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失われたブラッド 〜影男と吸血鬼〜  作者: イエロースリープ
2/3

出会い

2部分目の登場人物




ロジャー・クレイグ

(事故で右脚を失ったシングルファーザー)


エイミー・クレイグ

(ロジャーの娘)


エドワード・エルガー

(コンビニで働いている私立探偵)


ジュディ・クレイグ

(ロジャーの母)


ダニエル・ブラウン

(エイミーに唯一話しかけてくれるクラスメイト)

 あの出来事から一週間経った頃の昼過ぎ、全身の包帯が未だに外すことのできないロジャーは仰向けのまま、ずっと天井を眺めていた。

味のうすい病院の食事はほぼ喉を通らず、スープとパサパサした肉料理の半分のみで満腹になっていた。

あの事故で右脚を失ったショックもあるが、あのときひどく酔っていなければ事故に遭わずに済んだはずだという後悔で胸がいっぱいだった。

テレビのニュースはどのチャンネルのニュースも、「酔っ払いが飲酒運転のひき逃げに遭う」、「ひき逃げの犯人はトラックを残したまま行方不明」などと、いまだに話題が尽きていなかったため、彼はテレビを見ることが嫌になってしまった。

ずっと天井を眺めていると、誰かがノックを二回した。


「入っても構わんよ」


ロジャーは「また看護婦にしっかり食べろと説教される」と呆れた顔になっていたが、ドアの向こう側から聞こえてきた男の咳払いで看護婦ではない誰かだと気づいた。

その男は「ロジャー・クレイグで間違いないな」と聞いてきて、ロジャーは「ああそうだ」と返事をした瞬間にドアをゆっくり開けて入って来た。

入ってきた男は二十代くらいで、ふちの黒いメガネをかけていて、コミックのヒーローが大きく描かれている白いパーカーを着ていた。

右手には常にスマホを持っていて、彼はそのスマホで何かを調べながらロジャーに話しかけた。


「ロジャー。僕はこう見えて“私立探偵”だ。名前はエドワード・エルガーだ。よろしく」


「そのアメコミオタクのような恰好でよく私立探偵だって言い切れるな。バカにしてきたのなら今のうちに出ていけ。さもないと警察を呼ぶぞ」


するとエドワードはロジャーの周りを数秒見渡した。


「そこらへんのじいさんばあさんですらスマホを使ってるというのに、君はいまだにパカパカ開く携帯か。だとしたらネット記事ですら見ることができないだろう」


彼はスマホでとある写真をロジャーに見せた。

そこにはたくさんの猫の死骸の山が写っていた。

それを見たロジャーはもともと食欲がないものの、その写真のせいでさらに食欲が失せてしまい、さらには吐き出しそうになった。


「猫の死骸の山が見つかった場所は、あんたを轢いた老人、ハーヴェイという老人がトラックを置いたままにしてた場所の近くにあった。草が生い茂っていて探索するのに相当が勇気が必要だったよ。警察がここを探さなかったのは、老人の愛人が「深夜四時くらいにアパートの近くでダーリンを見かけた」と、暗闇の中だからよくわからないはずなのに、警察はその言葉をきっかけにトラックが置かれていた場所じゃなく、愛人が住んでいるアパートの住人たちにひとりひとりに尋ねたり、アパートの周りを今も捜索してる。警察は無能だねえ」


「何故、お前がそんなに細かい情報を持っている」


「スマホのネット記事で出てくるだろ。テレビにだって普通に流している。警察は注目されたいだけなのさ」


「いったいどういうことだ」と、ロジャーはエドワードにそういうと、エドワードはスマホで何かを探し始め、エドワードは目的のものを見つけたのか、目元が一瞬笑っていた。

再びスマホの画面をロジャーに見せたのだが、それはただ、先ほどの猫の死骸の山を拡大させたもので、なくなりかけていた吐き気がまた戻ったロジャーは、彼に舌打ちをするものの、エドワードは鼻で笑って言った。


「これを見てもまだわからないのか」


「こんなものを見せられても何も伝わらないぞ」


「この猫の死骸はどれも首から腐っている。くちばしでむしゃむしゃ食べる頭のいいカラスでもこのようなことはしないのは確かなんだ。もし小さい猛獣が食べていたとしても死骸の山を作ることはないだろうし、ナワバリでやったとしたらいろんなところにあるはずだ」


