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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
ラビ王国編
110/256

第99.5話 その頃の騎士団

 


 ラビ王国派遣団が出立して数日。

 騎士団はこれまで通り日々訓練に励み、時折、遠征に出ては厄災の状況確認と魔物討伐に取り組んでいた。


「おはようございます。ぁ、おはようございます」


 ロゼアンは早朝の帝都を走っていた。

 眠気冷ましと体力づくり、騎士団の印象アップを兼ねた騎士団の新たな取り組みの一環である。

 

 騎士学校と騎士団の受験申込数は年々減少傾向にある。

 前年度は生贄の招集の影響もあって極端に少なかった。

 しかし、このままでは人員不足で立ち行かなくなる。

 厄災の最中、騎士団の兵は殉職で減る一方なのだ。

 

 何気なく団長であるドレイドがレスティオに助言を求めた折、いくつかの案が提示された。

 そのうちのひとつが、この早朝から日中にかけて行われるようになった帝都内ランニングである。

 ルールはいくつかあり、まずは、すれ違う人全てに笑顔で挨拶する。

 

「おはようございます」

「おはよう。最近、いつも一緒に走ってる子の顔を見ないね」

「あぁ、セバンはレスティオ様と一緒に任務に就いているので、もう暫くの間、姿は見えないと思います」

「そう。無事なら良かったわ」


 声を掛けられたら無視せず応じる。


「おう、こんなところまで良く来るなぁ」

「おはようございます。訓練と巡回も兼ねていますので。なにか困りごとはないですか?」

「ねぇよ。聖騎士様の御膝元で悪さする奴もいねぇからな」

「それは良かったです。では」


 日によってルートを変えながら、なるべく帝都の端まで見て回ること。

 鎧を着て武器を手に巡回するよりも、犯罪者にも国民にも警戒されないし、適度なコミュニケーションは帝都内の犯罪抑止、状況把握に繋がる。


「ロゼアン、おはようございます」

「あぁ、レイル。デルもおはよう」


 すれ違う騎士団の兵とは挨拶とハイタッチを交わす。

 互いに頑張っていることへの称賛と応援を込めて。


「今日は騎士団の連中が多いな」

「これからフランドール隊は遠征があるので、早い時間にランニングを済ませているんです。どうぞ、ご心配なく」

「そういうことか。死ぬなよ」

「ありがとうございます」


 普段見えることの無い騎士団の活動。

 隠す必要のないことは隠さずに伝える。


「おはよう。今回の遠征は長引きそう?」

「ぁ、おはようございます。二、三日で済む予定です。隊長に伝言でも伝えましょうか?」

「大丈夫よ。生きて帰ってきてくれれば、それで十分」

「あぁ、間に合ったわ。おはよう」


 帝都内を走っていれば、同僚の家族に会うこともある。

 むしろ、最近は家族の顔を見ようと外に出て来る者も出始めた。


「うちの旦那はまだ帰ってこないのかしら」

「ジンガーグ隊長でしたら、今日明日には戻るはずです。フランドール隊は入れ替わりで遠征に出る予定なので」

「そうなのね。じゃあ、ちゃんとご飯作って置かないと。ありがとう」


 妻同士仲のいいフランドール夫人とジンガーグ夫人はそのまま立ち話を始めた。

 ロゼアンはこれ以上留まるのは危険と察して再び走り出す。


「ぁ、隊長。おはようございます」

「あぁ、ロゼアンか。おはよう」

「先ほど、奥様達が話していましたよ」

「そうか。付き合わせてすまない」


 クォートともハイタッチしてわかれる。

 帝都内に家庭を持つ者は、このランニングの時間に家族に声を掛けに行くこともある。


「おはようございますっ!」

「訓練頑張ってください!」

「おはようございます。ありがとうございます」

「おはようございます!頑張りますっ!」


 若い女性たちに声を掛けられて返していると、ハシュビルが後ろからやってきて、女性たちに手を振る。

 笑顔で手を振り返されながら、その場は通り過ぎる。


「よっしっ。ぁ、おはよう、ロゼアン」

「おはよう」


 遅れながらもハイタッチを交わす。

 帝都内を走りまわることに皆が難色を示すことを見越して、レスティオからアドバイスがひとつあった。

 ランニング中は、苦しくなっても出来る限り爽やかに振る舞うように心掛けること。

 どういうことかと思ったが、レスティオの世界において、トレーニングに励んで汗を流しながらも笑顔を見せ、仲間たちとハイタッチを交わす姿を好印象に捉える女性は多いという。

