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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
ラビ王国編
104/256

第94話 復興支援遠征(3)


 体を起こすと、時計は六時を指していた。


「おはようございます。レスティオ様」

「おはよう」


 宿のベッドには天蓋が無く、起きてすぐに控えていたシルヴァが動き出した。

 柔軟をするからと側仕えの仕事を断って、レスティオはベッドの上で体を伸ばした。


「レスティオ様。お支度が整いましたら、ロデリオ殿下からお話があるそうです」

「承知した。もう起きたことを伝えてきていいよ。ロデリオはまだ寝てる時間だろ」

「かしこまりました」


 身支度を終えると、列車で朝食を取ると連絡がきてレスティオは首を傾げた。

 予定では、宿で朝食を食べて次の町へと移動を開始するはず。

 これは対策会議でもしていたのだろうかと身構えながら、護衛と共に列車へと移動する。


「おはよう」


 案の定、寝不足そうなロデリオとラビ王国の使節団一行の姿があった。

 それも、王族車両に使節団の者たちがみっしりと集まっている状態だった。

 中には、入りきれず窓から顔を覗かせている者もいる。


「はて、これはどういう状況だろう」

「いいから座れ」


 ロデリオに促されて座ると、朝食のパンが雑に配られる。

 スープの代わりにアズルがお茶を用意してくれた。

 

「レスティオ。礼儀とかそんなものこの場ではどうだっていい。思っていることを率直に話してくれ」

「は?なんだ急に。前置きもなく言われても何を話すべきか困る」


 パンをちぎって口にいれる。

 もそもそとしているだけで美味しくはない。


「お前たちはなにを問題視して議論していたんだ?」

「主題は、聖の魔術の効果が半減した理由はなにか。だ」


 やはり問題視されていたかと、レスティオは頷き、出した結論を問う。


「道中で接した孤児の子供がいただろう。あの子供が生贄になるということが、お前にとっては気に入らなかったのではないかとみている」

「それだけか?」

「他に思うところがあるなら言え」

「その前に、仮説を踏まえて今後どうしようと考えているのか聞こう」


 パンを食べながら表情を変えずに淡々としているレスティオに、ラビ王国の者たちは困惑するように顔を見合わせた。

 アルドラが眠気を払うように首を横に振って、居住まいを正した。


「孤児である以上、ラビ王国としては生贄として扱うことは変えられない。それならば、慈悲として飢えさせる前に招集を急がせるしかないと考えている」

「何故?」

「何故、とは?」

「何故、ラビ王国として孤児を生贄として扱うことを変えられないんだ?」


 首を傾げるレスティオに、アルドラは目を瞬かせた。

 

「それは、そういう規則だからだ」

「何故?」

「国として定めていることを、何故と問われてもな」


 アルドラが頭を掻いて困った様子を見せると、他の者たちも同調する。

 レスティオは残りのパンを口に入れ、ティーカップを手に取る。


「この世界の人間はすぐにそうやって思考停止する」


 香りのよいお茶に気分を落ち着けながら出た言葉に、皆表情を強張らせた。

 この場で落ち着いているのはレスティオだけだ。


「学術国家というなら、もう少し考えてみたらどうだ。何故、そんな規則が生まれた?」

「それは、召喚の儀式を行うための生贄を効率的に確保するためだ」

「何故、今その規則がラビ王国に必要なんだ?厄災は終わったのに、召喚の儀式を行うのか?」

「いや、他国に生贄を売るためだ」

「何故、他国に国民を売らなければならない」


 繰り返される問いかけにアルドラの表情は硬くなる。

 最初はメモの音をさせていた文官も困惑したまま手を止めている。

 

「他国は生贄を必要としている」

「何故、他国が必要としているからと国民を売る?」

「国民ではなく、生贄だ」

「生贄は元々国民だろう。質問の答えは?」


 回答が止まり、レスティオはお茶を飲み干して、ため息をつく。


「別に、この世界の風習を責めたい訳じゃない。身寄りが無くなっただけで生贄と称して死を宣告するだなんて、正気の沙汰かと問いただしたくなるが、この世界はそういう世界なんだろう。国民を殺してでも世界の為には異世界から人を攫って来なければならない。だから、必要な犠牲なのだと言い切ればいいじゃないか。変えようもない、世界の常識だろう?」


