第19話 剣と魔術(3)
客室で朝を迎えると、朝食の後にマルクとエルリックが訪れた。
ロデリオから話が伝わったらしく、今後の聖騎士としてのカリキュラムの見直しの他、報奨について話しが進められていく。
まず、騎士団との連携を見据えた剣術や馬術の訓練への参加が認められた。
モルーナとアッシュから提案された騎士団による魔術を使った戦術研究も聖騎士の戦術を学べるとあって受け入れられた。
報奨は討伐にあたっての日数や討伐の魔物の数や強さ、治癒した負傷者数、生存者数などを報告書にまとめ、その都度状況を加味して金額換算し支給する。
支給した分は明細をマルクが管理し、必要に応じてルカリオを通じて現金として授受可能とする。
住居ほどの報奨は時期尚早かと思ったが、なるべく早く囲い込んでこの国に腰を据えてもらおうという思惑が話の随所に見え隠れしていた。
利害関係が一致しているならば構わないかと素直に受け取る方向で話を進めてもらう。
住居に関して希望を聞かれたが、新しく建ててもらうことは特に考えていない。そもそも、城下の地理は把握していないので、立地や様式に関しては注文の付けようがない。
元の世界で住んでいた屋敷や宿舎の間取りを思い返しながら、いくつかの条件を提示して、この国の住宅文化に見合う条件に擦り合わせていく。
その結果、レスティオが望む条件は、低階級の平民が住むレベルの住居と判断された。
国からの報奨にふさわしくなく、到底与えられないとマルクの方で条件を上方修正して物件を見繕ってもらうことになった。
「住居の方はご用意しますが、当面は別宅として扱っていただき、城に住まう様にお願いいたします。六月の大陸会議で聖騎士様を披露目した後、我が国の戴冠式を行い、国民に聖騎士様をお披露目しますから、その後は厄災の状況が落ち着くまで護衛をつけさせていただきます」
「なるほど。承知した」
休日に一人のんびり過ごせるならそれでいい。
護衛がどれだけ張り付いてくるのか、とも思ったが、所詮この国の兵であれば取るに足らない。
あくまで形式的なものだろうと理解する。
「護衛については、これから戴冠式までの間に選定期間を設けます。魔術師団は出せる人員がいないので、ひとまずは、騎士団からドレイド団長や各部隊長と推薦者をまとめていきます」
「そちらは任せる。騎士団とは先日顔を合わせたばかりで、どういう連中がいるのか把握してないからな」
「承知しました。最終的にはレスティオ様にもお選びいただきますので、もし、今後の討伐などを通して推薦する者がいればご連絡ください。常に傍に置く者になりますから、レスティオ様が気の置ける者としたほうがいいでしょう。兵には護衛騎士の選定については伝えないつもりですので、他言無用でお願いします」
今は交代で不寝番や護衛が付いているし、レスティオの方が圧倒的に強いこともあって、騎士団の大半は専属の護衛騎士の選定を意識していない。
皇族のように聖騎士も専属の護衛を任命するとしても、騎士ではなく魔術師になるだろうという認識が強い。
だが、選定を宣言すれば、名誉欲しさに擦り寄る者が出て来ることは想像できる。
それを踏まえたマルクやエルリックの思惑としては、レスティオの周囲を不用意に騒がせてこれ以上の不評を買いたくないに尽きる。
「わかった。他には?」
「あぁ、もう一点、私からご報告があります」
エルリックからの報告は、今ここで話している間に、騎士団本部にて団長であるドレイドから研究に関して騎士団に話しがされているというもの。
午後には、実際に訓練を開始できるように予定しており、レスティオにも参加が求められた。当然、特に予定も無いので頷く。
ここで、マルクは退室して、入れ替わりにアッシュとモルーナが招かれた。
部屋に残ったエルリックと四人で、今後どのように魔術の研究を進めるか話し合いを始める。
「そもそも、この剣はどういうものなんだ?魔術と剣を合わせて使うこと自体、アッシュもモルーナも知らないと言っていたが」
「あぁ、それはそうでしょう。魔術師は剣など手にしませんし、剣を使うものは生活魔術以外使いませんから」
昨日からの疑問をエルリックにぶつけると、この剣が国宝たる所以を話してくれた。
そもそも魔術具としての剣が作られ始めたのは、遥か昔に遡る。
とある鉱山を有する国に召喚された聖女が、厄災の後に有り余った魔力を国の発展のためにと国土に注ぎ続けたことがきっかけだった。
その鉱山では、ふんだんに魔力を含んだ鉱石が取れるようになり、鍛冶職人達が競うように作品を作り始めた。
魔力結晶や術者の毛髪や血液とともに年月をかけて鍛えられた品には、魔力を増幅する効果が確認されるようになり、当時は魔術師たちも注目していた。
しかし、一流の剣を仕上げるには、魔力を含んだ素材を集め、魔術師としても鍛治師としても一流の腕前が求められる。
求められる技術が高過ぎて、後継者が育たず、すぐに衰退した。
そもそも、魔術師は武器を持たないので魔力を増幅させる剣の需要も一時の流行で静まり、世界中でも現存しているのは百本とない。
そんな代物がオリヴィエールにもたらされたのは、流行が収束してから数百年後のことだった。
以前、オリヴィエールに召喚された聖女は、役目を終えた後、鉱山の田舎村で隠居生活を過ごす中でその話を知った。
村の鍛治師が興味を持ったこともあり、協力して聖の魔力を含んだ剣を作り上げ、死の間際に剣を当時の皇帝に献上した。
自らが死しても、その剣がオリヴィエールを護り続けるようにと慈愛に満ちた言葉が添えられていたと、帝国の歴史書に記録が残されている。
それがレスティオが今手にしている剣の由来だった。
「エルリック、これは本当に俺が使っていていいものなのか?」
「むしろ、レスティオ様の為にあるような剣ではありませんか。どうか、その剣で、我が国をお護り下さい」
祈りを込められたといえど、振るわなければ力は発揮されない。
エルリックは剣術も馬術も趣味ではあるが元々魔術師団出身で武器は必要としてこなかったし、既に前線を引退した身。
今の所、魔術師団にも騎士団にも魔術と剣術を合わせて扱う者はおらず、使う者がいるなら飾っているよりいいというのはユリウスも承諾していること。
とはいえ、まさか序盤で手に入れた剣が世界的に希少な品であり、なおかつ聖女の御加護付きの代物とは思っていなかった。
「まぁ、陛下も使ってくれと言っていたから、有難く使わせてもらうが……かつての聖女か」
オリヴィエールのかつての聖女の話は、資料開示の許可が下りないので見られていない。
誰に聞いても、その聖女が生きていたのは数百年前のことなので、ドーベル家が聖女の子孫ということ以外はあまり情報が出て来ない。
「ロデリオにも頼んだんだが、」
「あぁ、ドーベル管理官の件でしたら、もう暫しお時間をください。きっと、レスティオ様の功績を知れば、彼も納得してくれるでしょう」
エルリックの表情からは決して交渉が上手く行っているようには思えなかった。
聖女主義者に関わることはどうにも時間がかかりそうだと諦めて剣の話は終わらせ、研究の話を進めることにした。