 つまり、真面目に取り組むほど、ランニング中に女性の目に留まることがあるかもしれない。

 その上、笑顔で挨拶することがルール。堂々と声を掛けることができ、上手くいけば会話が出来て関係が出来るかもしれない。


「いやぁ、堂々と女性と会話できるっていいな」

「それは良かったな」

「絶対迎年祭までには恋人を作るんだ。今年こそは絶対」


 下心が見え透いているが、それが原動力となればいい。

 万が一、不審者がいた場合、女性の前で捕らえれば良い所を見せられる。困っている人がいたら、手伝ったり、話し相手にでもなって優しさを演出できる。

 帝都内ランニングは兎にも角にも女性へのアピールの場になる。


「おはようございますっ!ブロットの新作パンが今日販売開始です。よろしくお願いします」

「フィグ入りの美味しいパンですよ」


 騎士団の帝都内ランニングを真似して走る人の姿も見かけるようになった。


「ぁ、おはようございます」

「おはようございます。フィグパン。是非買いに来てください」


 走ることは健康促進の為にもいい。

 興味を示す者がいれば、レスティオがそう言っていたと伝えることにしている。

 店の宣伝をしながら走る者は珍しいが、朝から活気づいている印象を受ける。






「ただいま戻りました」

「はい、おかえりなさい。朝食が出来たら声かけますね」


 ロゼアンは屋敷に戻ると、汗を軽く流してトレーニングルームに入る。

 セバンがいない間にこそ差を付けたい。

 朝食が出来たら、ダイニングでヴィム達と共に食事を取る。


「今日ランニング中に、ブロットでフィグパン売るって聞きました」

「ほぉ、ようやくですか」

「広まりますかね。最初は酒席の料理くらいに思われてしまうかも」

「店先で食べて見せますかね」


 コークの商人が芋や卵を売り出すのに困っていると聞いた時には、騎士団の者たちが買いに行った。

 しかし、一般に売れ始めたのは、騎士団の兵が昼食がてら店先で調理済みの芋や卵を美味いと言って食べた後だったと聞く。

 ロゼアンはレスティオのレシピが少しでも広まるなら、騎士団の掲示板で周知しておこうと考える。


 




 賑やかな騎士団本部の様子を見てジンガーグ隊が帰ってきたのだと察する。


「ロゼアン、昼の鐘に出発するから、それまでに昼食を済ませるように、だとさ」

「了解。ありがとう」


 ひと際賑やかな食堂を覗くと、リシェリがユハニを相手に頬を膨らませていた。


「言ってくれたら私だって手紙書いたのに!」

「普通に出せばいいじゃん」


 ジンガーグ隊の遠征先がガナルで、ユハニは休暇を貰いつつ同行していたことをリシェリは知らなかったらしい。

 

「だって、手紙出すのにいくらかかるとおもってんの?っていうか、お母さんたちからの手紙も無いなんてぇ」

「リシェリは元気ならいいって言ってたよ。アルメア水の原液要る?」

「要るけど、やっぱり酷いと思う」

「これは俺からのお土産なんだけど」

「有難く頂戴致します」

「よろしい。まぁ、なんなら、今度俺が手紙出す時に一緒に送ってもいいけど」

「本当っ!?絶対だよっ!約束だよっ!」


 仲が良いなと思いながら、ロゼアンはソリッズに今朝夫人と挨拶したことを伝える。

 ランニングが始まってから、心なしか騎士団内のコミュニケーションも増え、活気を感じる。


「ネルヴィ。剣魔術の研究なんだけど」

「うん。なんかあった?」


 野菜を頬張って口をもごもごと動かしながら振り返ったネルヴィにロゼアンは呆れる。

 共に護衛部隊にいた時には、礼儀作法に気を付けていたのに、徐々に以前のように戻ってきている。

 レスティオ様がみたら残念がるだろうなと思いながら、隣の席に座って昼食を食べ始める。

 