 何も言わなくなった者たちを前にレスティオは腕を組み首を傾げる。


「話をどこまで戻せばいいかな」

「お前の問いかけには、なにか気づかせたい意図があるんだろう。それがなにかを考えている」

「では、何故、他国が必要としているから国民を売るのか。まで戻ろうか。売ってどうなる?」


 質問を加えれば、険しい表情をしていたアルドラが気合を入れ直してテーブルに身を乗り出す。


「売れば我が国には利益に、他国は召喚の儀式に必要な生贄を得ることが出来る」

「生贄一人当たりの売上と売買までにかかる移送費、生かして置くための維持費、人件費諸々を考慮した上での、国の利益はどれほどだ」

「ぇ、それは……」

「具体的な数字でなくていい。おおよそを試算してみてくれ」

「取引先の国次第だろうが、以前ラビ王国と取引した際の一人当たりの取引額は俺が把握している」

 

 ロデリオがラビ王国と生贄のやり取りをした時の数字を紙に書き出した。

 色々な事情を踏まえた上で格安価格での取引だったので、利益の最低ラインであるが、今回は考え方を理解してもらえればいい。

 ロデリオが書き出した数字を元に文官達に移送費など情報を追加して試算してもらう。


「一人売って、国の利益は1万ディル。では、カンデ。お前が国の利益として1万ディルを稼ぐのにかかる年数はどれほどだ?」

「国の利益として、ですか……」

「研究開発による収益でもいいし、お前が他の者より優れた働きをすることも間接的な利益に繋がるだろう。どれくらいで稼ぎ出せると思う」

「おそらく、その程度であれば一年の内には出せる金額かと思います」

 

 レスティオはそこでようやく笑みを浮かべた。

 ロデリオが身構え、倣うようにアルドラたちも構えた。


「では、カンデの身寄りが急遽なくなり生贄になるとされた時、国の利益の為に生贄になれというのか?」

「いや、それはない。縁談をこじつけてでも生贄を回避させるだろう」

「それは何故」

「生贄にするより、国に残した方が利益になる。そんな人材をみすみす手放せない」

「それは、お前の手元にいるからこそ、判断できたことだろう。見ず知らずの者が、自分は生贄になるより国の為になるように働くと叫んだ時、お前はじゃあ生贄から除外する、と判断できるか?」


 出来ないとアルドラは項垂れた。


「他国に生贄を売ることで国同士の関係維持と言った利益もあるだろう。だから、罪人を生贄にすることは理解するし、全面的に生贄を否定はしない。しかし、身寄りが無いことを理由に生贄にするのはどうだろう。その規則が、本当に今のラビ王国にとってあるべき規則なのか、俺は疑問に思う」

「今、その疑問の意図を理解した。だが、あの年ごろの子供はどう考えても利益にならないだろう」

「お前は、あの年の頃合いから国の為に働けていたのか?王族の子供なんて養育費がかかるばかりで国益なんて生み出せなかっただろう」

「それは……そうだが……」

「だが、今はどうだ。お前だってカンデだって、手間暇と金をかけて育てられた結果、今があるんじゃないのか。子供というのは、可能性の塊だよ。学ばせて鍛えて経験させて、ようやく成長した先で、国を支えて利益を生み発展させていく可能性を開花させる」

 

 可能性の価値は無限大だ。

 それを、身寄りが無いだけで摘んでしまうのは実に勿体ない。

 その可能性に気づいていないことがこの世界の問題点だ。


「厄災の中、多くの国民を失い、復興に注力しなければならないと叫ぶならば、国の未来を支える子供は一人でも多く生かすべきだと俺は思う。親を亡くした子供を一斉に生贄にしたら、国の子供の人口は急激に減る。子供が少なくなれば、国の伝統や文化を継ぎ未来を担う者が減るということだ。お前たちが生きている今の時代は良くても、子や孫の代には先細りして、確実に国の運営に影響が出て来るだろう。それこそ、今は利益となっても、将来を見据えれば不利益になるのではないか?」

