草原、人、獣 ①
リューシャら一行は、一旦ゲラダのファミリーとの合流を諦め、蟹の進路を西へ向け走らせる。
向かった先は、土がこんもりと盛り上げられて出来た地形、モグラ族の居住区である。
「うわぁ!私初めて見た!」
ルビカが歓声を上げる。
「珍しいよな、この旅の途中でお世話になったんだ。」
リューシャは蟹をとめ、モグラ族の穴に歩み寄る。
「おーい!」
リューシャが穴に呼びかけると、モグラ族のあのおじさん顔がひょっこりと穴から出てきた。
リューシャに顔の区別はつかないが、間違いなくあのモグラ族だ。
「あ、リューシャさん!随分と見違えましたね、なんだか神々しい。」
話し方からすると、以前世話役になってくれた彼ではなさそうだ。
だが向こうはリューシャのことが分かるらしい。
「やぁ、久しぶりだね。」
「何か御用ですかい?」
「忘れ物を取りに来たんだ。」
「ああ、すぐに持ってきますぜ!」
そう言ってモグラ族のおじさんは穴の奥に消えていった。
しばらく待っていると、草原の方からリューシャを呼ぶ声が聞こえてきた。
先程のモグラ族のおじさんが3頭の馬を引き連れてこちらへ向かってくる。
モグラ族を地上で見るのは、何気に初めてであり、なんだか不思議な気分だった。
「3頭とも元気にしてますぜ!」
リューシャが旅に連れて来て、ここに預けておいた馬達だ。
リューシャの馬、サミの馬、そして妹のマルカリスの馬。
「結構長い間預かってもらったね。助かるよ。」
「いえいえ、多少は働いてもらったりもしたんで。」
そうなんだ、と相槌をうち、リューシャは馬を撫でる。
愛馬はクルルと甘えるように鳴き、リューシャに頭を擦り寄せる。
「みんなにもちゃんと挨拶したかったけど、急いでいるんだ。これで失礼するよ。」
「わかりました!みんなにはよろしく伝えておきますぜ!」
マルカリスの馬に荷物を載せ、リューシャはサミを抱え込みながら馬に乗る。
ルビカはサミの馬に乗り、荷物を載せたマルカリスの馬も引き連れる。
リューシャが蟹に別れを告げ、操りの魔法を解くと、蟹は名残惜しそうにリューシャを見つめ、やがて疾風のように去っていった。
リューシャはサミに負担がかからないように気をつけながらも、来た道を戻っていく。
やがて、前回リューシャが矢の攻撃を受けたエリアにたどり着く。
その少し南側に、ゲラダの小さなキャンプがあった。
ゲラダのファミリーが同族を見間違えるはずもなく、近付いていくと、キャンプからも馬に乗った誰かがやってくる。
その姿は、とても懐かしい、姉のアイシャだった。
「おーい!」
リューシャが手を降ると、アイシャも大きく手を振り返す。
「やっぱり!リューシャ様!」
アイシャが喜びの声を上げ、馬の速度をあげる。
「アイシャ、久しぶり!」
アイシャがリューシャの目の前までやってきて、馬を止める。
目には涙が浮かんでいた。
「リューシャ様…私、あの髪の毛はリューシャ様のものだって分かってて、もしかしたらって思って…ってなんですか、その格好は。」
「…え?」
そういえば、リューシャは魔石の覚醒時にムスクが作ったマントをつけていた。
明らかに普通でない技術で作られた漆黒に金模様のマント、首に煌めく魔石。
ツッコミが入るのも当然である。
「いや、まあ色々あって…」
「それになんだかサミさんは顔色も悪いように…」
サミは少し膨らんだお腹を大事そうにさすっている。
「…まあ!!!」
アイシャは驚いて口に手をあてる。
「早く休ませてあげなきゃ!ねえ、マルカリ…ス?あれ、なんだかだいぶ大人びたような…?それにその髪色はってこの人誰です!?」
「ちょっと落ち着いてよ!アイシャ!」
「はい、すみません。ひとまずキャンプに戻りましょう。詳しい話はそこで。」
リューシャは懐かしい顔ぶれの待つキャンプに戻った。
何年も離れていたみたいな、とても懐かしい気持ちになった。
みんな、リューシャの帰還を喜んでくれている。
ゆっくり落ち着いて、懐かしさを分かち合おうとしたその時、ピー!と見張りが何かを発見したときの合図が鳴り響いた。
「またあのばけものが来たぞ!」
リューシャは馬を降りる時間もなく、その足で合図の方へ馬を走らせる。
このタイミングで、一体何だ!?
見えて来たものは、なんとあの巨大な車輪蟹であった。
しかも大中小の三匹もいるではないか。
三匹は、降り注ぐ矢を意にも返さずこちらへ突き進んでくる。
リューシャは皆の前に飛び出し、蟹たちに立ちはだかるように大きく腕を広げる。
「リューシャ様!危ない!」
アイシャの悲鳴が聞こえる。
しかし、蟹たちはリューシャの目の前でピタッと止まった。
一番大きな蟹は、一緒に旅をしてきたあの蟹であることが、リューシャにははっきり分かっていた。
「そうか、もっと一緒にいたかったんだな。それに、家族も連れてきてくれたんだ。ゴメンな、家族から引き離しちゃって。」
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