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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖オリヴィエール帝国編
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第105話 ミリュヴェール遠征(1)


 ミリュヴェールの森への移動経路は少し複雑に組まれていた。

 まずは、ミリュヴェールに近い村であるギバに向かい、状況確認をして一泊。

 そこから、遠回りになるが東寄りの大陸会議の行路としても使われている道を使い、広大なミリュヴェールの森を確実に索敵しながら魔物の繁殖状況を確認し北へと進む。

 ミリュヴェールの森の北側にはロワと呼ばれる町があり、往路で魔物の討伐が完了しなかった場合は、そこを拠点に討伐を進める。

 根源の討伐完了を確認後、レスティオは聖の魔術による癒しを行い、護衛部隊を連れてザンクへと向かい、残る部隊が残存する魔物の討伐を担う。

 用事を終えて、再びレスティオが本隊に合流した後、改めてミリュヴェールの森一帯を癒して帝都へと帰還する。

 あえて、大陸会議行路を使うことで、大陸会議行路の視察と安全確保を兼ねるものとなる。

 

「では、ライネル。後は任せたぞ」

「はっ!ご武運をお祈りしております」

 

 レスティオの護衛騎士たちは、凛々しくジャケットを纏っている。

 特に筆頭護衛騎士を務めるクォートは、見送りにフランドール隊が揃っていることも演出となって十分すぎる貫禄を感じさせた。


「騎士団とはいえ、部隊長ともなれば違いますね」

「それはそうだろう。魔術師団出身のお前からすれば、騎士というだけでさほどの違いはないと思っていたか」

「否定は出来ません」


 今回の護衛部隊には、ザンクでの聖剣の検証に同行する為、皇族から護衛二人が貸し出された。

 一人は、ユリウスの護衛騎士のイグラム・マッカーフィー。もう一人は、ロデリオの護衛魔術師のベイルート・プラハ。

 

「フランドール隊長。よろしくお願いします」

「うむ。あまり勝手に前に出過ぎないように気を付けろよ」

「はいっ!」


 ミリュヴェール遠征の主幹はジンガーグ隊が務める。

 その中から、レスティオの護衛としてネルヴィ・ボートム、ユハニ・リトラ、シルヴァ・ハルヴァーニの三人が選抜されていた。

 ネルヴィとユハニは、ザンクに向かうことを踏まえての選出。そして、シルヴァは、皇族に側仕えを兼任できる騎士として認識されており、側仕えを連れないなら連れて行けと言われて選出された。

 

「では、ギバへ向けて出発するっ!」


 ソリッズの掛け声で、西門から移動を開始する。

 レスティオは先遣隊の後ろで護衛部隊に囲まれる位置。万が一、道中で魔物を見つけた際には先遣隊と共に駆けだすことを前提としている。

 しかし、護衛部隊を連れて魔物討伐に出るのは初めてのこと。事前に打ち合わせ済みだが、実践でどれだけ動けるのかは未知数であり、レスティオにとっては不安を拭いきれない布陣だった。


「イグラムは、前線に出るのはいつぶりだ?」

「そうですね。かれこれ二十年にはなりましょうか。しかし、休みには息子たちと稽古もしておりましたし、鍛錬は欠かしておりません。剣魔術というのも少々齧っているのですよ」


 大陸会議以来、皇室の護衛たちも鍛錬に取り組み始めた。そこで、腕の鈍りを実感する者も多く、同時に護衛としての評価に影響し始めている。

 今回のイグラムの選出は、その中で騎士としての実力と剣魔術の素養を認められたからこそ。

 剣魔術は、キルアが自分の鍛錬ついでに家族に教えているのだが、エドウェルはまだ苦戦しており、イグラムは父親の威厳を保つためにも妻を巻き込んで習得に励んでいる。

 家族の話を誇らしそうに語るイグラムの話に、レスティオは微笑ましい気分で頷きながら耳を傾ける。


「家族同士、仲が良いんだな」

「まぁ、鍛錬はともかく、中々、他愛のない話には付き合ってくれませんがね。先日、長男が婚約者を決めてきた時も、そうなるとは思っていたものの相談ひとつありませんでした」