「あぁ、理解した。理解出来た。国の復興を願いながら、国を衰退させるようなことを何故良しとするのか。レスティオ様が気にされているのはそこなんですね?」


 頷けば、皆感嘆と共に崩れた。


「ロデリオ。単純な同情ではなかったじゃないか」


 アルドラは恨みがましそうな目でロデリオを睨んだ。

 皆、質問攻めは完全に想定外だった。それはロデリオも同じこと。

 

「俺だってそこまでの考えを持っているとは知らなかった」

「ユリウスには大陸会議の時に、国の為に必要な人材は残すべきだと進言したよ」

「そんな話は聞いてない。結局のところ、お前が懐にいれた人間を庇いたいだけなのだと思っていた」

 

 気の抜けたところで各々パンに手を伸ばし、アズルは追加のお茶を用意し始めた。

 ちゃんと考えて伝えているつもりなのに伝わっていないことにレスティオは不満を感じつつも、あと一歩と気合を入れ直す。


「直近の国の課題としては、厄災で随分人が減っただろう。農業も軍事もなにかと手薄になっている今、孤児だろうがなんだろうが、動ける者は多少の食糧や住む場所を融通してでも確保して、国の為に使うべきじゃないのか。これから如何様にも育てられる子供なんて、すぐに引く手数多になるだろう。後継の育成を必要とせず、生贄に出す余裕があるというならば余計なお世話だろうが、お前たちはどう考える?」


 身寄りが無い者を生贄に出すということに疑問を覚えさせた上で問えば、それもそうだと納得が広がる。

 将来的に生贄にするのだとしても、それまでは労働力として使う方がいい。


「国の方針となれば、この場で答えられることではないが、当面あの子たちを労働力として活用するように町長に進言することは出来る」

「進言の前に、町長がどう考えるかだな。あの子たちを町の未来を担う者として育てるより、生贄に出すくらい余裕があるというならそこまでだ。あの子たちに食べさせる分、もう少し癒しが必要というなら、俺も快く聖の魔力を注ぐところだが、生贄に送り出して口減らしするならあの程度で十分だろうと思う」


 レスティオの言葉に、主題を思い出してカンデが身を乗り出した。


「それは、聖の魔力の効力は、レスティオ様の御心次第ということなのでしょうか」

「俺の聖の魔力の効力差に影響した要素としては、支援の意欲を殺がれたこと、魔力を消耗していたことが挙げられる。もう少し分析が必要だろうが、俺は前者の影響が大きいと推察する。カナリアの聖の魔力の効力が俺より低かった、という点も踏まえて」

「どういう意味だ」


 カナリアの名前が出てきて、緩んだ空気が再び引き締まる。

 レスティオは、昨日、町の中で聞こえてきた言葉を振り返る。


「あぁ、お優しいことで。なんでこうも綺麗ごとが好きなんだか」

「所詮、聖騎士も聖女と同じ偽善者か」

「そんな価値の無い子供より、俺たちに関心を向けてくれたらいいのに」


 孤児を気に掛けたレスティオへの言葉だが、その中にはカナリアに対する言葉も含まれる。

 レスティオと同じように、カナリアも救われない子供たちに手を伸ばしたり、この世界の常識にそぐわない善意を見せたことがあったのだろう。


「癒しを求められる以上、一人でも多くの者を救いたい。その気持ちは、他の聖女たちも最初の内は持っていると思う。だが、それは救う価値が無いと言われ、救おうとした者を目の前で蔑ろにされたら、やるせなさを感じることもあるだろう。それが何度も、そして何年と続けば、国を救おうという気が削がれ、聖の魔力の効力も落ちていく。それを見て、使えないとか、この程度かと呆れられたら、一層尽くす気を無くす。逃げ出したくもなるし、優しい言葉を掛けられて甘言に縋りたくなることもあるんじゃないか」


 聖の魔術による癒しの善意を強要しておきながら、望まない善意は偽善呼ばわりで蔑ろにされる。

 直接言葉を掛けられずとも、長い年月の中でなにかしら雰囲気を感じ取ってしまうだろう。

 

