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覇者の卵 ④

リューシャはサミを庇いながらも、魔力で巨大なカニを操り、状況の打開を図る。

撤退して立て直すか、矢の射線に対して垂直に走りながら様子を伺うか、あるいは…。

リューシャは一つ重要なことに気がついていた。

矢尻である。

ルビカがはたき落とした矢尻がカニの背にも散らばっている。

その形は、見覚えのあるものだった。

つまり、ゲラダ族の作る矢尻そのものであった。


ゲラダ族は多くの場合、魔力によって剣を作り出すシャクを使って戦闘を行う。

矢を使うのは集団戦で、敵を近づけさせないようにする時、つまり戦争状態でしか使わないという事だ。


そういう状況で彼らに不用意に近付いても、過剰な敵対反応を示し、事態をややこしくしてしまいそうだ。

警戒体制の彼らにどうにかして我々が味方であることを知らせたい。


ルビカはなおも猛烈なフィジカルで矢を払いのけてくれている。

リューシャはおもむろに自分の髪を掴む。

そしてその豊かに伸びているバフ色の髪を、ぶちと引きちぎった。


それから、足元に散乱している矢尻にくくりつける。


「ルビカ!交代だ!これを向こうに投げてくれ!」

そう言ってリューシャはシャクを取り出し、ルビカと交代で矢尻を払い除け始めた。


ルビカはふん!と大きく息を吐き、おおきく振りかぶってリューシャの髪の毛をくくりつけた矢を来た方に投げ返す。

これで、向こう側まで届けばこちらが味方であることが伝わるはずである。


矢は大きな弧を描いて飛んでいった。

一瞬の後、振りしきる矢が止み、静寂が訪れる。

よしっ!

リューシャはこちらの意図が伝わったと確信し、矢が来ていた方に向かってカニの方向を変えた。


ドドド!!!


向こうから馬の足音が響く。

こちらに向かってきているのだろう。


丘の稜線の向こうから、ゲラダのファミリーの影が見え始めた。

「おおお!!!やってしまえええ!」

勇ましい声が響く。


な、なんだ一体?

明らかに歓迎という雰囲気ではない。

草原をこちらに向かってやってくるゲラダの同胞たちは、武器を振り上げ勇ましく声を上げている。


彼らにとって自分たちは、謎の巨大な蟹に乗った異人でしかなかったのだ。

そして髪の毛を投げ返したのは不味かったかもしれない、とリューシャは今更ながら気付いた。

あれではゲラダを討ち取った見せしめだと取られてもしょうがない。

次はお前の番だ、と。


同胞をやられて黙っているわけがない。

だからこそ、彼らは怒りに満ちて牽制から突撃に作戦を変えてきたのである。


ルビカはどうしよう、という表情でリューシャを振り返る。


「まいったね、完全にしくじったよ。」

リューシャは肩をすくめる。

「あんた、ほんとよく落ち着いてられるわね…」

「それはちょっと違うな。落ち着いてるんじゃない、諦めってやつだ。」

「はぁ、呆れた。で、どうするの?このままいても戦闘になるけど、あなたの同胞に攻撃しても良いってわけ?」


「いや、戦闘は一番望んでないことだ。絶対に。」

「じゃあ…」

「一旦逃げる!!!」

リューシャは蟹の方向を変え、猛スピードで草原を走らせる。

とても馬が追いつけるスピードではない。

すぐに逃げきることができた。


「ここまで来れば大丈夫だろう。」

リューシャは蟹を止める。

「良いこともあった。ゲラダのみんなを見つけることができた。数は少なく感じたけど、元気そうだった。」

「完全に敵意向けられたけどね。」

「ほんとに。自分たちのことを客観視できていなかった。別の接近方法を考えなきゃ。こいつとも、そろそろお別れかもな。」

リューシャはここまで乗せてくれた蟹の硬い殻を撫で、ありがとう、と呟く。


久しぶりの投稿になりました!

今回もありがとうございます!


次回もお楽しみに!

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