第91話 歓迎の宴
「今宵、聖オリヴィエール帝国の聖騎士様の訪れを祝して!」
国王ベルンハルト・フェルフーフ・ラビがグラスを掲げると、歓声が上がり宴が始まる。
会場に集まった者たちもグラスを掲げて宴の始まりを喜んだが、すぐに関心はテーブルに並べられた料理へと向かった。
流石に取り合いになるような見苦しい姿は誰も見せないが、給仕は始まって早々大変そうだ。
「アレルギーの件は既に周知しておりますので、なにかあった際には我が国の民をよろしくお願いいたします」
「えぇ、勿論です」
レスティオは、ロデリオと共に階段の上に用意された席に腰を落ち着けた。
歓迎の宴では誰もが挨拶に訪れるわけではなく、ベルンハルトと第一王妃アデリナ・ベルヴァーグ・ラビとの歓談の後、王族を紹介してもらうことになっている。
紹介が終わった頃合いでダンスの時間となり、暫し会場内で歓談を予定している。
「先に少々頂きましたが、どの料理も実に美味しく感動致しました」
「お褒め頂き光栄です。こちらの料理はラビ王国の料理人が作り上げたものですので、尽力してくれた彼らに、私こそ感謝しています。この国の料理人の食材への忌避感より強い探究心。そして、初めて作る料理にも関わらず、短時間で多くの方々に喜んでもらえる品に仕上げる腕前。流石、学術国家ラビ王国の料理人だと感心するばかりです」
「聖騎士様からそのようなお言葉を賜るとは、彼らも誇らしいことでしょう」
言いながらベルンハルトは手を挙げた。
「早速ですが、ご挨拶のお時間を頂戴してよろしいかな?」
レスティオが承諾すると、アルドラと共に三人の着飾った男女が階段の下で膝をついた。
「聖オリヴィエール帝国の戴冠式に同行しておりましたが、改めて私の子たちをご紹介させてくださいませ」
既に戴冠式で挨拶を済ませているが、ラビ王国の者たちの手前、序列を乱すようなことは出来ない。
レスティオが笑顔で頷くと、第一陣であるアデリナの子たちが前に膝まづいて並んだ。
第一王子コンラート・ベルヴァーグ・ラビ。第二王子アルドラ・ベルヴァーグ・ラビ。第二王女エレオノール・ベルヴァーグ・ラビ。第三王子ヴァグナー・ベルヴァーグ・ラビ。
各々、再び会えたことの喜びと復興支援の礼を口にする。
「戴冠式でのエレオノールとレスティオ様のダンスは素敵でした。よろしければ、今宵もお誘いください。と、母として娘を勧めるのも、レスティオ様の世界のマナーに反するのかしら」
女性からダンスに誘うことはレスティオの世界におけるマナーとは異なる。
そのことを聞いていたらしいアデリナの探りに、レスティオは笑んで首を横に振った。
「そのようなことは往々にしてございます。ラビ王国の女性は初対面の方ばかりですので、ご紹介いただけるのは有難いとも思います。ですが、何人も一度に約束してしまうと、気が多いと周囲を困惑させてしまいますので、その話は後ほどとさせてください」
「あぁ、それもそうですわね。失礼致しました」
コンラートたちが場内のテーブルの方へと戻っていくと、続けて親子と思われる女性が二人、前に出た。
「お初お目にかかります、ラビ王国第二王妃レーナ・ヨンセン・ラビと申します。この度は、お目にかかれて誠に光栄に存じます。こちら、我が娘、第三王女ジネット・ヨンセン・ラビにございます」
「お初お目にかかります。ジネットと申します。聖騎士レスティオ様の神々しくも類い稀なる美しさには目を合わせることも躊躇ってしまいます。ご挨拶の場でありながら、目を合わせられぬご無礼をどうかお許しください」
頭を下げたまま袖で顔を隠すジネットに、はて、と首をかしげる。
首を傾げた先にいるロデリオがため息をつきながら耳元に口を寄せる。
「肌の調子が良くないとああして顔を隠すんだ。美人というほどでもないが、レーナ王妃が美容に厳しいんだ」
「ほぉ」
小さな声で言われて言葉の裏を気にすることはないと理解する。
煩わしいとヴェールを被らずにきたことが、ジネットにとってはいい口実になったということだ。
「顔を見せないのは無礼かとヴェールを置いてきてしまったが、逆に緊張させてしまうとは申し訳ない」