「そういえば、愛犬のパンプキンもそのような感じで殺されていた」


「問題はそのパンプキンという犬だ。なぜ猫ではなく犬を殺したのだろうか。それに、死骸の山のある草の生い茂った場所にパンプキンを隠さず、なぜかそのままあんたの家の前に置き去りになっていた。ちなみにパンプキンのこともニュースに出ていたよ」


「クソ。メディアのやつ、俺が入院中のときにやりたい放題しやがって」


ロジャーが、メディアに対してゲームにストレスをためているかのような怒りをあらわにしているとき、エドワードはその姿を見て、鼻で笑うだけでは我慢できずに口に出して笑ってしまったが、すぐに笑いをおさめて話を続けた。


「このことに関しては動物ではなく、“誰か”がやっているのではと考えている。警察よりも先に事件を解決したいから、死骸に特に変化がなければ近いうちにさらに調べるつもりだ」


 エイミーは、ジュディというロジャーの叔母の家でしばらくの間いることになった。

町から少し離れたところにあり、周りの景色を見渡せるくらい何もない田舎から彼女は、ジュディの手を借りて車で通学していた。

あの事件をきっかけに学校の生徒たちや教師たちから距離を置かれ、元々友人が少なかった彼女だったが、その友人ですら「話しかけないで」といわんばかりの態度になってしまった。

しかし、そんな孤独のエイミーにひとりだけ話しかけてくる人物がいた。

彼の名はダニエル・ブラウンといい、彼の友人はエイミーだけだった。

ダニエルはとてつもないコミックオタクなのだが、夜中に一人で万引きや、車にペンキでいたずらするなどといった悪事が原因で、生徒たちに距離を置かれ、教師たちには厳しい目で見られていた。

放課後、エイミーが校門の近くにあるベンチに座ってジュディを待っている間、ダニエルは彼女の隣にそっと座った。

ダニエルはそのことをエイミーにすべてを打ち明けて心を開いているが、エイミーはそのことを決して許さなかった。


「ダニエル、また万引きしたの?そろそろやめたほうがいいんじゃない」


「やめたくてもやめられないよ。周りの“自称”悪い奴らに憧れてやってるわけじゃない。スッキリするからやってるんだ」


「いい加減にして!」エイミーは衝動的になって大声を出してしまい、周りの生徒たちは怖いものを見るかのような目で彼女をチラっと見た。


「あなたは人を苦しませて何が楽しいの。そんな方法でスッキリするなら、薬物でもやってればいいじゃない。そんなことをしてカッコいいと思ってるの」


「確かにわかる。だけど、苦しんでるから周りを苦しませてるんだ。幸せなやつが周りを苦しませるかい。苦しませるとしても、ケンカ腰の雑魚ナルシストくらいだろそんなことするの。こんなことになるんだったら死んだほうがマシだよ」


涙ぐんでしまったダニエルの家庭環境のことをしっかり知れていないエイミーは、何も返すことができず、ジュディの迎えがやってきたとすぐわかった瞬間に、急ぎ足でジュディの車のほうへと向かっていた。

エイミーは車の窓越しからダニエルを見ていた。

彼はエイミーが帰っていくとなった後、ひとりで早歩きで帰っていこうとしていたのだが、高校生らしき人物に絡まれていた。

車内で少し遠ざかっていたため声が聞き取れなかったが、ダニエルの口の動きで「ごめんなさい」と言っているのがなんとなくわかった。

その様子を見ていたジュディが言った


「悪い子には、傷付いて悪い子になったのと、傷付けるために悪い子になった子がいるの。」


「おばあちゃん、どういうこと」


「例えば、エイミーにとって大切な人は、お父さんだったり、私だったりするわよね。お父さんがひとりであなたを育ててるなら、なおさら大切なはずよ。大切な人がいるっていうことは“その人に大切にされている”ということなの」


「うーんまだわかんないよ」


「ごめんね話が長くて。傷付けるために悪い子になった子というのは、大切な人がそういう悪い人だから、関係ない人を傷付けて、さらに大切にされたいと思うの。だけど、傷付いて悪い子になったなら、そんなことをしない。その代わり、自分で自分を傷つけて自分の価値を知っているの」


