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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
ラビ王国編
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第97話 恨む者


『私はフィーリ・ユグレットです』


 宙に浮いた魔力結晶の文字に、一行はおおっと拍手した。

 フィーリは満足げな笑顔で魔力結晶を風に泳がせながら手の平に吸収した。


『たくさんの人を癒して、この世界の為に頑張りたいです』


 続けて流れた文字に歓声が上がる。

 魔力結晶で筆談するという発想はフィーリ自らのもの。

 最初は、非常用に笛の作り方を教えるべく魔力結晶細工を練習していただけだったが、文字の形の魔力結晶を作った時に閃いた。

 

「魔力結晶もそうだが、この短期間で良く言葉を教えたな」

「決まった文章を覚えただけで、文法はまだまだだけどな」


 遠征も残り半分を過ぎた。

 文字を覚えたフィーリは、日々魔術を磨きながら、文章を書けるように勉強を続けている。

 詠唱の代わりにヴィオリンを使って聖の魔術を施すフィーリは、レスティオ以上に魔力制御が効かず、一度に消耗する魔力量が多い。

 そのため、レスティオが倒れて動けない時にだけ、代役を担ってもらっていた。


「そろそろ、寝ましょう。明日は朝の鐘には出発しますよ」


 声掛けに皆素直に返事をする。

 今晩は目的地間の距離がある区間を移動しており、車中泊となる。

 護衛達は総員不寝番に駆り出される他、前の街の駐在兵も護衛に同行していた。

 レスティオは寝台車両をフィーリに譲り、王族車両で雑魚寝の予定だ。


「ロデリオ、もう少しだけ、外にいてもいいかな」

「就寝時間だと言っているだろう。どうかしたのか?」

「うん。どうしても気になることがあって。なんなら、車両の屋根の上で寝てもいいかなと思っているんだが、駄目かな?」

「ふーん、それは、それでいいかもな」


 ロデリオが訝し気に承諾すると、近くで聞いていたアルドラもにぃっと笑って頷く。

 風邪を引くと側仕えに嫌な顔をされつつ、少しだけだと言い張って屋根の上へと移動する。


「おぉ、夜が良く見える」

「この世界では夜の空を夜というのか?」

「初めて言ったからわからん。空を見上げることなんてないからな」

「確かに、あえて空を見上げたことはないな」


 アルドラが屋根の上に寝転がるとロデリオも倣う。

 レスティオは屋根の上に座って、空ではなく少し離れたところに広がっている森を見つめた。


「レスティオ。なにかあったなら言えよ」

「うん。見つけた」

「なにを?」

「襲撃者。来る」


 レスティオは車両を蹴って前方へ飛び出すと、魔剣ネメシスを抜いて飛んできた氷塊を切り払った。


「敵襲――っ!」


 続けて飛び出してきた人影に剣を振るい、首を刎ねる。


「っ、レスティオ!殺すなっ!」

「次は気を付ける!」


 魔剣ネメシスを地面へと投げ刺し、向かってくる者たちを手刀と蹴りで沈めていく。

 呻き声と悲鳴が次々と上がり、地面には手足をあらぬ方向へ曲げた者たちが転がる。


「襲撃者を確保せよっ!」

「は、はいっ!」

「レスティオ様を追いますっ!」

「任せたっ!」


 ロデリオの指示で、呆然としていた護衛達が慌てて動き出す。

 レスティオが森の中に潜む襲撃者の追撃に向かうと、セバンも風の魔術で後を追う。

 数分の内に、レスティオとセバンが意識の無い人を引きずりながら戻ってきた。


「レスティオ……無事、か?」


 頭から返り血を浴びたレスティオの姿にロデリオが言葉を絞り出して尋ねる。


「あぁ。だが、すまない。つい、一人殺してしまった。情報を聞き出すにはこれだけいれば十分だとは思うが、生贄にしてやれなくて悪かった」

「ぃ、いや、それより、早く身を清めたほうがいい」


 アルドラは顔を引きつらせながら車両へ入るように促した。


「いや。その前にこいつらの始末だろう。森の中に、他に人の気配はなかったが、所持品を確認して、情報を聞き出さないと安心して休めない。殺してしまった者はどうすればいい?とりあえず、身包みを剥いで、身元を確認するか」


