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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
ラビ王国編
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第98話 神域


 復興遠征の旅は終盤。

 最後の地は聖地グラオベン。

 列車を降り、馬車で街中を移動し、大聖堂を訪れる。


「長旅ご苦労様です。お越し下さる日を心待ちにしておりました」


 白い司祭の装束を纏ったハンネが一行を出迎えた。

 フィーリのことも聞き及んでいる様子で、笑顔で挨拶を交わす。

 

「では、魔力を注いで頂くのはお茶の後に致しましょうか。お疲れでしょう?」

「魔力を注ぐ方が疲れてしまうので、先に済ませてからゆっくり休ませてください」

「そうですか。では、こちらへ」


 先にやることを片付けてしまった方が後は気楽に過ごせる。

 使節団の一行と、大聖堂で働く者たちが集まる中、レスティオは祭壇が置かれた壇上に上がり、壁に描かれた魔法陣へと手を掛ける。

 戴冠式の時に唱えた詠唱と共に魔法陣へと魔力を注げば、復興支援は終わる。

 





 ふと、視界が白んで、気がつくと、大聖堂ではないどこかにいた。

 見覚えのある応接セットは、レスティオが育ったレドランド家本邸の応接室の物に違いなかった。

 向かいに座るのは、当主であり祖父であるユホン・レドランドではなく、僧侶のような格好をした見知らぬ男。


「お前は誰だ?」

「誰とは何事か。我が愛しきアイオローラの子とはいえ、無礼な者だ」


 尊大な態度で見つめられ、レスティオは息を呑む。

 じっと見つめ返してみれば、どこかで見た覚えがあるような気もする。

 

「アイオローラ……アイオロス教会が祀ってる神のことか」

「アイオロスは其方の世界であろう。世界の創世神への信仰が希薄なのは如何なものか。それも、御使いの家系だというのに」


 呆れた男の態度にレスティオは眉を顰める。


「御使いの家系?」

「世界を創りあげた後、世界の導き手もとい調停役として、アイオローラが化身たる者を産み落とした。それが其方の祖先である」


 世界の誰しもが神に纏わる血を引くわけではない。

 神が創った生き物と神の分け身は異なる存在であり、レドランドはアイオローラの化身の直系の家系に当たる。

 現実として理解しがたい内容を、物語の設定としてなんとか飲み込んでレスティオは男に向き直る。


「もしかして、この世界に召喚される聖女は、無作為ではなくその御使いの家系の生まれなのか?」

「如何にも」


 だからこそ、レドランドの家系であるプレア・レドランドが過去に召喚された。

 それ以前に召喚された者も、遠からずレドランドの血筋に当たるのだろうと理解する。

 ならば、自分の母や妹が召喚されずに済んだことを喜ぶべきか。

 そもそも、彼女たちではなく自分が召喚されたことを疑うべきか。

 レスティオは考えながら質問を続ける。


「それで、お前は誰だ。なんで俺をここに連れてきた。もう、用は済んだからアイオロスに帰してくれるのか?」

「いや、ここは我が神域。アイオロスに似せているのは、アイオローラを愛するが故だ」

「へぇ……」


 突然の惚気にレスティオは冷めた気分になった。

 その様子を察してか咳払いして尊大な態度に戻る。

 

「我が名はヤマスーリャ。アイオローラの子たる其方が、我が元に訪れたのは何用かと、尋ねるべく招いた次第である」


 魔法陣に魔力を注いだことで神域に行きついてしまったのかと推察して、経緯を説明するとヤマスーリャはわかりやすく落胆した。

 アイオローラからの神託を受け、言伝にでも来たのかと期待していたらしい。そんな神々の色恋沙汰に興味はない。

 そもそも、神様同士のやり取りに遣いを介す理由が分からない。


「ならば我にもう用はない」

「あぁ、そういえば、先日アイオローラの姿は見たよ」

「うむ?元気そうであったか。今は神力を使い果たし眠りに就いていると聞くが、様子はどうだった」


 折角の機会を繋ぎとめるべく話を振れば、ヤマスーリャはわかりやすく食いついた。

 神様がこんな単純でいいのだろうかと思いつつ、レスティオは首を傾げる。


「神力を使い果たした、とは?そんな様子には見えなかったが、実はどこか悪かったんだろうか」

「あぁ、其方は何も知らぬのか。哀れなことだ。良く聞くがいい」


 神力とは、神が持つ魔力を意味する。

 今いる世界スヴェルニクスで召喚の儀式が行われる際、スヴェルニクスの世界を覆う膜がスヴェルニクスの民の魔力により開かれる。

 各世界の神はそこに自らの子を送り出すのだが、その際に、送り出す子の魂に魔力回路を形成する。

 聖なる魔力を有する魔力回路は神力をもとに作られ、スヴェルニクスの膜を支えて余る魔力を加えて完成する。

 そして、子を送り出し、膜が閉じられると世界の行き来が出来なくなるという仕組みだ。

 アイオローラは、スヴェルニクスの為、他の神と比でないほどに神力を注いで、レスティオの魂に魔力回路を形成した。


「何故、そこまでしてアイオローラは俺に力を?」

「そんなの、スヴァーンから父ゼクスを救うために決まっておろう」

 

 決まっていると言われても、スヴァーンはともかく父ゼクスの存在を知らない。

 スヴァーンはスヴェルニクスの創世神ではなかったかと疑問が浮かぶ。


「親子喧嘩、か?」

「そのようなものだな。スヴァーンはこの世界のどこかに父ゼクスの核を隠している。父ゼクスを見つけ出すため、其方らに厄災と呼ばれる靄を払わせているのだが、どうにもうまく居場所を察知できん」


