」

「あぁ、そうしよう。試作には俺も手を貸すから、材料の手配と、ロデリオにバレない様に俺も作業できるように調整してもらえるかな」

「当日の段取りも検討されるのでしたら、私も同席させてくださいね。料理に関してはルアナに一任しますから」


 聖騎士命令でこの場の全員に口止めをすると、側近たちは微笑ましい光景と笑顔で快諾した。

 最後に、ユリウスたちが戻ったら皇族皆で酒宴をしようと約束して、夕食の時間を終えた。






「レスティオ様。明日は一日お休みにされてはいかがでしょう」


 エリザの突然の提案にレスティオは首を傾げた。


「色々とやることがあると思うけど、自由に過ごしていいってこと?」

「はい。レスティオ様にはそういう時間が必要なこともありますでしょう?」


 大陸会議派遣団も戻らない中、こちらの判断で進められる案件も限られる。

 本音を付け加えられると、レスティオは肩を竦めて笑いながら頷いた。


「ぁ、外出するにあたって、護衛はこちらで騎士団に声を掛けて良いかな?」

「構いませんが、レスティオ様のお姿は国民の知るところですから、くれぐれも騒ぎになるような行動は慎んでくださいね」


 大陸会議派遣団が不在の分、各方面が手薄な状況。

 迷惑を掛けてくれるなと言外に語るエリザに了解を返して、下がっていく姿を見送る。

 

「レスティオ様。騎士団への言伝があれば届けて参ります!」


 張り切るシドムにいくつか伝言を預けて、レスティオは寝間着に着替えた。





 

 一方。

 レスティオを見送った後、騎士団本部で待機することになったミアは気まずそうなドレイドたちを振り返った。


「さて……色々と騒がせて申し訳ありませんでした」

「いや、なんとか穏便に事が済みそうで良かった。しかし、ミアが……まさか、レスティオ様と因縁の仲だったとはな」

「一方的に、でしたけどね」


 肩を竦めて胸元に揺れる懐中時計を手に取ると菫色の細工が光る。

 日差しに輝くシェスカの色彩が鮮明に思い出されて自然と表情が緩んだ。

 懐中時計の蓋の間になにか挟まっているのが見えるが、ここでは開けたくなくて服の内側へと滑り込ませた。


「しかし、あの魔力水攻めは効いたぞ。誰が思いついたんだ?」


 ミアの問いに確認し合うようにしてヴァスクール小隊の面々がセバンだと答える。

 最初は周囲に被害が出ないように氷壁を作るだけだったが、苦戦するレスティオを見上げて真っ向勝負では到底敵わないと察した。下手をすればレスティオに攻撃を当てかねない。

 物理攻撃は無理、魔術ならどうにかならないか。と考えている中で、東部派遣団として剣魔術講習にアッシュやダニルと共に教官役で加わっていたセバンが声を上げた。

 東部帝国軍での訓練中、水を出そうとして魔力水を放出させ、浴びた仲間を中毒症状にしてしまうという事件が起きた。そこから着想を得て、なんとかしてミアに魔力水を浴びせて中毒症状にして動きを封じられないかと提案した。

 

 そこに、水から連想して海や湖を泳ぐレスティオの姿を思い出したネルヴィが魔力水の海を作ろうと提案。

 風や氷なら弾かれそうだが大量の水を叩きつければ、空中戦を繰り広げるミアをその中へ落とせるのでは、とユハニ。

 レスティオ様ならひと声掛ければ察して回避してくれるだろう、とシルヴァ。

 もし落ちてもユハニがいるから大丈夫だろ、とブロワーズ。

 自分たちだけじゃ足りないからなるべく幅を狭くして、皆魔力水を提供するようにとヴァナルが呼びかけて魔力水の罠は完成した。

 

「お前ら……本当によく成長したもんだよ。1年前のお前らの実力なら、俺が手を下すまでもなく召喚された奴もすぐ死ぬと思ったんだけどな」

「ミアの魔術もあそこまでだと思ってなかったけどね。やっぱ、レスティオ様の世界って凄いんだなぁ」


 腹減ったぁと伸びをしながら食堂に向かおうとしたネルヴィは、そーいや、とミアを振り返る。

 

「レスティオ様の世界には魔術がないって言ってたのに、なんでミアは魔術が使えるんだ?聖の魔術は使えないんだろ?」

「……ネルヴィ。俺たちの世界では情報戦という言葉もあるくらい情報の扱いには戦術並みに慎重になるものだ。今ここで開示することに利がない以上、黙秘する」

「情報戦……なるほど?」


 尤もらしく言えば大概この世界の人間は黙る。

 今の姿で息子や孫と会えるものかと悩ましく思いながらため息をついた。


 その後、食堂で兵たちに質問攻めに遭い、初めて誰にも気を遣うことなく恋人の惚気を吐き出した。

 特殊な体質故に結婚相手が限定される中、夫婦としての相性が合う存在としてレスティオと恋人が婚約しそうになったことが恨みの発端とわかると恋愛経験のある者は理解を示した。

 途中で酒も出してもらい、これからは指導官として鍛えてやると脅しながら、これまで一線引いていた距離を詰めて打ち解ける。


 庶務官としての業務の終わりに魔力の無い兵たちの為に湯浴みの支度をしてやろうとしたが、ユハニに止められて部屋へと追いやられた。

 宛がわれている部屋はケンリーが時折泊まるくらいで一人部屋同然で使わせてもらっている。

 レスティオから貰ったワイシャツを脱いで、裂けた服を繕うか雑巾にするか考える。これからは服も自由に買えるようになるだろうが、今持っている服は皆が厚意で譲ってくれた物だけで数も少ない。

 血を洗い流そうにも魔術の使用と止められたのだと思い出して机の上に放り投げた。雑巾確定だ。

 着替えの服を手に乗る前に肌に触れる懐中時計を手に取りベッドに腰かけた。緊張しながら懐中時計の蓋を開けて畳まれたメモ用紙を広げる。

 

 

 私は貴方がくれた時と共に生きてる。

 まだハミルが生きてるなら、

 私も貴方に時を贈りたい。

 一緒に時を刻んで生きたいから、待ってるよ。


 P.S. レスティオは私の可愛い弟分だから、

   無茶しないように面倒見てやって。よろしく。

 

 

 メモ用紙のメッセージを何度も読み返しながら、シェスカの声を思い出す。

 照れくさそうにしながら語り掛けて来る姿が鮮明に頭の中に浮かんできて、無性に恋しさを覚えた。

 追伸部分を削り捨てたい気がしつつも、シェスカが書いてくれたメッセージと思えば、一文字だってなかったことにしたくない。

 魔力結晶で表面を加工して、手帳の内側に張り付けた。

 そして、メッセージと言えばもう一ヶ所、と思い出して懐中時計の蓋の裏を覗き込んだ。


 貴方と共に時を刻み続けたい。

 

 妻であるミランダに心苦しく思いながらも、ミアは熱くなる胸に耐えきれずベッドに横たわり悶えた。

 

次回以降毎週土曜日+祝日更新に戻ります。

というわけで、8/17(土)21時に更新予定です。

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