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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖オリヴィエール帝国編
121/256

第109話 第一回聖剣視察


 

 

 昨夕の内にレスティオが聖の魔術で森を癒したので、朝には外壁の近くで薬草や木の実が収穫できた。

 それらは町へと持ち帰り、朝食に活用する。


「ありがとう!」

「早く俺にもちょうだいっ!」

「ねぇねぇ、今日はおかわりしてもいい?」


 賑わう広場。

 三日目にして少しずつ周囲には開かれる店が増えていた。


「皆さん、パンが焼けましたよっ!今日だけは一人一個サービスです!」


 パン屋が焼きたてのパンが入ったバスケットを手に広場にやってくると歓声が上がる。

 材料は勿論、駐在所のもの。無料で引き渡すと言えば、まだ本調子ではない身体でパンを焼いてくれた。


「焼き立てのパン、美味っ!ぁ、レスティオ様。毒見問題ないです」

「それは良かった」


 パンを頬張って目を輝かせるネルヴィに笑いを堪えながら、レスティオも焼きたてのパンを貰ってスープと一緒に朝食にする。


「ロデリオ殿下にも焼きたてで食べて頂きたいですね」


 パンを食べたベイルートが言えば、イグラムも大きく頷く。

 城の食事は、毒見は勿論だが、まとめて作られていて、いつでも出せるようにしている。なので、冷めていることが多い。

 いくら作り立てと言われて出されても大概はぬるい程度だ。


「大陸会議の際にはロデリオ殿下も同行されるのだから、その時に機会があるだろう。いや、パンは難しいか」

「それなら、ザンクに立ち寄った時に用意しようか」

「あぁ、ザンクでは、聖なる方のお屋敷をお借りできるんでしたね」


 あえてレスティオが料理を振る舞うとは言わずに、楽しみにしておくように伝える。

 炊き出しを終えると、今日も魔物討伐に注力する。

 ソリッズ率いる本隊は、引き続き外壁から森の奥へ進み魔物を残さず討伐する。

 先遣隊とレスティオたちも昨日と変わらず、残る蛇のような魔物の根源を探しながら魔物の討伐に当たる。

 馬を無くしたイグラムには、ネルヴィが馬を貸すことになった。


「クォート!森の奥から異音がする。俺が先行するから、警戒しろ」

「異音ですか?」

「巨大なものが蠢いているようなそんな音。根源が聖の魔力を吸収したのかな」

 

 だとすれば、レスティオが聖の魔術を昨夕の内に施したのが早計だったという話になる。

 そろそろ戦闘力だけではなく戦略が本格的に必要かと悩ましく思う。


 シャアアァァッ……


 木をなぎ倒すような音の合間に聞こえてくる声。

 視界に入る魔物を切り払いながら、近づいてくる声との距離をはかる。

 尾で木を弾き倒しながら飛び掛かってくる巨大な蛇。レスティオは、瞬きせずに敵を見据えて炎の槍を喉の奥へと打ち放つ。

 木を蹴って反動を付けながら呻く蛇の方へと近づくと、身体を捻って蛇の首の周りをくるりと回るようにして肉を断ち、渾身の力で骨を叩き切る。

 頭を落とされたなお蠢く尾を見て、更に氷の杭を打ち込んで動きを封じる。


「レスティオ様っ!それが蛇の魔物の根源ですか?」

「わからないが、大きさ的にはその可能性が高いだろう。油断せず、残りの魔物も狩るぞ」


 返り血を浴びた髪をかき上げ、レスティオは剣を持ち直した。

 

「ベイルート、燃やして置いてくれ」

「は、はいっ!」


 縦横無尽に森の中を駆け回っていると、昼の鐘が鳴り響いた。

 

「レスティオ様。帰還の前に体を洗わせてください。町の者たちが驚きます」

「あぁ、それは良くないな」


 合流したシルヴァに言われてレスティオは大人しく身を預けた。

 柔らかく水と風に包まれて、ラビ王国遠征の時より魔力制御が上手くなっているなと感心する。


「野営地に戻ったら改めて湯浴みと致しましょう」

「有難う、シルヴァ」


 レスティオが洗ってもらっている間に、ユハニが撤退の笛を吹くと、先遣隊だろう方向から応答の笛の音が聞こえてきた。

 途中で合流して魔物を警戒しながら、ロワの町へと帰還する。


「レスティオ様、休憩の後、ザンクへ向かいますか?」

「あぁ、そうだな。どうせ一泊は野営しないといけない訳だし、今日中に出発するか」

 

 野営地で食事を済ませ、道中の食糧を確保すると、レスティオは護衛部隊と共にザンクへと出発した。




 


 