 レスティオは顔をしかめながら情報を整理する。

 なにかしらの事情があって、スヴァーンはゼクスを世界のどこかに隠した。

 神の核というものの形状もわからないが、その存在は厄災の影響で神たちが察知出来なくなっている。

 そこで、厄災を払い、探知しやすい環境を整えようというのが、神たちの目論見。


「それは、貴方がたが直接世界を浄化するのではいけないのか?聖の魔力は元は神の力なんだろう?」

「ならん。創世神以外の神は直接世界に手を下してはならん決まりになっている。創世神とて、直接は関与せずに御使いや化身に全てを託すものだ」


 決まりを守って、救うべきものが救えないのでは意味がないじゃないか、とも思う。

 だが、神のレベルで決められていることが、どのように世界に影響を及ぼすのかわからないので言及は避ける。


「もし、ゼクスが見つかったら、俺たちは元の世界に戻れるのか?」


 ゲームの世界ならば、目的を果たし、元の世界へ戻るエンディングに進めるはず。


「どうだろうな。世界の時間軸は神により異なる。元の時間軸に戻すことが出来ぬ以上、戻したところでお前の知る世界とは異なった世界になっているだろう」


 それはそうだ。

 レスティオはジャケット越しに懐中時計に触れて、刻まれ続けている時を想う。


「このまま、ゼクスが見つからなかったら、世界はどうなるんだ?」

「ゼクスが不在のままでは、世界の調停が行われん。各世界の均衡が乱れた後、その揺らぎに耐えきれぬ世界から崩れてゆく。なるべく、均衡を保てるように我々も尽くしているんだが、特にゼクスの世界の衰退が止まらない。故に、其方らには数多の世界の為にも厄災を鎮めて貰わねばならん」


 スヴェルニクスの危機だけかと思いきや、ゼクスに連なる神々が創った世界全てに影響する危機だという。

 そんな重責を担わされていたなど思いもしなかったし、これまでの聖女たちとて認識していなかっただろうと思う。


「そういうことは先に言ってくれ。それだけで、これまでこの世界に来た者たちも心構えが違っただろうに」

「何人かには伝えた。しかし、神域に至れる者が少なすぎるのだ。不甲斐ない」


 神域に入るには、相当量の魔力を大聖堂の魔法陣に注ぐ必要がある。

 だが、基礎魔力が少なかったり、手を抜いたりと十分な魔力を注ぐ者がいなかった。

 レスティオは、ここに入れたのはアイオローラが頑張って魔力回路を作ってくれたからなのだと考えて、ため息をつく。


「他の土地へ行けば、他の神の神域に入れるのか?」

「うむ。歓迎されたならばな。まぁ、アイオローラが力を尽くして送り込んだ御使いだ。大概の者は快く話を聞くだろう」

「例えば、アイオローラが俺に魔力回路を構築したように、他の神々から力を得ることは出来るのか?」


 これがゲームならば、神々からラスボス攻略に必要となる力を集めるミッションが始まるだろう。


「強欲者め。まぁ、よかろう。精々、我らが為に尽くすがよい。麗しきアイオローラの子よ」


 スヴァーンの手が両の頬を包み、身体になにかが流れ込んでくるような感覚を受けながら、視界が白く閉ざされた。


 




 目覚めると、見慣れないが見覚えのある天蓋。

 体を起こすと、何も違和感は感じないどころか、すっきりして感じる。

 カーテンを開けかけて枕元に置かれていたベルを鳴らした。

 天蓋の中で何に使うのだろうと思っていると、天蓋が開けられた。

 

「御目覚めになられたのですね、体調はいかがですか?」


 顔を覗かせたルカリオに首を傾げると、ベルは天蓋にかけられた消音の魔法陣をすり抜ける魔術具だと教えてくれた。

 オリヴィエールにはない、ラビ王国が開発したものだと教わり、枕元に戻す。

 部屋の中は暗く、夜中だとわかった。


「ずっと起きてたのか?」

「丁度様子を見に伺ったところでした。お待たせしてしまいましたでしょうか」

「いや、今起きた」


 時間は深夜三時。

 もうひと眠りするか確認されて、レスティオは湯浴みを頼んだ。


「どれくらい眠ってた?」

「今日で十日目だそうです」

「そんなに?」

「はい。聖地グラオベンの大聖堂で行方不明になられて三日。その後、大聖堂にお戻りになられてから七日です。本当にご無事でなによりです」


 眠っていた日数だけでも過去最長。

 その上、神域にいた間は行方不明扱いだったのかと驚く。

 つまり、神域には、精神ではなく身体ごと入り込んでいたということだ。


「ルカリオ、マッサージも頼んでいいか?全身をちゃんとほぐしておきたい」

「喜んで。香油は、リラックス効果のある香りと、気分がすっきりする香りとどちらが良いですか?」

 

 ラハトが調合してくれた特製の香油だ。

 気分がすっきりする物を頼み、全身を入念にマッサージしてもらう。

 湯上りに柔軟で体を整え、薬草茶で気分を落ち着ける。


「では、側近の皆に御目覚めを伝えて参ります。朝食の席は、ロデリオ殿下と共にされるということでよろしいでしょうか」

「準備出来るまで机に向かうから、一時間ほど置いてもらえるか?」

「かしこまりました」


 ルカリオが出ていくのを見送り、レスティオは手記を開く。

 道中も書いていたが、聖地グラオベンに到着する前日で記述が終わっている。

 ペンを握って、レスティオは神域で見聞きした情報を書き連ねていった。


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