成人の儀 ④
リューシャはゆっくりとベールを上げる。
ベールを持つ自分の手が震えている。心臓の鼓動が大きく、早くなっているのがわかる。
いよいよ、ベールの下から花嫁の顔が明らかになった。
「あ!」その顔をみて、リューシャは思わず声を上げてしまった。
「あはは、その節はどうも〜」照れくさそうに笑う少女。昼間に会ったあの少女だった。
「あの時の…まさかきみが参加してたなんて!」
「えっと、ふつつか者ですが、よろしくお願いします。」
少女はがうやうやしく頭を下げた。まだ儀式の途中である。気を抜いてはいられない。
「それでは、婚姻の契りを。」
司会役が真っ赤な血が並々と注がれた皿を、リューシャに渡す。
先程リューシャが首を切ったヤギの地である。
「はい…。我、炎の精霊アルスナに誓い、このものを妻として迎える。繋がりは強にして固とし、後の人生の全てにわたり和衷協同の実を挙げることを誓う。」
リューシャは誓いの言葉を言い、皿に口をつけ血を飲む。
少し残して残りを前に座る少女に渡す。
「よろしい。ではチナーファミリーのヨカムの子、サミ。誓いの言葉を。」
チナーさんのところの娘だったのか。名前はサミというらしい。
「我、炎の精霊アルスナに誓い、このものの妻として共に人生を歩む。繋がりは強にして固とし、後の人生の全てにわたり和衷協同の実を挙げることを誓う。」
サミは言って、皿の中身を飲み干した。
これを以って、二人の婚姻が結ばれたのだ。
広場に集まった参加者から、割れんばかりの歓声が挙がる。
歓声を引き金に、また陽気な音楽が鳴り響き、宴が再開する。
リューシャはサミの手を取り、参加者の挨拶回りに連れ出す。
「きみが選ばれるなんて、驚いたよ。」
「わたしも驚いた。でも、なんかそんな気がしてたんだ。わたしってそういう勘は当たるんだよね。えへへ。」
リューシャはサミの顔を見つめる。
昼間は色々あってちゃんと顔を見ていなかったが、サミはかなり美人だと、リューシャは思った。
「ん?わたしの顔何かついてる?」
「あぁ、いや、別に。そういえば昼間はなんであんなところにいたのさ?」
「特に理由はなくて、暇だったからちょっとお出かけというかなんというか」
サミはゴニョゴニョと言いながらモジモジしている。
「え、なに?」
「だーかーらー、キ ブ ン!」
サミはベーと舌を突き出し、いいじゃんなんでもとか言いながらぷりぷりしている。
何か怒らせてしまったようだ。
なかなか難しい…
「でもさ、わたしあの時思ったんだよね。もしかしたらって。今日ほんとは儀式に出る予定じゃなくて、ファミリーの他の子の付き添いで来てたんだ。でも直前にチナー様がお前も出ろーって言ってきて、わたしわぁってなっちゃって。」
「そうか、そうなんだ。不思議だね。全部繋がってたなんて。」
「そうなんだよ!全部繋がってる。だから、これからよろしくね!」
そう言ってサミはにこっと笑いかけてくる。
守りたい、この笑顔。
ふとリューシャはそんなことを思った。