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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖騎士召喚編
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第9話 初陣(1)



 朝の日課である柔軟をしていると声かけも程々に慌ただしくドアが開いた。

 顔は洗ったが、柔軟の後に着替えているのでまだ寝間着のままだ。

 入ってきたのがルカリオでなく鎧を着た男たちであったことに警戒し、枕元に置いていたナイフを手に取り構える。


「朝から騒々しいな。何事だ?」

「、これは失礼致しました。事態は緊急を要するものでして」


 前に出た男の眼光に警戒心が一層強まる。

 顔は知っているが名前を覚えていない。正式に紹介されていないことは確かだ。


「すまないが、どこの誰だったか。以前エルリックと一緒にいた覚えはあるんだが」

「私は、帝国軍騎士団団長、ドレイド・ヒューストンと申します。未明より西の森に魔物が大量に発生していると報告がありました。近隣の村にいつ被害が出るか一刻を争う状況とのことで、聖騎士様の力をお借りしたく参りました。聖の魔術ももう習得されていると伺っております」


 かろうじて口調は丁寧にしようとしているが、声音と眼光からも窺えるようにレスティオを快く思っていない雰囲気が感じられる。

 手酷くやられてからまだそこまで日が経っていないから仕方がないかとそこは飲み込んでナイフを下ろした。


「ルカリオはいるか?」


 入り口は鎧の男たちで固められている。

 この状況でレスティオの側仕えであるルカリオがどこにもいないとは思えない。

 案の定、奥の方から返事が帰ってきた。


「すぐに出立の準備をする。朝食は不要だ。ドレイド、西の森まではここからだいぶ距離があるが移動はどうすればいい?」


 クローゼットを開け、寝間着を脱ぎ捨てて軍服に着替える。

 期間にして一ヶ月ぶり。

 ゆったりしたパンツに腰帯でなくスラックスにベルトを通し、スカーフでなくネクタイを締めるのも、気が引き締まる思いだった。


「地理も問題なさそうですね。馬で移動します。乗れなければ、」

「問題ない。後、武器はこのナイフしか所持していない。魔物との戦闘がどのようなものかはわからないが念のため剣を借りられるか?」

「ええ、もちろん」


 ジャケットの上からナイフも装着して準備を終えるとドレイドに向き直った。

 不意に兵の一人が「総帥!?」と叫び、場が緊張する。


「レスティオ様。朝早くからお騒がせしてしまい申し訳ございません」

「あぁ、エルリックか。魔術講義も基礎は一通り終わっているし、ここらで実績を上げて聖女の代わりとなる聖騎士の名を民衆にまで知らしめる時期にきたということだろう」

「そう仰って頂けて幸いです。レスティオ様、こちらを携えください。オリヴィエールの国宝も剣ならば飾られるより使われたいでしょう」


 エルリックが差し出したのは黒い鞘に収められた剣だった。

 剣を抜いてみると白でも銀でもなく淡く色づいていた。

 手入れがされていることを確認して鞘に戻す。


「聖騎士にふさわしいものを用意したが国宝故丁重に扱えということだな。承知した」


 強引に周囲を説得して持ってこられたに違いない代物を手に取り、腰に下げた。

 実のところ剣など使ったことはなく、保険程度に持っておこうとしていたのだが、これは使わざる得ない。

 槍術よりはまだ扱いがわかるが、記憶の中のゲームや映像の剣技を思い返しつつ、体の動かし方を考える。


「まさか馬も国宝か?」

「空きは老馬と暴れ馬ですな。老馬でも西の森までは走れるでしょう。暴れ馬をすぐに躾けられるならいいのですが」

「老体に鞭を打つ趣味はないが、見て決めてもいいか?」


 部屋を出て、待機所へ向かうと兵たちが出陣に向けて控えていた。

 その横を通り過ぎて馬小屋へと向かう。


「この二頭です」

「名前は?」

「馬は馬です。馬に名前などつけませんよ」

「そういうものか」


 二頭を見比べてレスティオは暴れ馬だろう若い馬の頰に手を伸ばした。

 少し警戒するそぶりを見せたが、じっと見つめ合う。


「そちらにされるので?」

「そうだな。ヴィルヘルムにしよう」

「、ヴィルヘルム?」

「俺のいた世界では馬には名前をつけるものだったんだ。お前の名前だぞ」


 馬から目をそらさずにいうレスティオについてきた兵たちは不思議なものを見る目をしていた。

 やがてヴィルヘルムと名付けられた暴れ馬が顔をレスティオに寄せた。


「お気に召されたようでなによりです。では、参りましょう」


 柵が開けられヴィルヘルムが歩き出すと兵たちはすぐに馬小屋を出た。

 手綱を握って外に誘導すると、鞍などは元の世界と同じなのを確認して跨る。

 剣と違い乗馬は社交の為に教養として教えられていたので不安はない。

 伝令役だろう騎士が一人駆け出して、レスティオが待機所に着く頃には全員騎乗して出発準備を終えていた。

 レスティオは先頭を行くドレイドのそばを走るように言われ、ドレイドの後ろに続くようにして騎士たちの前に出た。


「皆の者!これより西の森へと向かい、魔物の討伐を行う!此度の魔物の討伐にあたり聖騎士レスティオ・ホークマン様が同行することとなった!」


 じっとりとした視線を感じながら前に出る。

 未だ包帯や怪我の跡のある騎士も少なくないように見えて、そちらに手を伸ばしてふっと息をついた。