「そうなんだ」


しかし、エイミーはまだ十二歳だったため、ジュディの言っていることを理解できなかった。

その後、ダニエルからもらった“ミステリーマン”というコミックをバッグの中から取り出し黙読していたら、ジュディが「そのコミックはどういう話なの」と質問してきた。


「ダニエルがいうには、私が今読んでいるのはエピソード0のやつなんだけど、どのようにしミステリーマンが生まれたかみたいな話なの」


その「ミステリーマン」というコミックの簡単なあらすじは、白に包まれた謎のヒーローがどのようにして生まれたかという話だ。

エイミーはこの前、特別編の「エピソード0」をダニエルからもらっていた。


「しかもおばあちゃん、このエピソード0はラストにビックリするの。おばあちゃんも後で読んでみてよ」


「そうね、あとで暇なときに読んでみるわ」


 一方、エドワードとロジャーは今も愛犬のパンプキンについて話していた。

エドワードは前にロジャー宅に訪れていたことを今頃になって打ち明けた。


「パンプキンについても調べたいと思って君の家に一回訪れたのだけど、パンプキンの死骸がなくてね、もう埋めちゃったのかい」


「ああ、エイミーが救急車のついでに母にも連絡してくれてね、僕はすぐにパンプキンを埋葬してもらうように頼んだよ。あのまま放置するのは可哀想だと思って」


パンプキンから何も情報を得られないとわかったエドワードは、話題をパンプキンのことから電話番号のことに変えた。


「ロジャーの電話番号を教えてくれないか。この事件は僕にとってイヤな予感がするんだ。一応、君にも協力してほしい。」


ロジャーはその言葉にうなずき、彼に電話番号を教えるのだが、エドワードはまた、ロジャーのガラケーのことに突っ込んだ。


「それにしても今の時代にパカパカと開く携帯電話だなんて、笑えるな。面白くないじゃないか」


 エドワードはロジャーの病室から退出し、駐車場にとめてある車のほうへと向かっていた。

彼の車はとても派手で、黒い普通車なのだが、ボンネットにはヒーローコミックのキャラクターであろう名前のイニシャル“M”の大きいマークが貼られており、その下には、“私立探偵やってます”と書かれており、その隣には電話番号が掛かれていた。

彼がとめていた車の横に一台の車が入ってきて、高齢女性と孫にあたるであろう少女が降りてきたのだが、その高齢女性と少女がロジャーの祖母ジュディと、娘のエイミーだということに気づかなかった。というより、二人のことを知らなかった。

エイミーはその派手な車を見て「すごいよおばあちゃん。カッコいい車だ」と言って、ジュディは「あら、カッコいいわね」と返事をするが、ゴミを見るかのような目になっていた。

エドワード自身、自分の車が周りからどう見られているかわかっていてため全く気にしておらず、むしろ注目を浴びることによって仕事を増やそうという考えを立てていたが、実際のところは全く仕事は増えていない。

ジュディとエイミーはすぐにその車がどうでもよくなり、そのままロジャーの病室へと向かっていった。

 「父さん、調子はどう」

ジュディとエイミーは頻繁にロジャーのいる病室に訪れるのだが、だいたいは「調子はどうか」「エイミーの学校での話」の二つ程度なのだが、今日に関しては新しい話がエイミーから持ち出された。

エイミーはロジャーにミステリーマンのエピソード0をプレゼントした。


「このコミックとても面白いの。特にラストがすごいよ」


後に続いてジュディが、「私はまだ読んでないけど、エイミーが言うもの。きっとすごく面白いと思うわ」


車内で彼女がジュディにオススメしたときと同様、“ラスト”を強調していた。

もともとコミックに興味がなかったロジャーだったが、エイミーにもらったからというのもあるが、病室内はとても暇だったため読んでみることにした。


「ありがとう、暇なときに読んでみるよ」


ロジャーはエイミーに軽く微笑み、エイミーも軽く微笑んでくれた。

ロジャーはまず全体的に派手な表紙を見た。

そこには、ヒーローであるミステリーマンの白い背中がとてつもない存在感を出していて、反対側には、黒く塗られたモンスターが描かれていており、ロジャーはそのモンスターが気になっていた。


「エイミー。このシークレットキャラクターはなんだ。強敵か何かか」


「ミステリーマンと比べてとても弱いけど、最終的にはミステリーマンには負けず、引き分けという形になるの。この強敵はとても頭がいいからミステリーマンは手こずってるわけ」


ジュディは「エイミー。内容を全部話しちゃうと楽しみがなくなるでしょ」と静かに笑いながら言った。

会話は今までと比べて少し弾み、しばらくしてジュディとエイミーは帰ることになり、病室から出る前にエイミーは「早く元気になってね」と言ってジュディと共にその場を去った。