「少なくとも。俺は、元の世界では国を跨いで子供の生活や就学を支援してきた。どんな荒れた国でも、そこで子供たちが笑って暮らして、成長して、自国を立て直す人材になればいいと願って取り組んでいた。俺が誇りに思って取り組んでいたことを否定するような者たちに、心から支援したいとは思えない。この世界の常識に従い、心を殺せというなら、聖の魔力の効力は今後期待しないでもらいたい」

 

 黙って話を聞く一同を見渡して、レスティオは注ぎ足されたお茶に手を伸ばす。

 先ほどより甘さが足された味わいに、アズルのやさしさを感じた。


「聖騎士様の御心を早急に王に伝え、孤児の保護と生贄候補の労働力への活用を進言しましょう。カンデ」

 

 やがて、アルドラが意を決した表情で顔を上げた。


「場合によっては、世界会議にて聖の魔力の効力に関する考察を報告し、各国に聖女様の御心を窺うことも検討しましょう。レスティオ様、御心をはかれず、数々のご無礼深くお詫び申し上げます。どうか、引き続き、我が国の復興に向け、御力添え頂けないでしょうか」

 

 アルドラが頭を下げるのに続き、お願いしますとラビ王国の使者たちも頭を下げた。


「レスティオ。聖オリヴィエール帝国も厄災の対応、そして、厄災後の復興において、その志を尊重すると誓おう。引き続きの助力を頼む」


 ロデリオも頭を下げれば、ロデリオの側近だけでなく、セバン達も頭を下げた。

 周囲を囲む者たちに頭を下げられている状況に、レスティオは一呼吸置いて姿勢を正す。


「誠意には誠意を以て応える。復興を願う想いの分、聖の魔力を注ごう」


 王城へ早馬を出す準備が整うまでの間、アルドラは町長の元へ向かい、レスティオは孤児たちの元へ向かった。

 キルアとシルヴァに子供たちを洗ってもらい、レスティオは子供たちの服のほつれを軍服の内ポケットに備えていたソーイングセットで整えてやる。


「器用ですね。着たままの服を縫ってしまうなんて」

「暴れずにいい子にしてくれているからなにも難しくはないよ」


 暴れないとはいえ、レスティオの傍は安全地帯として子供達に認識されたのか、レスティオの肩や腕には子供たちがびっしりとしがみついている。

 セバンは筆頭護衛騎士として周囲を警戒することに徹しているが、キルアとシルヴァは巻き込まれて子供たちにしがみつかれて大変そうだった。


「なにをしているんだ、セバン。それは引きはがすべきだろう」


 ロデリオと共にやってきたベイルートが顔をしかめるが、レスティオは構わない。

 最後の一人の服を整え終えると、子供たちを体にしがみつかせたまま立ち上がる。


「おい、魔力を消耗するな」

「魔力なんて使ってないよ。お前ら、ちゃんと掴まってろよ」


 子供たちは元気に返事をする。

 昨日の少年は、レスティオの首に後ろの特等席を陣取り、腕に抱えた二人の女児はレスティオの胸にぴったりとくっついて満足そうに笑っていた。

 腕や腰にくっついている子供たちは少し必死な顔だ。


「レスティオ様。流石に無理していませんか?」

「いや?これくらいの子供なんて軽いもんだろ。それにこの子たちはオリヴィエールの子供たちより随分大人しいよ」


 すれ違う町人たちは驚愕した表情で振り返り、畑で合流したアルドラたちも表情を歪めた。

 

「はい、降りて。ここが、今日からお前たちが働く場所だぞ」


 レスティオは子供たちを皆足元に下ろすと、改めて畑に聖の魔術の癒しを施す。

 詠唱を唱えた横で子供たちが成長する作物に歓声を上げ、涎をこぼした。

 畑の近くの空いた場所に鍋を用意してもらうと、たくさん実った芋を子供たちに収穫させて食事の準備を覚えさせる。

 

 町人たちには、孤児には一日三食与えるにしても、まずは一食につき芋ひとつだけでもいいと伝えた。

 頑張って成果を出したら、その時は心付けを与えてやってほしいと思うが、それは雇い主の心次第だ。

 飢えて死なせるより、多少の食事を与えてでも、育てて働かせた方が町の利益になる。

 その考えが受け入れられたことが、まずは大きな一歩だろうとレスティオは納得した。

 いずれ生活環境に不満が出るだろうが、今後のことはラビ王国が考え、対策してもらうよりない。

 