「我、聖なる力を行使する者なり。彼の者らに癒しを与えさせ給え。イ・ヴェール・ラルージュ」


 突然の詠唱に騎士たちがどよめいた。

 怪我をしていた者たちは体を動かして治ったことを確認する。


「命を捨てに行く愚か者を庇うつもりはない。弱いなりに如何にして仲間を守るか、どうすれば生き抜けるかを考えて行動しろ。いいな!」


 問いかけると共に威勢のいい呼応が響き、待機所の門が開かれた。

 行くぞ、というドレイドの掛け声と共に一斉に西の森へと向かって駆け出す。


「本当にそれを従えるとは驚きましたな!」

「これをこれまで持て余してたなんて勿体ない話だぞ」


 蹄の音が騒々しい中、ドレイドに声をかけられて、レスティオはヴィルヘルムを撫でながら言う。

 その声に応えるかのように、ヴィルヘルムは軽く鳴いて走る速度を上げようとした。


「待て、合わせろ!」


 言う通りに速度を持ち直したヴィルヘルムにレスティオはふっと息をついた。


「馬が人の言葉に応えるなんて……」

「馬の知性を甘く見るなよ。真摯に向き合えば必ず応えてくれる」


 途中休憩を挟みながら三時間ほど馬を走らせるとようやく村が見えてきた。


「魔物を目視!ギバの村に向かっています!」


 地図と位置関係を照らし合わせようと周囲の景色を見渡していると、魔物を目視した兵の声で空気が一瞬にして緊迫感を増した。

 示された方向を確認してみると村に向かって伸びる黒い列があり、獣の大群に違いなかった。

 先頭の魔物から村に突っ込んでいくのではなく、森から次々と出てくる仲間たちと村を囲んで一気に落とそうとしている様子が窺える。

 それに対し、魔物の大群に突っ込んでも食い殺されるとわかっているのだろう、村の門の前に構えるばかりの兵士の姿があった。

 魔物を前に周囲には威勢のいい声が飛び交う。

 レスティオ自身も久しぶりの戦場の感覚と魔物という得体の知れない存在を相手にする戦いに湧き上がってくる高揚感を必死に抑えこむように息をついた。

 聖の魔術は傷ついた人を癒し、魔物に荒らされた土地を浄化することはできても、魔物そのものを滅する術はない。


「左翼展開!村への侵攻はなんとしても食い止めろ!」


 ドレイドの指示が各小隊に飛ぶのを聞きながら、レスティオは手綱を片手で握り直して剣を抜く。

 魔物は村を囲むように展開し始めている。

 これ以上囲まれないように進路を塞いでも、村の方へ方向転換されたら終わる。

 残念ながら村の塀は帝都のように石造りの塀ではなく、木造りで勢いをつけて飛び込まれればあっという間に崩されるだろう。

 村へ侵攻されるより先に、速攻で魔物の群れを一掃し、形勢逆転するための術には心当たりがある。

 どれだけの威力になるか計り知れないが、幸い、村と森の間は平原。


「ヴィルヘルム!ついてこいよっ」

「、レスティオ様、前に出てはきけ、っ」


 すれ違いざまにぎらりと光るレスティオの瞳を見てドレイドは息を飲んだ。エルリックから受け取った剣にうっすらと炎の影が揺れる。


「れ、れす、」

「行くぞっ!」


 先を行く騎士たちの前に出て、ヴィルヘルムを万が一にも巻き込まないように剣を振りかざしながら飛び上がって剣を振るう。

 村へ向かう魔物の列に炎を纏った風刃が走った。

 一瞬にして列の中央から大半が焼け焦げた魔物の死体と血で無残な光景となった。

 後続の魔物はそれに怯み、既に村に近づいていたものは混乱したように逃げ惑い始める。

 圧倒的な力の差を感じたのがわかりやすく見て取れた。

 レスティオはヴィルヘルムの背に乗り直し、再び剣を構える。


「これは森の中では使えないな」


 魔物の血の下で焼け焦げた草原を見てレスティオはぼやいた。

 しかし、魔術の有効性は確認できた。口元を緩めて、視線をやったのはついに村の方へと駆け出した魔物たちだ。


「次はあれを潰す」


 鋭く睨みつけてそちらに剣を持ったまま手のひらを向けた。

 ここからでは駆けつけようにも距離があるし、先ほどの魔術は兵どころか村まで巻き込みかねない。

 魔力結晶は逆に魔物に力を与えかねないから実戦で武器を形成するのはやめた方が良いとアッシュに言われている。

 ならば、魔力結晶ではない物質として生成する分にはいいだろうと、その時から考えていた方法を試すことにする。

 手のひらに鋭利に生み出した氷を風の魔術に乗せて次々と放出する。

 村に向かう魔物をひとしきり氷で撃ち抜いたら、少なくとも弱っている状態だからそれくらいは兵に任せて問題ないだろうと周囲を確認する。


「な、なんなんだあれ!」

「氷が刺さってるぞ!?あんなんで戦えるのかよっ!?」


 この世界には武器として銃や弓矢が存在しないので遠距離での物理攻撃という概念がない。

 とはいえ、なにが起きているのかわからず攻撃の手を緩めている兵に呆れる。

 村の方は魔物の脅威が弱まったとはいえ、そこに存在している。

 それに森の方にはまだまだ無傷の魔物が溢れているのだから、まだ気を緩める場面ではない。

 森の方から飛び出してきた魔物を剣で切り捨て、死体を風で払う。

 ヴィルヘルムに騎乗しながらでは上手いこと仕留められないことに苛立ちを感じ始める。

 剣の振り方ひとつでヴィルヘルムを巻き込みかねないことを考え、途中で氷も使いつつ応戦する。


「レスティオ様!こちらへ合流してください!」

「すぐ行く!」


 森から出てくる魔物があらかた落ち着き出したところで、森へと進軍していく。



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