 レスティオは躊躇いなく血の海を踏んで覆面の頭を手に取り、顔を覆う布を剥いだ。


「顔は潰れていないし、判別に問題はなさそうだな。アルドラ、この顔に覚えはあるか?」

「ひっ」


 首から下の無い頭部をわしづかみにして見せるレスティオに、アルドラは息を呑み、吐き気を堪える。

 なんとか顔を確認して首を横に振る。近くで、誰かが吐く声が聞こえてきた。


「カンデは?」

「見たことありません。技量から言って、暗殺の為に雇われた者かと思います」

「……これはどうしたらいいかな。見るのも嫌なら、燃やしてしまおうか」

「それで構わん」


 レスティオはアルドラの承諾に頷きながらも、頭部を掴んだまま拘束された者たちの方へと歩み寄る。

 そして、震える者たちの前に頭部を突き出した。


「先に聞いておくが、こいつの名前は?」


 ひぃっと怯み、歯をがちがちと打ち鳴らして震える男の首に、レスティオは顔色ひとつ変えずに指先を触れさせる。


「同じようになりたくないなら、答えろ」

「そ、そい、つは……ギーグ・フー」

「はい、良い子。襲撃の目的も上手に言えるかな?」

「ぅ、ぁ、は、はひぃ……」


 恐怖のあまり泣き出しつつも男は頷いた。

 目の前で対面している男以外にも拘束された者たちは恐怖で震えて身を寄せ合って泣き始めた。


「誰が泣けと言った。とっとと話せ。無駄な時間を遣わせるな」

「すびばぜんっ」


 彼らの狙いはアルドラ。

 厄災の最中、何度も救援を求めたが村に軍を派遣してもらえないまま、魔物が侵攻してきた。

 受け入れ先の目途もなく村から逃げ出した者たちは、どこにたどり着けることもなく魔物に襲われた。

 襲撃して来た彼らは、その時、近隣の街や王都に救援を求めて出ていた為、大事に至らなかったが村と家族を失った。

 魔物に食い殺されて死体の判別が出来ず、身寄り無しと生贄の宣告を受けていなかったが、何故救ってくれなかったのかと不満は募った。

 以来、このあたりを通る行商人を襲っては生活に必要な物資を手に入れ、証拠となる人や馬車は燃やして、今日まで生きてきた。

 そして、今日、王族の隊列を目にして、彼らは盗賊ではなく、暗殺者として襲撃の機会を図っていた。


「アルドラ殿下、護送車両の準備が出来ました」

「連行しろ。後の聴取は其方らに委ねる」

「はっ」


 泣き崩れる彼らを駐在兵が護送車へと運んでいく。

 レスティオは手にしたままだった頭部を燃やし、ナイフを取り出してギーグの衣服を割き、所持品を確認して胴体も燃やした。


「レスティオ。大丈夫か?」

「え?俺はなんともないけど、むしろお前たちの方が大丈夫か?」

 

 地面に残った血の海も水をかけて痕跡を薄くする。


「俺の世界には魔物なんていなくて対人戦闘が基本だったから、戦場では数えきれないだけ人を殺してきた。今更、人一人殺すくらいなんとも思わない」


 ナイフと魔剣ネメシスの血も洗い流し、血の付いた体を水で覆って風も使いながら洗浄する。

 本当ならシルヴァに任せるところだが、彼も怯んで青ざめている。


「わかりやすく殺気を出している相手に下手な加減は命取りになるし、守るために必要なことだったと思う。アルドラもロデリオも自分が向けられている国民の目というものを理解して、今後どう国を導くのか考えた方がいい」


 レスティオは、他の護衛たちと共に今夜の不寝番を引き受けて、ロデリオ達を車両に促した。


「レスティオ様、我々の力不足で申し訳ございません」


 護送車両の屋根の上に座るレスティオに、車両の下からアルドラの護衛であるオリヴァー・ラッハーが謝罪した。

 

「守備位置を離れるんじゃない」

「申し訳ございません。ですが、アルドラ殿下の護衛の一人として、ご尽力下さったレスティオ様に一言謝罪を、」

「謝罪より護衛として気を引き締め直せ。襲撃の直後にアルドラの側を離れるな、愚か者」


 オリヴァーが青ざめた表情で立ち去ると、シルヴァが隣に来てカナリアの手記を差し出した。


「護衛としても側仕えとしても十分に役目を果たせず申し訳ございませんでした」

「対暗殺者の訓練を受けていないだろうし、人が人を殺すことに免疫がないんだろう。考えすぎるな。お前たちもな」

 

 車両の前後に控えているセバンとキルアにも声を掛ければ、二人とも沈んだ表情だった。


「そんな顔をされていたら、ちゃんと護衛として守ってくれるのか不安になってしまうぞ」

「申し訳ございません。ネルヴィなら、躊躇わずレスティオ様の後に続いたのではないかと思うと、筆頭護衛騎士として不甲斐なさを感じます」

「不用意に前に出てお前たちになにかあるよりいいよ。悔しいと思うなら、その分訓練に励めばいい」


 三人の揃った返事に続き、各所から返事の声が上がった。

 その声にレスティオは口元を緩めて、カナリアの手記に目を通し始めた。

 

 