 移動しながらレスティオは孤児院の運営計画を立てる。

 学校、軍、農業地域など孤児院の子供を活用したい事業に寄せて施設を作る。

 身寄りを無くした大人もそこで子供の世話をしながら就業させる。

 世間的には生贄候補を囲う施設に見えるだろうが、国の為に努力して貢献すれば救われることもあると意識が広まれば、国力は改善されていくだろう。

 生贄の条件は、復興の目途が立つまでは罪人や病人、自ら名乗りを上げた者に留めるくらいがいい。


「ラビ王国が先行して実施してくれたら、オリヴィエールに取り入れるハードルが少し下がるよな」

「まぁ、お前が提唱したとなれば、遅かれ早かれ受け入れられるだろう。国の主導で管理するというより、聖騎士主導になるだろうから、その時にまた検討しよう」


 ロデリオの言い分を、レスティオは手を振って否定する。


「ラビ王国の王女を第一皇子妃に迎えて、ラビ王国の施策を踏襲して主導してもらう方がいいだろう。次期皇妃の功績を作るとともに、それを後援することで生贄招集を主導したお前の印象回復を図るのも、次期皇帝という点を踏まえれば必要じゃないかな」

「お前……」

「それは良い考えだ。母国の知見を活かして夫を支えてくれるなんて、願ってもないんじゃないのか?」


 アルドラがにぃっと笑えば、ロデリオは気まずそうに頭を掻く。

 仮にも王族であるアルドラの前では明言を避けるが、本音はその通りだとわかりやすい。

 



 


 道中の枯れ果てた森を癒せば、思考がふわふわと鈍った。

 やはり意識ひとつで効力が全然違うのだと、周囲の声を聞きながらセバンに身を任せて眠りに就く。

 目が覚めた頃には外は暗く、宿のベッドの上だった。

 

「レスティオ様。こちらをお召し上がりください」


 昼食も食べずに眠ってしまったので、用意された夕食は少しだけ量が多かった。

 味がしないなと物足りなく思いながら食べ進める。

 今日の宿は四人部屋で、護衛騎士が全員揃っている。

 一人は不寝番として夜も起きていることになるので、今は休まないといけない。だが、レスティオが起きている状況で休息を取るわけにはいかないと構えている。

 今更だろうに、と思いつつ、冴えている意識を悩ましく思う。


「明日も移動が続きますから、一時間だけ、手記をお読みになったら休むというのはどうでしょうか」

「お前たちの負担にならないなら、そうさせてもらおうかな」

 

 シルヴァが用意していた手記の続きを持ってきてくれる。


「ロデリオ達は?」

「隣の部屋で休まれていますよ。留学中の話で盛り上がっているようですので、お気遣い無くお休みくださいとアズルが仰っていました」

 

 ロデリオはエドウェルを護衛に、アルドラとカンデと共に四人部屋で過ごしており、酒席の声が掛かることはない。

 少し残念に思いつつも、留学時代ともに過ごした者同士で過ごしたい時間もあるだろうと顔には出さないようにする。


「レスティオ様、お茶を淹れましょうか」

「有難う。頼むよ」


 シルヴァが淹れてくれたお茶を飲みながら、手記のページを捲る。

 二冊目の手記には、王族やロデリオについての記述も出てきた。

 聖の魔術を覚えると遠征に連れ出される日もあり、日付が飛び飛びになっていく。

 

 ―― 死んだ人間に聖の魔術をかけた途端、魔力が枯渇して倒れた。

 

 ―― 魔物がどんどん強くなる。


 ―― 元の世界にもこんなに凶暴な魔物は存在しなかった。怖い。

 

 そんな話の合間に王族とのお茶会で縁談が持ちかけられたことや、王城での人との関わりに触れられる。


「そろそろお休みになられてはいかがですか?」

「あぁ、うん」


 二冊目を読み終えたところでシルヴァに促されて時計を確認すると、一時間はとうに過ぎていた。

 レスティオが眠っていた間に休んでいた分、目を瞑ったのだとセバンに笑みを向けられた。


「有難う。おやすみ」

「おやすみなさいませ」

 



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