覇者の卵 ②
リューシャはそのまま寝床を整備して、サミを休ませることにした。
これからのたびはサミの体調が最優先である。
二人の初めての子供、まだ見ぬ我が子の安らかな顔を想像し、頬が緩む。
無事に生まれてくれよ。
すやすやと寝息を立てるサミの手を握りしめる。
「まだ日も登っているし、周囲の見回りと、何か食べられるものがないか探してくるよ。」
リューシャはルビカに声をかけ、ひとりキャンプを出て行く。
見渡す限りの草原に、少し傾き始めた太陽が燦々と煌めく。
吹き抜ける一陣の風が、草をなぜ、リューシャのマントを揺らす。
この短時間の中で、リューシャは大きく変わった。
魔石を使って力を得た。そして、父親になるということがわかった。
「本番の前にちょっと確かめておかなきゃな。」
リューシャは自分の握り拳を見つめる。
あたりを見渡すと、ちょうど小さなうさぎが走り去っていくのが見えた。
リューシャはうさぎに狙いを定めるように手を伸ばす。
しかし、よくよく見てみると、うさぎの異常な慌てっぷりに気がつく。
この種の動物は、その発達した危機察知能力で知られている。
なんだ?
上げた腕を下ろし、辺りをもう一度見渡す。
先程よりも、遠くを注意深く観察する。
ごごご、とかすかに聞こえてきた。
音の方に目をやる。
高速でこちらにやってくる巨大な生物。
樹上都市からここまで乗ってきたあの蟹だった。
げ、思ったより早いな。
内心少し焦る。
練習もまだなのに、なんだかいつもぶつけ本番だよな、ほんとに。
自分の計画性のなさに頭を抱えるも、リューシャは覚悟を決める。
高速で足につけた車輪を回転させながらこちらへ近づいてくる蟹。
リューシャはその進路上に移動して、正面から向き合う。
蟹はもうすぐそこまできていた。
「止まれ!!!」
両手を広げ、声に魔力を込めながら、リューシャは叫んだ。
声は不思議な力を帯びあたりに広がる。
すると、爆走していた蟹が急減速し始め、リューシャの目の前でピタリと止まった。
よし、成功だ。
リューシャは小さく拳を握る。
そしてもう一声。
「乗せろ。」
蟹は足を折り曲げ、背中の窪みをリューシャに見せるように、体を傾ける。
完全に魔法による支配下に入っていることが分かった。
…これが、魔石の力…!!
リューシャは蟹を操りながら、サミのもとに戻る。
おーい!と、蟹の上から手を振るリューシャ。
それを見つけたルビカが、口をあんぐり開けて驚いている。
「ちょ、あんたそんなのどこで拾ってきたのよ!」
「拾ってきたって、面白い言い方だなぁ。」
「なにのんきなことを…」
「ごめんごめん、これが魔石の能力みたいだ。声に魔力を込めて、相手を操ることができる。そういえば、こいつの持ち主と親父が戦ってた時、動きを止められたのはそういうことなのか…」
「ふうん、それで、その蟹をどうするのよ。」
「こいつに乗ってファミリーのところに向かう。馬より断然早くて揺れないからな。」
「…はぁ、あんたと出会ってから変なことばっかりで驚くのにも疲れたわ。」
ルビカはやれやれという風に頭を振る。
「ま、退屈はしないだろ。」
「はいはい。まぁ、わたしがついてればサミも大丈夫そうだから、安心しなさい。」
「頼りにしてるよ、ルビカ。」
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