「マッカーフィーは名家と聞いたが、そんな自由が許されるのか?」

「家名よりも殿下への忠誠を取ったということです。まぁ、それはそれで誇らしいことですが、親としては寂しくも感じますな」


 軽く笑うイグラムに笑い返しながら、レスティオはイグラムの後ろについているベイルートに視線を送った。

 ベイルートは視線だけで言いたいことを察した様子で苦笑する。


「私の家系はグランツの傍系というだけで、さほど名家ではありません。皇族の側近であることを誇りに思うなら皇族の為となる縁を結ぶといい、と望まれていたので、家族はただ喜んでいました」


 グランツといえば、エリザの姓であり、魔術師団長の家名。

 魔術師の名家に関わりあるだけでも、位はそれなりにあるのだろうと窺える。

 そうでなければ、皇族の目に留まるのは難しかっただろう。

 

「家によって様々なんだな」

「あぁ、そうそう。機会があればと思っていたのですが、もし、レスティオ様が暇を持て余すようなことがあれば、是非、魔力結晶細工というものを教えて頂けませんか?」


 妻に贈りたいのだというイグラムに対して、クォートが護衛として来ているのだと咎める。

 警備を交代した時ぐらいはいいだろうと反論するも、規律重視のクォートを前にイグラムは残念そうに引き下がった。

 年齢も家格もイグラムの方が上だが、護衛部隊として同行している以上、筆頭護衛騎士の肩書きが最も優先される。


「クォートは、奥方に贈り物をしないのか?」

「魔力結晶細工の花は夫婦や恋仲で贈るものでしょう。それが広まっていない状況で理由も無く渡せば、娘たちに理解されず、強請られかねません」


 聖騎士の文化を正しく広める為に、実践しない選択も必要だろうと言う。

 確かにそれは悩ましいとイグラムは納得を示したが、レスティオはそこまで気にしなくていいのにと思う。

 

「なら、結婚記念日に渡せばいいんじゃないか?それなら、夫婦だけの特別な日だろう?」

「結婚記念日?なんですか、それは」


 クォートに聞き返されて、この世界には存在しない考え方だったかと肩を竦める。


「誕生日は生まれた日を家族で祝うものだろう。それと同じく、結婚記念日は結婚した日を夫婦で祝うんだよ。夫婦共に過ごした時を喜び、互いに支えられてきたことに感謝し、またこれからの時を共に過ごそうと誓い、愛情を捧げ合うんだったかな」


 前方でハイラックも気にするように視線を向けてきたので、レスティオはそこまで聞こえるように説明した。

 へぇっと周囲から声が漏れ聞こえてくる。

 

「結婚した日、ですか」

「俺が所属していた部隊の隊長は愛妻家で、毎年結婚記念日には休暇か早上がり出来るように任務を調整していたんだ。夫婦で買い物に出かけて贈り物を選んだり、夕食を少し豪勢にしたり、夫婦になれた喜びを感じ合うのだとかなんとか」


 未婚のレスティオは当然結婚記念日を過ごしたことはないが、第三騎兵隊隊長のジークエンス・オズヴァルドが鬱陶しいほどに浮足立たせる日だった。

 その浮かれた姿を同僚たちと共に呆れて眺めていた覚えがある。入念な任務調整に付き合わされたことも今思えば懐かしい。

 間近で見ていたからこそ、夫婦にとってはそんなにも大事な日なのかと学んだものだ。


「なるほど。そういう日ならば魔力結晶細工を贈ってみせることで、娘たちが相手を探すきっかけにもなるかもしれません」


 悩ましそうなクォートに父親の顔が覗く。

 

「ですが、まずは任務が優先です」

「そうだな。よろしく頼むよ」


 すぐに気を引き締め直したクォートに、流石と感心して頷いた。

 休憩を挟みながらギバへ到着すると、村長と駐在兵が出迎える。その中にはエヴァルトの姿もあった。


「ようこそおいでくださいました。聖騎士様におかれましては、西の森から魔物が出てきた際に助けて頂いた上に聖なる癒しを頂きまして、村民一同心より感謝致しております」


 出迎えの挨拶を受けて、駐在所へと促される。

 ソリッズと共にレスティオとクォートが同行し、駐在部隊から状況報告を受ける間、他の者たちは野営の準備を進める。

 ファビス隊ギバ駐在部隊隊長のサンバ・バーザルは、会議室のテーブルに地図を広げて、ミリュヴェールの森の警戒状況について報告を始めた。


「ミリュヴェールの森で魔物が発生しているのは、どうもロワの近くのようです。駐在部隊で状況確認に向かった際、最初に魔物と遭遇した地点は、ここでそれもまばらにしかおりませんでした」