「滅相もございません」
「時に、料理の方は召し上がっていただけましたか?忌憚のない意見を頂けると今後の参考になります」
「えぇ、もちろんいただきました。ただ、まだ、卵や芋を食べるというのは抵抗があると言いますか」
まだ女性に好まれやすいだろうメレンゲクッキーとパンケーキは会場に出てきていない。
ミートパイはわかりやすく芋を具材にしているし、キッシュは卵も芋もふんだんに使っている。
忌避感があるのは致し方ない。
「そうですか、卵はきちんと調理すれば健康にも美容にもいいので、特に女性には食べていただきたいと思っていました。芋も、種類によって効能は様々ですが、栄養のある野菜です。是非ともお伝えしたいと思っていたので、残念ですが、ラビ王国の探究心ならば、そう遠くない内に食べやすい調理法の研究も進むかもしれません」
「食べ物に、健康や美容に良い作用があるのですか?」
「卵も野菜も薬草と同じです。この世界では、必要以上に洗ったり茹でたりすることで、本来摂取できる栄養素や味を無駄に殺しているので実感がなかったのでしょう」
これまでの食べ方が間違っていたのかと会場中がどよめく。
レーナは本当に驚いた様子で両頬に手を当てたまま固まってしまった。
「これは料理研究の考え方が一変しそうですわね、陛下」
「そうだな。我が国にも聖騎士様の料理が伝わったのだから、改めて料理の研究に力を入れるとしよう」
「是非。と言いたいところですが、アレルギーには十分にご注意くださいね」
「それは勿論だが、」
レスティオはベルンハルトの言葉を最後まで聞かずに立ち上がると、階段を降りてジネットの横を通り過ぎ、テーブルの方へと向かう。
セバンがすぐに後ろについてきて、階段の下に控えていたキルアとシルヴァに道を開けさせる。
「キッシュを召し上がりました?」
「ぇ?ぁ、はい」
「魚介は?」
「それは、まだ……」
向かう先にいるのは、喉のあたりを押さえて青い顔をしている男。
レスティオは状態を確認して、聖の魔術を唱えた。
目の前で聖の魔術が使われ、周囲から感嘆の声が上がる。
「ぁ、呼吸が楽になりました!有難うございます!」
「持病の可能性もありますから一概には言えませんが、卵アレルギーの疑いがあります。卵を使った料理は召し上がらないように気を付けてください。忠告は致しましたので、好奇心に負けて具合が悪くなっても、次は助けませんからね」
「ご忠告痛み入ります」
聖の魔術による回復に拍手が沸き起こった。
「他にも卵料理や魚介料理を食べて具合が悪くなった方がいれば教えてください。そして、その方は以後、その食材を食べないように注意してください。それを守っていただけるならば、今晩に限り、聖の魔術による癒しを施しましょう」
歓声が上がる中、レスティオは声が通るように腹に力を入れ直す。
「ただし、私の魔力は、明日以降、ラビ王国の国土を癒すために使っていくものです。愛国心を正しくお持ちならば問題はないかと思いますが、聖の魔術を受けたいからと悪戯に名乗りをあげることのないようにお願いいたします」
元より探究心が強い彼らは、すぐに料理に群がった。
あっという間に料理はなくなっていき、給仕も少し慌てた様子で厨房へと向かっていく。
「ご挨拶の途中に申し訳ございません、レーナ王妃陛下、ジネット王女殿下」
「いえ、我が国の民を救ってくださり有難うございます」
階段の下で挨拶を済ませて椅子に戻ると、ロデリオがため息で迎えた。
「なんだ?不機嫌そうだな」
「呆れてるだけだ。挨拶はここに戻ってきてからするのが正解だぞ」
そもそも、王族の挨拶を受けている途中で離席すべきではない。
席を立つならその前に下がらせればよかったのだと言われて、確かに、と納得する。
壇上でひたすら挨拶を受けるような機会は元の世界ではなかった。
このような場面での対応を道中にでも教えてもらおうと心の中で決める。
椅子に座り直すと、アズルから労うようにグラスが差し出された。
一息ついた頃合いを見計らって、また親子を思しき二人の女性が前に出てくる。
