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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第17話 剣と魔術(1)


 ルカリオに淹れてもらったお茶を飲み干して立ち上がる。

 ティーセットは部屋の壁際に置かれたままになっている。ティーポットに新しい茶葉を入れて、水差しから水を注ぐ。

 本当はお湯を注ぎたいが、お湯として水を温める魔法陣はティーポットに刻まれている。


「お茶なら使用人を呼べ。ルカリオなら外に控えているだろう」

「一々呼びつける方が面倒だ。自分でできることは自分でする」

「淹れられるのか?」


 怪訝そうなロデリオをみて、皇族が手ずからお茶を淹れることはないかと苦笑する。

 ティーポットに魔力を注いで水を温めながら茶葉を抽出していく。


「茶葉と水を入れて魔力を注ぐだけなんだから、誰でも出来るだろ。ロデリオは魔力がないのか?」

「馬鹿にするな。魔力はある。だが、皇族の魔力をこのような瑣末なことで消費するものではないから側仕えがいるんだ」


 そんなことを、以前にルカリオが言っていたような気がするなと思いつつ、ティーポットの中の色合いを確認してテーブルへと戻る。

 ロデリオのティーカップも残り少なくなっていたので注ぎ足し、自分の分も注いで椅子に座りなおした。


「皇族の魔力の質は、一般人とは違うものなのか?」

「聖女や聖騎士のような明確な違いはないかもしれないが、皇族という立場があるからな」


 そう言ってロデリオが放出した魔力結晶を受け取ると、レスティオも魔力結晶を出して比べてみる。

 光にかざせば各属性の色合いは窺えるが、全体的に赤みが強く、純度は中の上。

 アッシュの魔力結晶の方が色合いのバランスも良く、純度が高かったように思う。


「特に一般人との違いが感じないな」

「誰と比較してるのかは知らんが、魔力の性質なんて大差ないものだろう」


 魔力結晶を返すとロデリオの手のひらに飲み込まれて消えた。

 レスティオも自分の魔力結晶を吸収して消す。


「それはそうと、レスティオ、改めて昨日の質問のことで確認させてもらってもいいか?」

「改めて確認するようなことがあったか?」

「これまでの魔物討伐は魔術師団が中心となり、魔術を駆使して魔物を滅していた。騎士団は索敵と後方支援、後始末にすぎなかった。魔術師の多くが召喚の影響で意識をなくしているから騎士団が前面に出るのは仕方がないが、お前は魔術が使えるのになぜ騎士団と共に剣を手に戦ったのだ?」


 ロデリオの問いにレスティオは魔術の扱いについて質問されたことを思い出した。


「それは、魔術で魔物を薙ぎ払っていけば楽に済んだのではないか、ということか?」

「あぁ」

「俺は最終的に魔力の消耗で意識をなくしているんだが、それを踏まえて魔物の全てに魔術を使うことが有効だと言えるか?」

「魔術師が魔物討伐でそこまで魔力を枯渇させたと言う話は聞かないが、レスティオの魔力量はそこまで多くないということか?」


 疑問を返されて納得しかける。

 まだ魔術のスキルが足りないために魔力量の上限に達してしまっているだけで、今後は魔術だけでも十分戦えるのかもしれない。

 しかし、いずれはそうなろうとも、今は剣術や体術で足りない魔力分を補うしかないことを考えれば、魔術だけ鍛錬すればいいとは考えられない。


「この世界の魔力量の基準は知らないが、どれだけ兵が負傷しているか、自然がどれだけ侵されたかによって聖の魔術を使用した際の体から抜ける魔力量は違っていた気がする。癒しを求められる以上、魔力は温存して戦えるならその方が良いだろう。それに、森を回復させるために魔力を消耗するのに、下手に火なんか打ち込んで森を焼き尽くそうものなら、俺の魔力がいくらあっても足りないと思わないか?」