 ロワの町を出発した翌日の昼。

 レスティオたちはザンクの門の前に到着した。


「ぁ、扉のここに書いてあるのが、聖女プレアが書かせた文字だよ」

「へぇ、何と書いてあるのですか?」

「ここは私のエリシオン。生まれ故郷の名前だね」

 

 ベイルートが興味深そうにメモを取るのを横目に、レスティオはノッカーを叩き、伝声管で用件を伝えた。

 待っている間に、ノッカーの合図が、シグニャル式という暗号通信の方法だと教える。


「シグニャル式……なんとも不思議な響きですね」

「そうかな。俺は聞き慣れているから、特に不思議とも思わないけれど」


 やがて、門の向こうから賑やかな声が聞こえ始める。

 そのひとつひとつに耳を澄ませて、歓迎の準備を整えてくれているなと笑みを堪える。


「再びお目に掛かれて光栄にございます。聖騎士様」


 一行を出迎えたのは、町長のロト・チェルノを筆頭に自警団の幹部たちだった。


「先日の大陸会議の折には、多くの心遣いを有難うございます。今回はほんの数日の滞在を予定していますが、屋敷を使わせて頂いて問題ありませんか?」

「勿論でございます。よろしければ、今晩はハオスと共に広場で歓迎の宴を催させてください」

「それはいいですね」


 にこやかに挨拶を交わしながら、昼食は食事処で食べられるように手配を頼む。

 遣いが走っていくのを見送り、のんびりと食事処へと向かう。その道中に、ロトたちに今回の護衛部隊を紹介する。


「今回の遠征においてレスティオ様の筆頭護衛騎士を務めております、帝国軍騎士団部隊長のクォート・フランドールと申します。以前より物資調達でお世話になっておりますが、改めて、以後お見知りおきを」

「おや、前回はネルヴィが筆頭でしたよね」

「以前も今回も臨時で編成しているから、その時によって隊長も変わるんだ」

「なるほど」


 聖剣について確認している間は、ネルヴィとユハニには街の様子を観察したり、自警団の訓練に向かってもらう予定だ。

 それを伝えると、自警団団長のオーラフ・シュトラウスは願ったりだと笑顔で頷いた。

 イグラムとベイルートも挨拶したところで食事処に到着した。

 突然の来訪だが、素材の味が活きた料理が聖女用の特製ソースと共に提供され、歓迎を受けた。






 クレイグ・クインの工房では、聖剣の試作がいくつか仕上がっていた。

 レスティオが一度感触を確かめ、クォートやイグラムに振ってもらう。

 

「どれもこれも、ひびが入るな」

「そうなんですよね。魔力を含んだ素材の配合比が問題だとは思うんですが、この比率計算が難しくて」


 聖剣の製作日誌は残されているが、今得られる素材と当時の素材は全てが一致することはない。

 あくまで当時の記録を参考に、今ある素材をどのように生かすかが課題となる。


「んー、こうなると、冬の大陸会議には間に合わないかな」

「冬の大陸会議というと後二ヶ月くらいですか……」


 職人たちの表情は一様に悩まし気なものになる。

 迎年祭の褒賞に使えないかと考えているだけなので、品質が伴わないならば当然見送るつもりでいる。

 レスティオはなにかヒントがないかと、どのように素材の比率を計算しているのか製作日誌を広げながら訊ねた。

 そして、言葉を失った。


「えー、魔力水がこれくらいで」

「鉱石の粉混ぜますね」

「おう。あぁ、それくらいでいい」

「いや、待て待て待て」


 比率と言いながら、結局のところ目分量で作業を行っていた職人たちをレスティオは止めた。

 魔力の含み具合などから職人の感覚が必要なこともあるのだろうが、完全な目分量に比率もなにもない。

 一定の量を図るためのカップを用意させ、何杯分を投入したか記録しながら配合量を見極めれば正確だろうと進言し、これまで作っていた量をおおよそ計測させる。


「この中で一番強度が高かったのは、ロランの配合比かな。製作日誌の比率にも近い」

「今作っているものは魔力を含まない鉱石を少し多くさせているので、それで安定するのかどうか検証できそうですね」

「そうだな。なにを増やし、なにを減らせばどのようになるのか、それを根気強く検証していこう」


 職人たちと頷き合ったレスティオは材料を補充しようと魔力水の壺を見て首を傾げた。


「あれ?全然使ってないじゃないか」

「ぁ、いやぁ、聖の魔力と思うと、まずは我々の魔力である程度形にしてからでないと手が出せず……」


 罰悪そうに頭を掻くクレイグにレスティオはむぅっと口先をとがらせる。


「折角用意したんだから使いなさい。試作中は材料が必要になるだろうと思って補充に来たのに」

「も、申し訳ありません。次の試作にはこちらを使わせていただきます」

「勿体ないと思わずにどんどん使えよ。若い連中にも使わせて、この機会にしっかり職人として成長させてくれ」


 新しい壺に魔力水を注ぎ淹れ、更に余った魔力で工房内の鉱石に魔力を注いで砕いていく。

 