「お初お目にかかります。ラビ王国第三王妃ハンネ・トロースト・ラビと申します。この度はエディンバラ大陸も厄災で困窮している中、我が国へ駆けつけてくださり、寛大なお心に感謝の念がつきません。どうか、お力添えのほどよろしくお願いいたします」
「お初お目にかかります、聖騎士レスティオ様。ラビ王国第一王女ドレア・トロースト・ラビにございます。お目にかかれましたこと、恐悦至極に存じます。ロデリオ殿下におかれましては、大変ご無沙汰しております。共にアントレで学んだ日々は、今もまだ鮮明に覚えております。またお会いできて嬉しく思っております」
ロデリオに小突かれて、レスティオは、さて、と考える。
この場合、レスティオが返さなければロデリオがドレアに返答できないのだ。
「確か、第三王妃はラビ王国の聖地グラオベンの管理をされているんでしたか」
ラビ王国の情報は、事前にロデリオからいくらか教わっていた。
聖地グラオベンはその時に聞いた情報のひとつだ。
通常、大聖堂に聖の魔力を注ぐことで周囲一帯が守られるため、その土地に首都を構えることが多い。
しかし、ラビ王国は交易や教育施設の充実を優先しており、大聖堂のある聖地グラオベンを王都とはしていない。
「はい。大聖堂を構える聖地グラオベンは聖騎士様には縁の深いところかと存じます。もしお時間があれば、どうぞお立ち寄りくださいませ」
「立ち寄る時間があるかはわかりませんが、ラビ王国に残る聖の魔術や聖女に関わる資料があれば、是非拝見させて頂きたく思います」
「写本した物でよろしければ、王宮に何点かございますので、明日からの遠征の際にお持ちいただけるようにご用意致しましょう」
「お心遣い有難うございます」
話は一区切りついた、とロデリオを小突き返す。
「ドレア王女殿下、ご無沙汰しております。先日、アルドラ王子殿下らと話して、私もアントレで過ごした日々を懐かしく思い出しておりました。もし、時間が取れそうであれば、また四人でお茶会をしながら論議に花を咲かせたいものですね」
「はい。このような場でご挨拶させていただく機会など、ほとんどありませんでしたから不思議な気分です。次は是非、お茶会の席で」
元々親しい間柄だったが故にこの場では話しにくい。
そんな雰囲気の二人に気を遣うようにハンネは早々に下がった。
王族が終わると、続いて傍系の爵位の高い貴族が数組挨拶に訪れた。
レスティオは応対をロデリオに任せ、笑顔を顔に張りつけて時間を過ごす。
「これよりダンスのお時間となります。踊られる皆様はどうぞ中央へ御集まりください」
挨拶が一区切りついたところで、司会者が会場へと声をかけた。
しかし、中央に集まるより先に、女性たちの視線は階段の上へと集まる。
「レスティオ様はダンスのお相手は決まりまして?」
「そうですね……」
事前にもらった情報では、ドレアとジネットはロデリオの元婚約者候補で、厄災後のカナリアの駆け落ち騒動に中で白紙になった相手。
おそらく、どちらかを誘うことになるロデリオもレスティオの出方を窺っているようで動き出す気配はない。
「流石に、アデリナ王妃陛下をここでお誘いするのは、ベルンハルト国王陛下に失礼でしょうか」
「ほぉ、いやいや、流石レスティオ様。我が第一王妃を最初の相手に選んでもらえるとは私も鼻が高いです」
「よろしいのですか?レスティオ様とでは釣り合わないかと存じますが」
「この国の舞踏会の雰囲気がまだわかりませんので、練習相手と言っては大変失礼かと存じますが、お付き合い頂けると私も少し気が楽なのです」
「まぁ、そういうことですのね。そういうことでしたら喜んでお受け致しますわ」
レスティオが立ち上がりアデリナをエスコートすれば、おぉっと歓声が上がり、ロデリオとベルンハルトも階段を降りる。
セバンとキルアはエドウェルにエレオノール付きの女性を紹介してもらい、レスティオとアデリナの傍に移動した。
ロデリオはエレオノールを誘って、自分の護衛にレスティオの周囲と合わせて配置に付けるように位置を取った。
シルヴァはアズルと待機しつつ会場内全体の動きに注視する。
ロデリオにエスコートされたエレオノールは冷めた表情でため息をつく。