「なるほど」

「本当はその辺りをアッシュと話したかったんだがな」


 毒づけば今までアッシュのことを忘れていたかのように、はっとして悪かったと呟かれる。

 まだティーポットにお茶が残っていたのでおかわりを注いでやると、許されたことを感じたようで少し安堵が見えた。


「しかし、魔物討伐の主戦力である魔術師団が目覚めれば、お前が前線に出る必要はないだろう」

「魔術師団がどのような戦い方をするのかは知らないからなんとも。もし魔術の大量投入で俺の負担を増やす様なら排除するかもな」

「どのような戦い方をするのか、か。他国も魔術師が中心に討伐をしているから、魔術師団に任せておけば大丈夫なのだろうと思っていた」


 やはり考えは浅はかだと思うが、皇族という立場の人間が現場を知っているとは思えない。

 軍の作戦だって上層部は報告書を確認するだけで詳細にどれだけ把握しているかは怪しい。

 主に気にするのはどのような戦術がとられたかより、どれだけの成果を誰が挙げたか、だ。


「それでいいならいいんだけどな。俺の仕事を増やすくらいなら大人しく下がっていてくれと思うだけだ」

「そうか。まぁ、お前の闘技場での戦いぶりや功績を思えば、単騎の方が成果を上げられると言われても納得してしまいそうだ」


 ロデリオの目は皇子としての自尊心に染まったものではなく、感心した様子だった。

 昨日は、初対面ということもあり、必要以上に気を張っていたのだろうと察する。


「聖騎士というのは言い得て妙だな」

「昨日から色々と考えを改めてくれたようで良かったよ。そろそろ話は終わりか?」

「いや、後、クラディナの件について話しておく」


 深くため息をついて話始めようとするのを、ふと確認していない事項を思い出して止めた。

 夜襲という点で言えばクラディナ以前に行ってきた者達がいる。


「エルリックが調査していると言っていたと思うんだが、俺が召喚された日のダイナ隊の襲撃の黒幕はわかっているのか?」


 騎士団へのやつ当たりである程度満足し、講義などで忙しくしていたのですっかり忘れていた。

 ロデリオは悩ましげな表情で頭をかいた。


「いや。証言が各所で食い違っていて突き止めきれていない。だが、父上がお前に忠誠を誓った今、下手に手を出そうとするものはいないだろう」


 警察のような機関は軍が兼ねているので動きがよろしくないのは察していたが、有耶無耶にされるのは気に掛かる。

 それに、皇帝の意とは違うところで動いていた人間がいるという事実を、国として放置しておくとは考えにくい。

 あえて、ある程度目星がついた上で飲み込もうとしているのか、ロデリオ相手では真意が読めず、仕方なしに話の続きを促す。


「今朝のクラディナの件は、詳細はよく理解出来なかったが、ハイリ様に婚約を断られたことを報告した際に叱責を受けて行動を決めたそうだ。ハイリ様は聖女ではなく男であったことを認められない以上に、皇族からの縁談を拒否したことが気に入らなかったようだな。クラディナは一から友好関係を築くべく酒席を用意するつもりでお前の部屋に向かったものの、見張りの兵がお前が部屋を出るところを見ていないのに不在だったことを訝しみ、相手がいるなら誰か突き止める。そうでなくても、お前が部屋を出ていないのは確かなのだから夜を過ごした既成事実を仕立てるべく部屋に留まっていようではないかと考えたそうだ。父上が、縁談を持ちかけてもいないのだから、勝手なことはしてくれるなと苦言を呈していたから、今後は大丈夫だろう」


 今回の件については、クラディナはしばらくレスティオとの接触を禁止されることになり、公務などは引き続き行うようにと皇族内で取り決められた。

 接触してこないなら、特に問題はあるまいとその結果を受け入れる。


「お前の母親のリアージュ第二皇妃陛下は、今後も皇妃として表に立ち続けるのか?」

「、いや、今は第一皇妃であるハイリ様が伏せているから、一時的に表に立つことも引き受けているに過ぎない」

「第二皇妃というのは特に公務をしないものなのか?」

「いや。母上はかつての帝国議会の議長の娘で、人脈を生かして内政に注力している。ハイリ様は、コルレアン王国の元王女で現国王陛下の妹ということもあり、外政を中心に公務をされているんだ」