 

 地図を見ると、ミリュヴェールの森の近くには、西の森やユドラの森がある。

 過去に行った聖の魔術による癒しが多少なり届いているのか、ギバに近い部分には魔物の姿はさほど見られていない。

 また、出てきた種は西の森同様に狼のような魔物だったという。

 

「引き続き警戒を継続していますが、状況はロワの方が緊迫しているのではないかと思います」


 ミリュヴェールの森を超えた向こうに位置するロワの町。

 最終的な魔物討伐拠点はロワの町になるが、ミリュヴェールの森は広大で一日で駆け抜けられる場所ではない。

 あくまでギバの駐在であるバーザル隊は、深追いはせずにギバに危険がないことを日々確認するに留まっている。


「ロワの駐在も状況確認はしているんだよな?その連携は?」

「それは、どうでしょう。ロワは、魔術師団の管轄なので、特に我々には報告がありません。ギブール隊から連絡を貰わなければ我々も気づかなかったでしょう」

「国の一大事に縄張り意識を持ち込んでどうするんだか。ということは、こちらからロワに報告もあげていないんだな」

「ギブール隊には状況を伝えましたが、こちらの状況が問題なしと知れば、ならば余力の兵や食糧を寄越せと言われかねませんから悩ましいところです」


 言いにくそうに答えるサンバにレスティオはため息をつく。

 駐在は最低限町や村を守る程度の人数しかおらず、常に人手不足だ。

 食糧は聖の魔力の癒しを受けて潤沢かもしれないが、これからの季節を考えれば、蓄えておく必要があることも頷ける。


「ロワの食糧事情は困窮しているのか?畑が荒れているとか、報告はあったか?」

「そこまでは聞いておりません。ギブール隊から、ロワの駐在からミリュヴェールの森に魔物が大量に発生していると帝都に伝令を預かったと伝え聞いただけなので」


 ただ、近くで魔物が繁殖していた頃は、ギバの畑は不作だった。

 だから、困窮している可能性は十分にあるとサンバは答える。


「問題ないから報告していないだけならいいんだけどな」

 

 改めて、移動経路と魔物討伐の段取りを確認して、一行は駐在所を出る。

 エヴァルトに案内されて広場に向かうと、子供たちが縄跳びや滑り台で遊んでいた。


「ザンクの遊具を取り入れたのか」

「えぇ。自分からこういう提案をしたことが無かったので、受け入れられるか不安だったんですが。ハオスも偶に村の皆で作って楽しんでいるんですよ」


 厄災の不安の中、レスティオの護衛に送り出してよかったと、部隊の仲間からも褒められた。

 誇らしげに語るエヴァルトにレスティオも安堵する。


「今晩は、歓迎の宴ってことでハオスにしようと思うんですが、いかがですか?」

「賛成。ギバの食材も聖の魔術で美味しくなっているだろうし、楽しみだな」


 広場に鉄板と食事が用意される中、レスティオはギバの子供たちの面倒を引き受けた。

 コークで子供たちと遊びながら鍛錬することを覚えたジンガーグ隊の兵も加わり、広場の端には賑やかな声が響く。


「ベイルートも来いよ。結婚して子供が出来たら、遊んでやる機会なんていくらでもあるぞ」

「そ、そう、ですね……持ち上げればよいのですか?」

「子供相手には抱き上げるといえよ。ほら、来い」


 嫌々子供に手を伸ばすベイルートの横で、イグラムは軽々子供を抱き上げて、レスティオに倣い、肩へと乗せてやった。

 抱えるのが精いっぱいそうなベイルートに鍛錬が足りないと騎士たちが笑い、鍛えろと子供たちをけしかけた。

 

 

 

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