「ロデリオ。私でよろしいのかしら?」
「アルドラは婚約白紙のその後のことを教えてくれないんだ」
「あぁ、情報収集ですか」
エレオノールは知的な面がある一方どこか冷めている。ロデリオはその口ぶりに思わずため息をついた。
音楽が始まると、アデリナとレスティオは軽快に踊り出し、その美しさに周囲からは感嘆の声があがる。
賑やかさに紛れるように、ロデリオはこの後レスティオに繋ぐことを約束して、エレオノールに話を促す。
「二人とも新しい婚約者は決まってないわよ」
「あれから随分と経ってるんだから、なにかしら縁談はあっただろ」
「クラディナ皇女殿下の輿入れが無くなったこととは話が違うんじゃないかって、暫くは検討が続いていたようね。すぐにオッドレイの厄災も激化したし、エディンバラも厄災目前で婚約交渉が曖昧なまま停滞したという認識で、新しい婚約者を探すかどうかも身動き取れずにいたのよ」
「なるほど」
踊りながら周囲に目をやれば、離れたところで国の貴族と踊っているドレアとジネットがいる。
オリヴィエール内でも厄災の折には、どの国から婚約者を迎えるか政治的判断が動く。
レスティオが召喚されたことで、聖女のアテを探すための婚約者を迎える必要がなくなった今、ラビ王国と外交を強化するものひとつだし、今後レスティオが別の大陸の厄災に助力するとなったらその国の姫を貰い受けることも考えられる。
父であるユリウスは恋仲だったリアージュを妻に迎えた上で、ハイリと政略結婚に至ったことから、政治的な婚姻の可能性もあることを理解した上ならばロデリオの意思を優先してくれる。
ラビ王国としても重要なのは国同士のつながりができることなので、どちらの姫が嫁ぐことになっても問題はない。
「まぁ、貴方が誰を選ぼうが私は興味ないけれど」
「、そういえば、お前は婚約者は?」
「厄災で亡くなって白紙になったわ。候補全員」
「それは、……残念だったな」
「厄災は終わったけど、ラビ王国が抱える騎士も魔術師も六割殉職、二割は退役せざる得なくなったわ。それも、転向して戦ってくれた人が多かったから、どこもかしこも人手不足で復興が進まないの」
厄災におけるラビ王国の被害状況などは、日中の打ち合わせの際に資料として受け取っていた。
年々、厄災は被害を拡大させる一方だと聞き及んでいるが、聖女がいたにも関わらず死傷者数が多く、大陸全土が尽力し疲弊しているだろうということは想像できた。
「エレオノール。レスティオは婚約者を求めていないし、政略に巻き込まれるのを嫌う。そこだけは心に留め置いてくれ」
「ご忠告どうも」
曲が終わると歓声を拍手が起こり、皆レスティオとアデリナを称えていた。
楽しそうな表情をしたアデリナがレスティオにエスコートされながらベルンハルトの元へ行く。
すぐに行かなくては次の誘いが入るだろうと思い、レスティオに片手を上げて合図する。
「ロデリオはエレオノール王女殿下と踊っていたのか」
「あぁ、肩慣らしには従兄妹がちょうどいい」
「まぁ、酷い言いようですこと」
むぅっと拗ねたエレオノールをロデリオはさりげなくレスティオに向けた。
意図を察した視線を向けられたことを確認して手を放す。
「エレオノール姫、先日はダンスにお付き合い頂きまして有難うございました。よろしければ、今宵もお手を取らせて頂けませんか?」
「また聖騎士であるレスティオ様からお誘い頂けるなんて恐悦至極にございます。喜んでお受け致します」
先程までの冷めた表情はどこへ行ったのやら。愛らしい社交的な笑みで応えてエレオノールはレスティオにエスコートされていく。
ロデリオは、さて、と会場を振り返り、今まさにダンスの誘いをされているドレアの姿を見つけた。
それならばとジネットを探そうとした時、アルドラに肩を掴まれた。
「、なんだ」
「考えて相手選べよ」
「……なにかあるなら言えよ」
「言わなくてもわかるだろ。皇子殿下」
アルドラもエレオノール同様、厄災で婚約者だった魔術師団の女性を亡くしている。
新たな婚約者はラビ王国の復興状況次第であり、目を光らせる女性は少なからずいるが、アルドラは次の相手を決めかねている。