「へぇ、皇妃を複数人娶るのには役割分担という意図もあるのか」


 ただの妾として複数の女性を囲っていた祖父とは違うのだなと重婚に対する認識を改める。

 役割が違うならばこそ連携が必要だと思うが、夕食の席でのクラディナとの様子を見ている限り、仲は悪そうだった。

 おそらく皇室周辺で派閥もあるのだろうと思うと、今後の関わり方は考えるべきだが、ハイリは男が召喚されただけで寝込むほどの聖女主義者だ。

 他の皇族はまだしも、そこの関わりは厳しそうだと考えてしまう。


「今はともかく今後は聖騎士の外交もあるだろう。そうなればハイリ様とも関わることになるだろうが、なにかあれば父上を頼るといい」

「そこは自分を頼れというところじゃないのか?」

「それは、そうだが、ハイリ様に対して俺は発言力も弱く、力になれることはあまりないと思うぞ」

「お前の力が足りないなら、周囲を巻き込むなり、そもそも力を付ける努力をしたらどうだ」


 情けないといえば、ロデリオはむぅっと唸った。

 幼少期から教育を受けたといえど、皇妃相手に発言力がないのは理解する。

 それでも、発言する努力をするかしないかは別問題だ。


「頼れと言ったら、お前は俺を頼るのか?」

「なんだかんだ、皇子殿下の後ろ盾というのは効力がありそうだからな。利用できるものは利用する。聖騎士としていいように利用されてばかりなのは気に入らないからな」

「そうか。俺にとってもお前が共にいるのはなにかと力を発揮しやすいだろうからな。努力しよう」


 嬉しそうにするロデリオを見て、レスティオも使えそうな味方が増えたと安堵する。


「なぁ、レスティオ。お前は、この世界で欲するものはあるのか?この先もこの世界で生きていくためにでも、お前の個人的な趣味でもいい。いずれ献上することになる報奨を考えておきたい」

「そうだな……自由に使える金と、いつまでも城にいるというのも落ち着かないし住居あたりがあればと思う。後は、この世界で暇つぶしが出来るものは本くらいしか思い浮かばないからな……」

「それくらいのことなら難しくない。むしろ足りないくらいだろうから、陛下や宰相らと検討しておこう」

「ぁ、あと、大聖堂に保管されているという神話や聖女の書物を読みたい。管理官との調整が難航していると聞いたが、お前の方でどうにか出来ないのか?」


 途端に顔色が悪くなって地雷を踏んだかと首をかしげる。

 言葉を選ぶように唸るのを見つめていると諦めたようにため息をついた。


「どこまで話を聞いているのかわからないが、その管理官というのはヴェンジャミン・ドーベルという聖女の家系の当主だ。聖女の家系というだけで聖の魔術を扱えるわけではないんだが、我が国としては皇族の次点の地位を得てきた者だ。その者が聖騎士は異端だ、皇族は惑わされていると言い張るものだから、最近はドーベルの周囲からの当たりがきつくてな」


 今回の討伐の功績や聖の魔術を扱えたことを踏まえて改めて交渉するとはいうものの、皇族の次点ということもあり、強くは出にくそうだった。


「ドーベル、か」

「なにか気になることでも?」

「いや。そういう種類の犬がいたなと思っただけだ。犬は目上の存在にしか従わない生き物だから、皇族にはきちんと手綱を握っておいてもらいたいものだな」

「犬……か。忠犬なら有り難かったんだがな」


 レスティオは全くなと同意しつつ手の中でティーカップを遊ばせる。

 その頭の中ではドーベルの姓を持つ祖母の姿が浮かんでいたが、どこにでもある姓かと思考を切り替えた。


「さて、話が終わったならもういいか?」

「、そうだな。今日のところはここまでとしよう。また今度、酒席に招待させてもらう」

「無駄な気は遣わなくていい」

「そういうな。酒は好きなんだろう?」

「それは否定しない」


 ロデリオが出ていくと、ルカリオにティーセットの片付けを頼んだ。

 アッシュは控えの間に留まってくれているというので、片付けついでに呼びに行ってもらえるように伝えて、ロデリオの話をノートを纏める。

 正直、生贄集めに苦労した話やクラディナの話はどうでもいい。

 聖女主義者や魔術主義者の存在が今後を考えると気がかりだった。



 

 

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