車に乗る際、エイミーは先ほどの派手な車がないことに気づき、ジュディに質問をした。


「おばあちゃん、さっきのカッコいい車どこに行っちゃったんだろう」


「もうおうちに帰っちゃったのよ」

二人はそのまま帰っていった。


 そのころ、エドワードは先ほどの猫の死骸の山のあるほうへと、汚れてもいいようにベージュの防護服を着て、しっかりとした長靴と履いて調べていた。

猫の死骸の山には特に変化がなく、前から猫用の首輪がひとつでも近くにないか探っているがなかったため、これらの死骸は全て“野良猫”だろうと推測していた。

そこらへんの野良猫だと犯人の特徴がつかめないと思ったエドワードは、パンプキンから何も情報を得られなかったこともあり、その日はあきらめることにした。

エドワードはその後、住んでいるアパートに戻ってコーラ片手にテレビを見ていた。

ベッドの横には、コンビニエンスストアの仕事用の服が飾ってあった。彼の私立探偵はあくまで趣味で、本職はコンビニエンスストアの店員だ。

私立探偵としての作業は仕事が終わった後の深夜と、週に一日だけの休みの間だけで、この限られた時間の中で事件を解決しようとしているが、彼のところに今まで来た依頼はペット探しくらいしかない。

 深夜ごろ、町は悪い若者ばかりで急に溢れかえっていた。

ダニエルはその時間帯、母親が男のところへ遊びに行っているうちに外へと出た。

そして彼はコンビニエンスストアへと足を運んでいるのだが、コンビニエンスストアへと近づくにつれて酸っぱいニオイが漂っていた。

ダニエルはこの酸っぱいの正体はなんとなくわかっており、入り口の駐車場で男がドラッグをやっていた。

男が「小僧、お前もやるか」と聞いてきたが、ダニエルは首を横に振って拒否をし、コンビニエンスストアの中へと入っていった。

入ったと同時に猛スピードで走り、チキンを取り上げてすぐに出口へと向かうが、店員の判断力のほうが優れていて、すぐにダニエルは捕まった。


「このガキ、また盗みに来たか」


ダニエルは「ダメだ、殺される」という身の危険を感じて、両目を強くつぶったが、出口の向こう側から「俺が払うから放っておいてくれ」と、先ほどのドラッグをやっていた男が言ってきた。

するとその男は、自分のズボンのポケットから財布を取り出し、お金を店員に渡した。

ダニエルは助けてくれたことに感謝をしていたが、ドラッグをやっているところを見たことにあり、何と返せばいいのか怖くて仕方なかったのだが、男はダニエルにこう言った。


「俺はドラッグ常習犯だけど、今まで一度もケンカをしたことがない」


ダニエルはその男を、いい人なのか悪い人なのかわからず、急いで家へと戻っていった。

急いで家に戻っている最中、強面の男にぶつかってしまい、というよりはあっちのほうからぶつかってきて、強面な男は少年のダニエルに対してムキになった。


「このクソガキ、ひとりでウロチョロしやがって」


するとその男はダニエルの腕を強く引っ張り、ダニエルは「やめて!」と叫ぶが、誰も助けに来ない。

しばらくしてダニエルは、狭い路地へと連れてこられ、男はダニエルに「服を脱げ」と言ってきた。

ダニエルは首を横に振ろうとするが、その男が次の瞬間、暗闇でも輝いている新品であろうバタフライナイフを見せてきた。

ダニエルは刺されたくないという気持ちで、おそるおそる服を脱いだのだ。


「よし、次はズボンだ」


ダニエルは首を横に振ってしまい、なぜ首を横に振ってしまったのかは自分でもよくわからなかったのだが、ひどく後悔した。

さすがにやばいと思ったダニエルだったが、男の反対側から何者かが近づいてくる足音が聴こえた。

男が振り向くと、そこには影男がいた。

男はバタフライナイフを武器に「このヒーロー気取りめ」と独り言をつぶやいて、腹部を刺そうと突進しに行った。

(ぶっ刺さった)と思った男だったが、手に持っているバタフライナイフを見ると、まるでおもちゃ用の剣のように、あっけなく刃が折れていた。

影男はその折れていた刃を右手にいつの間にか持っており、そのまま男のほうへと近づいた。

素手で対抗しようとした男だったが、影男に右腕を掴まれ、手の甲に折れた刃を貫通するほどの強さで刺して、その痛みに耐えきれずに男は倒れこんだ。

ダニエルは、そのスキを見て逃げた。


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