「こんなにもレスティオ様が力を尽くしているとは驚きました」

「魔剣ネメシスのような剣を作れたら、剣魔術を扱う上では有用だろう。余ってる魔力を使わせるくらい大したことじゃない」


 工房見学を終え、レスティオたちはクレイグに紹介してもらって細工師アビルミーナ・キールフルの工房へと向かう。

 鉱石を使った小物細工を扱う工房で、他の工房よりも女性の職人を多く抱えている。それもあってか、工房の外装も内装も無骨さは無く、綺麗にされていた。


「いらっしゃいませ」


 形式的な言葉で工房に入ってきたレスティオたちを迎えた工房長のアビルミーナは、レスティオを目に留めると、目を見開いて背筋を伸ばした。

 工房長というからレスティオは老齢の女性を想像していたが、この世界の水準からみても四十代ほどにしか見えなかった。

 奥の方から女性職人たちが驚いた顔を覗かせる。


「小物の製作を依頼できないかと思ってきたんだが、話を聞いてもらえるかな」

「勿論でございますっ!なにをおつくりすればよろしいでしょうか」


 魔力が無い者でも扱えるように、笛の製作を依頼すると、工房長のアビルミーナは興味深そうにレスティオの作った笛と設計図を検分する。

 他の職人も後ろから覗き込み、目を細める。


「これくらいなら難しくないんじゃない?」

「そうね。私の方で作ってみましょうか。丁度手が空いたから」

「うん。じゃあ、これは、ルーティに任せるわ」


 ルーティと呼ばれた職人は任せて下さいと笑顔で意気込む。

 やる気があって華やかで良い工房だなと思いながら、レスティオは納期を一旦冬の大陸会議の頃合いに設定した。

 笛として使えるならば、騎士団などで使うために五十個ほど用意してもらえるように頼む。

 すると、アビルミーナは目を光らせて、自警団で試作を使用させ、その後の需要も見込んで百個の生産計画を出すようにルーティに要求した。


「レスティオ様。騎士団で使用する分については、こちらで発注させて頂きます」

「俺が魔物討伐を円滑に進める為に支給するから、クォートは教育の徹底を頼むよ」


 発注を止めようとするクォートを制して、レスティオは書類にサインして、試作に必要な費用を依頼料として支払う。

 

「あぁ、そうだ。魔力結晶細工の髪飾りを奥方に贈るなら、こちらの装飾を添えてもいいんじゃないか?」


 ロデリオはドレアに髪飾りを贈る際に、既製品の櫛に魔力結晶細工を乗せるように加工していた。

 というのも、以前、レナルドがヴィアベルに贈った髪飾りがヴィアベルの魔力で溶けだしてしまうという事件が発生しており、魔力が同等以上の相手に直接肌に触れるような細工を贈るのは危険と言う結論に達していたからだ。

 リアージュはあまり魔力を使っていなかったので溶けることが無かったが、取り急ぎ、既製品の櫛を使った物がユリウスから贈り直されていた。

 

「櫛や髪飾りは扱ってるかな」

「はい、それでしたらこちらに」


 アビルミーナが取り出したのはシンプルな櫛だった。

 ザンクの中でそこまで飾る女性はいないようで、華美なものはない。

 だが、土台にするには、むしろ丁度いい。


「これを一本買わせてもらえるかな。あと、そちらのリボンも」

「はい。喜んで」


 支払いを済ませた上で、レスティオは買い取った櫛にリボンを絡ませ、魔力結晶の花を作り上げる。

 シンプルな櫛が華やかな髪飾りになり、周囲から感嘆の声が上がる。


「素敵です。そんな素敵な髪飾りを贈られたら、恋に落ちない女性はいないでしょう」

「帝都では、魔力結晶の髪飾りが夫から妻へ贈られているんですよ。ロデリオ殿下はロジエを模した細工を施して意中の相手に婚約を申し込んだとか」

「まぁ、それは是非旦那に作ってもらいたいものです」


 イグラムがすかさず宣伝すると、女性たちは色めき立つ。

 ベイルートは既に婚約者に贈っているといい、イグラムとクォートはそれぞれ櫛と装飾を選んで購入した。

 夜にでも魔力結晶細工の練習をしようと約束して、工房を後にする。

 