「ロデリオ」
「、ドレア。ダンスの相手はいいのか?」
「見てたの?立て続けに踊るほどダンスは好きじゃないの。知ってるでしょ。それより、さっきから甘い匂いがしてくるんだけど、次の料理もレスティオ様のかな。私、ホタテのバター焼きが気に入ったな。まだあるかな」
ダンスより料理の方が気になるらしいドレアにロデリオは思わず笑った。
さっさとテーブルの方へ向かっていくドレアを護衛たちが追う。
国賓であるロデリオは踊るべきだが、あえてドレアとアルドラとともに出来立てのパンケーキを楽しむことにした。
三人集まっていればカンデや共に留学時代を過ごした者が集まってくる。
「久しぶりだな、ロデリオ。っと、ここでは殿下か」
「堅苦しく呼ぶな。友人に敬称をつけられると妙な気分だ」
「そうかそうか。なぁ、これなんていう料理だ?バターの香りがいいな」
「俺もこの料理は初めて食べた。パンケーキというらしい」
「パンケーキねぇ。似たようなお菓子はあるけど、こんなふわふわじゃないよ」
美味いといって食べ進める面々に自然とロデリオも誇らしくなってくる。
この場にいる筈の者が何人かいないことに少し胸が痛むが、誰も口にしない以上、ロデリオもそこには触れない。
「あら、ドレア姉様はもう踊らないのですか?」
ロデリオたちが料理を食べながら歓談を楽しんでいると、ダンスを終えたエレオノールがレスティオにエスコートされながらテーブルの方へと向かってくる。
セバンにエスコートされていた女性がすっとその場を離れ、主人の為にパンケーキを用意し始めた。
「あぁ、エレオノール。相変わらず美しいダンスだったね」
「レスティオ様のおかげです。こんなに気持ちよく踊れる相手はレスティオ様以外に存じませんわ」
「確かに、レスティオ様のダンスも美しかったです」
賛辞に礼を返して、レスティオはアズルからグラスを受け取った。
シルヴァは例外的に遠征中の側仕えを兼任するだけであり、公式の場では側仕えとして動けない。
「レスティオも休憩か?」
「あぁ。パンケーキはふわふわに焼けているか?」
「この食感に皆で驚いていたところだ。美味しく頂いている。お前も食べるか?」
「それは良かった。俺は作りながら食べていたから大丈夫」
ロデリオと話しながら、レスティオは周囲の者たちが会話を控えたのを見て苦笑する。
他国の聖騎士相手に緊張するのは仕方がない。
「ロデリオはもう踊らないのか?」
「そうだな。今回は国賓として招かれているから、あと二、三は踊った方がいいか」
「二、三……ね」
「王女たちを誘うなら口添えするぞ」
「俺の前にお前だろ。一曲は休むよ。エレオノール姫と少し話す約束もしたからな」
レスティオはパンケーキを頬張りながら待つエレオノールの方へと向かった。
ロデリオは次の曲の準備をしている様子を伺いつつ、エビを満面の笑顔で頬張るドレアの隣に移動した。
「ドレア。一曲付き合ってくれるか?」
「えー、手身近なところで済ませようってこと?まぁ、いいけど」
「悪いな」
学友たちに見送られながらドレアをエスコートする。
「なんか懐かしいね」
「そうだな」
留学時代のダンスの相手は王女か同級生だった。
親しかった分、最初の相手はドレアが多かった。
「ちょっと身長伸びた気がする」
「そう、だろうか?」
「いや、今日は私のヒール低めだからか」
「おい」
他愛ない会話に色気など無い。だが、それくらいが心地よいのだと、ロデリオは表情を緩める。
向かい合って手を取り、曲が始まるのを待つ。
「実は、お前と話したいことがあったんだ」
「なに?改まって」
どう切り出そうか迷って、ロデリオは少しだけドレアの手を握る手に力を籠める。
伝わってくる緊張にドレアは無邪気な笑みを潜めて、視線を彷徨わせた。
「あのね、ロデリオ、」
曲が始まるとドレアの方から動いた。
踊りながら、周りに聞こえないくらいの小さな声で話しながら、ドレアは取り繕った笑みを見せた。
ロデリオはなにも声を掛けられないまま、形ばかりのダンスを終えて、その手を離した。