 先に列車の中で休んでいた者は、夜のうちに襲撃があったと聞いて驚いた顔をした。

 防音の魔法陣をきちんと作動させていたことにレスティオは安堵する。


『大丈夫だった?』

「皆怪我ひとつ無かったから、心配しなくていい。不寝番で寝てないから、今日の癒しは頼んでいいか?」

『勿論!』


 気合十分のフィーリの頭を撫でて、レスティオは朝食のスープを口に運ぶ。

 襲撃の現場にいた者たちはまだ顔色が悪く、食事が喉を通らない様子だった。


「ロデリオ。明日は我が身だぞ」

「わかってる。オリヴィエールがあのようなことにならない為の復興支援でもあるんだ。ちゃんと気を引き締める」


 意を決したように朝食を食べ始めるロデリオを横目にレスティオは朝食を終えた。

 普段は明るい印象を受けるアルドラの表情は暗く、列車が動き始めても口を開くことはなかった。


『皆、元気ない?』

『そうだな。ちょっと俺がやりすぎたかな』


 魔力結晶の文字で筆談していると、アルドラから呼び声がかかった。


「なんだ?」

「昨晩は、国の問題に巻き込み、手を汚させてしまってすまなかった。改めて、謝罪する」


 レスティオは少し考えて、姿勢を正して謝罪を受け入れた。


「少し、知恵を借りたい」

「なんでしょうか」

「昨晩の者たちのように、厄災の中で、救えなかった者たちは数多くいる。手を施せなかった我々王族を責める者たちもいるだろう。決して、見捨てたくて見捨てた訳じゃないが、各地に優先順位を付けていた時点で、彼らは納得しないと思う」


 問いかけの内容を察して、レスティオは考える。

 国の方針にも関わることを安直に答えることは出来ない。

 話すとしても国王を含めて、王族たちで議論すべき問題だ。


「我々はどうあるべきだろうか」

「王族内で話す議題だと思う」

「だよな……」


 思わず即答すると、アルドラは項垂れた。


「王族のような存在を狙う者はいつだっている。それを当たり前として認識しているからこそ、常に護衛を連れさせているといえば、それまでだろう」

「俺もその認識だ。だが、それでいいのか、先日の生贄の件も踏まえて、意見を聞いてみたいと思ったんだ」


 フィーリは国政など全くわからない様子で愛らしく首を傾げているが、他の者たちは暗く車内の空気も淀んでいる。

 

「あえて言うなら、国民にどのような姿勢を見せるかだな。厄災の犠牲を当たり前に受け止める様は、多くを無くした者の目には無情に映るかもしれない。かといって、厄災の犠牲に寄り添うばかりでもいけない。厄災の犠牲を悼みつつも前を向けるように国を活気づけていく必要がある。聖騎士と聖女の訪れをきっかけにして、さらに、旅の聖女フィーリが民の拠り所になる可能性もあるだろう」


 フィーリはびくりと肩を震わせて、責任重大!?と口をパクパクさせた。

 文字で書いてやれば、それをノートにメモして、魔力結晶で皆に見えるように文字を流す。

 そのやり取りにアルドラは噴き出し、他の者たちも笑いを堪えた。


「とはいえ、聖女様の中には王族や要人との縁を強要されて、相手を殺したり復讐に及ぶケースもあるようだから、本当に国の役に立てたいならば扱いは丁重にな」

「それは恐ろしいな。ご忠告感謝する。が、国の方針によっては逆らえんこともある」

「フィーリ。もし、ラビ王国で理不尽に思うことがあったら、容赦なくアルドラに魔術をぶつけていいからな」

『わかったっ!』

「わかったじゃない、全ての不満を俺に集中させないでくれ」

 

 アルドラの必死の訴えに車内は和やかな雰囲気を取り戻した。

 そして、フィーリはレスティオの袖を掴み、口元を隠しながら唇を動かす。


『縁を結ぶって結婚ってこと?』

「うん」

『私、アルドラと結婚することになるの?』


 レスティオは手のひらを見せてフィーリにしか見えないように文字を書く。


『嫌?』

『タイプじゃない。もっと勇者様みたいな人がいい』

 

 じっとりとした目で言うフィーリに、レスティオは思わず噴き出した。


『なら、勇者様みたいな人が相手じゃなかったらラビ王国を出ていくと強気で行け。後、そういう話になる前に賃金交渉しろ。聖の魔術1回につき1万ディルとか、一ケ月10万ディルとか。万が一の時に一人で動ける備えをしておけ。』

『わかったっ!』


「こら、二人だけで企むな」

「じゃあ、今度、国王陛下に一緒に交渉するか」

『心強い』

 

 パチパチと手を叩くフィーリにアルドラとロデリオは嫌そうな顔をした。

 レスティオは笑いながら、フィーリのラビ王国での活動に伴う諸条件についてだと答え、アルドラは再び厳しい表情になった。


「フィーリは、現状どの国にも属さない流浪の聖女様だぞ。体よく使えると思うな」

「まぁ、そうだな……」

「我が国では、レスティオにも聖騎士としての活動に応じて屋敷や給与を渡している。経費の分担も取り決めているくらいだから、各所との交渉を含めて経理はそれなりに出来る文官を立てたほうがいいぞ」


 アルドラは驚きながらも、きちんと管理するとフィーリに約束した。

 無垢な笑顔を前には誰もが表情を緩める。

 その後、レスティオがフィーリに交渉術を教え、再びラビ王国の者たちを戦々恐々とさせるのはまた別の話である。





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