 広場ではハオスを振る舞う為に屋台の準備が進められていて、その近くで子供たちが縄跳びで遊んでいた。


「ぁ、聖騎士様っ!」

「みてみて!俺、100回飛べるようになったんだ!」


 無邪気に声を上げる子供たちの方へと向かうと、練習成果を示すように縄跳びを始めた。


「おぉ、凄いな。じゃあ、もっと難しい技を教えようか」

「技っ!?なにそれ」

「俺にも教えて!」

「私もー」


 目を輝かせる子供たちの頭を撫でて大人用の縄跳びを持ってきてもらう。


「これは、ギバの子供たちも遊んでいたものですね」

「あぁ、遊びながら全身を鍛えられるからお前たちもやってみるといいよ。ロゼアンやセバンにはやらせているけど、騎士団にはまだ取り入れてなかったか?」


 レスティオは軽く跳ぶと、素早く縄を回して二重跳びや、駆けるようにして跳ぶもも上げ跳びを披露する。

 

「あるいは、腕をこう交差させてみたり」

「すげぇっ!」

「俺、それがいいっ!」


 早速練習を始める子供たちを暫し眺めていると、自警団の団員たちと共にネルヴィとユハニが広場に向かってきた。

 酒宴の時間が近づいていることもあって、訓練を切り上げてきたらしく、少し疲れた顔をしている。


「レスティオ様、自警団でも剣魔術の訓練を始めていて、訓練場が凄いことになってましたよ」

「うん。なにがどうなっているのか全く分からない」


 レスティオが興奮気味に報告するネルヴィを宥めると、ユハニが呆れた表情で説明を代わる。

 自警団の訓練場の隅に木に見立てた棒がいくつも立てられており、その間に的を立てることで、風の魔術を利用した体術訓練と剣魔術による討伐訓練が出来るように整備されていた。

 また、レスティオが提案したトレーニング器具が導入され、団員たちは一層逞しさを増していたという。

 自警団員たちに目を向ければ、確かに体つきが良くなっているようだった。

 

「騎士団の訓練場にも欲しいものです」

「じゃあ、クォート。明日は自警団の訓練の視察もさせてもらおうか。今後の為に」

「むっ、そうですね。自警団に帝国軍が劣っていてはなりませんから」


 徐々に広場に人が増え、町役場の役人たちが準備の状況を確認して回る。


「さぁ、皆様!今宵、再び聖騎士様と共に宴の時を過ごせることを喜び、鐘に感謝の祈りを捧げましょう」


 酒が配られる前に、ロトが声を上げ、町の人たちはエリシオン時計塔の方へと向く。

 町長に続いて祈るようにと促され、レスティオたちも時計塔の方へと向き直った。

 時計はもうすぐ19時になろうとしていた。そして、針が進むとどこからともなく鐘の音が響き、時計塔の上の鐘が鳴らされる。


「今、この時を皆と共に刻めることを喜びとし、願わくば、平和の時を刻み続けられますように」


 ロトの祈りの言葉に続き、町人たちは各々祈りの言葉を口にする。

 鐘の音が止むと、酒が振る舞われ、改めて、宴の始まりが告げられる。


「卵と刻んだ芋を混ぜたハオスです」

「こっちは野菜と香草をふんだんに使ってみました」


 袖を二の腕までまくり上げた料理人たちがハオスを焼きながら宣伝する。

 レスティオはクォートたちに毒見してもらってから取り分けられたものを食べる。

 ギバで食べたものより、食材の組み合わせが豊富でそれぞれ味が違う。


「うん。使われている食材によって、ここまで食感も味も違うとは面白い」

「ソースもどれも味が違いますね」


 ベイルートとイグラムが注意深く咀嚼する様子を横目にクォートは周囲の様子を窺う。

 レスティオが気を抜いて町人たちと笑っている姿は年相応に映る。

 ユハニは出されるハオスの食材や作り方を丁寧に確認した上で、シルヴァに給仕させている。

 ネルヴィは町人たちと笑って話しながら、レスティオに近づく者を止めて、用件を確認した上でレスティオの方へと繋いでいる。


「フランドール隊長、宴はお愉しみ頂いておりますか?」

「これは町長。勿論です。しかし、街を上げてこのような祭りをされているとは存じませんでした」

「聖なる御方がいらっしゃった時だけです。ハオスは聖騎士様より齎された料理であり、料理人はその腕前を披露することで聖騎士様の料理人を目指して励んでいるのです」


 趣向を凝らしたハオスの数々もレスティオの目に留まりたいが故。

 クォートはここにナルークを連れて来たなら嬉々として各種頬張ったことだろうと思う。

 レスティオからもたらされた物事を機に成長しようと努めているのは騎士団ばかりではないのだと、ザンクの様子を見てクォートは理解した。



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