「俺、魔力の二次成長期に入ったみたいなんだ」

「成長期?って、前に講義で言ってた、魔力が伸びやすい期間、だっけ?」

「そう。魔力を伸ばすのに注力するようにアッシュ先生に言われてる。消耗と回復を繰り返すことになるから、お前も魔力遣わない時に結晶だしておくとか、対策しとけってさ」


 伝言を伝えて、遠征中の講義のノートを差し出せば、ネルヴィはユハニに声を掛けて勉強に付き合わせようとする。

 戦闘力としては著しい成長を見せているが、勉強面ではまだまだ苦戦している。学ぶ意欲が衰えていないものの、理解力が追い付いていない。

 

「ぁ、ロゼアン、次魔術学院行くのいつ?」

「俺は遠征から戻ったら。それまでに、検証しておいてもらいたいことあるんだけど、時間あるか?」

「いいよ。今日はこの後ランニング行って、ついでに本返しに図書館寄るくらいしか予定ないし」


 遠征から帰った直後なので、シフトは緩く設定されている。

 ネルヴィが本を読んでいることを意外に思いつつ、ロゼアンは会議室を借りて剣魔術研究の打ち合わせを始めた。

 





 魔物の姿は散見しているが、レスティオが居らずとも討伐出来る範囲。

 比較的落ち着いた日常に安堵する騎士団。


 しかし、一度事が起きると一気に慌ただしくなる。


「フランドール隊っ!至急ガナル遠征の支度を整えよっ!クォート、待機が長くなることを見越して物資と資金を積むようにしろ。他の部隊も協力してやってくれっ!」


 団長のドレイドが訓練場へと駆け出てきて叫び声をあげた。

 兵たちに準備を急がせながら、クォートと小隊長を近くの会議室へと呼ぶ。


「今し方、カーストン総帥より伝令があった。ラビ王国遠征にて、レスティオ様が害されたとの速報だ。これは、他の者には決して口外するなよ」

「レスティオ様がですか……」

「なにがあったのかはわからん。とにかく、数時間の内に使節団が結成され、ラビ王国へ向かうべく出発する。お前たちには道中の護衛と出港後、使節団が帰還するまでの間、ガナル周辺の魔物討伐にあたるように」


 クォートは、レスティオの情報だけで同行している者たちのことが語られないことにもどかしく思いながらも頷いた。

 会議室を出れば、フランドール隊は皆慌ただしく動いている。

 やがて、西門の前には皇族の馬車を含め、数台の馬車が移動してきた。


「リアージュ、すまぬが頼んだぞ」

「はい。皆さんも留守は頼みましたよ」


 フランドール隊が出兵の準備を進める中、ドレスではなくシンプルな文官の出で立ちで現れたリアージュに皆驚いた。

 リアージュの見送りにはユリウスを始め、皇族が集まっている。

 その上、宰相であるマルクや、聖騎士専属秘書官のエリザが馬車へと乗り込んでいく。


「レスティオ様の身になにかあったんでしょうか」

「さぁな。我々は、護衛の任務と共に帰還までの間を魔物討伐をして過ごすしかない」


 表情を陰らせるロゼアンに、ブレフトは気を引き締めさせるように背中を強くたたいた。

 やがて、クォートの号令と共に、一行はガナルへと向け出発した。





レスティオ以外の人物を中心にするときに、「.5」と付けています。

本編で今後話題には出すけれど、実際に帝都内を走っている場面を出す機会は無いだろうなと思い、差し込みました。

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